新年会の話
カイムは無言で私に手を差し出した。私はその手の上に自分の手を恐る恐る乗せた。そのままカイムにエスコートされて新年会の会場に入った。会場は聖冬祭の時と同じ所だった。
今日はクリストファーが居ないため、男子寮の寮長の挨拶で新年会が始まった。音楽が流れ始め、周りに合わせて私とカイムも踊り出す。無言が苦しいが、私から話しかける勇気が無い。
一曲踊り終わった。なのにカイムは私の手を握ったままだ。どうしようかと思っていると、その手を引かれて中庭の方へ進む。周りの生徒たちも中庭へと移動していく。
中庭で待っていたのは初日の出だった。なるほど、一曲踊って初日の出を見るのが新年会の恒例らしい。みんなが口々に新年の挨拶を交わす。
「あの、明けましておめでとうございます」
ここで無言は不自然だろうと思い、カイムに対して挨拶をしてみるが・・・やはりカイムは無言だ。
周囲の人たちは三々五々と会場へと戻っていく。カイムに手を握られたままの私は動けない。
「私たちも戻りますか?」
やはり無言。どうしようかと悩んでいると、会場とは逆の方向に手を引かれた。仕方がないので大人しく着いて行く。中庭の奥まったところ、聖冬祭の際、クロードと話した辺りにまで連れて来られた。
そこでカイムと向き合う形になる。気まずいことこの上ない。
「あの・・・」
「お前は・・・俺を裏切った」
「・・・はい」
「俺はヘンリエッタが憎い。俺を裏切ったアンリが憎い」
それは、そうだろう。私にも騙していたという自覚と負い目がある。でも、ここで黙っていたら何の解決にもならない。そう、私は向き合うと決めたのだ。
「貴方は、私に何を求めますか?謝罪?今後、一切関わらない事?」
「・・・今更、謝罪などいらない」
「では、何を?」
カイムは言葉に迷っているようだった。その間に何を言われても受け入れる覚悟を決める。
「お前が国母になる国に仕える気はない。クラヴィズ家に仕える気もない」
「はい」
「お前に俺に謝罪する気持ちがあるのなら・・・お前は俺のために生きるべきだ」
「・・・え?」
「俺のためにその一生を捧げるべきだ。一生をかけて俺に償え」
そう言ってカイムは固まっている私にキスをした。冷たい触れるだけのキスだった。
「お前は俺のものだ」
カイムの表情が今にも泣き出しそうに見えるのは・・・気のせい?オッドアイの瞳が前髪の隙間から私を射抜く。
身動きが取れず、頭が混乱する。カイムは何を言っている?どういう意味?
「会長にも、クロードにも譲る気はない。良いな」
朝日が昇り、中庭を照らしていく。その朝日を浴びている私とカイムを見た人は、恋人同士だと思っただろう。そのくらい二人の距離は近かった。
その後、訳が分からないままカイムのエスコートで会場に戻り、新年会は終わった。今、私は寮の自室で頭を抱えている。
カイムにキスされた。そして告白めいた事を言われてしまった。前世も含めて恋愛経験無しの恋愛超初心者の私にはハードルが高すぎる。
頭が混乱している。落ち着いて。カイムは私に「償う」ことを要求した。つまり、あれは愛の告白では無い。そう、違うに決まっている。
よくよく思い返せば、カイムは私を「憎んで」いると言う。そんな私に愛の告白はあり得ない。
「分かった!」
カイムは私の隷属を望んでいるのだ。それなら納得できる。・・・そうだよね。
私は私の考えが正しいと認めて貰いたくてセリーヌへ手紙を書くことにした。定期連絡だ。聖冬祭での出来事もすでに手紙に書いて送ってある。そういえば、返信がそろそろ戻ってくるハズだ。今日の手紙への返信も、冬休み中には戻ってくるだろう。
そして戻って来たセリーヌの手紙では、カイムからの告白を『愛憎の混じった捻くれた愛』と表現されていた。
『カイムは貴女の事が憎いけど、愛しているという気持ちもある。そして貴女の贖罪を独占しようとしていると思う。ねぇ、やっぱりセドリック兄様と結婚しない?それで解決するわよ』
最後の一文に関しては丁重に断りを入れることにした。
それにしても・・・。
「愛か・・・」
クロードもカイムも私の事を純粋にとは思えないが、私を愛しているらしい。クリストファーは好ましいと表現していたから愛ではないだろう。
3人に対して負い目がある。贖罪の気持もある。でも、だからと言って愛を捧げるのは違うと思う。
「『愛を捧げる』って・・・恥ずかしい事を考えたわね」
向き合うって難しい。本音を言えば、関係があやふやなまま留学を終えて国に帰りたいところだ。
「でも」
でも結論を出さなければいけないだろう。3人の誰かの気持に答えるにしても、答えないにしても。
「三学期の内にその答えが出れば良いのだけれど」
悩むことばかりの中で、とりあえず目をつぶるのだった。




