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夏休みの話

 試験の結果は廊下に張り出される形式だ。3年生の1位はクリストファー、2年生の1位はカイム、1年生の1位はクロードと生徒会が独占していた。かく言う私は2年生の8位。マリアは30位だった。

 ヒロインはだいたい2位とかでは?と思ったが、数カ月前まで孤児院に居たマリアが30位なのは十分すごい事だ。


 試験が終わって生徒たちは夏休みモードに入っていた。

「じゃあアンリ、夏休みの最後の1週間はウチにおいでよ」

「良いのですか?」

「遠慮しないで。楽しみにしてる」


 夏休みの予定を聞かれて、実家に戻るだけと伝えたところ、家に招待すると言ってくれたのは同じクラスのカトレア・ケリー男爵令嬢だった。

 彼女はヘンリエッタを知らない。王子のお茶会に招待されていたのは侯爵以上の家柄だったからだ。まあ、噂ぐらいは聞いていたかもしれないが・・・。

 ケリー男爵の領地は海に面しているので海産物で有名だ。是非とも父のためにケリー男爵と顔繋ぎがしたい私は彼女の招待を受けることにした。


 電車や車なんて便利なものがない世界だ。馬車で3日かけて実家へ帰った。3週間は実家で過ごせる計算だ。

 母にクロードが学校に居ることを話すのは止めておいた。母にとっても思い出したくないことだろうし、話した途端、留学を止めるよう説得されそうだ。

 ・・・止めた方が良いのかもしれない。でも、1学期を無事に過ごすことができた実績がある。親しくなった貴族たちも居るが、まだムシュー子爵への恩返しには足りない。

 シュネを抱きしめながら物思いにふけるのだった。


 私にも気を置けない友人というものがある。それはベザント国の学校の友人であるセリーヌ・カロル公爵令嬢だ。彼女とはベザント国の学校の生徒会で一緒だった・・・そして、彼女はヘンリエッタを知っている。

 国は違えど、同じ公爵令嬢同士という事で幼い頃に会った事があった。当時のヘンリエッタは、まさしく幼少の悪役令嬢という性格で、言葉の通じない子供同士とは言え、散々、セリーヌをこき下ろしていた。

 そんな私がアンリとしてベザント国の学校に入学してきた時は大変驚いたという。プライドが高く派手なヘンリエッタが、子爵令嬢として大人しく学校に通うとは信じられなかったそうだ。

 私は幼少の時の事を謝り、彼女は許してくれた。そして、何故そんなに変わったのかと聞かれた。最初は「両親が離婚したため」とか「穏やかなムシュー子爵の影響」とか誤魔化していたのだが、彼女は信じなかった。

 親友と呼べるまでになった時、私は前世の記憶の事も含めすべてを彼女に話した。彼女は信じてくれた。曰く「性格が180度変わった理由として最も納得のいく答えだった」とのことだ。


 ベザント国の学校も夏休みのため、私は久しぶりにカロル公爵邸へ赴いた。


「へえ、乙女ゲームねぇ。面白そう」

「プレイする分にはね。でも、自分が中の人で、それも悪役令嬢かと思うと・・・」

「まあ、もうアンリはヘンリエッタじゃないし、ヒロインちゃんを邪魔する気も無いんでしょ?」

「もちろん」

「なら、もう関係ないでしょ。どうどうと留学を終えれば・・・」


 セリーヌの菓子に伸びた手が止まった。

「ねえ。その乙女ゲームの内容は覚えているの?」

「細かくは・・・」

「なあんだ。アンリがヒロインを乗っ取っちゃえばと思ったんだけど」

「え?」

「そうすれば攻略対象達のトラウマは解決。アンリは心残りなくダーヘン王国を去れるじゃない?」

「・・・私にヒロインは無理」

「どうして?」

「クロード達の傍に寄ることすら怖いもの」

「それもそうか」

「トラウマ解消はマリアに任せるよ・・・それを見届けるのは良い案かも」


 そうだ。傍観系小説も読んだことがある。私はもう悪役令嬢ではなくモブとして過ごす。良い案では?

 少し心が軽くなった様な気がした。何かあったらすぐに手紙を書くことをセリーヌに約束させられ、帰路へとついた。


 夏休みの最終週。私は約束した通りカトレアの家へ招かれた。


「アンリ!良いニュースがあるのよ」

「良いニュース?」

「そう。会長が全生徒を王宮に招いてパーティーを開いてくださるのよ」


 悪夢が待っていた。


「私、留学生だし・・・」

「関係ないない。ドレスはある?私は薄紫色にしようと思って・・・アンリは、たまには派手に赤とか着たら?」

「着ません!ドレスあります。水色です」


 ヘンリエッタは幼少の頃、王子とのお茶会の際は、いつも赤いドレスを着ていた。ヘンリエッタを連想させる色だ。絶対に着たくない。


「そう。お互い淡い色になっちゃうわね・・・私のドレス貸そうか?」

「大丈夫」

「遠慮しないで。赤が嫌なら深緑とかは?」

「・・・緑なら」

「じゃあ決まりね。楽しみだな」


 全生徒が招かれるという事は、生徒会との接触は無いかもしれない。そうだ、私はモブに徹するのだ。


 この後、私は髪を下ろせというカトレアからの要求を断るのに徹することとなる。だから、ヘンリエッタを連想させたくないんだってば!!

明日は更新できないかもしれません。

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