報告
「.......はい、はい、そうなんです。
はい。分かりました。
では今から向かわせていただきます。
ありがとうございます。」
本日の講義が全て終わったので、今日あった出来事を二階堂さんに電話で伝えていたところ、事務所に来るように指示を受けた。
今の時刻は17時30分時すぎ。今日は講義が長引いたので事務所には寄らないつもりだったのだが。晩御飯の用意は簡単な物にすれば間に合うだろうか。とにかく、早足で事務所に向かう。
(炒めただけのお料理..生姜焼きとかなら簡単に済みそうだな..)
頭の中で献立を考える。必要な材料は、あれとこれと、冷蔵庫に確かお味噌が無かったからそれも、....うん、大丈夫そうだ。
(そういえば、あの少年...幹部って言ってたな...)
幹部、册山 咲______。
年齢に合わない顔立ちをしたあの子。わたしのことを全て見透かす様な、そんな目をした男の子。最後の、あの目線、強く心の中に残っている。
でも、怯えて何も出来ないのは、わたしらしくない。
今度こそ、きちんとしなきゃ。
恐怖を振り払うように、顔を両手で叩く。
....うん、大丈夫。
そんなことをしていると、事務所が見えて来た。
そういえば、着いたら電話をするように指示を受けていたっけ。スマートフォンを取り出して、履歴から事務所の電話番号を選ぶ。直ぐに繋がった。
「...とっとと入れ」
「えっ」
不機嫌そうな椎名さんの声がしたかと思えば、すぐに切られた。相変わらず失礼な人だ。だがいちいち気にしてはいられない。
「失礼します」
ドアを開けると、既に二階堂さんと椎名さんがソファーに座って待っていた。
「ごめんね、急に呼び出して」
「いえ、お待たせしてしまいすみません。」
向かいのソファーに座るよう、促されて腰を下ろす。
軽く見渡したところ、二人以外に気配は感じられない。
「今日はお二人なんですね」
「そうだね、憲史郎は競馬場、まなは自分のお家にいるよ。今の所は俺達2人だけだ。」
「け、競馬場....」
あの人、そんなことしてるのか。見た目からして想像が着いてしまう所が何とも切ない。私が言葉を失っていると、郁弥さんが話を切り出す。
「今日君を呼んだのはね、特能と接触した話をもう少し詳しく安全な場所で聞かせて欲しかったからなんだ。」
「はい。分かりました、その、どこからお話すればいいんでしょうか..?」
「はぁ。そいつ、どんな奴だったんだよ」
「わたしを襲って来た人....特能の幹部、册山 咲くん、って名乗ってました」
「幹部、册山 咲....」
椎名さんは私の言葉を脳に刻み込む様にもう一度唱えた。続いて問い続ける。
「相手の能力は?見たのか?」
「詳しくは分かりません、けれど、あの時は草木が沢山生えた工場内で襲われたんです。生えていた草木が急成長して体に巻き付いたりして来ました。」
「草木が急成長....他の物は操っていたか?」
「いえ、花とか、植物関係だけだったと思います。」
「......急成長..植物関係...」
少し考え込むような真剣な顔をした後、
椎名さんはわたしをいつもの目線で見つめた。
「十分分かった。もう良いぞ。」
「あ、は、はい!」
「....雫ちゃん、ごめんね次は俺、良いかな?」
「は、はい、えっと」
「相手はどんな様子だったの?」
次は二階堂さんからの質問だ。
慌てないように、記憶を思い出す。
「..相手の子は恐らく中学生くらいの子で、最初はわたしの能力の観察をしていただけのようで、その後に時間が余ったから遊ぶって言い出して襲いかかってきたんです。」
「なるほどね、....じゃあほんとにその子は雫ちゃんのことを観察しにきただけかも知れないね。その場に居なかったから何ともだけれど。」
「わたしも、真意までは分かりません...」
二階堂さんは真剣に私の話を聞いている。
「どうやって、その場を切り抜けたの?」
「はい、ええと...わたしが能力を発動させて相手の攻撃を防ごうとしたんですが、全く当たりませんでして...。めちゃくちゃに発動させたんです。能力を。したら、ほんのかすり傷ではあるんですが相手の指先を掠めてしまいまして。」
「指先を、ね...能力のコントロールはまたおいおい頑張ろうか、続けて?」
「は、はい!頑張ります!!.....あの、そうしたら今まで笑っていた相手が急に暗くなって、強く睨まれて、覚えていろって、...わたし、相手が外に出ていくまで動けなかったんです。」
少し俯いて、そう答える。
___あの時のこと、思い出しても怯えてはいけない。
恐怖を振り払って、前に進まなきゃ。
立ち向かわなければ。これから、今から。
「........なるほど、ありがとう雫ちゃん、良く頑張ったね」
「あ、に、二階堂さん..!ありがとうございます..!」
突然、二階堂さんの大きな手がわたしの頭に触れる。優しい手付きで、軽く撫でられる。何だか恥ずかしくて、二階堂さんから目を逸らした。
「おい、お前、これ付けとけ」
「え、これ前の....」
椎名さんがポケットから見覚えのある小さな箱を取り出してわたしに手渡す。中を開けるとやはり以前見た小さな小さな何とか視認が可能な発信機だった。良く見ると私のスマホの色のものとまた別に1つ入っている。
「お前と兄の分だ。兄の方にはバレないように付けろ」
「え、あっ、わ、分かりました..?でも、何で」
「うるせえ、言われた通りにしてろ。後、数日は身の回りに気を配れ。分かったな?」
「.....は、はい、分かりました。」
半ば強引に納得させられてしまう。手渡された箱を渋々ポケットにしまい込んだ。
「...君に何らかのアクションが起こるかも知れないってことは薄々想像は出来てた。」
「態々幹部クラスの奴がお前なんかを、そこは想像外だったけどな」
想像は出来てた、..二人は特能側をわざと泳がせていたってことなのだろうか。
情報を少しでも得るために、その為にわたしを餌に使ったのだとしたら、なんだかモヤモヤする。
「ごめんね、君を試した部分も有るんだ。能力がちゃんと肝心な時に自分の意志で発動できるのか。
それに、特能側の情報を知れる良い機会でも有った。言い訳には聞こえてしまうだろうけど、何かあったら直ぐに助けに行けるよう憲史郎に君の見張りをお願いしていたんだ。...気を悪くしないで欲しい。」
「まぁ、最初に来る奴なんざ今までの経験上では雑魚ばっかりだった。そんなのにやられるようなら必要ねーし」
「そう…ですか」
頷くしかなかった。万全の状態は整えていてくれていた。飲み込むしかなかった。
ふと、二階堂さんが、腕の時計に目をやる。
そう言えば、今何時だろう?壁の時計を見ると
時計の針は18時50分辺りを指していた。
そんな私を見て、にっこりと優しい笑みを浮かべて、二階堂さんが言う。
「今日は来てくれてありがとう。もうお話はこれくらいにしようか。遅くまでごめんね。...何かがあったら、また連絡して?」
「...はい、こちらこそありがとうございました。ご迷惑をおかけしました。」
深く頭を下げる。
わたしはソファーから立ち上がり見送る2人を見届けた後、
晩御飯の支度を早急に行うため少し早足で事務所から出ていった。




