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異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第一章 学園生活編
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94話 両親と友達


ギルドに戻ると人混みはできているものの、さっき訪れたときよりも減っている感じだ。


やはり最終日ということもあってどの時間帯でも混むのだろうな。



「うーん、低ランク依頼が結構残ってるのは意外だったなぁ」


「そうね。それにもう少し討伐系が残ってるものだと思ってたわ」



掲示板に貼られているのはほとんどがE、Fランクの依頼だった。討伐系の方は残っているものは一般冒険者向けのものや、一日で達成が難しい長期ものしか残っていなかった。


最終日ということもあるのだろう。片っ端から剥がして受けようとか、数打ちゃ当たる作戦にでたパーティもいるだろうな。


さて、どうしたものか。一日で達成が難しい遠距離のものとはいえ、転移魔法を使えばわけはない。だがそのためには誰かその場所に行ったことのある者がいるか、その人の記憶を読み取る必要がある。


前者はまず無理だろう。俺やシャロンは王都以外で、魔の森くらいしか行ったことがないし、アレスとアクリーナに関しても同様だろう。



「うーん、やっぱり無理に受ける必要はないんじゃないかな?」


「そうだな。最終日とはいえ、俺たちはとっくに条件は満たしているわけだしな。二人もそれで構わないか?」



俺は振り向いてアクリーナとシャロンにそう言う。するとシャロンがある依頼を指差した。



「アレ?これって、あのカフェのやつじゃない?」



シャロンが指差したのは先ほど俺たちがお茶していたカフェの依頼だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学園生用依頼

求人依頼

ランク : F

詳細 : 大通りにある人気カフェ『ドルチェ』にて人手が不足している。朝〜昼、昼〜夕方、夕方〜夜までの時間帯より選択。ウェイトレスもしくは配送の手伝い。店主の証明書を提出で達成。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



アルバイトの求人広告かな?

それとも派遣の募集記事かな?


どちらにしても労働に変わりはないが、何とも気の抜けた依頼だな。これなら即日で達成はできるが、これをラストにやるのか。



「あら、いいじゃない?ちょうど時間的に夕方からになるし」


「じゃあこれにしよ!」



そう言ってシャロンが依頼を剥がす。俺らはまだやるとは言ってないが……まあシャロンが楽しそうだし、別にいいか。







「次は君たちが手伝ってくれるんだね?基本的にお客さんから注文を聞いて僕に教えてくれれば後は作って届けるから。その間に他のお客さんから食器を下げたりしておいてくれれば大丈夫だから」



依頼を受けてカフェにやってきた俺たちは裏口にてオーナーの人と話をしていた。


白のショートヘアに身長はやや高め、僕と言っているがこの人は女性だ。かなり胸が大きい、ウェイトレスの服がはち切れそうだ。



「いやー、こんな可愛い子たちが働いてくれると今夜は繁盛しそうだよーっ」


「「むぐぅ!?」」



うらやま……いや違う。

オーナーの女性がシャロンとアクリーナに抱きつく。この人、結構気さくな人なんだな。それに、アクリーナに対しても偏見が無さそうだし。



「おっと申し遅れたね。僕はシフォン=ドルチェ、このカフェのオーナーさ!」



二人から手を離すと彼女はそう名乗った。

なんだろう。子供っぽいような、そんな印象を受ける。



「それじゃあ早速だけど、夕方の配送の時間だからそっちに回ってもらえるかな?夜は結構混むから、それに合わせて多くの食材とか届くから」


「わかりました」



そう返事をして俺たちは早速裏口の方へと戻ろうとした。



「そうそう。多分、イヴァンって人が来るからその人から受け取っておいてねー」


「え?」



その名を聞いてシャロンが面食らった表情をする。そんな様子を気に止めることなくシフォンさんはとっとと中へと戻っていった。


当然だわな。俺も驚いたもん。しかも同姓同名でなく本人だしな。





「ちわー、夕方の配送に来……」



ちょうどそのタイミングでその本人が荷馬車に乗って現れる。そして本人も俺らを見て固まり沈黙が流れる。



「お、お父さん!」



そしてその沈黙を破ったのはシャロンだった。





「まさか君たちがこの依頼を受けていたとはね。討伐依頼で荒稼ぎしてるものだと思ってたよ」


「そうしても良かったんですけど、他に何組もパーティがいるもので依頼がない日もあったんですよね」


「それでね、私も魔法で一気に焼き尽くして初めての依頼は達成できたんだよ!」


「そうかそうか、シャロンはすごいなあ!」



二人が楽しそうに話している。久々に会えて嬉しいのだろうな。明日からは夏季休暇だし、俺も実家に帰省する。俺の家族も元気にしてるだろうか。



「二人とも楽しそうね」


「昔からああだしな。それに久々に会えたってのもあるだろうな。こんなところで会えるとは思ってもいなかったが」



まさかこういう仕事をしているとも思いもしなかったけど。でも、あの二人を見ているとなんだか気が抜けるというか、安心する。



「これで、全部ですか?」


「ああ、お疲れ様。あとはシフォンさんに報告してくれれば大丈夫だよ」



荷馬車に積まれていた山ほどの荷物は俺とアレス、アクリーナの三人であっという間に降ろし終わった。シャロンは終始、イヴァンと話していた。


この際、シャロンのことについては言及はしない。身内贔屓というやつだ。彼女もまた父親に会えて嬉しいだろうしな。



「いやぁ、シャロンに同世代の女の子の友達ができてよかったよ!アクリーナちゃんだったかな?これからも娘をよろしく頼むよ」


「は、はい。こちらこそ……」



アクリーナがイヴァンの勢いに押されているな。相変わらず変わらないな、この人。



「それじゃあ、引き続き依頼も頑張って!シャロン、頑張ってな!」


「うん、お父さんもね」



そう言ってイヴァンは荷馬車に乗ってどこかへ向かって行った。例えるなら嵐のような人だったな。



「……嵐のような人だったね」


「……そうだな」



アクリーナが俺と全く同じ感想を呟く。あの人はまあ、シャロンのこととなるとあんな感じだし。というか、シャロンがいない時ってなかったからよくわからんな。



「優しそうな人だったね。本当に彼女のことを大事に思ってるみたいだし」


「そりゃあ親だからな。子供が大事なのは当然だろう」


「……そうだよな」



今まで空気だったアレスがボソリと悲壮的な感じで呟く。そういえばアレスは孤児院出身だったから、親の顔を知らないんだったな。


どんな経緯があったかは知らないが、捨てられていたと言っていたし思うところがあるのだろう。


アクリーナにしろアレスにしろ、家族に恵まれなかったという経緯にはとても共感できる。少なくとも、俺のは勝手な思い込みではあったが気持ちはわかる。



「……とりあえず中へ戻ろうか、そろそろ日が沈むし混み始めるだろう。接客のことも教えてもらわないとな」


「そうだね、シフォンさんにも報告をしないと」


「う、うん……」



そう言うと急にシャロンの様子がおかしくなる。ああ、そういえば忘れていたな。



「そういえばシャロン。お前、接客は大丈夫なのか?」



シャロンの性格からして知らない人と話すなんてことは厳しいはずだ。にも関わらずこの依頼を受けていたが……



「だ、大丈夫……多分」



お菓子だのケーキだの美味しいとか言ってたし、それに夢中で気がつかなかったのだろうな。



「無理しなくてもいいぞ。無理なら俺らだけでなんとか回すからさ」


「ううん、私が勝手に受けちゃったし……やる」


「本当に大丈夫か?」


「うん……」



口ではそう言うも、声や体を震わせているしかなり無理をしているのがわかる。ペナルティ覚悟で依頼をキャンセル……いや、キャンセルは不可だから意図的に失敗をするという手しか……



「シャロン、私も一緒にいるから無理せず頑張りましょう?」


「アクリーナ……」


「貴方のお父さんも言ってたじゃない『頑張って』って、とても素敵なお父さんね」


「素敵……?」


「そうよ。私に『よろしく頼む』って、こんな見た目を気にしないで言ってくれるなんて、とても嬉しかったわ。あんな素敵なお父さんがいるなんて羨ましいわ」


「そ、そうかな……?」


「ふふ、震えが止まったみたいね」



アクリーナとの会話でシャロンの緊張がほぐれたみたいだ。


長年一緒にいる俺でさえ気の利いた言葉が出てこないのに、アクリーナはすごいな。やはり女の子同士ということもあるのだろう。



「それじゃあ、中に戻って仕事を始めましょう」


「……うん!」



シャロンは元気よく返事をし、アクリーナと共に中へと入っていった。俺とアレスも後に続く。


さぁて、依頼(アルバイト)のお時間だ。

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