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第十二話 襲撃

 店を出たあと私たちは、お土産屋さんがいくつも立ち並ぶ通りで買い物をした。

 ドラッケンフィールの特産品の一つに、旧ドラッケンフィール国がアシュテリアに占領される前から国の伝統工芸として作られていた装飾品がある。

 それは今でもほとんど形を変えずに伝わっており、アクセサリーとして人気が高いらしい。

 遠い村や他の大都市からやって来た観光客が記念に買っていくことが多いそうだ。

 お母さんにプレゼントしてもいいかもしれないな。

 出発するときもらったペンダントのお返しだ。

 私はそう思ったけれど、このアクセサリーは高価な宝石や中には魔石を使ったものもあってなかなか値が張り、これを買ってしまうと私の今月のお小遣いはすっからかんだ。

 服もけっこう買ってしまったし、今月は我慢しよう。

 今回は見るだけにしてヘイグ村に帰る前に買うことにした。

 ベルーナは綺麗な装飾のついた髪留めを買っていた。

「気に入ったデザインだったから、買う予定はなかったんだけどつい買っちゃった」

 と、少し照れたように笑っていた。

 元々髪を束ねるのに使っていた髪留めを外して付け替え、満足そうな笑顔で買い物を続けている。

 ユーリは可愛い箱に入ったクッキーの詰め合わせを買っていた。

 学校に帰ってからおやつに食べるらしい。

 嬉しそうにクッキーの入った箱を抱えていた。

 私もユーリの真似をしてお菓子を買ってみることにした。

 私が気になったのは「チョコレート」というお菓子だ。

 これも最近作られるようになったばかりのお菓子らしく、他の買い物客が次々に手に取っていた。

 かなりの人気商品らしい。

 クッキーに比べると少し値が張ったけれど、私は好奇心に負けて小さな箱に入ったチョコレートを買った。

 アレクシアもあれこれ買っていた。

 あんなに買ってどうやって持って帰るんだろう? と気になったけど、店員さんに「ライゼンフォート家に届けておいて」と頼むことで解決していた。

 そんな手があるとは……、お嬢様ってすごい。


「そろそろケーキ食べに行こっか!」

 買い物を十分に楽しんだところでベルーナが提案した。

 私たちも少し疲れを感じてきたところだったのでそれに賛成する。

 向かうのはアレクシアがおすすめしてくれたお店だ。

 しかし歩き始めてすぐに、意外な人物と遭遇することになった。

 ダンケルさんだ。

「こんにちは、ダンケルさん。こんなところで奇遇ですね」

 ベルーナが声をかける。

「あぁ、ちょっと気分転換にね。今日はみんなで買い物かい?」

 そういって少し疲れた表情で私たちに微笑みかけるダンケルさんの視線は、アレクシアのところで止まった。

「さっきまで色々お買い物してたんです。今からはケーキを食べに行こうかと。アレクシアちゃんのおすすめのお店なんですって」

 ダンケルさんはベルーナがアレクシアを「アレクシアちゃん」と呼んだことに少し驚いたようだったが、すぐに表情を戻すと、

「ライゼンフォート家のお嬢様のおすすめのお店か。さぞかし美味しいんだろうね」

 とうなずいた。

 そしてそのまま、「邪魔しちゃ悪いし俺はこれで」と立ち去ろうとするダンケルさんを私は呼び止めた。

「もし良かったらダンケルさんも一緒に来ませんか? なんだか疲れてるみたいですし……。良いよねアレクシア?」

 ダンケルさんが足を止め振り返る。

 もしかして迷惑だったかな?

 と、私は心配したけれど、ダンケルさんは少し表情を明るくして、

「良いのかい?」

 とアレクシアに問う。

「もちろんよ。お菓子を食べるのは大勢の方が楽しいわ!」

 アレクシアは相変わらずつんとした態度をとっているけれど、その口許が少し緩んでいるのはバレバレだった。

「ありがとう。実は俺も好きなんだよね、ケーキ」

 ダンケルさんは少し照れ臭そうに微笑んだ。

「じゃあみんな、こっちよ。ついてきて!」

 その答えを受けてアレクシアは意気揚々と歩き出す。

 ダンケルさんを一行に加えた私たちは、アレクシアのおすすめのお店へと向かった。


 到着したお店にはまたしても人がたくさんいて、スパゲッティーのお店の時のようなことになるのではないかと心配した私だったけれど、お客さんのほとんどはケーキを買ってそのまま帰る人だったようで、私たちはすぐにお店に入ることができた。

「うわぁ全部美味しそう。迷っちゃうね」

「ねー。あ、チョコレートを使ったケーキもあるよ」

 ケーキはガラスのケースの中に並べられていて、実際に商品を見て選ぶことができた。

 注文するとお店の人が裏から取り出してくれるようだ。

 私が一番気になったのはやっぱりチョコレートを使ったケーキだったけれど、私はすでにチョコレートを買っている。

 ここでは違う味にするべきではないだろうか。

 迷ったあげく私は苺の乗った白いケーキを選んだ。

『ショートケーキ』と言うらしい。

 ユーリとアレクシアはチョコレートケーキ、ベルーナは『モンブラン』という栗を使ったクリームのケーキ、ダンケルさんはチーズを使ったケーキを選んでいた。

 ベルーナに、

「飲み物も一緒に頼むといいよ」

 と言われ、ダンケルさん以外は紅茶を頼んだ。

 ダンケルさんだけはコーヒーという飲み物を頼んでいた。

 出てきたコーヒーは真っ黒な液体だった。

 なんだか香ばしい匂いがただよっていたけれど、あまり美味しそうには見えなかった。

 少し興味をもった私だったけれど、アレクシアは「私はコーヒーはちょっと……」と言っていたし、ベルーナにも「コーヒーは大人の味だからレイナちゃんにはまだ早いかな」と言われた。

 コーヒーはそのまま飲むとすごく苦いらしい。

 ダンケルさんはそんなものを飲んで平気なのかな?


 ケーキと飲み物を受け取った私たちは席についた。

「美味しそう、いただきまーす!」

 私はフォークを使ってケーキを一欠片口に運ぶ。

「うーん、甘い。美味しい~」

 ふわふわの生地にはたっぷりと甘いクリームがのっていて、苺の甘酸っぱさとよく合っていた。

 みんなそれぞれお茶を飲みながら少しずつケーキを食べ進めている。

 チョコレートケーキがどうしても気になった私はアレクシアの方にちらちら視線を向けてみたけれど、今度ばかりはひと口たりとも渡すものか、とものすごい目で睨まれたので味見するのは諦めた。

「それにしてもライゼンフォート家のお嬢様と一緒にお茶することになるとは思わなかったな。リゼンコットに帰ることになってもみんなに自慢できるよ」

 途中でダンケルさんが疲れたように笑った。

 私はその言葉に少し驚く。

 その言い方は休暇で故郷に帰る、という意味ではなく、学校卒業後はリゼンコット村に帰る、という意味に聞こえたからだ。

「ダンケルさん、ドラッケンフィールで仕事を見つけるんじゃなかったんですか?」

 私と同じように感じたのだろう、ベルーナが聞いた。

「それなんだけどね……」

 ダンケルさんが苦々しい表情で話し出す。

「今の成績だとドラッケンフィールで仕事につくのは難しいって言われちゃってさ」

 曰く、六年生になると学校が始まってすぐに卒業後の進路について先生と話し合うことになるそうだ。

 命の属性の適正が高いダンケルさんだけど、今の六年生には他にも命の属性の適正が高い生徒が多くてドラッケンフィールではなかなか仕事が見つからず、かといって中央や他の大都市に行けるほど成績が良いわけでもなく、村に帰るのが一番よいのではないか、と先生に言われたらしい。

 ダンケルさんが疲れて見えるのはそれが原因だったようだ。

 寮に籠っていても気分が沈むだけだから気分転換に外出することにした、と言っていた。

「まぁどうしてもドラッケンフィールで仕事に就きたいって訳でもなかったし、リゼンコットでみんなの役に立てるように頑張るさ」

 六年生の主な授業内容は新しく魔法を習うことではなく、自分で魔術について研究することであるらしく、その研究の成果次第ではまだ巻き返しの余地があるものの、ダンケルさんは半ば諦めてしまっているようだった。

 その話を聞いたユーリも難しい顔をしている。

 厳しい現実を見せつけられることになったようだ。

「大変なんですねぇ」

 とベルーナが他人事ようにうなずいているけれど、ベルーナも来年は同じ立場になるはずだ。

 私がその事を指摘すると、

「私は最初からドラッケンフィールで仕事につけるなんて思ってないよ」

 と笑い飛ばされてしまった。

 ベルーナはある意味前向きだ。


「そう言えばレイナちゃん、私に相談があったんだよね?」

 みんながケーキを食べ終わる頃ベルーナが思い出したように私に声をかけた。

 私自身ダンケルさんの話を聞いているうちにすっかり忘れていた。

「うん、ちょっと最近悩んでることがあって……」

「そうだったのか。ごめんね、俺ばっかり話を聞いてもらっちゃって」

 ダンケルさんが申し訳なさそうに謝る。

 気にしないでください、と私は首を振って続ける。

「単刀直入に言うと、私たち他に友達ができないの……。みんなから避けられちゃって」

 ベルーナとダンケルさんは、あー、とうなずいてちらりとアレクシアを見る。

 二人ともすぐに理由に合点がいったようだ。

 二人に見られたアレクシアは身を縮めてしまった。

 アレクシアが悪いわけではないのに……。

「難しいところだね。ドラッケンフィールではライゼンフォートの名前は有名だから。アレクシア……ちゃん? については特に」

 少し躊躇いがちに「アレクシアちゃん」と呼んだダンケルさんは、目を閉じて考え込んでいる。

「やっぱり先入観はあるのかもね。私も最初に聞いたときには色々考えちゃったけど、今日こうやって一緒に過ごして、レイナちゃんやユーリちゃんと変わらない、普通の女の子だって思うようになったし」

 ところどころやっぱりお嬢様だなぁって思うときもあったけどね、とベルーナが笑う。

 今日一日でベルーナとアレクシアの距離はずいぶん縮まったようだ。

 私はほっと安堵する。

 こうやってきっかけがあればみんなと仲良くできると思うのだけれど、現状ではそのきっかけすらないのだ。

 ユーリやアレクシアも交えて、ああでもないこうでもないと意見を出し合っていたところ、

「まずはレイナちゃんとユーリちゃんが他の友達を作って、その子とアレクシアちゃんの橋渡しをするっていうのがやりやすいんじゃないかな?」

 しばらく悩んでいたダンケルさんがそう提案した。

 なるほど! 確かにその方が他の子にとっても友達になるハードルが低くなるかもしれない。

 やっぱりダンケルさんは頼りになるなぁ。

 私はユーリと今後の方針について意見を固めていった。

 その様子をアレクシアは困ったような、でも少し楽しみなような表情で見つめていた。


 色々話し込んでいるうちに夕暮れ時に差し掛かり、空が赤くなってきた。

「そろそろ寮に帰ろうか」

 ダンケルさんがそう言って立ち上がる。

 私たちもそれにしたがい店を出て、居住区に向かう連絡船の船着き場へと向かった。


 船着き場で突然現れたゼノヴィアさんに、案の定ダンケルさんは驚いていた。

 そして居住区についた途端またしてもスーッと消えていったゼノヴィアさんを見て、

「綺麗な人だったなぁ」

 とベルーナとは違う意味で感心していた。

 確かにゼノヴィアさんは美人でかっこいい、大人の女性って感じの人だ。

 私のお母さんの方が美人だけどね!

 けれどゼノヴィアさんは姿こそ見えないがまだそこにいるのだから、ダンケルさんの呟きはゼノヴィアさんにも聞こえているはずなのだ。

 それをベルーナに指摘されたダンケルさんは顔を赤くしていた。

 本人は夕日のせいだと言っていたけれど。


「早く帰らないと真っ暗になっちゃうよ」

 辺りがだんだん暗くなってきたので私はみんなを急かしたけれど、ベルーナが私を止めた。

「大丈夫だよ、レイナちゃん。たぶんもうそろそろ……、ほら!」

 急に辺りがパッと明るくなった。

 驚いて見上げると道のあちこちに灯りが灯っていた。

 さっきまでは光ってなどいなかったはずだ。

 目を丸くする私に、

「これ全部が周りが暗くなったのを感知して自動で灯りがつく魔導具なんだよ」

 とベルーナが教えてくれた。

「すごい! 綺麗だね」

「でしょう? やっぱり魔法ってすごいよね」

 そんなことを話しながら角を曲がった途端、なんだか嫌な気配を感じた。

 私は不安になって辺りを見回す。

 辺りには光る魔導具がいくつもあるお陰で、夜だというのにとても明るい。

 少し先に二人組の男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 特に変な様子はない。

 魔導具の明かりのせいで変な風に影が伸びているから不安になっただけだろうか。

 そんなことを考えている間にみんなに置いていかれそうになったので私は少し早歩きでみんなに追い付く。

 先程の二人組の男性がすぐ間近まで迫っていた。

 その片方と私は目があった。

 その男性は不意に懐に手を入れたように見えた、と同時に、

「熱っ」

 ペンダントの魔石が少し熱をもった。

 思わず声に出してしまったけれど別に火傷するような熱さではない。

 ただ普段から魔石が少しだけ持っているほのかな熱が、いつもよりはっきりと感じられたのでびっくりしただけだ。

 なんだろう?

 そう思った刹那、

「お嬢様、お下がりください!」

 鋭い叫び声と共に視界に突然人影が現れた。

 黒い衣装に短い銀の髪の女性。

 右手には何か細身の短剣のようなものを持っている。

 ゼノヴィアさんだ。

 ゼノヴィアさんはそのまま目にも止まらぬ速さで、懐から何かを取り出そうとしていた男の腕を切りつける。

「ぐっ!」

 呻き声と共に男が腕をおさえ、その手から何かを取り落としたのがわかった。

 二人の男は忌々しそうな表情を浮かべて逃げ出していく。

「アシュレイ!」

 ゼノヴィアさんは一度大きな声を出すと、すぐさますごいスピードで二人を追いかけて行った。

 何が起きたのかわからずに私たちが呆気にとられていると、

「アレクシアお嬢様、ご無事ですか?」

 いきなり間近で男性の声が聞こえた。

 直前に起きた出来事のせいで神経が過敏になっていた私は、心臓が止まりそうになりながら声のした方を振り返る。

 そこには一人の男性が立っていた。

 歳は三十に満たないくらいだろうか、ゼノヴィアさんと似たデザインの黒い衣装を着た青い髪の男性だった。

「アシュレイ! 今のは一体?」

 アレクシアがその男性に声をかける。

 どうやらこの人物がアシュレイさんと言うらしい。

 さっきゼノヴィアさんは彼に声をかけていたのだろう。

「その質問には後でお答えいたしましょう。ここは危険です。至急ライゼンフォート家に戻っていただきます」

「えぇっ!? でも他の人はどうするの? ここに置いていくの?」

 私たちは全く状況がつかめていないが、アレクシアはだんだん状況がわかってきたようだ。

 アシュレイさんと何やら話している。

「いえ、ライゼンフォート家のものが護衛につき、責任をもって寮まで送り届けます。魔法学校に入りさえすればまず安全でしょう」

「だったら私も寮へ行くわ! みんなにちゃんと説明しないと!」

「いけません。ゼノヴィアが奴らを追跡している今、お嬢様を寮へ向かわせるわけにはいかないのです。ライゼンフォート家に戻ってもらわねばなりません」

「でもっ! ……わかったわ」

 アレクシアはまだ完全には納得していないようだったが、仕方ない、とばかりにうなずいた。

 そして、私たちの方を見る。

「巻き込んでしまってごめんなさい。今度きちんと話すわ。また学校で会いましょう」

 そう言い残すとアレクシアはアシュレイさんについて歩き出した。

 さらにもう一人黒い服の人が現れ、二人に付き添った。

 その人もライゼンフォート家の護衛のようだ。

 いったいどこにいたのだろう?

 もしかして今日一日ずっと私たちを見守っていたのだろうか。

「みなさまはこちらへ」

 気づくと私たちの周りにも護衛らしき人たちが立っていた。

 私はアレクシアが歩いていった方をちらりと見て、その人について歩き出した。


 しばらくして私たちは魔法学校へたどり着いたが、まだ心は全く落ち着いていなかった。

 ベルーナやダンケルさんと別れ、ユーリと一緒に寮の部屋に戻っても気持ちは高ぶったままだった。

 ユーリもずっと不安そうにしていた。

 きっとあれはアレクシアを狙った襲撃だったのだろう。

 アレクシアは幼い頃からそういう立場にいたと前に語っていた。

 私はいまいち状況がつかめていなかったけど、アレクシアやアシュレイさんのこわばった顔つきを見るに、かなり危険な状況だったのだろう。

 私はふとお母さんからもらったペンダントに触れる。

 魔石から感じる熱はいつもと同じ、ほんのりしたものだった。

 襲撃の時に感じた熱さはない。

 もしかしたらあれは私に危険を知らせてくれていたのかもしれない。

 やっぱりお母さんは離れていても私を見守ってくれているんだな。

 そして私は別れ際のアレクシアの表情を思い出す。

 とても辛く、悲しそうな表情をしていた。

 私たちを巻き込んだことを心の底から後悔しているようだった。

 今回のことでアレクシアはまた、心の壁のなかに閉じ籠ってしまうかもしれない。

 私にはそれだけが気がかりだった。

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