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思い出した話

 まずは、私が前世を思い出した話をしよう。


「ああ、エッタ!!目が覚めたのね」

 泣きながら私の手を握る女性。エッタ?エッタって誰?貴女だれ?

「うっ!頭痛い・・・」

「無理してはダメよ。ごめんなさいね。私を庇って・・・こんな目に合うなんて・・・」


 本当に頭が痛い。頭を触ると包帯が巻いてあるようだった。

「すぐにこんな家、出ていきましょう。もうすぐ迎えも来るわ。大丈夫。今度はお母様が貴女を守るわ」

頭が痛い頭が痛い。エッタって誰?私は誰?・・・そうして私は意識を失った。


 次に目が覚めたのは揺れる馬車の中だった。私は女性にもたれ掛かっていた。

「目が覚めちゃったわね。頭はまだ痛い?」

「少し・・・」

「可哀想に」

「大丈夫よ。お母様」


 お母様。自然とその言葉が口からこぼれた。そうだ。この女性は私の母親で、私はヘンリエッタ・クラヴィスだ。


 眠っている間に記憶が整理されたらしい。私はヘンリエッタ・クラヴィス公爵令嬢。10歳を迎えたばかり。前世は鈴木杏里という名のОLだった。何故、死んだかは覚えてないけど、私は転生したらしい。

 転生したのはダーヘン王国のクラヴィス公爵家。長女で一人娘。優しいお母様と政略結婚のため私とお母様に興味の無いお父様の間に生まれた。


 そして今、お母様は私を連れて実家に逃げ帰っているところである。理由は、私がお父様に酒瓶で殴られ意識不明になったからだ。

 

 私がお父様に殴られるまでの話をしよう。


 私が8歳の頃、お父様は一人の男の子を連れて帰ってきた。

「この子はクロード・ヴィスティル。私の妹の子だ。妹とその夫が亡くなったので引き取った」

 1つ年下だと言うその男の子は天使のように愛らしく、金髪碧眼で父とそっくりであった。かくいう私は、母親似の黒髪黒目。どちらが父の子かと言われたら誰もがクロードと答えるだろう。

 母は父を愛してなかったが、プライドの高い人だったためクロードを嫌った。父が仕事でなかなか帰ってこないことを良い事にクロードを徹底的にいじめた。使用人も奥様の機嫌を損ねないようにとクロードを無視した。

 私はというと、母と同じ行動をとった。私も非常にプライドが高かったのだ。自分より美しく、父に似た男の子が許せなかった。小さい頃から「貴女はこの家を継ぐのよ」と言われて育った私にとってクロードは突然現れたライバルでもあった。母も、父がクロードを正式に養子とし、跡取りにすると言い出すのではないかと戦々恐々としていた。


 クロードはどんなにいじめても、嫌がらせをしても、なお美しかった。私は8歳だと言うのに既に化粧をしているくらい派手な令嬢であった。それなのに美しさで負けている。それが許せなかった。嫉妬していた。


「誰もお前の事なんて愛してない」

 

 面と向かって言ってやった。私は母に愛されていた。しかし、お前を愛しているものはいないのだと。しかし、クロードは少し寂しげに笑っただけだった。その仕草に余計に腹が立ち、クロードの母の形見だという指輪を奪い取って庭の噴水に投げ捨てた。


 そんなことを2年続けていた。そして、ようやくと言ってよいのかもしれないが、父にクロードの扱いがバレた。父と母は言い争った。言い争いで収まらなかった。父は傍にあった酒瓶を振り上げた。私はとっさに母の前に入った。


 そして、酒瓶は私の頭に振り下ろされた。


 以上が私が母と母の実家へ逃げかえることになった経緯である。思い返すと私と母ってすごい悪者。杏里としての記憶がよみがえったからそう思うけど、よみがえらなかったら私は悲劇のヒロインだと自分を思っただろう。今となってはクロードこそ薄幸の美少年だ。もう会うこともないだろうから心の中で謝っておく。ごめんなさい。


 実家に帰った母は、1年後に再婚した。再婚相手は隣国ベザント国の子爵だった。新たに父となったムシュー子爵は穏やかで良い人であった。この人も再婚だが、先妻には先立たれ子供が居なかったらしい。

 ベザント国は隣国だが言葉も文化も違った。私の名前もヘンリエッタではなく、アンリエタになった。アンリエタ・ムシュー子爵令嬢と呼ばれるようになり、前世の名前と同じアンリと名乗るようになった。 


 最後に、今、この世界が乙女ゲームだと思い出した話をしよう。


 私は12歳でベザント国の貴族の子供が通う学校に入った。成績はなかなか優秀であった。前世の記憶を思い出してからは化粧もやめ、黒髪を三つ編みにした真面目なスタイルでやっている。ちなみに瓶底眼鏡だ。

 これには理由があって、父に酒瓶で殴られた後遺症か視力が著しく下がったのだ。目が見えなくなるんじゃないかと心配したが、止まって良かった。

 つまり、昔の私を知っている人が居ても、私と分からないくらい見た目は変わっている。だから16歳になった今、母国であるダーヘン王国への留学を決めたのである。父であるムシュー子爵はダーヘン王国だけではないが、手広く貿易をしている。少しでも役に立ちたくて、ダーヘン王国の貴族と顔をつなげば商売も上手くいくと思い、留学を希望した。ムシュー子爵はとても喜んでくれた。母は心配そうだったが、最後は賛成してくれた。

 だって、ダーヘン王国には貴族の通う学校が3つもあるし、会う確率は低いと思ってた。それなのに・・・。


「ベザント国からの留学生、アンリ・ムシューさんと転校生のマリア・キャラベルさんです」


 壇上で転校生と一緒に紹介されたときに、やっと思い出したのだ。マリア・キャラベルはヒロイン。クロード・ヴィスティルは攻略対象。そして、ヘンリエッタ・クラヴィスはクロードに、いえ、クロードだけでなく攻略対象全員にトラウマを植え付けた悪役令嬢であることに。 

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