聖冬祭の話②
「あの瞬間・・・?」
私には全く心当たりが無かった。
「うん。君が公爵に酒瓶で殴られて・・・血を流して倒れた時の事さ」
「・・・ああ」
それは、心当たりがなくても仕方ないかもしれない。でも、そんな時に恋?
「あの時ほど君に赤が似合うと思ったことはないよ」
「・・・そう」
・・・なんかヤバい。クロードは恍惚と言った顔をしている。それにしても怪我をした瞬間なんて・・・クロードには特殊な嗜好でもあるんだろうか。
「分かってくれた?僕は君の事が好きなんだって」
「・・・クロードは私に怪我をさせたいの?」
「それは考えてもみなかった。でも、血の赤が似合うと思っているよ」
そう言って微笑むクロード。それって本当に恋なんだろうか?
「クロードの気持ちが恋かどうかは、まだ分からない。それに、やっぱりクロードの事は弟としか思えないわ」
「・・・そう。でも、僕は好きなんだ」
「初恋は叶わないと言うぞ。クロード」
またもや第三者に気が付かなかった。クロードも驚いている。クリストファーは気配を消すのが上手いのだろうか。
「会長。余計なお世話です」
「先達としてのアドバイスなんだが」
「そう言う会長こそ、ヘンリエッタが初恋では?」
「いいや。俺は恋をした事が無いからな」
「では何故、ヘンリエッタを婚約者に望むのです?」
それは私も聞きたいところだ。先日はカイムが来て深くまで聞けなかった。
「そうだな、他の女達よりは好ましいと言ったところかな」
「・・・そんな理由で婚約者を決められるのですか」
「俺には十分な理由だ。クロード、いい加減に目を覚ませ。君たちは姉弟だろう」
「僕の気持は倫理観を超越しているんです」
・・・それは困る。
「クロード。さっきも言ったけど、貴方の事は弟としか見れないわ」
「・・・それがヘンリエッタの答えなの?」
「そうね」
「ずっと変わらない答えなの?」
「ええ」
「・・・会長の婚約者になるの?」
「それは・・・できるならお断りしたいのですが」
後半はクリストファーに向けての言葉となった。
「それは何故?」
逆にクリストファーに尋ねられた。
「何故、俺の婚約者になりたくないんだ?」
「それは・・・」
「俺の事が嫌い?」
「嫌いではないですが好きでもありません」
「国母になるのが不安?君は成績も優秀だし、俺が支えるさ」
「そもそも、国を背負って立つ気概がございません」
「何、王妃教育で身に着けていけば良い」
「・・・教育を受ける気もござません」
「やれやれ、前途多難だな」
クリストファーがスッと手を差し出した。
「会場に戻って一曲どうだい?」
「・・・今日のエスコートはクロードなので」
「俺の誘いを断るとはな。まあ良い。ゆっくり戻っておいで」
クリストファーは会場の方へと去って行った。
「ヘンリエッタ・・・」
「何?」
「ヘンリエッタはクラヴィズ家に戻りたくないんだね」
「そうね」
「・・・だったら戻らなくて良いよ」
「え?」
「そうすれば、ムシュー子爵令嬢のままだもの。会長と結婚することは無いよね」
「そ、そうね」
「決めた!僕、ムシュー子爵家へ婿入りする!」
「は・・・?」
「我ながら良い案だよ。そうすれば会長は追って来れないし」
「ちょっと、クラヴィズ家はどうするの?」
「どうでも良いよ。僕は養子でもなんでもないんだから。他の親戚から養子を取れば済むことでしょ」
クロードは育てて貰った恩とか感じないのかしら・・・感じないでしょうね。
「だから、私たちは姉弟だって」
「書類上は従姉同士だから大丈夫。今日からアンリ先輩をクラヴィズ家に戻さないように動くよ」
それはあり難いけど・・・。クロードは斜めの方へ突き抜けてしまった感じがする。
「会場に戻ろうか。もう一曲ぐらい踊ろうよ」
「・・・分かったわ」
取りあえず今はクロードの手を取るのだった。
そして今年の聖冬祭は終わった。冬休みが始まる。
冬休みは夏休みとは違い2週間ほどしかない。ベザント国へ帰ってもゆっくりできないので、寮に留まるつもりだ。同じように寮に残る生徒は結構いる。
そう。残る生徒は結構いて、生徒たちで新年会を行う。その際のエスコート役をくじ引きできめるのだが・・・。
「ムシューさんのエスコートは『カイム・イエイツ』っと」
私はカイムの名前をくじで引き当ててしまったのだ。運命は残酷だ。私にとってもカイムにとっても。
そもそも、カイムは私のエスコートに来るだろうか。憎んでいる相手のエスコートに・・・。
新年会は夜明けから始まる。みんな夜の内から着替えて準備をする。私も万が一に備えて準備をした。
そして、その万が一が起こってしまった。
カイムは私のエスコートのために、女子寮へ来たのである。




