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双誓のカランコエ  作者: 刻の昏
22/51

解放

俺は息を吐いて、自分の頬を両手で思いっきり、

強く打ち付ける。

それから、ゆっくりと立ち上がりながら、

言葉を吐いた。



「......嗚呼、五月蠅い。本当に全くもって、

さっきからじんじんじんと俺の中で五月蠅いんだ。

 耳障りだ、いい加減、静かにしてくれ...」


黒い影の悪夢を強く振り払うように、

ひりひりとした頬の傷みを連れて、

しっかりと現状に向き直る。


こんなところで、俺は何を腐っているんだ。

情けない。..母さん達に怒られてしまうじゃないか。


俺は決めたんだ、あの時から雫を守るって。

それに、俺なんかを救いに来て下さった、

そんな方々を絶対に、死なせない。



どうにかならなくても、どうにかして見せるんだ。

__逃げ出したりなんか、してやるものか。




目の前に倒れている、雫の手を握った。

まだ生きている。まだ、間に合う。

確信して、強く唾を飲み込む。



「目の前で亡くなる定めにある命を、

天才でもなんでもどうにもできないだって?」


黒い影は、俺にそう言った。

だから逃げ出してしまえと。

楽になれと、忘れてしまえばあっという間だから。

でも。


「そんなの、覆して見せる。」


また、唇を強く噛む。血の味が、口の中に広がるが、それ自体が今はとても重要なことに思えた。


「そんな定めも決まりにも抗って、

たとえ世界の理に反してしまったとしても。」

「俺はただただ、この子を守り続けると、

この子の人生を豊かにしていくんだと、決めたんだ。」


俺の発する言葉に応答するように、

雫の手にどことなく温かさを感じるともに

心臓の音が、俺に聞こえるくらい、

大きくなっている気がした。


強く、強く握りしめて、誓う。





「雫、俺は」




「____絶対に、お前を死なせたりしない」





更に大きく、雫の心臓の音がドクドク、ドクドクと鼓動し始める。

刹那、握っていた手から、白い優しい光がぽっと産まれるのが見える。


光は、雫の体全体を包み込むように、広がっていく。


場にそぐわない、まるで幸せな夢の中にいるような、

それは、とても、とても綺麗な、光景だった。







....ゆっくりと、閉じていた雫の瞼が開いた。




「.........あ、おにい、ちゃ.....ん?」

「.......しず、く................」



直ぐにでも、強く抱きしめて存在を確認したかった。ここまできてくれてありがとうだとか、

迷惑をかけたことへの謝罪だとか、何があっただとか、言いたいことは尽きなくて、けれども。


「わたし....瓦礫に挟まれて、....足を...あ、あれ.....?」

「動ける、か?瓦礫、待ってくれ、少しの時間なら、持ち上げられるかも知れない。その間に、這い出たりは出来るか?」

「....う、うん、これなら..大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「ごめんな、っん........ぐ、うう....」


力だけには全く恵まれていなかった自分。普通の成人男性ならば、これくらいの瓦礫は軽々と持ち上げられるだろう。

だけど、俺の力では瓦礫を持ち上げる手の平が痛んで血が滲んだ。少し支えるくらいでこれなんて情けないけど、

きっと直ぐに治ると頭の中で分かっていたから、この提案が出来た。思い通りに、血は一瞬で止まり、傷は何度も塞がった。


雫は突然身軽になった体に戸惑いながらも、瓦礫より這い出てくれた。


「っ..はぁ、...っ、ありがとう、お兄ちゃん..

えと..ええっと..」

「....俺も色々、言いたいことがあるけれど、

皆さんを先に」

「う、うん...そう、だよ、ね..」


現状を飲み込めないまま、混乱しきっている様子。

当然の反応だと思った。

でも、説明も話している暇も無い。

瓦礫の山を改めて見る。

これだけの量を一人でどうにかするには、

きっと時間が掛かってしまう。


「雫、ごめん...一緒にどけるのを、手伝って欲しい」

「....もちろん、わたしの近くに二階堂さんが居るはずだから、まずはここら辺を」


瓦礫に目を向けた雫は、少し怯えた表情を見せて俯き掛けたが直ぐに目の前のことに向き直ってくれる。

この惨劇を受けて血溜まりの中に居たのに、

本当に強い子だ。



瓦礫を必死に持ち上げ、皆さんを探し続けた。


俺が非力なことを知っているから、

雫は心配そうに何度か俺の顔を見ていた。

俺はなるべく俺だけの力で何とか出来るよう力を振り絞りながらも、その事を雫に悟られないよう、苦痛に歪む顔をなんとか隠し通し続けた。


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