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第四十九話 出会いと別れの三年生

 今年の休暇は私にとって、精神的なリハビリ期間と言えたかもしれない。

 私が前向きになるには時間が必要だった。

 ふとした瞬間に思い出ししまうのだ。

 血の海に倒れ伏すカーターさんの姿を。

 忘れたいけれど忘れることなどできはしない。

 辛い記憶を忘れるためにアナトリオスにすがった人々の気持ちも、今なら理解できた。

 時には、血塗れのカーターさんが起き上がり、私を責める夢も見た。

 私のせいで命を落としたのだ、私がいなければ死ぬことなどなかったのだ、と。

 そのせいで何度も夜中に飛び起きることになった。

 その度にお母さんを起こすことになってしまったけれど、お母さんは文句を言わずに私を慰め、落ち着くまで側に寄り添ってくれた。

 そしてその後はお母さんが温かいミルクを用意してくれ、それを飲むと少し気持ちが楽になり、朝までぐっすり眠ることができた。

 今思えば、人をリラックスさせるような魔術がかけられていたのかもしれなかった。

 私のお母さんならそんなことができても不思議ではない。

 そんな日々を送るうちに、少しずつ私は元気を取り戻すことができた。

 襲撃によってカーターさんたちが死んだことを忘れたわけではないけれど、私も前に進んでいかなければいけない。

 お母さんの姿を見て感じたことだ。

 お母さんはとても辛くて苦しい過去を背負っているのに、それでもしっかりと前を向いて生きている。

 そして溢れんばかりの愛情を私に注いでくれているのだ。

 私もお母さんのように強く生きていかないといけない。

 やっぱりお母さんは、私の目標の人物だ。


 でもお母さんについて知れば知るほど、その過去については謎が深まるばかりだった。

 そして私自身の生い立ちについても。

 特に私はお父さんについては何も知らない。

 唯一知っている情報は、私が生まれる前に死んだということだけだ。

 顔も名前も、どんな人物だったのかさえも知らない。

 お母さんは何一つ教えてくれなかった。

 そういえば去年、お母さんが故郷の村を失ってヘイグ村にやってくるまでの話を聞いたけれど、それに私のお父さんは一切登場していなかった。

 村人の話を聞く限り、私はこの村で生まれたわけではなく、大戦が終わってすぐの頃にお母さんに連れられて来たそうだ。

 一体私のお母さんはお父さんとどこで出会い、どこで私を産んだのだろう?

 そしてお父さんは、どうして死ぬことになってしまったのだろうか。

 私の推測が正しければ、お父さんはお母さんによって命を奪われたことになるのだけれど……。

 知りたくてたまらなかったが、お母さんに聞くことはできなかった。

 お母さんにも忘れたい過去があるのだ。

 私の前では気丈に振る舞っているけれど、時折見せる寂しげな表情からは、確かにそれを読み取ることができた。

 それを無理矢理思い出させるような真似はしたくない。

 私が去年の洗脳事件を通して学んだことだ。

 辛い記憶を思い出すことは、その人にとって苦痛に他ならないのだ。

 私はお母さんを苦しめる気なんて毛頭無い。

 沸き上がる好奇心を胸の中にしまって、私はヘイグ村での休暇を過ごした。




 そして今年も魔法学校からの迎えの馬車がやってくる時期になった。

 今年で私は三年生。

 いよいよ本格的に魔術を教わる年だ。

 私はそれがすごく楽しみで、そのお陰で少し前向きになれたのかもしれない。

 まずは六属性の下級魔術を教わり、前期の終わりに各属性への適性診断が行われるそうだ。

 ベルーナは水属性に適性があったし、ハインスは木属性に適性があった。

 中には複数の属性に適性がある人もいて、例えばゼノヴィアさんがその代表だ。

 彼女は闇と木の属性の適性が高くて、前に治療魔術を使っているところを目にしたこともあるから、命の属性の適性も持つのだろう。

 ゼノヴィアさんはエリート魔術師なのだ。

 一体私はどの属性に適性があるんだろう?

 もしかして複数の適性があったりして……。

 うふふ。

 ちょっとわくわくしてきた。

 そういえばお母さんがどの属性に適性があるのか知らないな。

 これについては好奇心のままに聞いてみることにした。

 するとお母さんは嫌な顔ひとつせず、少しはにかむように笑いながら教えてくれた。

 しかしその答えは、驚くべきものだった。

「そうねぇ……、私は()()()()()()()()()()()()わ」

「えぇ!? それって凄いことなんじゃないの!?」

 以前ハインスとベルーナから聞いた話によると、複数の属性に適性を持つというだけで、中央で魔術師としての仕事がもらえるくらいなのだ。

 それなのに六属性全てに適性があるなんて、もはや超人ではないだろうか。

「確かに適性診断でそれがわかったときは、先生たちもみんな目を丸くしてたわ。『君は天才だ』って言う人もいたくらい」

 でもそう語るお母さんの表情は、それまでと打って変わって楽しそうなものではなかった。

 もっと喜んでも良いような話なのに、どこか寂しげだったのだ。

 一体どうしてなのだろう?

 これ以上聞くのをやめようかとも思ったけれど、私はもう引っ込みがつかなくなっていた。

「なのにどうして中央で就職しなかったの? そんなに適性があったら中央から声がかかるはずじゃないの?」

 そう尋ねるとお母さんは少し困ったように目を細めて、首をかしげた。

「私は授業を真面目に受けなさすぎて、卒業する頃になっても初級魔術しか使えなかったの……。それに試験の成績もすごく悪かったから。だから先生たちもみんな私に愛想をつかしちゃって、中央に紹介されることがなかったの」

 それを聞いて私は頭を抱えた。

 お母さんが不良生徒だと言うことは聞いていたけれど、まさかこれほどとは……。

 適性が少なくて苦労する人もいるのに、お母さんはもって生まれた才能を無駄にしてしまったのか。

 ……いや、待てよ。

 でもそれだと辻褄が合わない気がする。

「でもお母さん、今は色々な魔術を使えるんでしょ? ほら、私にくれたお守り。魔法学校のみんなが、『すごい魔導具だ』って褒めてくれるよ?」

 そう、初級魔術しか使えないような人に、魔法学校の校長先生までもが驚くような魔導具を作れるはずがないのだ。

 しかし私の問いを受けたお母さんは苦笑するばかりだ。

「私が色々な魔術を覚えたのは、魔法学校を卒業してからよ。正確にはミスリームの侵攻が始まってからかしら。生きていくのに必要だったから、流石にサボるわけにはいかなかったの。それにね……」

 お母さんはそこで一度言葉を切り、優しい瞳で私を見つめてきた。

「レイナ、あなたを守るためにも必要だったの。もう二度と、大切な人を失いたくなかったから」

 そう言ってお母さんは、いくつか棚から本を取り出した。

 お母さんが普段読んでいる本だ。

「この本はね、色々な魔術の研究をまとめてある本なの。私はこれを読んで魔術の勉強をしたのよ」

 やっぱりお母さんがずっと読んでいたこれらは、魔術の本だったようだ。

 私が昔読もうとしたときは、あまりにも内容が難しすぎて途中で投げ出してしまったけれど、今なら読めるだろうか?

 これを読んだら私も、お母さんみたいに凄い魔術師になれるだろうか?

「ねぇ、私もその本読んでいい?」

 私はそうお母さんにねだった。

 するとお母さんは再び、困ったように微笑む。

「それは良いけれど、まだあなたは魔術を使えないのだから、読んでも意味がない気がするのだけど……」

「うぅ、確かに……」

 それもそうだ。

 今読んだからといって、すぐに実践できるわけではない。

 私にはまだ早いか。

「じゃあまた今度読ませて!」

「はいはい。でも学校の授業もちゃんと受けるのよ。私みたいになっちゃダメだからね」

 これで最悪授業を受けなくても凄い魔術師になれる! と邪なことを考えた私の心を見透かしたのか、一年生の時と同じようなことを言われてしまった。

 今のところ私の学校の成績はかなり優秀だ。

 去年も学年で一番の成績をとることができた。

 でもここから授業をサボるようなことをしたら、お母さんみたいに残念なことになってしまうかもしれない。

 そうはなりたくなかった。

「はーい、頑張りまーす」

「返事ははっきり!」

 私の間延びした返事はお母さんのお気に召さなかったようだ。

 たしなめられてしまった。

「はい、頑張ります!」

 今度は短く答えると、お母さんは満足そうににっこり笑ってくれた。

「約束よ、ちゃんと頑張ること。お母さんみたいに後で後悔することのないように」

「うん!」

 私は大きくうなずいて、お母さんに微笑み返した。

 私の目標はお母さんであるけれど、ところどころ見習ってはいけない部分もあるようだ。

 絶対に授業をサボったりしないぞ!

 私はそう心に決めた。




 そしてその翌日、魔法学校からの迎えの馬車がヘイグ村に到着した。

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