77話 運命の悪戯
あそこまで酷い怪我を負うなんて、この間の魔族の襲撃……ではなさそうだな、傷も何やら月日が経っているような感じだし。
そんなことを考えていると、彼女に向かって何人かが絡み始めた。
「よう、相変わらず酷え面してんな」
「それで同じエルフとか、種族の恥だぜ」
「気持ち悪いなオイ」
「…………」
うわぁ……、このクラスにはイジメがあんのかよ。アクリーナの時もそうだったが、どの世界、どんな種族でも変わらねえんだな。
ただ見た目が違うだけで、気持ち悪いと他人を蔑み、罵る。お前らの方が気持ち悪い、性根の腐ったゴミクズが。
「クーラス……アレ」
「……ああ」
随分と大声で罵ってるし教室中に丸聞こえだ。シャロンも不快な顔をして言う。
アクリーナの時みたいに、力づくで押さえつけてやるか。
そう思い立ち上がろうとした。
「何か言えよ」
「うるさい!」
バチーンと教室内に乾いた音が響いた。
そのエルフが怪我をしている彼女を小突いたと思ったら、その子が左手で思い切りビンタをかました。
「いってえ!何しやが……」
「毎日毎日うるさいのよ!見た目が違うだけで何!?怪我をしている以外はあんたたちと一切変わらないでしょうが!」
声を張り上げ、自分を罵ってきた奴らに怒鳴る。
思わず教室にいた誰もが黙り込み、俺も立ち上がろうとしたところで静止し、あちらに注目していた。
なんとなく目が釣り上がってる感じがしてたし、気の強い子なんだろう。物怖じすらしてないな。
「ああ!?ふざけんなよ!」
「ふざけてるのはそっちでしょ!」
「テメェ!お前らコイツを取り押さえろ!」
「あ、ちょ!それ返しなさいよ!」
リーダー格のような男が取り巻きに命じて彼女を取り押さえ、髪留めのようなものを奪った。
流石にこれを黙って見てるわけにもいかず、再び立ち上がろうとした時だった。
「うるせえ!お前なんか……痛え!?」
「ふざけてるのはそっちだろうが」
俺がまた立ち上がろうとした瞬間、アレスが髪留めを奪ったやつの腕を捻り上げていた。
「ハッ!エルフってのは集団で弱いものイジメする種族なのか?」
「何だと?てめっ……ぐああああ!」
「このまま腕をへし折ってやろうか?」
ミシミシと音が聞こえるくらいに腕を捻る。マズイ、このままだと本当に折りかねないぞ!
「おいアレス!流石に折るのはやめとけ!」
俺は慌ててアレスの元に駆けつけて捻り上げている腕を下ろさせた。
「けどよ、コイツら……」
「いいから落ち着け!ここに来て早々に問題を起こすのはマズイだろ」
「折っても直ぐにくっつけられるだろ」
「そりゃそうだけどさ……」
ぶっちゃけ止めなくても良かったがアレスの様子が何やらおかしかった。怒りというか本気の殺意が感じられて、下手したら相手を殺しかねないような雰囲気を放っていた。
魔族とかと戦ってる時のような、気性の荒い状態になっていた。
「とりあえずその手を放せ」
「……わかったよ」
「っ!痛え……てめえ、何しやが……」
アレスがリーダー格の男から手を放すと、こちらに敵意を向けてきたので黙らせるためにこちらも少し殺気を向ける。
「チッ!お前ら、行くぞ」
リーダー格の男は取り巻きを連れて教室をは出て行った。別のクラスのやつだったのか?わざわざここまで、イジメのためだけにご足労なこった。
「それで、大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとう」
絡まれていたエルフの子に大丈夫かと声をかけると、彼女は少し困惑したように礼を言う。
ううん、改めて見ても随分と痛々しいな……、昔、大きな事故とかに巻き込まれたのだろうか。
「アレス?」
彼女がアレスの名を呟く。疑問形?一体なんだと言うんだ?
ふとアレスの方を見ると、なんか驚いているというか懐かしんでるような表情をして彼女を見ていた。
「なぁアレーー」
「ヘラなのか?」
アレスに声をかけようとすると、アレスは一歩踏み出して彼女にそう話しかけた。
「へ……?」
ヘラと呼ばれた彼女は困惑したようにアレスの目を見る。
「ヘラだよな!俺だよ、アレスだ!」
アレスはヘラ?の肩を揺さぶりながらそう続ける。ヘラって確か焼け落ちる建物に飛び込んだエルフの女の子とアレスから聞いたが……
俺はアレスに肩を揺さぶられて困惑している彼女に目を向ける。火傷……エルフ……、そして髪留め……。
アレスの持っている、取り返した髪留めを見ると、一部が焼け焦げてたり、ヒビが入っているのに気がつく。まさかとは思うがーー
「なぁ!?覚えてるか?アレスだ!」
「し、ししし知らないわよ!問題児でお調子者のアレスなんて、私が知るわけないじゃない!」
ヘラ?は激しく動揺しながら首をブンブンと振って否定する。
問題児でお調子者、語るに落ちるとはこのことだと思うんだが、話を聞くにアレスは随分と怒られてたっぽいし……。
「嘘だ!そんなはずはーー」
「君たちは何をしているのかね?早く席に着きなさい」
そんなやりとりをしていると、いつのまにか教師らしき人物が教室に入ってきていた。
この人もエルフかな?随分と髪が長いな、床につきそうだ。
「あ、う……でも」
「アレス、ここは言う通りにしよう。今更だけどだいぶ目立ってるぞ俺たち」
周りを見るとルードルフ生を含め、教室のほとんどの生徒が俺らの方に注目していた。
「う、わかったよ……」
渋々といった様子でアレスはヘラ?から手を離して席へと戻った。
「さてルードルフ学園の皆さま。初めまして、私はオーギュスティーヌ=モーント=ニュンフェ=デファンスと申します」
長い名前だな、確かエルフは集落や親の名前を名前とかを組み込むって感じだった気が。
「私のことはティーヌとお呼びください。授業を始める前に、ルードルフ学園の方に編入生がいらっしゃいます」
編入生?それもウチの方にか、建物も直ってないんだしわざわざルードルフに来るとはどういう人物なんだ?
「それではお入りください」
ティーヌは若干緊張した様子で扉の方にそう言うと、ガラリと開かれ注目が集まる。
ふむ、女子か。前世でも転校生が女の子だったら胸を躍らせたものだな。その子と仲が進展してなんて妄想も膨らませたりしたものだ。
そんなことを考えていると、教室中がザワザワしていることに気がついた。
「ま、まさかあの方が……」
アレスやアクリーナ、そしてグロリアまで口を押さえて驚きを隠せないでいた。
一体どうしたというんだ?あの編入生、何か有名人だったりするのか?
俺とシャロンは何が起きているのかがわからないでいた。
「初めまして、私はエルルーン=ヘルト=アルカイドと申します。ルードルフ学園の皆さま、これからよろしくお願いしますね」
そう名乗った彼女はスカートの裾をつまみあげてお辞儀をし、こちらへと微笑みかけた。
可愛い子だなぁ……、ん?今アルカイドって言ったか?国の名前が苗字ってことは、まさか……
「ここでは私のことを王女と思わず、一生徒として接してください。私のことはエルとお呼びください」
やはりアルカイド王国、この国の王女か。