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デートする話

 三学期が始まった。三学期は2ヶ月ちょっとしかない。つまり、クリストファーと約束したクラヴィズ家への復帰までが2ヶ月ちょっとしかないという事だ。

 クロードがクラヴィズ家への復帰を阻止するために動き始めたらしいけど、それに期待するだけで何もしないのも不安だ。と言って、出来る事も無いのだけど・・・。


 実はこれ、現実逃避の一環である。クリストファーはよく分からないけど、カイムと一応クロードの気持ちを理解した今、挙句、カイムにはキスまでされた今、私は2人を意識してしまっている。


 落ち着け私。少なくともクロードは弟だ。そしてカイムは私を憎んでもいる。


「最近のアンリってば、挙動不審」

「え?そうですか?」


 カトレアにすらバレている。


「もうすぐ留学が終わるからかもしれません」

「ああ、国に帰るから逆にワクワクしてるみたいな?」

「はい。きっとそうです」


 これで誤魔化せると良いのだけど・・・。


 私に出来ることは取りあえずクロードとカイムに会わないよう行動することだった。それが挙動不審の原因となっていることも知らずに私は避け続けていた。


 そんなある日、とうとうクロードに捕まった。


「最近のアンリ先輩、俺の事いっそう避けてるよね?」

「そ、そんな事は無いです」

「嘘。俺よりカイムの事を避けてる気がするけど・・・何かあった?」


 その瞬間、キスされたことを思い出して顔が真っ赤になった。


「な、何も無いです!!」

「・・・アンリ先輩ったら嘘が下手すぎ。今までの演技は何処に置き忘れたの?」

「本当に!何も無いですって!!」

「何かあったんだね。妬けるなあ・・・そうだ。今度の休み、俺とデートしよ」

「デート?」

「うん。アンリ先輩、一緒に街で遊ぼうよ」

「・・・今度の休みは用事が」

「クラヴィズ家に戻りたいの?」

「分かりました。デートしましょう」


 クロードに脅される形でデートの約束をしてしまった。


 そして次の休みの日。クロードは寮の前まで私を迎えに来た。


「アンリ先輩の私服って初めて見るかも」

「クロードのもね」

「あれ?いつもの留学生口調は止めたの?」

「貴方相手にしてもね」

「くだけてくれて嬉しいな。じゃあ、行こう」


 こうして私とクロードのデートが始まった。


 クロードが最初に私を連れて行ったのは小さな喫茶店。落ち着いた雰囲気で、サンドウィッチが美味しかった。食後の紅茶も香りが良く気に入った。クロードはコーヒーをブラックで飲んでいた。


「苦くないの?」

「慣れればね。飲んでみる?」


 クロードがコーヒーを差し出す。思わず受け取り、一口飲む。


「苦い・・・」


 すぐに紅茶で口の中を中和する。


「あはは・・・間接キスだね」


 クロードにしてやられてしまった。私の頬は少し赤かったと思う。

 

 次に連れて行かれたのは劇場。こちらがどう考えても本命だった。


 お芝居の内容が『生き別れた兄妹がお互いの素性を知らぬまま恋に落ち、紆余曲折の末に結ばれるが、最後にお互いが血の繋がった兄妹だと知り、心中する』といったものだった。


「僕らはハッピーエンドを迎えようね」

「・・・結ばれないと言う選択肢もありますよ」

「将来のお婿さんに、そんな事を言う?」

「諦めてください」

「諦めません」


 結ばれなかったら心中するとか言い出したらどうしよう。心配が増えた一日の終わりだった。


 クロードの要望(脅し)で手をつないで帰ることになった。ダンスのエスコートとは違って恥ずかしい。それにしても・・・


(手が大きくなったな)

 

 当たり前だけど、天使のように綺麗なクロードも男だ。ダンスの時にはあまり意識しなかったのに、その大きさを意識してしまう。


「何?」

「いいえ。ちょっと手が大きいなって思っただけ」

「そりゃ僕も男だからね」


 つないだ手に少し力が入ったのは、気のせいでは無かったと思う。


 無事に人目につかず女子寮の前まで着いた。


「アンリ先輩。またデートしましょうね」


 そう言ったクロードは本当に自然に私の口元に唇を寄せた。


「じゃあ、また学校で」


 クロードは去って行った。

 

 当の私はまた固まったままだった。


 クロードにキス?された?カイムに続いてクロードにも?


 だから恋愛初心者の私にキスはハードルが高すぎるんだってば!!


 なんとか自室に戻ってベッドに倒れこんだ。眠れるかな。眠れないよな・・・。明日も休みで良かった。私はグルグルとした頭で一晩を過ごしたのだった。


 そして翌々日。無情にも学校はある。授業は続く。不自然にならない程度を心掛けてクロードとカイムを避ける。そんな日々を続けていたら、ある人に呼び出されることになった。


 そう。避けずとも会う機会のなかったクリストファーである。私はまた生徒会室に呼び出されてしまったのだった。職権乱用だ。

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