立ち位置の話
普通の生徒が生徒会室に呼び出されるのは大事だ。大変目立つ。しかし、留学生である私が呼び出されるのは違和感が無い。何故なら生徒会の仕事には『留学生のサポート』があるからだ。少し呼び出して『最近はどうだ?』と聞かれるのが普通なのだが・・・。
(嫌な予感しかしない・・・)
クリストファーがそんな用事で私を呼び出すとは考えられなかった。生徒会室に向かわない訳にもいかないし。本当に悩ましい。
悩ましいながらも足を動かして生徒会室へと向かった。
扉をノックするとクリストファーの声で入室を促された。
「失礼します」
中に居たのはクリストファー、クロードそしてカイムの三人であった。
「・・・キャラベルさんは居ないのですか」
「彼女には外してもらった。君にとってもその方が良いと思うが?」
「そうですか」
椅子に座るよう手で示される。逃げ出したいと思いながら座った。
「さて、今日はお互いの立ち位置について確認しようと思ってね」
「立ち位置ですか?」
「そう。まずクロードはヘンリエッタのクラヴィズ家への復帰を阻止する側に回った」
「はーい。アンリ先輩の家に婿に入るのが目標です」
「うん。大きな変化だ。俺は変わらずヘンリエッタをクラヴィズ家へ戻して婚約者にする。カイムはどうだ?」
「・・・俺は何も変わらない。ヘンリエッタは憎い。国母になったヘンリエッタに仕える気はない」
「でも、ヘンリエッタと共に居たいのだろう」
「・・・」
「三者三様にヘンリエッタを求めている訳だが、ここでヘンリエッタに聞きたい」
「私ですか?」
「ヘンリエッタとしてでもアンリ・ムシューとしてでも良いのだが、君はどうしたいんだ?」
「え?」
こんな質問が来るとは思ってなかったので戸惑ってしまう。
「この際、クロードが弟ということも置いておく。君はどうしたい?」
「わ、私は・・・」
三人に向き合おうと思っていた私が、逆に三人に向き合われているようだ。この際だ。言いたいことを言ってしまおう。そう決心した。
「まずは幼い頃のことをお三方に謝罪したいです」
「俺には謝罪されるようなことは無い」
「僕も無いな」
「・・・俺は許せないと言ったハズだ」
「はい。それでも自己満足でしかありませんが、謝罪させてください。申し訳ありませんでした」
謝罪。これをしなければ何も進めない。
「カイム以外は謝罪を受け入れたとして、それで?」
「はい。私は留学を終えたら国に戻りたいと考えています」
「それはクロードを婿に迎えるという事?」
「いいえ。やはりクロードは弟です。結婚はできません」
「それでは向こうでカロル公爵子息と結婚するのかな?」
「・・・え?」
「俺が知らない訳ないだろう」
「・・・セドリック先輩と結婚する気もありません。今は誰とも結婚する事は考えていません」
「じゃあ、一生独身でいるつもり?」
「そのつもりは・・・ありませんが」
「僕ら三人から結婚相手は選べない?」
私にとって三人は、復讐されたくない一心で避けてきた相手。謝罪の対象者。結婚なんて・・・。
「考えられません」
「どうして?」
「ずっと、私は皆さんから復讐されるのではと怯えていました。結婚なんて考えた事も無かったのです」
「もう怯える必要は無いよね。じゃあ、これから考えてくれるのかな?」
「え?」
クリストファーはニコニコ笑っている。クロードは興味深そうに、カイムは横目でこちらを見ている。
「考えてみてよ。俺たち三人とも生半可な気持ちで将来の相手を決めようってつもりじゃないんだ。みんな君が良いんだよ」
「そ、そんなこと言われても・・・」
「自分で決めたい?それともムシュー子爵に決められたら、君は結婚するのかな?」
確かに、父に言われればその人と結婚するかもしれない。
「そうか。これは君よりムシュー子爵を落とした方が早そうだ」
「僕も将来の義父さんにアピールしよう」
「・・・」
私は思わず言ってしまった。
「自分で決めます!!」
「それは良かった。では卒業パーティーで婚約者の発表と行こうか」
「き、期間が短いです」
「俺たちは十分待ったよ。長かったくらいだ」
「そうそう。誰が選ばれても恨みっこ無しだからね」
「・・・そうだな」
こうして、約2ヶ月の間に結婚相手を決めなくてはならなくなった。どうしてこうなった!?
迷ったときに私がすることは決まっている。セリーヌへ手紙を書くことだ。
そして帰ってきたセリーヌの手紙にはこうあった。
『お兄様と結婚すれば丸く収まりそうじゃない?』
まったく参考にならなかった。
結婚。結婚。頭の中で結婚と言う文字が踊りまわっている。
クロードは弟だから結婚できない。カイムには憎まれている。ではクリストファー?いや、国母になる自信なんてない。
そんなことを考えていてフと気が付いた。私、誰かを好きになったことが無いのでは?確かにカイムとクロードのキスにはドキッとした。でも、好きになった訳ではない。
誰かを好きになりたい。恋したい。それが私の願いなんだ。
誰と結ばれて欲しいですか?




