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第三十一話 ユーリの異変

「おはよう、レイナ」

「おはよう、ユーリ」

 次の日の朝、私たちは笑顔で挨拶を交わす。

 その光景になんらおかしなところはない。

 ユーリが無理をして笑顔を作っているようにも見えない。

 なのにやっぱり何かが違うと感じてしまう。

 しかしそれが何なのかさっぱりわからないのだ。

 そんな違和感をどうしても拭いきれないまま、私たちはいつも通りアレクシアと合流して朝食をとり、授業へと向かった。


「おはよう、みんな!」

 教室に入ったとたん、ユーリがとある生徒の集団に向かって駆け寄っていった。

「あ、ユーリちゃんおはよー」

 その生徒たちも温かくユーリを迎える。

 けれどこの光景には明らかな違和感があった。

 その生徒たちと私たちはこれまでほとんど関わってこなかった。

 ドラッケンフィール出身の子たちばかりで、相変わらずアレクシアを避け気味の集団だったからだ。

 当然ユーリが彼らと話すこともほとんどなかった。

 しかし今のこの光景はどうだ。

 まるでずっと仲の良かった友達と話すように親しげにしている。

 やっぱりユーリはどこかおかしい。

 昨日何かがあったのだ。

 アレクシアも不思議そうにユーリたちを見つめる。

「いつものユーリに戻ったと思っていたけれど、何かが違うわね……」

 アレクシアも違和感に気づいたようだ。

 結局ユーリは授業が始まる直前までその生徒たちと話し込んでいた。

 担当のロメルク先生が生徒たちに早く席につくように促してようやく、ユーリは私たちの隣の席に座った。

「いつの間にあの子達と仲良くなったの?」

 私はユーリに尋ねる。

 もしかしたらこの質問もはぐらかされるかもしれない、と思ったけれど、これにはユーリは答えてくれた。

「昨日ウェインくんと出かけた先でたまたま会ったんだよ。すっかり意気投合しちゃってさ」

 そう語るユーリの顔はとても楽しそうだ。

「まぁ友達が増えることは良いことだけれど、急に仲良くなったみたいで驚いたわ……」

 アレクシアが少し釈然としない様子でうなずく。

 ユーリ自身、いつまで経ってもアレクシアと距離をおこうとする彼らを、あまりよく思っていなかったはずだ。

 本当に昨日一日で何があったのだろう?

「ねぇ、昨日はどこで何してたの?」

 これはなんとかして聞き出さないといけない。

 私はそう感じた。

「別にー。ウェインくんと遊びに行ってただけだよ?」

 ユーリは笑顔でそう答える。

 ちゃんと説明する気はないようだ。

 私は本気で聞いているのに。

「だから、どこで何して遊んでたかって聞いてるの!」

 私の口調も少しきつめになる。

「だから何でもないってばー。レイナ怖いよ?」

 ユーリは相変わらずへらへらしている。

 だんだん腹が立ってきた。

 私はそんなに気が長い方ではない。

「だから……!」

「君たち、授業が始まるぞ。静かにしなさい」

 しかしそれ以上はロメルク先生に遮られてしまった。

 私はしぶしぶ溜飲を下げる。

 授業を邪魔するわけにはいかない。

 私はけっこう怒っているというのに、ユーリは特に何も感じていないようだ。

 アレクシアが私たちを不安そうに見比べる。

 なんでこんなことになってるんだろう?

 私とユーリは親友なのに……。

 私は自分自身にも腹が立ってきた。




 アシュテリアの北に存在する大国、ドラギュリア帝国。

 その実態は皇帝ライリー・ウル・ドラギュリアを頂点とした巨大な軍事国家だ。

 皇帝の名は襲名制であり、皇帝が代替りする際にその名を受け継ぐことになっている。

 この国家の成り立ちは、丁度アシュテリアに『神託の騎士』が登場した頃にさかのぼる。

『神託の騎士』の登場により次々と領土を拡大していく当時のアシュテリアに対して、危機感を覚えた国々は多かった。

 そんな状況下で、とある国がアシュテリアに対抗するために複数の国で手を組むことを提案したのだ。

 連合国の走りと言えるかもしれない。

 手を組んだ国々はそれぞれの国の兵士たちを集め、『神託の騎士』に対抗できるだけの軍隊を組織した。

 そしてこの軍隊の運用を任されたのが、それらの国の中でアシュテリアに最も近かったドラギュリアであった。

 最初のうちはドラギュリアも、各国の代表としてアシュテリアと戦っていた。

 しかし途中から国民たちは疑問を感じるようになった。

 軍隊の運用によって最も負担がかかるのはドラギュリアだ。

 にも拘らず、他の国々からは大して援助を受けていなかったのだ。

 それでも戦うのをやめたら真っ先にアシュテリアに占領されることになるのもドラギュリアであるため、戦をやめるわけにはいかなかった。

 そんななか、この状況を打破するための策を思い付いた人物がいた。

 その策は決して褒められるものではなかっただろうが、当時のドラギュリア国民にとっては他の手段がなかったのだろう。

 彼らはドラギュリア以外から集めた軍を、アシュテリアに特攻させたのだ。

 無論彼らに作戦の内容など伝えずに、だ。

 兵士たちが気づいたときにはもう遅く、周囲を『神託の騎士』を始めとするアシュテリア軍に囲まれている状況だった。

 必死の抵抗を見せた彼らであったが、結果はほぼ全滅という結果になったそうだ。

 しかしこれによって『神託の騎士』も多くの死者を出し、しばらくアシュテリアの国力が弱まることとなった。

 その間にドラギュリアは戦力を失った周囲の国々を占領。

 一気に領土を拡大した。

 さらに国名を『ドラギュリア帝国』と改め、初代ライリー・ウル・ドラギュリアが皇帝に即位した。

 そして次なるアシュテリアの侵攻に備えるため、各地から兵を集め、『帝国兵団』を組織したのだ。

 最初は小規模な軍勢であった帝国兵団であったが、着々とその数を増やしていった。

 さらにアシュテリアの『神託の騎士』も、世界全体の魔力の減少と共にその質を落としていき、かつてほど圧倒的な存在ではなくなっていった。

 こうしてドラギュリアは何者も寄せ付けぬ強固な軍事国家となったのだ。

 これによりアシュテリアとドラギュリアは冷戦状態に突入したわけであるが、十三年前のミスリームの侵攻とそれに伴うアシュテリアの内乱の際にドラギュリアも動くこととなった。

 それだけ当時のアシュテリアは隙だらけであったのだ。

 しかしこの時ドラギュリアはあっさりと退却していった。

 先に攻撃を仕掛けていたミスリームが壊滅的な被害を受けたという報せに恐れをなしたという見方もあるが、ドラギュリアでもアシュテリアと同じように内乱が起きた、という意見が強い。

 その意見の根底には、ドラギュリアには巨大な地下組織が根付いており、虎視眈々と帝政の瓦解を狙っている、という噂がある。

 その噂が真実であるかどうかは不明であるが、現アシュテリア共和国代表ライオネルとその地下組織の代表が手を組んでいる、などという話もあるくらいだ。

 あながち単なる噂ではないのかもしれない。

 とはいえドラギュリアの帝国兵団はミスリームの聖騎士団とは違い、大きな損害を受けたわけではない。

 ドラギュリアもまた、いつアシュテリアに攻撃を仕掛けてきてもおかしくないのだ。




 ロメルク先生の授業の内容は、北の帝国ドラギュリアに関する話だった。

 アシュテリアの周囲の国について知れば知るほど、この国の現状が心配になってくる。

 四方八方敵だらけではないか。

 ヘイグ村はどの国とも面していないから今まで特に気にすることなどなかったが、国境付近の地域は心配で仕方ないのではないだろうか。

 そしてこの国には現在、頼みの綱であった『神託の騎士』が存在しないのだ。

 次に攻撃を受けようものなら敗戦必至だ。

 入学式の挨拶で、ヴィルヘルム先生が再三再四魔術師の不足について嘆くのも良くわかった気がした。

 しかも国内にも問題が山積みだ。

 相変わらず旧王国派の反乱は続いているようだし、戦で被害を受けた人々への補償もしなければならない。

 どうしたらこの国に、いやこの世界に平和をもたらすことができるのだろう?

 途中から私はそんなことを考えていた。

 そのせいで結局その授業後に、ユーリに話を聞きそびれてしまった。


 それからもユーリはドラッケンフィール出身の子達と仲良く話すことが増えていった。

 仲の良い友達が増えるのは良いことのはずなのに、どうしてもその光景に違和感を覚えてしまう。

 アレクシアもなんとも言えない表情を浮かべてユーリを見守っている。

 嫉妬しているだけ、と言われればそれまでかもしれないが、今までずっと仲良くしてきた私たちがないがしろにされている気がしてあまりいい気分ではない。

 そしてやっぱりウェインくんと出かけた先は教えてくれなかった。

 本気で問い詰めてもあっけらかんとした顔で誤魔化されるのだ。

 全く話にならなかった。

 そして休日になると必ずウェインくんがユーリを誘いにやって来るようになった。

 最初のうちは私たちも二人についていこうとしていたけれど、ユーリがどうしても嫌がるので諦めた。

 どこに行っているのか気にはなるが無理強いするのも気が引けるし、かといって尾行するのもあまり良い気はしない。

 だんだんユーリとの距離が遠くなっていくように感じた。

 そんな状態であったけれど、夜になるとユーリと部屋に二人きりになるのだ。

 なんだか気まずかった。

 けれどユーリは全く気にしていないようで、私たちに接する態度は普段と変わらなかった。

 だからこそ余計に奇妙に感じてしまう。

 隣にいるのがユーリでないような気さえしてきた。

 そんな日々を過ごすうちに木の月も終わり、土の月になった。

 二年生になって最初の試験の日だ。

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