パーティーの話
誤字報告に感謝を。
数年ぶりの王宮に懐かしさは感じなかった。小さい頃はクリストファーに夢中で、華美な装飾も美しい庭も目に入ってなかったのだろう。改めて見てみると王宮とは豪奢である。
全生徒は王宮の大広間に通された。ヴェルサイユ宮殿の鏡の間は、こんな感じなのかもしれない。私はカトレアから借りた深緑のドレスを身に纏っていた。
「みんな、今日は良く集まってくれた。楽しいひと時を過ごして欲しい」
クリストファーの挨拶でパーティーが始まった。皆、自由に踊ったり、食べたり・・・会場全体が賑やかになった。
私はというと、カトレアに連れられ違う学年の貴族たち・・・ムシュー子爵の貿易相手になりそうな親を持つ生徒と親交を深めていた。カトレアは私のことをよく理解してくれている。みんな留学生の私を気遣ってくれる良い人たちだった。
私はすっかり自分がモブで、こんな大勢の中では、一切、生徒会と関わることがないだろうと油断していた。だから・・・
「アンリ先輩」
後ろからクロードに声をかけられた瞬間、飛び上がりそうになるほど驚いたのである。
「アンリ先輩、久しぶり。夏休み中に会えて嬉しいな」
「・・・クロード君。お久しぶりです」
「そのドレス似合ってるよ」
「ありがとうございます。カトレアから借りました」
「・・・でも、アンリ先輩には、もっと似合いそうな色があるよ?」
「 赤 と か 」
赤いドレスを身に纏う幼い頃のヘンリエッタが頭をよぎった。
「そ、そんなことないです。派手な色は似合いません」
「そうかな?赤いドレスで髪を下ろした先輩とか見たかったな~」
気が付いてるの?そんなことないよね?私がヘンリエッタだって分からないはずだよね?
「ムシューには深緑が合ってるよ」
そう言いながらカイムが姿を現した。話がそれた事に少しホッとする・・・でも、苦手な人物が二人に増えてしまった。
「イエイツさん。ありがとうございます」
「カイムったら、いつからアンリ先輩を口説くような関係になったのさ」
「く、口説いてなんていないが・・・ムシュー、一曲どうだろうか?」
カイムは私をダンスに誘った。断るのは不自然だし、何より今はクロードから離れたい。
「喜んで」
私はカイムの手を取った。
「あ、アンリ先輩。僕とも踊ろうよ~」
「クロードったら、こんな所に居たんだ!!一緒に踊ろうよ!」
名も知らぬ。1年生の女子たちありがとう。クロードは女の子に囲まれて見えなくなった。
ダンススペースに移動する。カイムのエスコートで自然とダンスの輪に加わった。
「慣れてるな」
「そんなことないです。イエイツさんのエスコートが上手いです」
「その、良かったらカイムと呼んでくれないか?」
「え?」
「カイムと」
「えっと、カイムさん・・・」
「ああ・・・アンリと呼んでも?」
「・・・はい」
「アンリ。本当にドレス似合ってるよ」
「・・・ありがとうございます」
「赤なんて着ないで欲しい・・・赤は嫌いだ」
そうだよね。赤はヘンリエッタを思い出すよね。
「私も赤が嫌いです」
私も過去の自分が嫌いですから。
一曲踊り終えた。ヘンリエッタの時の事を思い出し、少しセンチメンタルな気分になってしまった。
「私、ちょっと疲れました。外の空気を吸ってきます」
「分かった」
カイムと離れてテラスの方へと向かった。テラスから直接、庭に出ることができた。気分転換に少し散策しよう。私は庭の中へ進んで行った。
少し歩くと何やら話し声が聞こえてきた。先客か。来た道を引き返そうか迷っていると、その声がマリアのものであることに気づいた。興味がわき、声のする方へ行ってみると・・・
「だから、会長は無理して笑わないで欲しいです」
そこに居たのはマリアとクリストファーであった。話の内容的に、乙女ゲームのイベントみたいだ。茂みの陰に体を隠して二人の様子を伺う。
「・・・俺は無理をしているように見えるか?」
「はい。そんな会長、見ていたくないんです」
「・・・そうか」
「自然に笑えるようになったら、笑ってください・・・ごめんなさい。差し出がましい事を言いました。私、会場に戻ります!」
いけない!!マリアがこっちに来る・・・と思ったら、マリアは気づかずに走って通り過ぎて行った。
「無理して笑っているか・・・そこの君、どう思う?」
会長が私の隠れている茂みに向かって尋ねた。気づかれている。渋々、茂みから出た。
「なんだ。ムシューか」
「申し訳ないです。聞いてしまって」
「いや。こんな所で話していたらな・・・それで?どう思う?」
「どう・・・とは?」
「キャラベルの言っていたことだよ。『無理して笑うな』って話さ」
「会長は無理しているのですか?」
「どうだろう・・・分からん」
本来ならば女性が苦手なクリストファー。囲まれてもにこやかにしていないといけないのは苦痛だろう。しかし・・・
「私の考えです」
「ああ」
「会長は立場があります。王子、会長、偉い人です。偉い人が無理するのは普通です。貴族は無理するべきです。無理して笑うのは必要だと考えます」
「・・・そうだな。俺には立場があるな」
「失礼な事、言いました」
「いや、本音が聞けて嬉しいよ。ありがとうムシュー。さあ、君も会場に戻る時間だ」
手を差し出すクリストファー。
「エスコートは任せてくれ」
その手を取らなくて良い方法を教えてくれるなら、赤いドレスを着ても良いとすら思った私は、少々混乱していた。