表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

冬のニッポン応援プロジェクト?

「地上の人たちに、神さまが守ってるって教えたい? それ、今は禁じられてなかったかな?」

 話の相手は龍状(りゅうじょう)列島に住む土着の精霊たちだ。

 それにしても、あたしから見ると、みんな小人みたいに小さいわね。霊格の高い神さまでも、あたしたちの感覚では下級精霊だ。裏を返したら、彼らから見たらあたしたちは、はるか雲の上の存在になるらしい。まあ、実際に彼らは地上にいる「(くに)つ神」で、あたしたちは空にいる「(あま)つ神」という違いがあるんだけど……。

「そう。禁止。地上人が文明を持つようになったから、彼らが正しく神さまの存在を認識できるまで接触は禁止……でしょ?」

 遠い昔、地上の人とあたしたちは、普通に交流していたらしい。でも、いつの頃からかあたしたちが見えなくなったので、霊格の高い精霊は地上まで降りなくなったんだ。

 その一方で地上に残った精霊たちもいる。初めのうちは巨人やネフィリムとか呼ばれる大きな身体(からだ)だったらしいけど、時代と共に人と同じ大きさに縮み、今では小人サイズにまでなっている。天から受ける霊力の違いで、あたしたちとはすっかり別の種族みたいになってるんだ。

「ミリィは、よく(くに)つ神の声が聞こえるねぇ。あたしには聞こえないよぉ」

 横で聞いていたユメミが、そんなことを言ってきた。

 声が聞こえないというのはユメミの感覚での話。

 これ、龍状列島に住む日本人と、それ以外の国の人たちが虫の()を聞いた時に起こる現象と同じだ。日本人は虫の音を聞き取るけど、外国人は音は耳に入っても、脳がカットして聞こえてないに等しいという。

 おそらくユメミは(くに)つ神たちの声が聞こえながら、脳がカットして聞こえてないんだろうね。聞こえても「ピー」とか「みゃあ」とか、言語として聞こえてない精霊(ひと)も多いらしいし……。

「大丈夫。あたしには聞こえてるからね」

『ぴゃーぴゃーぴゃー!』

 おっと、身体が小さいから、声が甲高(かんだか)いんだよね。ちょっと早口になられると、あたしでも聞き取れなくなってしまう。

 手振りで声を下げて、ゆっくり話すようにとお願いする。それが伝わったのか、(くに)つ神たちが口を押さえて互いの顔を見る。

「うん、今、日本の社会がおかしいから、神さまが見守ってるよって教えて元気づけてあげたいの? ニッポン応援プロジェクト?」

 (くに)つ神が代わる代わる身振り手振りを加えて、自分たちの思いを伝えてくる。

「でも、どうやって教えたいの?」

『ひゃーぴゃー』

 (くに)つ神たちが用意した絵を見せてきた。海からの日の出だ。しかも光の線が幾筋(いくすじ)も出ている。

「初日の出? インスタ映えする、見事な光線の出た日の出を作って欲しい? インスタバエって、写真を撮りに(むら)がる(はえ)のような人たちのことだっけ? ぜんぜん意味が違う?」

 地上界では新しいことがどんどん生まれては消えていくから、たまに謎の言葉が出てくるよね。(くに)つ神たちは好んで使うけど、あまり接触のないあたしたちには、そういう単語を使われると……ねぇ。

「まあ、いいわ。それで、これをどこから見えるようにすればいいのかな?」

『ぴゃ?』

 (くに)つ神たちがいっせいに首を(かし)げた。

『ぴぴきゃきゃきゃ……』

「全員に見せたいって、それは無理よ。それは太陽と雲の位置関係で生まれる現象だから、光の筋がキレイに見える場所は限られるわよ。それに海からの日の出だったら、見る場所は太平洋側に……」

『ぴきゃー、あっちゃー』

 急に(くに)つ神たちが円陣(えんじん)を組んだ。

 あ、なんか()めてる……。

『ぴゃーにゃー』

「え? 計画変更? 第二案?」

 いきなりだなあ。見せる絵を変えてきている。

「龍状列島の地図に、光が降り注いでる絵? 何を表現してるの?」

『ちゃーつー。ひゅーにょーあー』

「天気図? 冬によくある?」

 何が言いたいのだろう?

「あら。これは西高東低の気圧配置ではありませんの」

 キャサリンさんが話に顔を出してきた。

「あ、言われてみれば典型的な冬型だ。でも、すごい末広がりだね」

『ぴーきゃー。きょーきょー』

「天からの恵みの光を、地上界で使う天気図で表現したいの? なるほど、これなら全国で見てもらえるわね。朝の九時にこうなるように操作すれば、しっかり記録にも残るし……」

『ちょーれー。にゃにゃーす!』

『にゃにゃーす』

 (くに)つ神たちが全身を使って、この気圧配置を実現するようにお願いしてくる。

「これ、どうすれば……」

「簡単な話ですわ。いつもより高気圧と低気圧のある位置を北にズラして、かつ間を(せば)めればいいのですわ。そうですわね。高気圧はアムール川の下流域、低気圧は千島列島の北端に置けばいいかしら」

 キャサリンさんがパッと方針を示してくる。計算もせずに、よくまあ……。

『ちょりゃーす』

『ちょれにゃにゃーす』

「ミリィ。この子たちが何を言ってるのか聞き取れませんわ。お(つう)()なさい」

 あ、キャサリンさんも、(くに)つ神たちの話を聞き取れない側の精霊(ひと)だったか。

「『それでお願いします』だって」

「お安い御用ですわ。ノーラ、楽しい気象操作のお時間ですわよ」

 ニヤリと()みを見せたキャサリンさんが、北の空へ飛んでいった。そのキャサリンさんを追って、ノーラもシベリアの方へ飛んでいく。

「キャサリンさん。あたし以外には優しいの……かな?」

 一瞬見せた笑みは何だろう。何だか胸騒ぎがする。

 というか、あたしを手伝いに入れないのは、何か魂胆(こんたん)があるのかな?

『ユーリィ。アリューシャン沖にある低気圧、もっとこちらへ寄せなさいな』

『え? どうしたの? 急に……』

 通信を介して、カムチャツカ半島にいるユーリィ姉の声が聞こえてきた。

 あ、あそこにはいつもユーリィ姉がいたんだっけ?

『ぴゃーぴゃーぴゃー』

 変わっていく天気図を見ながら、(くに)つ神たちが何かを言い合っている。

 あの気圧配置にするのは、そう難しくはなさそうだけど……。

 何だろう。この違和感は……。



『やあやあ、みんな。おっはよーだね。今日も朝から寒いね』

 地上界のテレビに、脳天気な気象予報士が現れた。

『今日は何とも見事な気圧配置だ。この天気図を見てご覧よ。日本列島に天から(しゅく)(ふく)の光が射してるような見事な図になってるじゃないか』

 さすがはキャサリンさんだ。(くに)つ神たちにお願いされた通り、天気図に引かれた等圧線が見事に末広がりの直線になっている。

 高気圧と低気圧を北に寄せたのは、テレビで使われる天気図の構図を意識したものだったのね。地図には高気圧も低気圧もなく、描き込まれているのは末広がりのだけ。

 これは芸術作品だね。

『きゃーぴゃーきゃー』

『すきゃー。みーちゃーぴゃー!』

 早口で何を言ってるかわからないけど、(くに)つ神たちも成功に大喜びだ。

『でも、実際のお天気は、天気図のような祝福にはなってないね』

『……ぴゃ?』

 上沢氏の一言で、(くに)つ神たちがいきなり静かになった。

『というより、手荒い祝福かな。日本海側と北日本が大荒れだ。晴れている太平洋側も風が強いから、砂が舞って大変だね』

『ちょーぴょ?』

 (くに)つ神の一人が、あたしに解説を求めてくる。

「あ、この縦線って、多いほど列島が荒れるんだ……」

 縦線が西高東低の冬型の気圧配置だとわかっていた。でも、それが大雪になって荒れるという部分が、あたしの頭の中ですっかり抜け落ちていた。

 列島にかかった縦線の数は一二本。(くに)つ神たちの描いた絵も一二本だ。称賛に値する再現性だ。

 でも、一本あたり四ヘクトパスカルの気圧差。それが一二本もあったら……。

 キャサリンさんは(くに)つ神たちの絵を、律儀に、正確に、これ以上はないぐらい完璧に天気図の上に再現してみせた。

 それがどんな天気になるのか。キャサリンさんだけは気づいていたのだろう。

 その結果、

「この線を再現したら、列島が大荒れになるのを忘れてたわ……」

『ぴぎゃぎゃぎゃ〜!』

『みにゃぴぎゃぎゃぎゃ!』

 (くに)つ神たちが何を言ってるのかわからないけど、文句を言ってるのだけわかる。

「大丈夫よぉ、ミリィ。この国は神さまに愛されてるわぁ」

 それまで(だま)っていたユメミが、ちょびちょびとお酒を飲みながら話に加わってきた。

「神さまに愛されるってねぇ、苦労を背負(しょ)い込むのよぉ。貧乏(びんぼう)くじなのよぉ」

 なんかユメミがスピリチュアルなことを言ってるし……。

『ちゃーぎゃつぎゃにゃあ!』

 (くに)つ神が「そんなつもりはない!」と言ってるけど、結果はその通りになってしまった。

 これからどうするか。(くに)つ神たちが、また円陣を組んで知恵を出し合っている。

 とにかく、今回のニッポン応援プロジェクトは失敗に終わったらしい。

 原因は……あたしか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ