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第三十七話 みんなを守るために

「わぁ、すごい。ドラッケンフィールの魔法学校とは全然違いますね!」

 私たちはウォーレンハイトの魔法学校を見学しに来ていた。

 ここに来たのは私の希望だ。

 ドラッケンフィールとウォーレンハイトでは建物の雰囲気がずいぶん違う。

 魔法学校も違う造りをしているのかどうか、気になったからだ。

 実際目にしたウォーレンハイトの魔法学校はやはりドラッケンフィールとは違い、黒く無機質な壁に覆われていて迫力があった。

 構造自体も少し異なっていたが、建物の両端に高々とそびえる塔は同じであった。

 そういえばいまだに魔法学校の塔に登ったことはないけれど、いつになったら登れるのだろうか。

「ウォーレンハイトの魔法学校では、魔術の他に剣術も教えているのだ。これもこの地の特色なのかもしれないな」

 そう教えてくれたのはウォーレンハイトの魔法学校の教師、エリック先生だ。

 事前にケイシーさんから連絡を受けて、私たちを案内してくれることになったのだ。

 他の大都市の魔法学校の教師を動かすことができるなんて、ライゼンフォート家ってすごい。

 それにしても剣術かぁ。

 魔術と剣術っていまいち結び付かないけれど、ゼノヴィアさんやアシュレイさんも剣で戦っていたし、意外と剣の使い方を覚えることも大切なのかなぁ。

「どうだろう? 剣術の体験をしてみないか?」

 そう言ってエリック先生が私たちに微笑みかける。

「うーん、ちょっと気にはなりますけど、危なくないですか?」

 私は少し心配になりエリック先生に尋ねた。

「大丈夫さ。扱うのは真剣ではなく刃を潰した練習用の物であるし、万が一の時にはすぐに治療魔術がかけられるよう、我々教師が待機しているからな」

「あ、僕やってみたいです!」

 そう声をあげたのはウェインくんだった。

 やっぱり男の子はこういうのが好きなのかな?

「ねぇ、私たちもやってみようよ」

 私が悩んでいると、そうユーリに声をかけられた。

 どうやらやる気のようだ。

 確かにせっかくドラッケンフィールの魔法学校ではできないことを体験するチャンスだし、やってみるのもありかもしれない。

「じゃあ、私もお願いします」

「わかった、では道場へ案内しよう」

 私の返事を聞いたエリック先生は笑顔のままうなずき、私たちを学校の奥へと促した。


 私たちが案内された道場は内装のほとんどないだだっ広い空間で、床や壁には剣で切りつけたような跡がたくさんついていた。

 それをみて私は少し不安になる。

 エリック先生は、真剣は使わないから安全だと言っていたけれど、本当にそうなのだろうか?

 少なくとも床にこんな深々とした跡をつけるような力で切りつけられたら、真剣でなくとも大怪我をしそうだ。

 そして道場の中央では二人の青年が剣を手にして向かい合っていた。

 剣術の訓練中だろうか。

 二人とも額には玉のような汗をかき、呼吸も乱れているように見える。

 そんなことを考えた瞬間、

 キィーン

 突如として澄んだ音が道場に響き渡る。

 するとさっきまである程度の間合いを保っていたはずの二人が、いつの間にか至近距離で鍔迫り合いをしていた。

 二人が動くところが全く見えなかった。

 呆気にとられている私をよそに、二人は再び間合いをとる。

 一度睨み合った二人だったが、次の瞬間片方の青年が踏み込んだ。

 私は今度こそ二人の動きを見逃すまいと、集中して二人を見つめた。

 しかしそれも無駄な努力に終わってしまった。

 またしても何が起こったのかわからないうちに、もう片方の青年が剣を取り落としたのだ。

 弾き飛ばされた剣が私たちのすぐそばまで飛んできて……、床に突き刺さった。

 なんと二人は真剣を使って訓練をしていたのだ。

「馬鹿者! 訓練に真剣を使うなと何度言ったらわかるのだ、お前たちは!」

 エリック先生が怒号をあげて二人に歩み寄る。

 近づいてくるエリック先生に気づいた二人の表情が一瞬で青くなる。

「エリック先生!? 休暇中のはずなのに!?」

「私の目を盗もうとしていたのか貴様ら! 今すぐに道場を修理しろ!」

 エリック先生が二人の脳天に拳骨を落とした。

 ゴキン

 それはそれは痛そー、な音がここまで聞こえてきた。

 二人が頭を抱えてうずくまる。

「痛がっている暇があったらさっさと修理に移れ! もう一発食らわせるぞ!」

 容赦のないエリック先生の言葉に二人は慌てて動き出した。

 でもこんなに大きな床の傷、どうやって修理するんだろう?

 私は疑問に思ったが、それはすぐ解決することになる。

 飛ばされた剣を拾いに私たちの近くまでやって来た青年が、床の傷に手を当て何やら呟いた。

 するとみるみるうちに床の傷は塞がった。

 跡形もなくきれいに、だ。

 これも魔術なのだろうか。

 二人は道場中を飛び回り、傷を修理していく。

 もしかして道場のあちこちにある傷は全て、この二人の訓練によってつけられたものなのだろうか。

 いったいどんな激しい訓練をしていたのだろう。

「見苦しいところを見せてしまったな。あの二人は当校の最上級生で、剣術にかけてはピカイチなのだが、そればかりに目がいってしまってどうにも他のことに無頓着なのだ」

 私たちのところに戻ってきたエリック先生が頭をかく。

「とんでもない! 二人ともすごかったです! どうやったらあんな動きができるんだろう?」

 そう興奮して答えるのはウェインくんだ。

 ずいぶんテンションが上がっているようだ。

 もともと剣術を体験したいって言ったのはウェインくんだし、やっぱりああいうのが好きなんだろうな。

 目を輝かせているウェインくんを見て、エリック先生も顔をほころばせる。

「二人とも身体強化の魔術をうまく扱い、瞬発力や動体視力を底上げしているんだ。もちろん二人の強さの秘訣はそれだけでなく、これまでひたすら剣術の鍛練に打ち込んできた、努力の賜物であるのだがな」

 なんだかんだ言ってもエリック先生は二人の実力を認めているようだ。

 誇らしげに二人の強さを語ってくれた。

 そんなことを話している間に道場の修理を終えた二人が私たちのもとへとやって来た。

「紹介しよう、エドウィンとウォルターだ。エドウィン、ウォルター、こちらはドラッケンフィールの魔法学校の生徒で今日は当校の見学に来たんだ。剣術に興味があるというから教えようと思ってな」

 私たちもそれぞれ、エドウィンさんとウォルターさんに自己紹介する。

 エドウィンさんは青みがかった明るい髪色で、私とよく似た金色の瞳の持ち主だ。

 少し背が高くて、顔を見ようとすると見上げることになり、ちょっと苦労してしまう。

 一方のウォルターさんは、黒い髪を左半分だけ長く伸ばした髪型が特徴的な人だ。

 さっきの訓練で、エドウィンさんの剣を叩き落として勝利していたのがウォルターさんだ。

 そしてこの二人にはある共通点があった。

 二人ともとても格好良いのだ。

 コックス先生の渋くて大人なかっこよさとは違い、若々しくてはつらつとしたかっこよさだ。

 そして剣の腕が抜群と来た。

 こんな二人がドラッケンフィールの魔法学校にいたら、学校中の女子生徒の憧れの的になるのではないか。

 もしヘイグ村にやって来ようものなら、村中の若い女性はみんな二人の虜になってしまうのでないだろうか。

 そんな気さえした。

「ウォーレンハイトの魔法学校へようこそ。君たち剣術に興味があるんだって?」

 ふいにエドウィンさんに声をかけられた。

 爽やかな笑みを浮かべて、だ。

 笑うとよりいっそうかっこよさが際立つ。

 私は思わずドキリとしてしまった。

 この人の笑顔は少し心臓に悪い。

「あ、はい、そうなんです。ドラッケンフィールでは剣には触れる機会すらないので……」

 私の返答はしどろもどろになってしまった。

 その様子をみたエドウィンさんの笑顔がよりいっそう深まる。

 うぅ、そんな目でこっちを見ないで。

 眩しくて目が合わせられない……。

「そうかい、だったら俺たちが教えてあげるよ。いいよな、ウォルター?」

 そう言ってエドウィンさんがウォルターさんに視線を移す。

 ようやくエドウィンさんの笑顔から解放され、私は少し落ち着いた。

「そうだな、せっかく来てもらったんだしな」

 ウォルターさんがあまり表情を変えずにうなずく。

 少しクールな感じだ。

 エドウィンさんの笑顔のような破壊力はないので、私はウォルターさんの方が一緒にいて気楽かもしれない。

 ……私は一体何を基準にものを考えているんだか。

「まぁ待て、まだ本人たちの意見を聞いてないだろう?」

 やる気を見せた二人をエリック先生が遮る。

 そしてそのまま私たちにどうしたいか聞いてきた。

「二人に教えてもらえるなんて、楽しみです!」

 やっぱりウェインくんはノリノリだ。

「私もそれでいいですよ!」

 ユーリはそんなことを言いつつも内心ではとても喜んでいるように見える。

 彼女もエドウィンさんとウォルターさんの見た目がお気に召したのかもしれない。

 けれどヘイグ村のやんちゃ坊主どもを見て育った私にとって、二人のルックスは刺激が強すぎる。

 そんな二人に直々に教えられるとなっては、少し落ち着かないのだ。

「ね、レイナもそれでいいでしょう?」

 ユーリが二の足を踏む私の背中を押す。

「うーん、そうだね。さっきの二人の訓練、凄かったもんね」

 確かにさっき目にした――いや、実際は目にすることができなかったのだが――二人の動きには驚愕した。

 私にあんな動きができるようになるとは思わないが、基礎ぐらいは覚えられるかもしれない。

 何事も経験だ。

「「よろしくお願いします」」

 私たちは声を揃えて二人に頼んだ。


 ウォルターさんが一度道場を離れ、しばらくして何本かの剣を携えて戻ってきた。

 そしてそれを私たちに配っていく。

 どうやらこれは本当に刃を潰してある、練習用の剣のようだ。

 私はほっとひと安心した。

 真剣なんて見るだけでもぞっとしてしまう。

「君、剣を持つのは初めてかい?」

 恐る恐る剣を受け取った私の様子を見て、ウォルターさんがそう声をかけてきた。

「はい……、いや、二回目です」

 そうだった。

 私が剣を持つのはこれが初めてではないのだ。

 去年校外授業に行ったとき、謎の四人組に襲撃を受けたときだ。

 あのとき窮地に陥っていたアシュレイさんを救うため、何とかして敵の隙を作るために、落ちていた剣を拾って男に切りかかったのだ。

 あの行動によって確かに敵の隙を作り、アシュレイさんの手助けをすることができた。

 けれどアシュレイさんは結局死んでしまった。

 もしもあのとき私にもっと力があれば、アシュレイさんは死なずにすんだのではないか。

 もっと言えばフレデリック先生やジェイン先生も……。

 ついそんなことを考えてしまった。

 もう誰かが目の前で死ぬのは見たくないな。

 そのためにはどうしたらいい?

 そうだ、強くなったらいい。

 ゼノヴィアさんのように。

 ヴィルヘルム先生のように。

 私は強くなりたい。

 みんなを守るために。

 今こうして再び剣を握ったことで、私の中に何かが芽生えた。

 そんな私の思いに勘づかれたのだろうか。

 ウォルターさんに声をかけられた。

「君、いい眼をしているね。そういう強い意志は大切だよ。剣術だけじゃなく、何をするにしてもね」

 そう言うとウォルターさんが笑顔を見せた。

 少し腰を屈めて私と視線を合わせてくれている。

 今まで感じていたクールなイメージとはうってかわって、包容力のある優しい笑顔だ。

 そんな笑顔で見つめられて、私の胸が高鳴る。

 直視していられずに思わず顔を背けてしまった。

 前言撤回だ。

 ウォルターさんの近くにいるときの方が、落ち着けないかもしれない。

 エドウィンさんの笑顔に負けず劣らずの、いやそれ以上の破壊力を秘めている気がした。

「よし、じゃあ剣術の基礎を教えよう。まずは構えからだよ」

 エドウィンさんの声が聞こえた。

 いよいよ剣術の訓練の始まりだ。


「レイナちゃん、もう少し腰を落として。それと肘が上がりすぎてるよ」

「こうですか?」

「うーん、雰囲気はそれっぽくなってるけど、全体的にぎこちないね。変なところに力が入ってるんじゃないかな?」

 エドウィンさんが私の構え方を見て、いろいろとアドバイスをしてくれている。

 けれど剣はやはり私にとっては重く、どうしてもどこか不自然な構えになってしまうのだ。

 変なところに力が入るのも仕方ないと思う。

 エドウィンさんやウォルターさんは片手で剣を振り回していたけれど、どうやったらあんなに軽々と剣を扱えるのだろうか?

 ユーリも結構苦労しているようで、ウォルターさんに腕を支えられるようにして構えを教えてもらっていた。

 二人の距離はかなり近い。

 ユーリもなんだかウォルターさんばかり気になっているようだ。

 構えがうまくいかないのはそのせいじゃないかな?

 そしてウェインくんはと言うと……。

「君はかなり筋がいいな。もしかして誰かに教わったことがあるのかい?」

 エリック先生からべた褒めされていた。

 いきなり剣を渡されたにも拘わらず、ウェインくんは扱いに慣れているかのようにすっと構えをとって見せたのだ。

「はい。父が昔剣術を嗜んでいたそうで、基礎だけは少し教わっているんです」

 そう言ってウェインくんが素振りをして見せる。

 流れるような動作だ。

「へぇ、確かにきれいな動きだね」

 エドウィンさんも感心して見ていた。

 なるほど、だからウェインくんはあんなに剣術に興味を持ったのか。

 少し納得できた。


 その日私とユーリは、結局構えを教わっただけで終わってしまった。

 教える側の興味がみんなウェインくんにいってしまったため、あまり指導を受けられなかったのだ。

 一方のウェインくんは剣術の訓練を存分に楽しんだようだった。

 エドウィンさんやウォルターさんに褒められて満足そうな表情を見せていた。

「あの、また明日も来ていいですか?」

 帰り際にウェインくんが私たちに問う。

 ウェインくんにとってはとても楽しい一日だったのだろう。

「私は別にいいけど、ここの先生たちの都合もあるし……」

 私は少し頭を悩ませる。

 私も今日は不完全燃焼なのだ。

 もう少ししっかりと剣術を教わってみたいが、どちらかと言うと教える側の都合の方が重要だろう。

「俺は別に構わないよ。また明日もおいでよ」

 私の声を聞いたエドウィンさんが笑顔でうなずく。

「あぁ、俺も今日は楽しかったし、迷惑にはならないよ」

 ウォルターさんも反対しなかった。

「じゃあ決まりだね! 明日もよろしくお願いします!」

 ユーリが嬉しそうにエドウィンさんとウォルターさんに頭を下げる。

 もしかしてユーリは二人が目当てなのではないだろうか?

 ふとそんな気がした。

「では今日はそろそろお暇しましょうか。エリック先生、エドウィン様、ウォルター様も本日はありがとうございました」

 すっかり存在を忘れていたが、今日はケイシーさんが私たちの引率としてついてきてくれていたのだ。

 私もケイシーさんと一緒に頭を下げた。

「うむ、ではまた明日会おう」

 エリック先生に魔法学校の出口まで見送られ、私たちは宿へと戻った。

 その道中も、ユーリとウェインくんは終始上機嫌だった。

 よっぽど楽しかったのだろう。

 やっぱり私たちだけで旅行を続ける選択をして正解だったかな?

 私はそう感じた。

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