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第二話 魔法学校への旅立ち

本日二話投稿してます

こちら二話目です、ご注意ください

 私が魔法学校に向かう荷造りをしている間にヘイグ村の人が次々にお祝いに駆けつけてくれた。

 魔法学校で優秀な成績をとるとそのまま大都市で魔術関係の仕事につくことができ、そうなった場合、出身地にもそれなりの額の補助金がもらえるそうだ。

 だから村の子供が魔法学校に行くことが決まると、村総出で送り出すのが恒例行事だ。

 四年前に魔法学校に入学した二人はまだ在学中だけど、その前に入学した人はそのままドラッケンフィールで魔術研究の助手として雇われ、そのときにはヘイグ村はお祭り騒ぎだったらしい。

 中には中央に呼ばれるような人材もいて、そういった人の出身地には多額の補助金が送られ一気に発展することもあるそうだ。

 さすがにヘイグ村ではそんな人は今までいなかったらしいけど。


 鍛冶屋のジルムントさんは四十年くらい前に魔法学校を卒業したけど成績は平凡でそのままヘイグ村に戻ってきた人だ。

 浅黒く日焼けしていて筋骨隆々とした体格のおじさんだ。

 今ヘイグ村にいる魔法学校卒業生はジルムントさんただ一人で、私へのお祝いにと小さなナイフを作ってくれたけど、それを渡すときに、

「あの時は村のみんなの期待に応えられなくてとても落ち込んで帰ってきたよ。だけどみんな温かく迎えてくれて救われたな」

 と言っていた。

 そんなジルムントさんだけど火の魔法が得意だったらしく、火をよく使う鍛冶屋としては大活躍している。

 燃料がほぼ必要ないためかなりコストを押さえられるそうだ。

 また、辺境のヘイグ村では森からの魔物の襲撃も時々ある。

 ゴブリンやオークといった単体ではあまり脅威にならないが、群れでこられると厄介な魔物たちだ。

 そういったときに魔法の援護があるのと無いのでは大違いなので、若い頃は村の警備も兼ねていたらしい。

「さすがに最近は前線には出れないけどな。でも、治療魔法も少しだけ使えるからまだまだみんなの役に立てるよ」

 と得意気に笑っていた。

「だから大都市で仕事につけなくても帰ってきてみんなの役に立てるんだ。魔法学校で勉強したことは無駄にはならないからレイナちゃんも頑張っておいで」

 と激励を受けた。

「はい、頑張ります! このナイフも大切にしますね!」

 と頷くとジルムントさんは満足そうに頭をなでてくれた。


 そういえばお母さんの成績はどうだったんだろう?

 授業はあんまり真面目に受けていなかったって言うし、今はこんな辺境の村にいるくらいだから成績は良くなかったんだろうな。

 そういえばお母さんが魔法を使っているところ見たこと無いな。

 今回私が魔法学校に行けることがわかるまで、お母さんも魔法学校に通っていたことを知らなかったくらいだ。

 他の村の人も知らなかったらしく、私のお祝いがてらお母さんを質問攻めにしている人が目につく。

 お母さんはそれとなく流しているけど、あまり昔のことを話したくなさそうだ。

 あんまり魔法学校に良い思い出が無いのかな?

 ちょっと不安になってきた。

 キルシアスとドラッケンフィールでは学校も違うし平気かな?

 ジルムントさんも、

「魔法学校は今まで知らないことを色々勉強できてためになったし、ドラッケンフィールの街を見て回るのも楽しかったよ。それに今は魔法学校にハインスとベルーナがいるから困ったら相談したら良いよ」

 と言っていたし大丈夫かな?

 ハインスとベルーナというのは四年前に魔法学校に入学した二人だ。

 今は休暇でヘイグ村に帰ってきていて、一緒に魔法学校行きの馬車に乗ることになっている。

 二人が帰ってきてからまだ会えていないけれど今度二人にも聞いてみよう。




「レイナちゃん、魔法学校に入るんだって? おめでとう!」

「ありがとうベルーナお姉ちゃん! ……じゃなくてベルーナ!」

「あはは、今までみたいにお姉ちゃんで良いよー」

「レイナちゃん、俺のこともハインスお兄ちゃんて呼んで良いんだよ?」

「ダメよ、この子は私のレイナちゃんなんだから」

 ハインスとベルーナがお祝いに来てくれた。

 ベルーナは家が近くて小さかった頃の私を妹みたいに可愛がってくれたお姉ちゃんだ。

 長くてまっすぐな茶色の髪をいつも後ろでまとめている。

 面倒見がよくて家事が得意で、お母さんが一人で私の面倒を見れていたのは、ベルーナが私の遊び相手になってくれていたからかもしれない。

 だから私はベルーナが大好きだ。

 お母さんほどではないけどね。

 ベルーナが魔法学校に行くことになったときは、

「お姉ちゃん、行かないで!」

 と泣きながらしがみついてベルーナや周りの人を困らせたりした。

 こうして一緒の学校に通えることになったのはとても嬉しい。


 一方のハインスは少し長めの黒髪と細い目が特徴だ、

 ベルーナとは違い、家が少し離れておりこれまではあまり話す機会はなかった。

 さすがにそれではハインスをお兄ちゃんとは呼びづらい。

 その旨をハインスに伝えると、

「俺もこんなかわいい妹が欲しかったんだけどな……」

 と落ち込んでいた。

 ベルーナは、

「ふふん」

 と得意気だった。


「ねぇ、ドラッケンフィールの魔法学校ってどんなところ? 楽しい?」

 と気になっていたことを二人に聞くと、

「授業は難しいけど知らなかったことを覚えるのは楽しいし、やっぱり魔法がだんだん使えるようになっていくのはすごくわくわくするよ。私は水の魔法が得意なの。この前も先生に誉められちゃった。」

「教わった魔法を使いこなせるようになるのは楽しいし達成感があるよな。でも俺は水の魔法は全然だめだ。火か木ならそこそこ適性があるみたいなんだけど……。どちらかと言えば木か」

 と語ってくれた。

 魔法の属性にも月と同じように闇、火、水、木、土、命の属性があるらしい。

 それぞれの属性がどんなものを司っているかは、

「入学してからのお楽しみ」

 と言われてしまったけれど。

 人によって得手不得手があって色々な属性を自由に使える人はまずいないみたいだ。

 そんな人は中央に呼ばれる人くらいだそうだ。

 私はどの属性に適性があるんだろう?

 お母さんはどれが得意なんだろうな。


 私は勉強以外のことも聞いてみることにした。

 お母さんのもとを離れて暮らしていけるかどうか、すごく心配だ。

「そうだなぁ、生徒は学年ごとまとめて寮に入るんだけど、寮監はしっかり面倒を見てくれる人だし私生活で不安はないかな」

 ハインスはそういってくれたけど学年で別れているならベルーナとはあんまり一緒にいられないな。

 少しがっかりした。

「そうだ、七日に一度授業が休みになるからその時は一緒にドラッケンフィールの街を見て回らない?」

 私の気持ちを察したのかベルーナが微笑みながら提案してくれた。

「やったー! ありがとう、楽しみだなー」

 魔法学校での楽しみが一つ増えた。

 私が全身で喜びを表すとハインスも一緒に行きたいと言い出した。

 しかしこれはベルーナがあっさり却下した。

「ハインスは学校に彼女がいるんだから私たちと一緒にいるとこ見られたら困るんじゃないの?」

 なんとハインスは学校で彼女を作っていたのだ!

「お前、なんで知って……」

 とハインスはあたふたしていたが、ベルーナはそ知らぬ顔で、

「二人だけでドラッケンフィールの街を堪能しましょうねー、()()()()()

 と、やたら二人だけでという部分を強調していた。

 なんでこんなにハインスに厳しいんだろう?と思っていたけど、ベルーナは後でこっそり、

「ハインスは女の子の前だと良いとこ見せようと張り切りすぎて鬱陶しいの。私実はハインスの彼女と仲が良いんだけど、その子にも相談されたことがあるの」

 と教えてくれた。

 なんだそれ、迷惑だな。

 それだと私やベルーナと一緒にいるところを見られるまでもなく、彼女に愛想をつかされるんじゃないかな?

 ちょっとハインスが心配になってきた。

 もしハインスがふられたら優しくしてあげよう。




 そしてとうとう魔法学校からの迎えの馬車が村に到着した。

 ハインスとベルーナから馬車が到着するだいたいの日にちは教えてもらっていたけど、学校の都合や天候、道の状況でけっこう前後するらしく、私は数日前からそわそわしていた。

 結局馬車はハインスとベルーナから教えてもらった通りの日にやって来た。

 ヘイグ村はドラッケンフィールから一番遠い部類に入るから、ドラッケンフィールに向かうまでにいくつかの村に寄って生徒を乗せていくようだ。

 馬車には御者の他に中年男性が一人乗っており、馬車から降りたその男性にハインスとベルーナが挨拶していた。

 魔法学校の教師で、送迎の馬車には護衛もかねて最低一人は教師が乗ることが決まっているようだ。

 名前はグリンウィルというらしい。


 私たちのお見送りには村の人がほとんど総出で駆けつけてくれた。

 お母さんは私が馬車に乗る直前まで一緒についてきてくれた。

 お母さんに魔法学校のことを聞こうとすると時々悲しそうな顔をするので、私が魔法学校に行くのをあんまり喜んでくれてないのかな? と心配していたけど、そんなことはなかったみたいだ。

 魔法学校に行くための準備も色々アドバイスしてくれたし、魔法学校で勉強することがどれだけ自分のためになるか、教わったことをどうしたら活かせるかを丁寧に伝えてくれた。

「もし最初に良い成績を残せても慢心しちゃダメよ? あっという間に抜かされちゃうから」

 と釘を刺されもしたけれど。

 もしかしたらそれがお母さんの言っていた、

「私みたいになっちゃダメ」

 ということなのだろうか。

 お母さんは最初は成績がよくて慢心しちゃったのかな?

 だからあんなに悲しそうな顔をして学校のことを話すのかな?

 そう考えると少し納得できた。

 慢心はダメ、絶対。

 私はそう心に刻んだ。


「最後にこれ、私の作ったお守り。きっとレイナを守ってくれるから、肌身離さず着けていて」

 馬車に乗る直前にお母さんからペンダントをもらった。

 私やお母さんの瞳のように金色に輝く宝石がついたシンプルなペンダントだ。

 よく見ると金色の宝石には複雑な模様が刻まれていて、その模様は次々に色を変えているようにも見えた。

 とても綺麗でお母さんが私のために頑張って作ってくれたのがよくわかった。

 お母さんも魔法学校の卒業生だから、きっとこのお守りにも本当に私のことを守ってくれるような魔法がかかってるんだろうな。

 そう思うととても嬉しくなった。

 魔法学校に行く不安もいくらか薄れた気がした。

 だから、

「じゃあ、お母さんがつけて!」

 とくるりと後ろを向いて、つけてくれるようにせがんだ。

 お母さんは、

「はいはい」

 と笑いながらつけてくれた。

「ありがとう! 絶対大切にするね! 私、魔法学校でも頑張るから!」

 私はペンダントを服の中にしまい、お母さんに改めて決意表明をした。

「行ってらっしゃい、頑張ってね。ほら、他の人が待ってるから」

 そう促され私はハインスやベルーナが待つ馬車に乗り込んだ。

 最後にグリンウィルさんがお見送りに来てくれた村の人に挨拶をして馬車に乗り込むと、馬車がゆっくり動き出した。

 私は馬車の窓から身を乗り出してお母さんに手を振った。

「じゃあねお母さん、行ってきまーす!」

 お母さんは微笑みながら手を振り返してくれた。

 危ないでしょ、とベルーナに軽く叱られ席に座らされたが、私は満足だった。

 お母さんに約束したんだ。

 私は魔法学校でいっぱい勉強してお母さんやヘイグ村のみんなのために頑張るのだ。

 もちろん不安もあるけどきっと大丈夫。

 魔法学校にはハインスやベルーナもいるし、何よりお母さんにもらったお守りがある。

 私は服の上からペンダントの宝石を握りしめた。

 自分の体温で温まったせいかほんのり熱を感じた。


 こうして私は魔法学校に向かうためにヘイグ村を旅立った。

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