8話 実戦訓練
禁属性は高度な技術が必要とかあったがそんなに難しいものなのか?攻撃系なら命中精度も必要とされるし付与よりは難しいだろう、だがそこまで難しい魔法とは思えない。
「……とりあえずあなたたちの付与したものは全て処分させてもらうわ」
「「えーー!なんで!」」
俺とシャロンは声を揃えて母シーナに訴えた。せっかく一生懸命にやったのに、シャロンなんか特に頑張ってオリジナルの付与魔法まで作り出していたのに。
「よく考えてみなさい、こんなものが世に出回ったら魔族とだけでなく、人間の間でも争いが起こってしまうかもしれないのよ」
「!」
「え、なんで人間同士が?」
シャロンは母シーナの言葉の意味がわかっていなかったが俺には理解できた。なるほど、そういうことか
「そういえばまだ教えてなかったことがあるわね」
この世界に存在する国で、特に大きな国が7つあり戦争をしている国もあるという。そんなところにこんな付与が知れ渡れば間違いなく戦争の道具として利用されてしまうだろう。
現在交戦状態にある国はドゥーベ王国とメグレズ帝国の2ヶ国だけで残りのメラク公国、フェクダ王国、アリオト商業連合国、ミザール法国、アルカイド王国は特に争いもなく平和である。
この7つの国は北斗七星状に配置されている。国名もそれぞれの星の配置に合わせて名前がつけられている。
俺らがいるのはアルカイド王国で、7ヶ国の中で最も大きな国であり、魔族領に接している国でもある。魔族領はアルカイドの東側にあり、国境に森が広がっている。
「しょうがないよシャロン」
「……うん」
シャロンはかなり落ち込んでいるようだった。それもそのはず、魔法の練習はいつも一生懸命にやっていたからな。
「それじゃ、今日はここまでね」
そう言って母シーナは空間収納で大量にあった剣と服を仕舞って行った。
「シャロン、戻ろ」
「うん…」
その場を後にし、自分の部屋に戻っていつものように魔術の書で自主練をしようとした。
「なぁシャロン」
「…?」
「じゃーん」
「…!こ、これ!」
空間収納で仕舞っておいてよかったぜ。咄嗟に剣を1本だけ収納しておいたのだ。
「ごめん、シャロンが直接付与したものはないけど……」
あの時は咄嗟だったのでこの1本だけしか隠せなかった。だが一応シャロンと2人で協力して付与をした剣を1本だけでも手元に残せたのは良かった。
「ううん、クーラスと付与したものだもん。これだけでも嬉しいよ」
ちなみにこの剣に付与されてるのは《硬化》《鋭利》、そして《効果強化》、これは付与されてる魔法を強化する付与である。あとは火属性と水属性の互いに相反している属性を付与している。
「とりあえずこれは見つからないように隠そう」
「うん大事に仕舞っとこ」
「それじゃあ、いつもみたいに魔術の書で練習するか」
いつものように本を開き、適当にページをめくっては色々と魔法を試していた。最上級レベルから初心者レベルまで、様々な属性の魔法を練習しているとあるページに目が止まった。
「なんだこれ?」
そのページにはオークらしきモンスターと人間の絵が描かれていて、その絵は人間の方はただ立っているだけだが、モンスターの方は腹がまるで爆発でもしたかのように腹から中身が飛び出している絵だった。
「うっ、なにこれぇ……」
横からシャロンが覗き込んでくるも、その絵を見た途端すぐに顔ごと逸らした。
一体なんだ?この魔法は…
そう思い内容を確認しようとした時、母から夕食の用意ができたと声がかかり俺らはすぐに下へと降りた。
それから数日後、午前の剣術鍛錬の時だった。
「実戦訓練?」
「何するのかな」
父ラルスは今日は実戦訓練をやると言って俺たちを森の奥へと連れ出した。
「今日は2人に獣狩りをしてもらおうと思う」
「獣狩り?」
「そうだ、お前たちは剣に関してはもう充分強くなってるはずだ。だがまだ実戦経験はないだろう?」
実戦訓練でいきなり森の奥か、まあ不意打ちでもされない限り大丈夫だろう。
「父さん、でもここって」
この森は獣だけでなく、たまにモンスターも出現すると噂の森だ。それに加え、奥まで来るとなると遭遇したときに助けを求めて入り口まで戻ることなど子供の足では到底無理だろう。
「クーラス、怖いよ…」
シャロンは震えていた、無理もないいくら剣術が強かろうとまだ10歳の少女なのだ。
「大丈夫だ、母さんが《索敵》で周りを警戒してる。本当にヤバくなったらすぐ駆けつけるから安心しろ!」
索敵魔法か、それならモンスターが出てくる前に逃げられるな、それにうまく利用すれば不意打ちもされないようにできるだろう。
「ノルマは2人で猪10頭だ!それじゃ始め!」
父ラルスはそう言ってすぐにその場からいなくなり俺たちは森の奥に取り残された。
「……そんじゃ、探しますか。俺はこっち行くから——」
「え、わ、私1人で探すの…?」
シャロンはかなり怯えた様子でそう言ってきた。
「あ、ああ、効率良く狩るには」
「だ、だって、ここモンスター出るんでしょ…?」
やはり1人でこんなところにいるのはかなり怖いようだな、父ラルスが行ってからますます怯えているようだ。
「大丈夫だ、母さんが索敵魔法で周りを見ていてくれるし、ヤバくなったら父さんが来てくれるよ。それにいざとなったら俺が守ってやる」
「ク、クーラス…」
シャロンの震えが止まったのを見て、俺はすぐに行動を開始した。
「そんじゃ、どっちが多く狩れるか勝負だな」
俺はそう言い残すと茂みへと入った。
「あ!クーラス!」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてくるがそれを無視して奥へと進む。これもシャロンの成長のためだ、許してくれ
シャロンとは日常生活でも常に2人で行動しており、離れて行動する、ということがほとんどないのだ。俺は誰にも頼ることなく1人で乗り越えて欲しかった、そう思う同時にやっと1人の時間ができたと内心、喜びも少しあった。
「さーて俺も使ってみますか」
辺りに魔力を霧散して、動物の魔力を感じ取るイメージで
——————《索敵》
おお、これはすごいな、周りにたくさんいるぞ。けど反応の大きさが同じだな、これじゃ種類の判別がつかない。
「ま、一匹一匹狩っていきゃいい話だ」
俺は魔力反応の1番近いところへと駆け出した。