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悪魔のピギー

作者: トリノイア

 これはみんなが知っている「悪魔のピギー」が生まれた時のお話。

 ピギーの見つけたものを貴方に届けるお話。

悪魔のピギー


 悪魔のピギーは人間が大嫌です。

 「どうしてって?それは悪魔だから。悪魔はみんな人間が苦しむ事が大好きだ。理由なんて考えた事ないね。」

 ピギーは毎日人間をどうやって苦しめてやろうかと考えます。

 ある日は、全く売れない品物を仕入れたくなるように商人に囁きます。

ある日は、なけなしの金をドッグレースにつぎ込むように農夫をそそのかします。

 またある日には、貧しくも幸せそうな恋人達を見つけ、金持ちの魅力的な男に変身し娘を誘惑しました。

 商人はやっと手に入れた店を手放し、農夫は仲のよかった家族から罵られ続けて生きることになり、娘は悪魔が姿を消すと男に泣いて謝りましたが男は去っていきました。

 「さあ、今日は誰を苦しめようか。」

 ピギーは考えました。

 「凄い事を思いついた。空を雲で埋め尽くして太陽の光が届かないようになれば人間全部苦しめてやれるぞ!」

 ピギーは早速水を用意して空高く飛び上がります。

 「それそれ、どうだ。それどうだ。」

 撒き散らされた水はみるみるうちに厚い雲になって空に広がっていきました。

 「ほらみろ、下の世界と同じように人間の表情も暗くなってきたぞ。」

 ピギーは楽しくなって次々に水を撒きます。

 「それそれ、どうだ。それどうだ。」

 「真っ暗闇にしてやるぞ」

 しばらくの間ピギーは夢中で水を撒いて進みましたがふと振り返ると雲はピギーが想像していたよりも空を埋めてはいませんでした。

 「ピギギギギーどうしたことだ!もうとっくに真っ暗闇でもいいはずなのに!」

 ピギーが急いで最初に水を撒き始めた場所へ向かうとそこではザアザアと雨が降っていました。下の人間の表情にもそれほど暗さは感じられません。


 「ピギギィ空が広すぎて雲を作るのが間に合わない。」

 ピギーは楽しかった分だけがっかりしてしまい、しばらく何もしないで過ごしました。

 呆然としながらピギーは頭の中で色々な事を考えました。


 凄く素敵な思いつきだったのに。

 成功していたら本当に楽しかったのに。

 人間の奴ら楽しそうに過ごしやがって。

 今まで失敗なんてなかったのに。

 今まで一人ずつだったのに急に全部なんて欲張ったのが悪かったのか。

 とにかく気分転換が必要だ。早く人間を陥れてすっきりしよう。

 だけど、失敗した分いつもよりもっと不幸にさせて楽しんでやらなくちゃ。


 ピギーは人間たちを眺めて物色し始めました。

 そこにピギーが何もしていないのに暗い顔をした男を見つけました。

 「ピギギー!あんなに暗い顔をした奴をもっと暗いところに落とすのはどうだ!空は真っ暗に出来なかったけどあいつの中に入り込んで頭の中を真っ暗にしたら楽しいだろうな!」

 ピギーは標的を決めるとあっという間に男の頭の中に入り込みました。

 

 人間の頭の中には外の世界と同じような世界が広がりそこに主人公である自分が歩いたり出会ったり話したり踊ったり歌ったり寝ていたりします。

 

 ピギーは入ってみて小躍りしました。そこは既に思った通り夜のように暗い世界でした。

 「ピギギッこれじゃあ思った以上に簡単に仕事が終わりそうだな」

 ピギーは男の背後から物陰に隠れ、そっと様子を伺いました。

 男は体を小さく縮めて横になっていました。

 しばらく動かないのを確認し眠っているんだろうと思いピギーは遠慮もなく男の頭の中を飛び始めました。

 「ピギギー、まだ明るい場所はどぉこだぁ」

 ピギーはすさまじい速さで右へ左へと方向を変え回転をしたりしながら生き生きと飛び回り光の射す場所を探します。

 ところがどうでしょう?いくら探してもみつかりません。でもそんな筈は無いのです。

 

 だって光が射さなくなった人間は死んでいる筈ですから。


 ピギーは腹が立ってきて一度男の所へ戻る事にしました。戻る途中にピギーはあることに気付きました。

 頭の中に入った時に男が外で覚醒していたのなら中でも眠っている筈はないのです。

 「ピギィィィくそっ!何の罠だこいつ!」

 ピギィは自分の思い込みを棚に上げ、ますます腹を立てながら速度を上げて男の目の前で止まりました。

 男は横になったままでしたが、やはり目は開いていました。

 「おいっ!起きてるじゃねぇか!お前の光を何処に隠したっ!」

 

 悪魔が人間の頭に入って話しかける時は人間から観ればもう一人の自分と語り会うように悪魔と自分は同じ姿になり本人が考えているように感じるものです。

 

 男は言いました。「光。そんなものずっと前から無いじゃないか。」

 ピギーは「そんなハズはない。思い出せ!楽しかった事や好きな事がある筈だ。さっさと話せ!」と顔を真っ赤にして怒鳴りました。

 男は悲しそうに笑って何も喋らなくなりました。

 ピギーの怒りは最高潮になり、絶対に見つけてやるんだと心に誓いました。

 このまま飛び回っても見つかりそうもないので、ピギーは仕方なく男の今までの人生の記録フィルムを遡って全部観ていく事にしました。

 ピギーの力をフル稼働にしても骨の折れる作業です。何日も何日もフィルムを見続けなければなりません。


 フィルムの中も色の無い世界。匂いも無い。音もわずかばかり。男の感情が薄れすぎて入ってこないようです。汚い小部屋と仕事先の肉屋を往復する毎日ばかりが続きます。家に帰るといつも同じようなパンを感情も無く口に運び横になります。


 小部屋で時々静かに泣いています。肉屋の店主にやつあたりされ「気味が悪い男だ。来てるんなら挨拶ぐらいしろってんだ!」と言われ疎ましい目で睨まれている。そんな日の夜だったり、いつものパン屋で新しい売り子の娘が話しかけても何も返答出来なかった次の時に行くと娘は会計の時に裏へ行き「なんだかあの人気持ち悪いから替わってよ」と馬鹿にしたように同僚と話しているのを見たりした夜でした。


 ピギーはそんな姿を見ると少し楽しくなって「ピギギッ本当に気持ち悪い奴だ。何も言い返しもしないで部屋で泣いているなんてなっ!」とニヤニヤと顔をほころばせました。


 それでも、あまりにも長く退屈な映像が流れ続けるためピギーの苛立ちはどんどん積っていきます。


 ピギーは頭を掻き毟ったり、爪を噛んだり、指の関節をボキボキ鳴らしながら紛らわせ、光を見つけた時に真っ黒にして塗りつぶし男が今よりもっと哀れに死んでいく姿を想像して耐えていました。


 フィルムの中で男の顔の映像が少しずつ幼くなってきた頃、やっと生活の場所が移りました。


 「なんだ?そこそこ金持ってそうな家じゃないか」

 ピギーはここで光を見つける手がかりを掴めるかもしれないと期待しました。しかし幼くなった男の顔はやはり暗く、脅えているように見えました。


どうやら、この場所でも今と変わらない無の生活を送っているのかもしれません。


 「ガチャン」とわざと大きな音を立てるように中年の女が少年の前に食事を置きます。少年は音も立てずに食事を食べます。音を立てずにかたずけ、音も立てずに部屋へ戻ります。


 ピギーは泣きそうな声で「ピギギィこれじゃあ居るのか居ないのかわかんないぜ。こんな死んでるみたいな奴に本当に光があるのかよ。」と気を落としましたが諦めずにフィルムを遡ります。


 しばらく同じような生活が続いていましたが、戻るにつれて女が少年に怒鳴る場面が多くなってきました。

「うるさい!」

「うるさい!」

「うるさい!」

「静かにっ」

「音を立てないでと言っているじゃない。」

「気配をさせるんじゃないっ」

少年が食器にスプーンを当てた時。部屋のドアを閉めた時。玩具で遊んでいる時。フロでお湯を浴びている時。テーブルに膝をぶつけた時。女はヒステリックに怒鳴りつけました。

少年はその度にビクッと体を固くさせ、しばらく動けないでいました。


 フィルムは怒鳴り声ばかりの映像が続き、実際は2年程の年月でしたが、その時間はあまりに長く、ピギーには何十年も過ぎたかのように感じられました。


 そのうちにピギーの耳には怒鳴り声が、眼には女の疎ましそうな目つきが焼きついてしまいました。


 ピギーは自分が怒鳴りつけられているような錯覚に陥り自分も体を固くさせる事がありました。

「うるさい!」

「うるさい!」

「うるさい!」

「うるさい!」

何故こんなに憎まれているのか・・・

何故こんなに嫌われているのか・・・

自分のことのように考え始めていました。


 フィルムは更に遡ります。


 少年の毎日怒鳴りつけられる生活が続きます。


 戻り続けたある朝、普段と少し違う雰囲気の一日が始まりました。

 映像に色がついているのです。


 少年が朝、ダイニングへ出て行くと、いつもでしたら女が嫌な顔をしながら食事を出します。ですがこの日、女はテーブルの上に突っ伏して起きているのか寝ているのかもわかりません。

 「おばさん、どうしたの?」

 ピギーは思わず口を抑えました。

 ピギーは男のフィルムに入り込みすぎてしまい、すっかり少年になりきってしまっているのかもしれません。初めて少年の姿で発せられた声に驚いて自分が話しているのかと錯覚したようです。


 「クソッ馬鹿らしい真似しちまった。こいつ母親じゃなかったのか。」


 フィルムは流れ続けます。


 女はゆっくりと顔を上げます。

 眼の下には隈ができ、焦点がさだまらず強烈な酒の匂いがただよっています。


 怒っているのか、泣いているのか、憎んでいるのか、笑っているのかわからないとても怖い表情で少年の方を見ます。

 少年の眼は脅え、今にも泣き出しそうに女を見つめています。


 女はゆっくりと話し始めました。

 「あの男、久しぶりに帰って来たと思ったらあの言い草。聞こえていたでしょう?もう帰ってくるかわからない。自分で拾ってきた子を置いて、自分は帰ってこない。あんな男死ねばいい。金を稼いで渡しておけばいいとでも思っているの?それでどうして生きていけばいいの?ねえ?今までだってずっと苦しかったのよ。死にたかった。ずっと死にたかった。でもね、人間って簡単に死ねないのよ。知ってる?簡単に死ねないの。一人で孤独に生きていけっていうなら、せめて本当に一人きりにして欲しかった。どうして、どうして私が醜く生きていく姿を、拾った子供に見られていると気にしなければいけないの?そんなことまで気にしなければいけないって何?何なのよっ!」


 少年は女の迫力に脅えきって視線も体も動かせずただそこに立ち尽くしています。


 女は少年の腕を力の限り掴み、睨みつけて言いました。


 「いい。よく聞いてちょうだい。私はもう疲れたの。疲れた。一人になりたいの。私は貴方に食べ物は出すわ。でも、居ない事にしてちょうだい。貴方はこの家には居ない人なの。何もかも好きにしていい。でも私に見えないようにして。そして私の事も見ないで。」


 少年は眼にいっぱいの涙を溜めています。


 女が睨みつけたまま更に手に力を込めてぎゅっと少年の腕を掴みます。


 少年は震えながらゆっくりと首を縦に振ると女は手を離し、乱暴にテーブルにパンと牛乳だけを置いて自分の部屋へ去っていきました。


 少年は震えたまま椅子に腰を下ろし、震える手でパンを千切ると震える口に押し込んで噛み締めました。涙がぽろぽろと頬を伝って落ちていきます。


 周りの風景が涙でぼやけ、みるみるうちに暗くなっていきます。


 少年はその日はそれ以降自分の部屋でじっと動かないようにして過ごしました。


 ダイニングから食事を乱暴に出す音が聞こえると食欲もないのに、おそるおそる出て行きました。


 ドアがバタンと閉まる音に女がこちらを見もせずに静かに言いました。


 「うるさい。」


 それから女はまた部屋へ去って行きました。


 少年は音を立てないように無理矢理食事を口に入れ、何も無かったように片付けるとゆっくりゆっくりと音を立てないように部屋へ戻りました。


 少年は布団を頭からかぶり小さな声で言いました。


 「おばあちゃん。ぼくここに来ちゃいけなかったみたい。おばあちゃんの所に行きたいけど死ぬのは簡単じゃないんだって。どうしたらいい?」


 ピギーはごくりとつばを飲み込み「この日からか?」と呟きました。


 フィルムはさらに一日前に戻ります。


 景色には再び色が戻り、スープやパンの匂いがします。


 少年は扉を開けるとテーブルに食事を並べる女に向かって「おはようございます」と挨拶します。

 女も少年の方を向くと笑顔で「おはよう」と返します。


 少年は顔を洗って席に着くと、女の顔をみて笑顔になりました。


 女がそれに気付いて「どうしたの?」と聞きます。


 少年は遠慮がちに言いました。


 「おばさん笑ってるから何かいい事があったのかなと思って。」


 女は照れたように笑っていいました。


 「旦那と会った頃の夢を見たの。で、忘れていたけど今日が結婚記念日だったの。おばさんにもそんな時があったのよね。今は忙しくて殆ど私たちが起きる前に出て寝た後にしか帰ってこないけど、仲がよかったのよ。」


 女はその日鼻歌を歌いながら早くから夕食の準備を始め、とても機嫌が良さそうでした。


 少年は午後になると女に一言告げ、外に出ました。何かを探しながら必死に歩き回っています。

 日も暮れかけた頃に少年は美しい花を見つけ持てるだけ摘んで急いで家に向かいます。


 家に帰ると男の話声が聞こえます。


 少年は眼を輝かせてドアを開きました。


 男と女の姿とテーブルに並んだ沢山のご馳走が眼に飛び込んできました。


 女はとても嬉しそうに微笑んでいます。

 「珍しく早い帰りじゃない。」


 男はジャケットも脱がずに鞄を開いてなにやらごそごそといじっています。

「急に遠方で商談が入った。しばらく留守にする。荷物をまとめてくれ。今日はずいぶんなご馳走だな。残念だけど二人で楽しくやってくれ。」


 女は一瞬で表情を強張らせました。

「・・・食べないの?」


 男は女の方を見る暇も無く、あちこちの部屋へ荷物を抱えて行ったり来たりしています。

 「ああ、時間が無い。」


 女は顔を引き攣らせながら椅子を引きます。

 「でも少しくらいいいじゃない。貴方の好きなものたくさん作ったのよ。」


 男は初めて女の方を向き、苛立ちを隠せない様子で睨みつけました。

 「時間が無いって言ってるんだ。30分後の汽車に乗らないと、商談が潰れる。黙って手伝ってくれないか?」


 女は男に背を向けて椅子に腰掛け、冷たく凍りついたような表情で、静かに話します。

 「この何年も私は一体何者なのかわからないの。この家の掃除婦か何かなんだろうと思うんだけど。でも夫婦って何?私と貴方は夫婦のはずよね?まともに会話もしないのが夫婦なの?私と貴方は何処に向かっているの?貴方は何処へ向かっているの?私は何処へ向かえばいいの?」


 男は顔を背け、手を止めずに作業を続けます。

 「口を開けば同じような事を何度も何度も。いい加減にしろ。」


 女は同じ姿勢で一点を見つめて続けます。

 「何度も何度も?そんなに話せる機会があったかしら?いいえ、無いわ。貴方が忙しいのは今だけの事では無いものね。いつもいつも私から逃げる為に忙しくしているものね。」


 男は動きを止め抱えていた衣類を思い切り鞄に叩きつけ、ついに大声をあげました。

 「ふざけるな。喰う為に働いてるんだろう!俺はお前と向き合ってたさ、でもお前は無いものをずっと追いかけながらこっちを向かなかったんだ。お前が向かなかったんだ。俺の力じゃ何も出来なかったじゃないか?お前が自分で乗り越えるしかないと思ったから、俺は金を稼いでお前の気分が変わる好きな事でもしろって言ったんだろうがっ!」


 女は変わらず冷たい表情のままです。

 「そう、それで自分はさっさと逃げ出して、私を哀れんで子供を貰ってきたんでしょう。可哀相な女だ。俺の変わりに話し相手にでも渡しておけばいいだろうって?貴方の想像通りに喜ぶとでも思うの?冗談じゃない、そんな哀れみで渡された物を私が受け入れられると思うの?絶対に何があっても受け入れないわ。子供だましの玩具みたいにっ。私がいつそんなもの望んだの?いつ頼んだのよ。」


 男はハッと息を呑み表情には驚きが浮かんでいます。


 「お前はあの子をそんな風に見てたのか?そんなだから子供が授からなかったんだよ。」


 言い終わるとすぐに、男の顔は青ざめ女の様子をサッと伺いました。

 「すまない。今のは忘れてくれ。俺たちはもう何年も変われない。少し離れて暮らした方がいいかもしれない。後で連絡する。」

 そう言うと男は叩き付けた衣類を鞄へ詰め込み玄関へ向かって行きました。


 男はそこに少年が居る事に気付くと顔を背けとても悲しい顔で通り過ぎざまに一言「すまない。」と言って行ってしまいました。


 女は座ったままうなだれていましたが、だらりと立ち上がりふらふらとドアのもとへやってきました。

 虚ろな眼で少年を見下ろします。


 少年はどうしたらいいのかわからずただ、心配そうな顔で女を見上げています。


 女の眼に怒りと苛立ちが見えました。

 「何?その花捨てなさい。手も足も汚れてる。家を汚さないでちょうだい・・・。いつもいつもそんな眼で・・・私を見ないで。」

 そう言うと少年を家へ押入れ、花を掴み取り、外に投げつけるとドアを閉めました。


 少年は手と足の汚れを落とし、食卓へ戻ります。


 女は椅子に座ってうなだれていました。


 少年は食卓の側で女の様子を心配そうに見つめながら立っていました。


 女はうなだれたまま静かな声で「食べなさい。」と言いました。


 少年は「はい」と言って、椅子に座りました。食べながらも女の様子を悲しい眼で伺っています。


 少年は静かにフォークを置いて言いました。


 「全部、すごく美味しかったよ。」


 女はうなだれたまま「フッウッウッ」と肩を震わせながら泣いているのか鼻で笑っているのかわからないような声を漏らし、その後ゆっくり息を吸うと「もう寝なさい。」とまた静かに言いました。


 少年は少しだけ女が気がかりな様子を見せましたが、ゆっくり立ち上がると「おやすみなさい。」と言って部屋へ入りました。


 少年は布団の中で身じろぎもせず体を小さくしてしばらく悲しい表情で何か考えているようでしたが、やがて眠りにつきました。


 さてさて、ピギーはどうしているでしょう?


 ピギーも真剣な顔で何やら考えているようです。

 「人間って何だ?

 俺が悪さをしなくても十分苦しそうじゃないか?

 俺が理不尽な事をしなくても十分理不尽な事をやりあってるじゃないか?

 なんで人間なんて弱くてちっぽけなものの中にこんなに詰まってるんだ?

 俺は何だ?

 俺はこんな奴らよりずっと長く生きてるんだぞ、なのに空っぽだ。

 なんで今こんなに苦しいんだ?

 なんでこんなに淋しいんだ?」


 フィルムは少年の光を見つけられないまま静かに遡り続けます。


 そこからは色も音も匂いもありましたが、とても静かで何か淋しい映像が続きました。


 少年と女の必要最低限の会話だけが繰り返される日々の始まりでした。


 朝になると男は既に居らず、二人は静かに朝食を取り食事が終わると女は掃除や洗濯を始めます。

 それが終わると大抵窓の外の景色を眺めながら聴いているのかいないのかわからないラジオ放送を流していました。

 女が外出するのは食料品や生活雑貨等の最低限の買い物をする時くらいです。小奇麗にしていましたがいつも同じような服を身に着けていました。


 女から少年に何か話しかける事はほとんどありませんでした。

 

 少年は、小川へ行って珍しい小石を見つけたり、流れを堰き止めようと石を積んでみたり森へ行って草花で絵を作ったり、小さな生き物を追いかけたり捕まえたりと過ごしていましたが、いつも一人でやはりどことなく淋しそうでした。


 そして家でも女の様子を眺めて淋しそうな顔をしました。


 少年は外で見てきた自然の中の出来事をよく女に報告しました。


 女はその度に変なつくり笑顔で「そう、良かったわね。」と一言いうと、それ以上話す必要は無いという様子で少年を避けていました。


 男は本当に時々ですが、夕食に間に合うように帰って来ます。


 男は少年にきちんと包装された玩具を渡し優しく微笑んで頭を撫でています。


 少年は目を輝かせてお礼を言い、本当に嬉しそうな表情です。


 男は女にも、花や綺麗なデコレーションのお菓子を渡しますが、女はいつも無表情に受け取り、男も女から目を背けています。


 そして、男がいる事でいつもの淋しい雰囲気とは違う緊張感が足され、女も少年もどこかそわそわとしています。


 男は大抵、書類をめくって目を通しながら食事をしました。終ると「ご馳走様、お先に」と言って書斎へ入ります。


 女が何か話を始めても、聞いているのかいないのか「ああ、そうか。」と適当に相槌を打ち、そそくさと場所を移り仕事に向かいます。


 男が早く帰って来た夜は時々怒鳴り合う声が食卓の部屋を挟んでいる少年の部屋まで届きました。


 そんな夜には、怒鳴り声で少年は目を覚まし、布団を被って小さくなり耳を塞ぎ、目をギュッと閉じて「ごめんなさい」「やめて」「やだよ」「おばあちゃん助けて」などとぼそぼそとつぶやいていました。


 フィルムでは、どことなく淋しく、時々少年にとって怖いと感じている様子の日々が続きました。


 少年の顔が更に幼くなり、体も小さくなっていきます。


 同じような映像の中で少年が強く記憶している部分はよりはっきりと鮮明に浮かび上がります。


 そのほとんどが女の言動でした。


 「いいのよ、余計な事はしなくて」


 「ええ、それは珍しい石だけど家には入れては駄目よ。きたないでしょう。」


 「貴方には他に親戚がいないの?おじさんやおばさんよ。そう、いないのね。」


 「外で遊ぶのはいいけれどお洋服は絶対に汚さないでちょうだい。」


 「名前で呼んでくれなくていいのよ、ただおばさんと呼んでくれればわかるわ。」


 「一緒には遊べないのよ。」


 「退屈でしょう?この家は。」


 「おばさんの事は気にしないで貴方は貴方で好きなように過ごすといいわ。」


 「おばあちゃんはねえ、死んだからもう会えないのよ。」


 少年が差し出した手を避ける女の姿。


 そして、度々女が部屋で一人泣く声。


 少年はすっかり幼くなり子供の姿まで遡り場所が移動します。


 ピギーは黙って見続けています。


 黒い服に身をつつんだ子供が葬儀に参列する姿が映ります。ごく質素な葬儀で子供は牧師に手を引かれながら終始難しい顔をしています。


 葬儀が終ると、参列者はちりぢりに去って行きました。

 子供はお墓の側でしゃがみこみ無造作に草をいじっています。

 子供から少し離れた場所で牧師とあの男が話しこんでいます。

 しばらくすると、二人は子供のところへやってきて牧師が子供に向かって話し始めます。


 「ラビエルよく聞きなさい。

 お前はまだほんの小さな子供だね。

 一人では何も出来ない。

 おばあちゃんは天へ昇ってお前とはもう一緒にいられなくなってしまった。

 もう会えないんだ。

 わかるかい?」


 ラビエルと呼ばれたその子供は、悲しい顔で肯きました。


 「でもね、心配はいらないよ。私が昔から知っているこのおじさんがね、是非お前と一緒に暮らしたいと言っているんだ。」


 ラビエルは横の男を見ました。


 男は、どこか悲しみを帯びたそれでもとても優しく包み込むような瞳でラビエルを見つめ、とても優しい微笑をラビエルに向けています。


 ラビエルはおばあさんの墓に目をやり、それから大きな瞳でもう一度じっと男を見つめています。


 男はしゃがみこんでラビエルと目線を合わせて話始めました。

 「はじめまして。僕の名前はトビー・オーバン。僕の家には子供がいないんだ。妻と二人きりでは少し淋しくてね、君もおばあさんが亡くなってしまって淋しいだろう?僕たち楽しく一緒に暮らしてみないかい?」


 ラビエルは再びおばあさんの墓に目をやり、少し考えてから男の手を取って肯きました。


 男の目には希望の光が宿り、ラビエルの手をギュッと握り返しました。


 牧師はその光景を見て微笑みラビエルに尋ねました。


 「おじさんは少し急いでいるようで余り時間は無いそうだが、家に戻って持って行きたいものはあるかい?」


 ラビエルはしかめ面をして首を振りました。


 牧師はそっと肯いて男に告げました。


 「昨日、この子は一人きりで自分のばあさんが倒れている所を見つけたんだ。ばあさんが居ない家に戻る事は今はあまりに悲しく、恐ろしい事なのかもしれないな。この子が戻って来て処分を決められるその時まで私がそのままの姿で管理させてもらうよ。今はショックもあって大人しいが、普段は騒がしくはないが明るい子でね。おっとりとしているが頭は悪くない。自然と周りの人間を癒してくれるような優しい子だ。君たち新しい家族の幸せを祈っているよ。」

 男はラビエルと手をつないだまま「はい。私も、この子を見て運命的なものを感じたんです。きっと幸せの方へ神は導いて下さると信じます。」と晴れやかな顔をしています。


 牧師と男は次の再会を楽しみにしながら別れの言葉を交わし、ラビエルと男は去って行きます。


 牧師は囁きます。

 「マリーさん、施設なんかに預けるよりは、求められる場所へ行った方が幸せだろう?今日あの男が訪れたのも運命かもしれん。見守ってやっておくれ。」


 ラビエルは男に手を引かれたまま駅まで歩き、二人で汽車へ乗り込みました。


 幼いラビエルには突然の状況が整理できないのでしょう。難しい顔で色々考えているように見えます。

 男は、そんなラビエルの様子を黙って見守っています。


 やがてラビエルは男に尋ね始めました。


 「これから何処へ行くの?」


 「ちょっと、遠い場所だよ。この汽車で幾つも街を越えて僕の家に行く。到着は夜になってしまうよ。」


「トビーおじさんは、どうして僕を連れて行ってくれるの?」


 「本当の事を言うと、僕もよくわからないんだ。ただ、牧師さんの所へ寄った時に君の話を聞いた。そして君を見た時に君が凄くはっきりと僕の目に飛び込んできて、何故か連れて帰ろうと思ったのさ。こんな理由じゃ不安かな?君はどうして一緒に来ようと決めたんだい?」


 「トビーおじさんの笑った顔がなんとなくおばあちゃんに似てたんだ。おばあちゃんはいなくなっちゃって僕は一人になっちゃったし。」


 「そうか。でももう一人じゃないさ。おじさんもいるし、家にはおばさんもいるよ。」


 「おばさんはどんな人?」


 「おばさんの名前はサラっていうんだ。おばさんはねぇ、今は少し迷子になっているのかもしれない。昔はとても社交的で楽しくて行動力のある人だったんだけど、今は家に閉じこもってる。外に見たくないものや、聞きたくないことがあるのかもしれない。おじさんは、結局おばさんの出口を探す手伝いは出来ないみたいでね。最近は仕事も忙しくてあまり家にもいられないし・・・。なんて難しい事を言ってもわからないよね。とにかく今はちょっと淋しい人だよ。」


 ラビエルは難しい顔をしています。


 「よくわかんないけど、僕も今とっても悲しいから仲良くなって一緒に元気になれるといいな。」


 男は頷いて「本当にそうだね。そうなるといいね。」とラビエルをじっと見つめていました。

 それから二人は汽車の中で簡単な食事をしました。ラビエルはその後すぐに眠ってしまったようです。


 やがて賑やかな夜の街の風景がぼんやりと浮かび、男に手を引かれながらよろよろと歩いているようです。


 一つの灯りのついた家に入ると訝しそうな目をした女の顔が映ります。


 女の声が遠く聞こえます。


 「何?この小さなお客さんは?」


 男の声が聞こえます。


 「相当疲れてるみたいで立っているのがやっとなんだ。とりあえず寝かせてくるよ。話はそれからだ。」


 それからラビエルは男に抱えられベッドに横になりました。


 遠くの遠くの方で話し声が聞こえますが、ラビエルの意識は薄れやがて完全な眠りに落ち何も聞こえなくなりました。


 さあ、今まで見てきた映像が繋がってきましたか?ピギーはどうでしょう?


 ピギーはフィルムを止めました。


 まだ光は見つかっていないというのにどうしたのでしょうか?


 ピギーはフィルムの世界を抜け出し、男のもとへと戻りました。


ピギー

 「おい、疲れたよ。」


ラビエル

 「そうだな。」


ピギー

 「お前は誰だ?」


ラビエル

 「俺は俺だよ。」


ピギー

 「お前はどんな人間だ?」


ラビエル

 「さあ、どんな人間だろうな。」


ピギー

 「突然のチャンスだ。一度だけ聞く。お前には復讐したい憎い相手はいるか?」


ラビエル

 「チャンス?憎い?復讐?さあ、なんだろうな。」


ピギー

 「誰かいないのか?」


ラビエル

 「別にそんな人いない。」


ピギー

 「本当にいないのか?よく考えるんだ。」


ラビエル

 「別に憎んでもいないけど消えて欲しい人間なら自分かな。」


ピギー

 「なぜだ?」


ラビエル

 「消えたら、楽になれそうだろ。」


 ピギーはラビエルの顔を見ています。

 ラビエルの表情に変化は無く、変わらず暗い場所で、体を小さくするようにしてじっと佇んでいます。


 ピギーはため息をつき、フィルムの世界へ戻りました。

 「もう、光はみつかるさ。望みをかなえてやる。」暗い顔でつぶやきました。


 フィルムが再生され、緑の香り、鳥の鳴き声、薄明かりが差し込む小部屋の天井から始まります。


 ラビエルは朝の光に目をやり、ゆっくりとベッドから起き上がります。


 そのままトイレへ行き用を足し、トイレを出てドアを閉めると足を止め首を傾げました。


 ゆっくりとまた歩き始め「おばあちゃん?」と呼びかけます。


 返事も無く、少し不安げな表情でドアを開きます。どうやら誰かの寝室のようですが、誰も居ないようです。


 少し足を速めてすすみます。またドアを開きます。食卓と奥に台所が見えます。


 ラビエルはまた「おばあちゃん?」とよびかけながら奥へ向かいます。仕切りの横を通り目に入って来たのは、床に倒れている老女の姿でした。


 足は一度止まり、一歩また一歩と老婆に近づいていきます。


 ついに老婆の横まで来ました。老婆の顔は血の気を失い、異様な雰囲気を放っています。


 ラビエルはそっと横に跪き、恐る恐る老婆の体に手を当て「おばあちゃん。おばあちゃん。おばあちゃん。おばあちゃん。」何度も何度も呼びかけます。


 返事は無く、ラビエルが手を握るといつもと違う温度を感じます。


 ラビエルの表情は恐怖に包まれ、思い切り老婆をゆすって大声で叫びます。「おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん。」


 それでも何の反応も返って来ません。


 ラビエルはハッと息を呑み「おばあちゃん、お医者さんでしょ?僕、今すぐ急いで呼んでくるから、ちょっと待っててね。ぼく本当に頑張るから、ちょっとだけ待っててね。」そう言うと、少年の顔は引き締まり立ち上がると走り出しました。ドアを乱暴に開け、壁や家具に体をぶつけながらも必死に靴を履いて玄関を飛び出します。


 外の世界は子供の視線で見るとなんと広く大きいのでしょうか。ラビエルは朝の光が差し込む小さな林を抜け、石に躓き、足を絡ませながらも走ります。


 のどかな農園や牧場が広がり、その先に民家がちらほらと見えています。少年の視界は狭くなり自分の息遣いだけがはっきりと聞こえます。


 ラビエルの足では、あまりに長く遠く感じた距離を走り抜き、やがて一軒の家の前へ来るとドアに倒れこむように寄りかかりドンドンと力を込めて叩き始めました。


 中から「誰だー。今行くから、ちょっと待てー。」と少し不機嫌な男の声が聞こえドアが開きました。


 ラビエルは荒い呼吸が収まりませんが「助けて!助けて!」とやっと声にしました。


 中から出てきた小太りの中年男が「お前はマリーさんのとこの子だね?」と一変して優しい声色で尋ねました。


 ラビエルはコクリと頷き、「早く、急がないと。」と男の服を引っ張りました。


 男はそれ以上何も訊かず「わかったから、落ち着きなさい。」とだけ言い、掛けてあった白衣を羽織、鞄を持って家を出ました。そして近所の農夫に話をすると、荷馬車を出してもらいラビエルに乗るように指示をしてすぐに馬を走らせました。


 家に着くと、ラビエルは男の手を引いておばあさんの所へ連れて行きました。そこには先程と何も変わらない姿で横たわる老婆の姿がありました。


 白衣の男は、おばあさんの体を何箇所か調べると眉間にしわを寄せ、唇を噛み締めてしばらくおばあさんを見つめていました。


 男はゆっくり深呼吸をし、横でじっと男の様子を伺うラビエルの目を見て言いました。「おばあちゃんをベッドへ運んであげないといけない。手伝ってくれるかい?」


 ラビエルは頷き、人形のようにだらりと力の抜けたおばあさんの重い体を、脅えながらも支え、男がおばあさんを背中に乗せるのを手伝いました。


 ベッドにおばあさんの体を横にし、体を整えると男はラビエルの肩にそっと手を置き「ありがとう。」と言いました。


 ラビエルはじっとおばあさんを見つめ「おばあちゃんどうしちゃったの?おばあちゃんじゃないみたいだ。変だよ、おかしいよ。」と声を震わせて男に尋ねました。


 男は目を閉じ、少年の肩に置いた手に少し力を込めて話しました。


 「人はいつか必ず死んでしまうという話を聞いた事があるかい?」


 「おばあちゃんが、僕のお父さんとお母さんは死んじゃったから会えないんだって言ってた。」


 「おばあさんも、お父さんとお母さんの所へ行ってしまったんだ。」


 「おばあちゃんは死んじゃったの?」


 「そうだ」


 「じゃあ、おばあちゃんにもう会えないの?」


 「そうだ」


 「嘘だ」


 「嘘じゃない」


 「嘘だ」


 「嘘じゃないんだ」


 「もう会えないなんてやだ、やだよ。」


 ラビエルは大声を上げて泣きました。男はラビエルを抱きしめて背中をさすりました。


 その日のその後の映像はラビエルの頭が他者を受け入れず、混乱の状態で動き続けた為なのかおばあさんの姿しかはっきりと映し出しませんでした。それすらも度々涙のせいかぼやけてしまっていました。


 大人達が入れ代わり立ち代り側にいる様子はわかりましたが、語りかけられた言葉は届いていないようです。ラビエルはおばあさんの横から殆ど動かなかったようで、固定された映像が眠らない一夜を映し出していました。


 ピギーはもう一度フィルムを止めました。


 それから、両手を「パンッ」と合わせ、一人で話始めました。


 「俺は誰だ?」


 「悪魔のピギーだ。」


 「お前はどんな悪魔だ?」


 「そんなの決まってる人間を苦しめるのが大好きな悪魔だ。理由なんてない。」


 「突然のチャンスだ。一度だけ聞く。お前には復讐したい憎い相手はいるか?」


 「ああ、いるさ。今まで特定の相手なんていなかったが、この頭の持ち主が何故か憎くて仕方なくてね!」


 「じゃあどうする?」


 「こいつの光はもう目の前だ。それを真っ黒に塗りつぶして最後に本当の地獄を見せてやる。」


 「それでいい。それで終わりだ。」


 そう言うとピギーはもう一度両手を合わせ「パンッ」と大きな音を鳴らすとフィルムを再生させました。


 

 そこからの映像は、音は跳ね踊り、魅力的な香りが世界を満たし、見たことも無い美しい色彩が広がる世界でした。隅から隅までの映像がきらきらと輝き、悲しみや苦しみにさえも温もりがあり、映し出される生命の全てに脈打つ力を感じました。


 おばあさんとラビエルはよくしゃべり、よく食べて、そしてよく笑いました。ラビエルはおばあさんに見守られて走り回り、時には叱られ、時には涙し、そんな時おばあさんはラビエルの体を全部包み込むように抱きしめました。


 歌って、踊って、全ての生命と共に寄り添い、一日一日に発見や創造や学びが生まれ喜びとなり、それらが先を示しラビエルに末来を覗かせました。


 そして、そんな中でも一際輝きを放っているのが、ラビエルが絵を描いている映像でした。


 ラビエルが描く絵には輝く世界の光の全てがそこで命を持っているような、不思議な優しい力がありました。


 おばあさんとラビエルの言葉にはいつでも愛情が溢れ、それはお互いにだけでなく、木々や草花やカエルや昆虫にまで注がれました。


 おばあさんの言葉には、今後のラビエルを案じるように一つ一つに想いが込められ、そしていつでも笑っていられるようにユーモアがちりばめられていました。


 やがてピギーからも、今までの暗い表情がすっきりと消え去りました。一緒になって腹を抱えて笑い、考え、その映像がおぼろげな記憶の断片へと移り変わるまでの輝く世界の全てを共に感じました。


 素晴らしい映像が終わってしまってもピギーはしばらく目を閉じてその世界へ浸っていました。


 しかし、急にピギーは眉をひそめます。


 「おかしい?」


 「何かおかしい?」


 「どれだけ長く闇に包まれていたってこんなに強い光を見失うか?」


 「それにあのトビーって奴、あいつは優しく笑ってたってどっか悲しそうな奴だった。それが、このばあさんと似てるかよ。」


 その時です、一瞬光が辺りを覆い得体の知れない何かがピギーの腕を掴みました。


 ピギーは眩しさに目を閉じ、ゆっくり得体の知れない者の方へ目を開くと大声を上げました。


 「ばばあっ!」


 「ばばあだって?悪魔だからってもう少しまともな言葉を使えなきゃだめじゃないかっ」


 なんとそこにはラビエルのおばあさんが現れ、しっかりとピギーの腕を掴んでいます。


 「ばあさん、なんだ?どうして?なんでこんなとこにばあさんが出てくるんだよ?」


 おばあさんはにっこりと笑って「ずいぶん長い間待ってたんだよ。こんな時が来るのを。いつか必ずチャンスがくると思って、ずっと待ってたのさ。お前さんもさっきチャンスがどうのとブツブツ言っていたじゃないか。」と言いました。


 「はっ?何言ってんだ。ばあさんには関係のない話だ。とっとと冥土へ行きやがれ。」


 「まあ、まあ、まあ、まあ、困ったねこの子は。またそんな言葉を使って。私はね冥土になんて行ってる場合じゃないんだよ。自分でも思ったより早く死んじゃったからね、そりゃあもうびっくりしたよ。」


 「そんなの大抵の人間がそうなんだよ。ばあさんだけの話じゃねえ。我儘言うな。」


 「ふふっ。そうなんだけどねぇ。まあ、話だけでも聞いてくれないかい。ばあさんの我儘がどんなものか聞いてみるのも勉強だ。お前さんも・・・あれ、確かピギーと言ってたかね。ピギーもさっきの映像がおかしいと思ったんだろう?」


 「そうだっ!それだっ!あんなに全体的にでかい光なら俺はフィルムを見なくても見つけられたはずだ。」


 「そうかい。そんなに光っていたかい?」


 「ふんっ。まあまあだな。」


 「ピギーも楽しかったかい?」


 「はっ?俺には退屈なだけだ。まあ、やっと目的のものが見つかった喜びはあったけどな。」


 「そうかいそうかい。あんたも、随分楽しそうに見えたからね、私はなんだか孫二人と一緒に居るみたいに思ってたんだけどね。」


 「意味わかんねぇ事言ってないで、さっさと話せよ。」


 「ふふっ、そうかい。それじゃあ少し長くなるかもしれないけど、我慢しとくれ。」


 「いいから始めろよ。」


 「あれはね、ラビエルが2歳の時だった。

その一年前に私は夫を事故で亡くしてしまってね。心配した息子夫婦がこの家に帰ってきてくれて一緒に暮らしてたんだ。平凡で幸せな毎日だったよ。だけど、そんな生活は長く続かなかった。息子も嫁も流行病にかかってしまってね。随分簡単に死んじまった。人間の無力さが心底わかったさ。こんな小さな子供がいるのに何故私じゃなく母親が逝かないといけなかったのか。共に歩んできた夫だけでなく、何故私の一番大事な息子まで失うのか。何故私だけが生きなければいけないのか。そんな事ばっかり毎日毎日考えてたよ。そんな私を、生かしてくれたのはあの子だよ。たった2歳の赤ん坊が、悲しみが伝わっちまうのかわからないけどね、そんな事を考えているといつも側へ来て、私の顔を撫でたり、手を握って心配そうな目でじっと私を見てた。それでね、しっかり生きなきゃいけないって事を何度も何度も思い出させてくれたんだよあの子は。

 そうやってあの子に力を貰いながら、私達はしっかり食べて、寝て、歩いて、笑って、狭い世界の中で広くを学びながら生きてきた。さっき見てきたフィルムが全部おかしいって訳じゃないんだ。おかしいのは一部だけだよ。でもその一部が大きかったのかもしれないね。

 あの子のおかげで私も過ぎてしまった事は仕方がないのだと前向きにはなってきたのだけどね、今度は末来の事を考え始めてしまったんだよ。

 ラビエルが可愛くて可愛くて仕方なくてね、でも私も歳だから、今度はきっとこの子を一人だけ残して逝かなくてはいけない。そんな事を考えると不憫でしょうがなくてね。そんな心配ばかりしていたような気がするよ。

 それに私は本来、気の利いた事を人に言ってやれるような人間じゃなかった。

 もともと私は小さい頃引っ込み思案で、大人しい子供なんてよく言われたもんさ。いつもひっそりと目立たないようにみんなを見守るのが好きだった。そんなにおしゃべりじゃないしね。」


 ここでピギーが口を挟みました。


 「嘘言うなよ。ばあさん人に馴れ馴れしくするわ、ベラベラとよく喋るわ、人の揚げ足取るわ、説教するわ、引っ込み思案なんて笑わせるぜ。」


 おばあさんはクスクスと笑ってピギーの背中を叩きました。


 「そう、私はね死んでから変わったのさ。

 死んでしまったらね、本当に馬鹿な事をしたと気付いた。大切な人を次々に3人も失って人間の無力さをわかったつもりでいたけどね、本当に思い知るのは自分がそうなってからだったね。愚かなもんだよ。

 私はあの子に与えられてばかりいたのさ。過去や未来をグズグズと考えて、あの子にぶら下がりながら私は本当には、あの子と真っ直ぐ向き合って無かったのさ。だからね、心から思い切り笑ってあげられなかったし、心底自分が思う言葉をあの子に伝えられなかった。

 そんな事を悔やんでるうちにあの子はみるみる淋しい子供になっていった。大人の勝手な事情に巻き込まれて、本当の自分の感覚を確かめる間もなく、確認する時間を与えられずに、大切な手がかりも遠くにやられてしまったんだからね。

 それだけじゃ終らなかった。あの子は、私の大切なラビエルは、自分の存在を消すように言われて、遠ざけられて、それが自分なのだとすっかり思い込んだ。

 嫌われ、他人に近づいてはいけない人間なんだと思い込んでしまってるのさ。」


 おばあさんは口惜しそうに拳を握ってボロボロと涙を流しました。


 ピギーは黙って見守っています。


 おばあさんは涙を拭き、呼吸を整え、優しい顔で訊きました。


 「悪いね、歳を取ると涙もろくなっちゃってね。ピギーはあの子がそういう子に見えたかい?」


 ピギーは急に思いもよらない事を訊かれ慌てているようです。


 「なんだよ。知らねえよ。」


 おばあさんは笑ってピギーの頭を撫でました。


 「引き取ってくれたオーバン夫妻を責めるつもりは無いんだ。あれはあれで仕方なかったのさ。」


 ピギーは目を吊り上げて言いました。


 「何故だ?あいつらが、自分から引き取っておいて、ばあさんの大事な孫を苦しめた張本人じゃねえか?」


 おばあさんはパッと顔を明るくさせて言いました。


 「おやおや、腹を立ててるのかい?そうかい。でもね、ラビエルのフィルムを観て人が今そう生きるのには理由がある。そして積み重ねたものがあるって事がわかったんじゃないかい?なんなら、あの夫妻のフィルムを観に行ってみるのはどうだい?」


 「冗談じゃねえよ。こんなのはもう最初で最後にしたいね。」


 おばあさんは何故か大笑いし、またピギーの背中をバンバンと叩き、「そうかい。そうかい。」と腹を抱えました。


 ピギーは顔をしかめて背中を反らせながら、早く続きを話せよ。」と促しました。


 「ああ、そうだね。ちょっと話がそれちゃったね。

 とにかく、私はラビエルがあんな風になってしまったのは、自分の責任だと自覚したのさ。きちんと生きる姿を見せられなかった。大事な力になる言葉を掛けてあげられなかった。この世界の山ほどの出来事について語り合えなかった、考えさせる機会を与えられなかった。とにかく一緒に過ごした時間に向き合えなかったからね。足りない事が多すぎたのさ。

 私は反省してね、何度も何度もフィルムを見直した。

 何度も何度もここでこうしておけばと繰り返し考えた。

 何度も何度も自分の表情について考えたり、言葉について考えていた。

 何年間もそんな事ばかりしているうちにね、自分の人格が変わってきている事に気付いたんだ。びっくりしたねえ。可笑しな話だろ。私はもう死んでるのにねえ。意思が残っているなら、いつ何が起こっても不思議じゃないのかもしれないよ。

 そしてもう一つびっくりする事が起こってたんだよ。

 何度も何度も私の中で過去をやり直しているうちにね、フィルムの中身が塗り替えられてきたんだよ。

 それで出来上がったのが、さっきあんたが見たフィルムさ。」


 ピギーは目を見開いておばあさんをみつめています。


 「なんだって?それじゃあ、今のフィルムはばあさんが塗り替えた偽物って事か?」


 「勿論全部が偽物じゃあないけどね。私の言動なんかは大分変わっちゃったね。本当は私は心配顔をしてる事があったし、悲しみが消しきれなかったしね、あんなに上手に話が出来てなかったからね。それだけで、明るさが随分変わるものなんだね。」


 おばあさんは、クスクスと笑っています。


 ピギーは口をぽっかり空けて呆然としています。それから頭を抱えて言いました。


 「こんな死んでる人間のばあさんにそんな事できるのかよっ!」と自分の手のひらを見つめました。


 おばあさんはそんなピギーの様子を見て子供のように無邪気に笑い舌をペロッと出して見せ、おどけて「できちゃった。」と言いました。


 混乱している様子のピギーにまたおばあさんは言いました。


 「私達は、誰も出来ると思わなくても誰も信じていなくても誰も考えが及ばない事でさえも出来ることがあるって事を今知ったのさ。」


 ピギーはおばあさんの確信に満ちた表情を見て、「今、知ったのか?知るってこういう事なのか?」と訊きました。


 おばあさんは、ピギーの胸に手を当てて「そうだよ。本当に自分自身で知るって事を体験するとね、こんなにもびっくりして、ドキドキして、大きな衝撃を受けるんだ。」と微笑んでいます。


 「こんな気分初めてだ。」


 「どんな気分だい?」


 「わかんねえけど、世界が広がってもっと知りたくなる・・・。そういえばフィルムにも同じような場面があったけど、あの時とは全然違うのはなんでだ?」


 「観たり、聞いたりする事とは全然違うんだよ。私もたくさんの事を知ってるつもりで生きていたけどね、自分で知る体験をするとね、本当の事がわかるだろ?それで、よく思い出してごらん。ピギーはフィルムを観ながらもっとたくさんの事を知った筈だよ。楽しい事ばかりじゃないけどね。思い当たる事は無いかい?」


 ピギーは思い返して感じた事があったようです。

 ピギーは確かにあの時、初めて自分から人間を、ラビエルを消す事ではなく何か手伝ってやろうかと考えていたのです。


 「ああ、なんか知らないうちに知ってたみたいだな。」と少し苦い顔をしました。


 おばあさんは、そんなピギーの手を取って、真剣な目で話始めました。


 「ピギー、私の話はまだ終ってないよ。我儘を聞いてもらうのはこれからなんだ。」


 「我儘を聞けってのは何かやって欲しい事があるって事だろ。悪いが、例えばあさんが死んでても人間の言う事をただでやってやる訳にはいかない。悪魔と取引するって事になるぞ。」


 「ああ、わかってるさ。私はね、フィルムが塗り替えられている事に気付いて完成させてからずっとこんなチャンスを待っていたんだ。願いが叶うなら、例え魂を喰われて本当に消えちゃっても後悔なんて絶対にしないよ。」


 おばあさんの顔はとても穏やかで揺るぎがありませんでした。


 ピギーはその顔をじっと見つめ、静かに言いました。


 「願いは何だ?」


 「完成されたフィルムをあの子の頭でわかるように再生してほしいんだよ。そうすれば私とピギーだけが知ってる本当のあの子を本人も思い出す。それだけじゃない、私があのフィルムに込めたやり直しの子育ても届くはずさ。それだけで、あの子は全てを取り戻す力を持ってるんだ。」


 「待てよ、俺は本当の意味でラビエルを知ってる訳じゃないさ。観ただけだ。まあ、それは置いといて、今の時点でこいつの光がフィルムの外で見つからない事に変わりはない。本人が少しでも何かを思い出すきっかけが必要なんだ。俺はそもそもそれを探しに来た。」


 「あれ、随分私たちのフィルムに入り込んでたようだから、兄弟みたいに一緒に感じているんじゃないかと思ったけどね。そう簡単じゃないようだね。全く素直じゃないったら。」


 「なんだよばあさん、一体いつから俺の存在に気付いてたんだよ。」


 「ふふっ。入った時からずっと、何もかも見てたんだよ。」


 「全く、嫌なばあさんだぜ。それで、きっかけになる物に何か心当たりはあるのか?」


 「勿論だよ。ピギーだって少し考えればすぐわかる筈さ。あの子の絵を見ただろ?」


 「ああ、確かに一番明るかった。でも、ばあさん・・・あの映像は本物だろうな?」


 「馬鹿言うんじゃないよ。あんなの私には、塗り替えようとしたって出来ないさ。あの光も薄暗くしちまったのは私だけどね。」


 「それで?どうする?」


 「試してみたい事があるんだよ。」


 おばあさんとピギーはなにやら話し合い、また明日会う約束をして別れました。


 ピギーは男の頭の中を抜け出すと、街の中を飛び回り、一軒の店に入るとしげしげと観察しています。



 それから店を出ると、沢山の人間の顔を眺めながら男のいる肉屋へ向かいました。


 男は相変わらず無表情に黙々と働き、仕事が終ると店を出て、真っ直ぐに薄暗い部屋へと戻りました。


 そして音も立てずに、以前に見た時と変わらないような質素な食事を用意するとテーブルで一人静かに口に詰め込みました。


 食事が終るとすぐに寝室へ入り、何をするでもなくそこへ座り辺りが暗くなるとベッドへ入り眠りました。


 ピギーは静かにその姿を見守りました。


 以前のピギーはこんな男の姿を見て「気持ちの悪い奴だ。」と言って笑っていましたが、今のピギーは優しい瞳の中に少し悲しげな色の表情を見せています。


 夜の闇を静かに朝の光が浸食し始めた頃、ピギーは男の家で動き始めました。


 ピギーがテーブルに向かって手をかざすと、テーブルが音も無く部屋の隅にぴたりと押しやられました。


 それからピギーはスゥっと息を静かに吸い込むと両手を静かに顔の前で合わせ、目を閉じました。


 そしてピギーがゆっくりと息を吐き、目を見開くと同時に大きく手を離し腕を広げると、そこには大きなキャンバスとイーゼル、たくさんの種類の筆と絵の具、大小のパレットに至るまで、絵を描くための道具が全てそこに現れました。


 ほとんど何も無かった空間に、それらの道具が並んでいるだけで、まるで別の部屋のようで、真新しい道具が全てキラキラと輝いて見えました。


 ピギーは、じっと確認するとフッっと寝室へ行き男の頭の中へと再び入りました。


 ピギーが中へ入ると、おばあさんがすぐに抱きついて来ました。


 おばあさんは感激で目を輝かせ「あんた、悪魔ってのは凄いんだね。上出来だよ。立派すぎるくらいだ。」と喜びました。


 ピギーはびっくりして、おばあさんから飛び退き「喜ぶのはまだ早い。これでラビエルが少しでも光を思い出さなければ、何の意味も無いし、問題はもっと深刻になるぞ。」と言いました。


 おばあさんはピギーを見つめて微笑みました。そして強い意志のある瞳で言いました。


 「なんでだかね。何も根拠は無いけれど何もかもうまくいくような気がするんだ。私の前にあんたが現れた時からずっと、そんな予感がしてるんだよ。」


 ピギーは複雑な表情で顔を背けて言いました。


 「大事な奴に悪魔が近づいて喜んでるのはばあさんくらいだな。とにかく、後はラビエルが起きるまで待つだけだ。」


 二人は、じっと息を潜めてラビエルを遠くから見守りました。


 外の世界では太陽が少しずつ昇っていきます。ラビエルの世界は変わらず暗いままです。


 その時ラビエルの布団が動き、ゆっくりと起き上がりました。


 ピギーとおばあさんは、一度目を合わせ、すぐにラビエルへ視線を戻して、固唾を呑みました。


 ピギーは小さな声で「見逃すな、見つけたら光をあいつの上まで運んですぐにフィルムの映像を頭に叩き込む。また消える前にだ。」

と伝え。


 おばあさんも小声で「わかってる。わかってるよ。」と震える手でピギーの腕を掴みました。


 ラビエルはいよいよ立ち上がり、ゆっくりと寝室のドアへ向かいます。


 ピギーとおばあさんはいよいよ体を固くさせ、瞬きもせずに見つめます。


 いよいよ寝室のドアが開かれ、そこで足が止まります。


 ラビエルの中の世界はまだ暗いままです。


 ラビエルは眉間にしわを寄せ、侵入者を探すようにあちこちに顔を向け視線を走らせています。


 険しくなってしまったラビエルの表情を見て、ピギーは少し肩を落としました。しかし、横にいるおばあさんは一層体に力を入れ、ピギーの腕をより強く掴みました。それを感じたピギーにも、再び力が入りました。



 ラビエルは一通り部屋の中を見渡し、誰も居ない事を確認すると、険しさに脅えも混じった顔で一歩一歩とバスルームへ向かい一呼吸置いて勢いよくドアを開きました。そこにも侵入者が居ないかと体を半分入れて確認しているようです。


 おばあさんはいよいよ身を乗り出し、ピギーの腕から手を離し胸の前で祈るように両手を組んでいます。ピギーはおばあさんへ一瞬視線を向け、すぐにラビエルの方へ戻しました。


 ラビエルはバスルームにも誰も居ない事を確かめると。ゆっくりと画材の方へ向き直りました。再び顔からは表情が無くなり、その場所からじっとキャンバスの方を見つめています。


 一向に光が射しこまない中でピギーが再びラビエルからおばあさんへ視線を向けると、おばあさんは祈るあまり目をギュッと閉じていました。ピギーは驚いてラビエルへ視線を戻しながら肘でおばあさんをつつき、「目を開けろ」とつぶやくと、おばあさんはビクッとして目を開きました。


 ラビエルはゆっくりと画材の方へ進み、ついにそれらの目の前まで来ました。表情を変えぬままにそっと筆へ手を伸ばし持ち上げて見つめました。


 その時でした。


 おばあさんが悲鳴にも似た声で「はああっ」と指を指し示しました。


 その悲鳴とほぼ同時にピギーは「パンッ」と両手を合わせ素早く離すとそこに黒い球状の物体が膨らみました。


 ピギーは球体を片手で持ち上げ一点へ向かって思い切り腕を振りぬきました。


 球体は見る見る伸びて鞭の様に踊りながら光へと向かっていきます。ついにその先端が光へ到達すると何本にも枝分かれし、その塊を捕らえました。


 ピギーは息もつかずその今はロープ状に変化した黒い物体をぐっと掴み一気にラビエルの下へと光を手繰り寄せます。


 今やラビエルは弱々しいながらも光に照らされ周囲の景色も僅かながらも色を取り戻しています。


 ピギーの手元の黒い物体が霧のように消えた次の瞬間、フィルムがシュルシュルと解かれ輝きを放ちました。


 大きく螺旋状に連なるフィルムの中心でピギーはまるで大勢の楽団を率いる指揮者のように腕を振り、その動きに合わせて次々と分割されたフィルムが宝石のように様々な色と光を放ちながらラビエルの方へと飛んでいきます。


 光はラビエルの頭で弾けながら次々と吸い込まれ、それと共にラビエルを包む光が少しずつ力を増していきます。


 なんという美しい光景なのでしょうか。色とりどりの流れ星が次々に炎を灯して飛び交うような。ラビエルの下で弾ける光は大空を照らす花火のような、そして今やその沢山の光がこの世界を埋め尽くすように強く不思議な力で眩しいほどにキラキラと輝いているのです。


 おばあさんは膝を折り、動けずに目を見開いてその光景を眺めます。


 ピギーは腕を振り続けます。


 ラビエルはついに筆に絵の具をつけ、広いキャンバスに一筆、また一筆と降ろし始めました。


 おばあさんの目に溜まった涙がついにこぼれ落ち、ピギーとラビエルを見守ります。


 ピギーは止まる事無くまだ振り続けます。その表情は全神経を研ぎ澄ましているように真剣でした。その腕の動きは無駄が無く滑らかに、時に穏やかで、時に荒々しく、時に繊細で時に荒々しく流れていきます。彼自身から凄まじいエネルギーが発せられ、それはもう力強く神々しくさえ感じられます。


 ラビエルはもう一心不乱に筆を下ろし続けます。次第に彼の中に抑圧された感情が爆発するように、泣きながら笑い、言葉にならない歓喜の声を上げています。


 おばあさんはその姿を見て、ピギーの方へ振り返ると、「ありがとう、ありがとうよ。」と何度も呟きながら泣き崩れました。


 ピギーはただただフィルムとラビエルに集中しながら腕を振り続けます。


 外の世界では太陽が高く昇り、やがて沈もうとしています。


 キャンバスには、生命が輝く故郷の風景が

広がり、筆を持ったまま座り込んだラビエルは幸せに包まれ、その絵を未だ飛び込んでくるフィルムの映像と共に恍惚となって見つめました。


 おばあさんは、その姿を確かめると力強く頷き、ピギーを振り返るとフィルムはちょうど最後の一欠けらを残すのみでした。


 ピギーは、渾身の力を振り絞るようにして最後の欠片をラビエルへ送ると、頭をガクリと落としそのまま動きを止めて崩れ落ちました。


 おばあさんは、異変を感じすぐにピギーのところへ駆け寄りました。


 「ピギーあんた、どうしたんだい。大丈夫かい?」


 ピギーは倒れこんだまま動かず、か細い声で答えました。


 「力を使いすぎたみたいだな。体が動かせねぇんだよ。」


 おばあさんはそんなピギーを優しく抱きしめて言いました。


 「しっかりしとくれ、ラビエルは、あの子はもう大丈夫だよ。ピギーあんた本当にありがとう。あたしゃ本当にあんたになんでもくれてやるよ。」


 ピギーは動けないままに更にか細い声でおばあさんに何か呟くと、そのままふっと消えて無くなってしまいました。


 おばあさんは「ああっ」と声を上げ、掴もうとしましたがそこにはもう何の感触もありませんでした。


 おばあさんは、すっかり明るくなり輝きに包まれた世界で「どうやってでも、約束は守るよ。私とお前で出来ない事はないだろう?」と、唇を噛み締めて誓いました。


 外の世界はいよいよ日が落ち薄暗くなっていましたが、もうラビエルが光を見失う事は無いようです。フィルムが終っても、彼の中に全てが取り戻され、彼は今自分の中に蘇った生命の力に圧倒され体の隅々を喜びに満ちた瞳で見回しています。


 その時、「ドンドンドンッ」と静寂を破る音が聞こえ突然家のドアが開かれました。


 肉屋の店主が青白く険しい顔をして部屋の中のラビエルを見つけると、ズカズカと向かって来てラビエルの胸元の服を掴んで怒鳴りました。


 「お前!何故無断で仕事を休みやがった!首でも括ってるんじゃねえかと思って仕事が手につかなかったんだぞ!」


 ラビエルははっとして、「すいません。ついつい絵を描くのに夢中になってしまって気がついたらこんな時間でした。」とすまなそうに頭を下げました。


 店主はラビエルのそんな姿に驚愕し、「お、お前、お前!」と口を詰まらせ、キャンバスへ視線を移すと更に目を大きく見開いて「これは、お前が描いたのか?」と尋ねました。


 ラビエルは少し照れたように「はい。絵を描くのがこんなに好きだった事を今日突然思い出したんです。」と言って店主へ嬉しそうに微笑みました。


 店主はいよいよラビエルの顔をまじまじと見つめて言いました。


 「お前、何故急に俺と話す事にしたんだ?お前ずっと何だか知らないが俺を嫌ってまともに話さなかったじゃないか?急に何なんだ?」


 ラビエルは思ってもみない事を言われ、それでも自分に起こった出来事をどう話していいのかわからずただ急いで「旦那さんの事をそんな風に思った事は一度もありません。」と真剣な顔で伝えました。


 店主はその様子を見て頷きため息をついて言いました。


 「こっちはずっと前に諦めてたが、どうやら今からお互い、色々話さなきゃいけないことがありそうだ。お前、こんな薄暗い部屋でどうせろくな飯食ってないんだろ。女房が家で飯作って待ってるんだ。いいから一緒に来い。」


 ラビエルが嬉しそうに「はいっ」と返事をすると、店主は何故か涙をこらえるようにして顔を背けながらラビエルの頭を乱暴に撫でました。


 おばあさんは二人のそんなやり取りに胸をなでおろし、一方で心配そうに「ピギー?ピギー?見てるかい?見れてないのかい?あんたは凄い仕事をしたんだよ。あんなに表情も無く話しもしなかった子が、こんなに自然に笑っているんだよ。見てないかい?全く何処に行っちゃったんだろうね?待ってるんだよ。ばあちゃんが絶対見つけてやるからね。」と呟きどちらともなく、ふらふらと夜の街へ飛び立ちました。


 それから暫くおばあさんは一方では生まれ変わったようなラビエルの生活を微笑ましく見守り、一方ではハラハラとしながら必死でピギーを探して回りました。


 ある日のラビエルは仕事の休みに汽車で出掛け、辿り着いたのは養父母の家でした。

 カーテンが閉じられた家へ入ると、以前よりもずっとだらしない姿の養母が一人、聞いているのかわからないラジオの流れる薄暗い部屋に虚ろな目で座っていました。

 ラビエルはそっと「ただいま、サラおばさん。」と優しい声で話しかけました。

 養母はゆっくりとラビエルの方を向くと「何で居るの」と殆ど聞こえない声で呟きました。

 ラビエルが養母のテーブルに近づくと養母は「あんたは私が追い出したんだよ。来なくていい。出て行って。」と泣きそうな顔で言いました。

 ラビエルは怯みませんでした。そのまま養母の側まで行き膝まづいて視線を合わせて話しました。

 「僕が初めてトビーおじさんと会った日にね、おじさん言ってたんだ。サラおばさんはね、今は迷子になってるけど社交的で楽しくて行動力のある人だって。おじさんは出口を探せなかったって。トビーおじさんは悲しそうな顔をしていて、僕におじさんとおばさんと楽しく一緒に暮らしてみないかい?って言ったんだ。だから僕は此処に来たんだよ。」

 養母はラビエルから視線を逸らし、興味が無さそうに「それが何。」と抑揚のない声で吐き捨てました。

 ラビエルは持ってきた大きなバッグから一枚の絵を取り出し、静かにテーブルに置いて言いました。

 「僕たち、まだ楽しく一緒に暮らしてないじゃない。」

 それを見た養母は目を見開き数秒間固まると、ラビエルの顔を見て泣き崩れて言いました。

 「あんたに…こんな笑顔、見せた事無かったじゃない…。ごめん…。ごめんね。本当に…ごめんなさい。」

 ラビエルは養母の肩を優しくさすりながら言いました。

 「あったんだよ。一度だけ。僕、その笑顔を見た時、本当に嬉しかったんだ。大丈夫だよ。サラおばさんも僕みたいに本当の自分を思い出せるよ。」


 その絵には、「夢を見た」と話したあの日の生き生きとした明るい笑顔のサラが生命を持っているような輝きで描かれていました。


 おばあさんはその様子を眺めながら「こっちも大丈夫だ!旦那も時期に戻って来るだろう。元気になった奥さんが会いに行くかもしれないしね!」と見届けると「さてっ!この事だって、あの子も知りたい筈さ」と気合を入れて、またピギーを探しに当ても無く彷徨いました。


 おばあさんは、それから暫くはピギーを探すことに必死でした。

 「あの子ったら、あたしの魂を喰らう約束した癖に何で突然消えちまうんだろうね。嫌な予感がしてならないよ。もしかしたら、もう飛べる力も無いのかねぇ。」

 そう思い、今までは建物の上空から探していましたが、その日は建物の中をすり抜けながら地上近くを探すことにしました。

 成果の無いまま、街は暗くなっていき街灯も無い路地を通り抜けようとしたその時でした。

 路地の奥で急にガサゴソと物音がし、少し近づいて見ると闇の中でボロを纏ったホームレスがゴミを漁っていただけでした。

 「若そうなのに不憫だねぇ…。」と呟き、飛び去ろうとすると「おい、ばばあ。やっと見つけたぞ。」と懐かしい声が聞こえました。


 「この声…この声はピギーだね!!!!」おばあさんは歓喜し上空や周囲を見渡しました。

 それでもピギーの姿はみつかりません。


 すると今度は「ばばあ、どこ見てんだよ。こっちだよこっちっ!」と、また懐かしい声がし、その方向へゆっくり向かって行くと何故か先ほどのホームレスがおばあさんの方向を見ていました。


 「おかしいね。人間には見えてないし聞こえない筈なのに視線が合ってるみたいな感じだねぇ…それよりピギーばばあなんて言葉使っちゃダメだって教えたのにまったく…どこだい」


 すると、ホームレスが「俺には見えてるし、聞こえてんだよ。ずっと気になってたんだ。その後ラビエルはどうなったんだよ。」と、フードを外し長く伸びた前髪を持ち上げながら言いました。

 その声と顔は、確かにピギーのものでした。


 おばあさんは一瞬固まり、震えた声で言いました。

 「あんた…あんたピギーなのかい?あんた…だって人間みたいじゃないか!」

 「人間だよっ。力使いすぎて意識無くなって目が覚めたら人間で、ここでぶっ倒れてたんだよ。何の力も使えねーよ。人間に見えないものがちょっと見える位だ。」

 おばあさんは、ピギーの姿を目を丸くして見回し、やがてポロポロと涙を流しました。

 「立派な翼も、角も、牙も、爪も、尻尾も無くなって…汚れて…痩せちまって…傷だらけで…。こんな事になって…あたしゃどうすればいいんだい。」

 うなだれて泣き続けるおばあさんにピギーは照れ臭そうに言いました。

 「別にばあさんのせいじゃねーよ。あの時、もう途中から意識無くしそうな位限界で、だけどさ、どんどん変わっていくあいつの様子見てたら体が消えていきそうな感覚があるのに止められなかったんだよ。」

 おばあさんは、それを聞くともっと激しく泣きました。

 

 ピギーは困ってオロオロとしながら、おばあさんが泣き止むのを仕方なく待ちました。

 

 おばあさんが思い出したように、「今からでも、あたしの魂で元に戻れないのかい?」と聞きましたが、ピギーは両手を上げて「もうその感覚すらわかんね。」とおどけて答えるだけでした。


 それからおばあさんは、ピギーに急かされてラビエルのその後の話を細かく伝え、ピギーは嬉しそうに興奮し、頷きながらそれらを聞きました。


 一通り話を終え、おばあさんは聞きづらそうに口を開きました。

 「ピギー、あんたこれからどうするんだい?あたしにしてあげられる事が何かあるといいんだけど。」


 ピギーはにっこりと笑って言いました。

 「ばあさん、泣くなよ。俺、この体も、もうもたない。そろそろ限界。」

 おばあさんは直ぐに叱るように言いました。

 「何言ってんだい!やっと見つけたんだから、あたしが人間の生き方を一から教えてやるよ!ラビエルのフィルムだって一緒に見たんだから基礎は出来てる筈さ。」

 ピギーはちょっと迷いながら諦めたように話始めました。


 「人間になったのが半年前位だろ。俺は、ラビエルの事もあったから人間としてだって楽しく生きてやるって思った。だけどさ…。」

 

 ピギーは話を止めて服をめくって腹や背中、腕、肩、足、至る所をおばあさんに見せました。

 それらは無残にも黒く変色していたり潰れたりしていました。

 

 おばあさんが驚いて口をきけないでいるとピギーは話を続けました。

 「実は殆どもう動けない。色んな悪魔がさ、面白がってしょっちゅう来るんだよ。まあ、昔の俺も絶対見物に来て何かしただろうな。同じ事をしてたんだ。生きるどころの話じゃなくて、逃げて隠れてで精一杯。体が弱るとさ心も弱って視野が狭くなって、何も考えられなくなる。そのうち物陰に隠れて動かなければいいやってなって、どうしようもなく腹が減った時だけ食い物を漁って食う。ラビエルの暗い気持ちがわかった気がするよ。でもさ、俺、今は楽しいんだよ。楽しくて楽しくてたまらないんだ。」


 そこまで話すとピギーは笑顔で側に置いてあったノートをゆっくりと取り上げておばあさんに見せました。

 

 「これ、使いかけのノート捨ててあったやつ。ペンも拾ったやつ。今、これにラビエルの物語を書いてるんだよ。それが楽しくて夢中になって痛みも空腹もなくなっちゃうんだ。ばあさんが来るのずっと待ってたんだぜ。続きが書けないから。これが最後まで書けたら俺の人間の生涯は幸せだったって本当に言える位なんだ。」

 ピギーは本当に楽しそうに話しました。


 おばあさんは複雑な気持ちでした。

 自分と孫を救ってくれたこの子が、こんなにもボロボロになっている。

 それでも、今、本当に幸せそうな顔をしている。

 「そうかい。あんたも本当に好きな事がみつけられたんだね。私にしてあげられる事は無いかい?」


 ピギーは満足そうな顔で言いました。

 「俺が消える間際のあの時の約束をばあさんはもう守ってくれた。自分がどうなるかもわからなかったけど、ばあさんなら絶対俺を探せると思った。だから、どうなってもラビエルの話を聞けるって信じてたんだ。それだけで十分さ。人間の死に際なんて見慣れてるし、どうなるかわかってれば恐怖もないんだぜ。」


 おばあさんは思い出していました。あの時、とても不安そうな顔で「俺を見つけて」と言ったピギーの顔を。


 何も言えずにいるおばあさんに向かってピギーは言いました。

 「それより、俺なんとか明るい所に行って早く続きが書きたいんだ。ばばあが一緒だと目立って悪魔も来そうだからさ、また明日ここに来てよ。」

 おばあさんは、そうして壁に寄りかかりながらもズルズルと移動を始めるピギーを見つめ、何も出来ない自分をとても悔しく思いました。

 そのまま側に居たい気持ちでしたが、本当に自分が居る事で悪魔が来ても何も手助けが出来ない事を考えると離れた方がいいのだろう。と去る事にしました。

 「じゃあピギー、くれぐれも用心しておくれよ。」と声を掛けると、ピギーは振り返らずに少しだけ腕を上げて「おう、明日なー。」と元気な声で光に向かって進んで行きました。


 おばあさんは、その晩どうにも落ち着きませんでした。ピギーの事がとても心配でした。早く夜が明けてくれないかと願い続け、太陽が昇ったと同時に目立たないように、それでも急いでピギーの元へ向かいました。


 昨夜の路地に行くと、おばあさんが考えていた通りでした。

 ピギーはもう息をしていませんでした。

 とても安らかな顔でノートを抱きしめたまま眠りについていました。


 おばあさんはノートを開き、最後まで書き終えている事を確認しました。


 「ピギー、あんたが書いたお話はきっとまた誰かを助けてあんたは生き続けるよ。」

 おばあさんは優しくピギーの頬を撫で、ノートを持って何処かへ飛び去って行きました。


 その数年後、みんなが知っている『悪魔のピギー』が本になり、ピギーは皆の心の中で生き続けるのでした。


 これが本当のピギーのお話。



                              end


 

本当の自分を見失う。現実社会と自分の役割に縛られて追われるままに日々を過ごしてはいないですか?そうして居るうちに立っている場所を見失い、家にいるのに、学校にいるのに、職場にいるのに、通学・通勤の道のりで「ここはどこだ」と感じる事は無いですか?立ち止まってゆっくりと考える為には時間も必要です。思い切った一歩を踏み出す時間を作り出すのは大変で足場を失う恐怖も不安もあります。それでも、自分と向き合って、周りの目を気にせずに自分に正直に生き始めた時、周りの景色や見え方がきっと変わってくるんじゃないかと思います。深呼吸をして考えるだけではなく一歩踏み出してみませんか?

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