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第三十四話 崩れゆく関係

「ねぇレイナ、少し話があるのだけど……」

 土の月の休暇になる直前、アレクシアに呼び出された。

 ユーリを誘わないということは、やはり彼女についての話なのだろう。

 私は了承してアレクシアの部屋に向かった。

 部屋のドアを閉め、アレクシアが切り出す。

「レイナ、覚えてる? 土の月の休暇に旅行に行く話」

「あ、そういえば……。ごめんすっかり忘れてた……」

 完全に失念していた私は少しばつが悪くなり頭をかく。

 授業が始まってすぐにユーリの様子がおかしくなり、その事ばっかり考えていたせいで旅行のことなど頭からすっぽりと抜け落ちていたのだ。

 その様子を見たアレクシアが肩をすくめる。

「まぁ仕方ないわね。それどころじゃなかったもの。私だって最近になって思い出したくらいよ」

 どうやらアレクシアも同じ状況だったようだ。

 オーウェンさんから、行き先が決まった、という連絡を受けてやっと思い出したらしい。

「問題はユーリをどうするかよね。連れていくべきかしら? むしろついてくるのかしら?」

 アレクシアの話はこの事だったようだ。

 私もうーん、と頭を悩ませる。

 正直今のユーリを連れていくのは気が引ける。

 どう考えても今のユーリは普通ではない。

 けれどユーリは普通であるかのように振る舞っているからややこしいのだ。

 周囲から見ると、相変わらず私たちは仲の良い親友に見えるらしい。

 学校ではユーリはいつも笑顔で過ごしているのだからそれも当然か。

 しかし当事者達にとってはそうではないのだ。

 ユーリが私たちに何か隠し事をしているのは間違いない。

 そして私たちはしつこくそれを追求し、無理矢理聞き出そうとしている。

 普通なら機嫌を損ねてもおかしくないはずだ。

 にも拘らず、ユーリは気を悪くしたような素振りを全く見せたい。

 ごまかしはするけれど、それだけだ。

 いつも笑顔を絶やさないのだ。

 ここまで来ると不気味でしょうがない。

 そんな状態のユーリを連れていくか、否か。

 仮に一緒に旅行に行ったとしても、彼女があのままでは私たちが楽しめない気がする。

 そもそもアレクシアの言う通り、ついてくるかどうかも怪しい。

「一応本人に聞いてみる?」

 私は苦し紛れに案を出す。

 あまりにも苦しい案だ。

 ユーリが一緒についてくる、と言っても困ってしまうし、ついてこない、と言っても困ってしまう。

 当然この案はアレクシアに却下された。

「まぁ、でも本人の意思は確認したいわよね」

 アレクシアは腕を組んで考えている。

「最初に旅行の話をしたときは、ユーリも行きたそうにしてたよね?」

 私はその日のことを思い出す。

「そうね、お父様にも三人行く予定で頼んであるわ」

 アレクシアもうなずく。

「だったらとりあえず誘ってみた方が良いかな。断られたらその時はその時で」

 妥協案ではあったが、この案はアレクシアに採用された。

 私たちは旅行の話をするべく、ユーリのもとへ向かった。


「旅行の場所決まったの? そういえばそんな話してたねー」

 アレクシアが旅行の行き先が決まったことを告げたときのユーリの反応もそんな感じだった。

 やはり旅行の話自体忘れていたようだ。

「そう、隣の大都市のウォーレンハイトよ。ユーリも行くのよね?」

 アレクシアがユーリの表情をうかがいながら問う。

 今の反応では行きたいのか行きたくないのか判断できない。

 私たちはユーリの返答を待った。

「うーん……」

 ユーリは少し悩んだような素振りを見せる。

 この悩みにはどんな意味があるのだろう?

 そんなことさえも気になってしまう。

「休暇の間もウェインくんと出掛ける約束をしてたんだけど……」

 ユーリは困ったように切り出した。

「出掛けるってどこに?」

 すかさず私は聞いてみたけれど、

「まぁいろいろとね」

 とあっさり流されてしまった。

 やはり教えてはくれないようだ。

 恐らく神殿であるとは思うのだけれど。

「じゃあユーリは旅行には来ないの? ユーリも頭数に入れて準備してあるわよ?」

 アレクシアの問いに、ユーリはさらに頭を悩ませているようだ。

「旅行には行きたいんだけど、ウェインくんとの約束を破るのも嫌だし……」

 その様子におかしなところは見られない。

 純粋に旅行とウェインくんとの約束とを天秤にかけているようだ。

「ねぇ、ウェインくんも一緒に連れていってあげられないかな? 私がいないとウェインくん、寮にひとりぼっちになっちゃう……」

 ユーリが困り顔でアレクシアに尋ねる。

 その言葉に私は少し引っ掛かりを覚えた。

「ひとりぼっちって、ウェインくんまだ友達作れてないの?」

 学校が始まってもう二ヶ月以上経つのだ。

 流石にここまで友達が作れていないのには、何か理由がないとおかしい。

 それこそ去年のアレクシアのような特殊な理由だ。

 しかしユーリはうなずき、これを肯定する。

「うん、本人も他に友達がいないって言ってた」

 そうなるとやはりウェインくんにも何か裏事情がありそうだ。

 ユーリがおかしくなったことにも関係しているかもしれない。

 アレクシアも頭を悩ませている。

「もう一人くらい連れていけるとは思うけれど、お父様にも確認してみないと……」

「お願い! 私もウェインくん誘ってみるから!」

 ユーリが両手を合わせてアレクシアに懇願する。

 そうまで言われてしまってはアレクシアも断りづらいだろう。

「わかったわ。少し無理をしてでも連れていってもらえるよう、頼んでみるわ」

 アレクシアの返答にユーリが顔をほころばせる。

「ありがとう! きっとウェインくんも喜ぶよ。じゃあ私ウェインくんに声かけてくるね!」

 そう言ってユーリはすぐに一年生寮に向かおうとした。

 しかし私はユーリを呼び止める。

「ねぇ、ユーリ」

 ユーリが足を止め、こちらを振り返る。

「もしウェインくんが行きたくないって言ったら、ユーリはどうするの?」

 これは聞くべきことではなかったのかもしれない。

 けれど聞かずにはいられなかった。

 ユーリの気持ちを知りたかったのだ。

 私たちとウェインくん、どっちを優先するのか。

 卑怯な質問だとは自分でも思う。

 でもやっぱりユーリには、親友として私たちを選んでほしいと思ってしまった。

 去年一年間で築いた関係が崩れかかっているような気がして、不安になっていたからだ。

 ユーリはこちらを向いて笑顔を見せる。

 私たちのよく知るユーリなら、そのまま「二人と一緒に行くよ」と答えるだろう笑顔だ。

 しかし今の彼女は私たちの知らないユーリだ。

 その笑顔の真意は全くわからない。

 そしてユーリが口を開く。

「だったらウェインくんとドラッケンフィールに残るよ」

 その答えを聞いて私の気持ちは一気に沈みこんだ。

 代わりに絶望にも似た感情が込み上げてくる。

 私たちはもう、ダメかもしれない。

 思わずそう感じてしまった。

「そう……、ウェインくんを一人にするのもかわいそうだものね……」

 アレクシアはなんとか言葉を絞り出していたが、その声音には失望が隠しきれていない。

「うん、じゃあ行ってくるね!」

 相変わらずの笑顔でそう言い残すと、ユーリは寮を出ていった。

 残された私たちは途方にくれる。

 私たちは魔法学校に来てからいつも三人一緒だった。

 お互いがお互いを親友だと思っていた。

 ところがその関係が、今まさに崩れようとしている。

 そしてその理由がわからないのだ。

 心の中にもやもやしたものを抱えながら、私たちはユーリの帰りを待った。




「ウェインくんも一緒に行くって!」

 戻ってきたユーリが笑顔でそう報告する。

 その答えに私たちは嬉しさ半分、悲しさ半分だ。

 いやむしろ、悲しさの方が多いかもしれない。

 ウェインくんが行くと言わなければ、ユーリがついてくることはなかったのだ。

「休暇に入って二日目にはライゼンフォート家の馬車が迎えに来るから、それまでに用意しておいてね」

 アレクシアが複雑な表情で告げる。

 旅程についてもある程度説明を受けた。

「わかった、ウェインくんにも伝えてくるね!」

 話を聞き終えたユーリはすぐさまウェインのもとへと向かう。

 ウェインくんに会うのが楽しみで仕方ないようだ。

 私たちにはその姿を見送ることしかできない。

「ねぇ、アレクシア」

 私はアレクシアに声をかける。

「……何?」

 やや間をおいてアレクシアの返答が聞こえた。

「私たち、これからどうしたら良いのかな?」

 それは心からの疑問であったが、アレクシアがその答えを持たないことも知っていた。

 それでも聞かざるを得なかった。

 なんでも良いから返事がほしかったのだ。

「さぁ、私にもわからないわ」

 アレクシアは悲しそうに首を横に振る。

 願わくばまた三人仲良く過ごしたい。

 けれど今の状態ではそれは難しい。

 ユーリは私たちと仲良く接しようとしてくれているけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 今の彼女はユーリではない、何か別の存在だ。

 そんな彼女が怖いのだ。

 これ以上深入りするのすら憚られる。

 しかし放っておく訳にも行かない。

 でもユーリは私たちが踏み込むのを許してはくれない。

 堂々巡りになってしまってもどかしくはあるが、どうしようもない。

 きっとアレクシアも同じ気持ちでいるのだろう。

 心の中のもやもやが消えることのないまま、旅行に出発する日がやって来た。

 やって来てしまった。

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