75話 魔力病
次の日、俺は妙な暑苦しさで目が覚める。
見ると昨日目覚めた時のようにシャロンが俺の腹を枕代わりにして気持ち良さそうにねむっていた。それまではいいのだが……
「スースー」
アクリーナまでもが俺を挟んでシャロンと反対側の位置で俺の腹を枕にして眠っていた。
どうしてこうなった。
まあ、とりあえず体の調子は昨日と比べて良くなった。
コンコン
そんなことを考えていると部屋のドアがノックされ、ガチャリと開いた。
「やぁクーラス、もう起きてたみたいだね」
気さくな笑顔でゆっくりと入ってきたのはアレスだった。
昨日も思ったが、アイツが生きているのは夢ではないらしい。それは、この二人の暖かさが物語っている。
「万全ではないが、体調の方は悪くない。それで、昨日言っていた話とはなんだ?」
「それを説明するために、少しついてきて欲しいんだけど……」
今現在、シャロンとアクリーナが気持ち良く俺のお腹で眠っている。
「……まぁ、そんな急な話でもないからね。ゆっくり待つよ」
「あ、ああ」
俺とアレスは二人が起きるまで一時間ほど待っていた。その間、二人の暖かさで二度寝をしそうになったがなんとか堪えた。
「体調は、大丈夫?」
「……悪くはないが、少し歩きづらいぞシャロン」
俺は今、左腕にシャロンが抱きついている状態で歩いている。
「だって……また、クーラスが勝手に何処か行っちゃうような………気が……ひぐっ、して……」
段々と涙声になりながらシャロンがそう言った。
「わ、わかった。わかってる!もう勝手に何処かに行かないから!安心しろ!」
俺はそれを見て慌ててシャロンの頭を撫で、慰める。これは俺にとっての罰みたいなものだ。
「ほんと……?」
「ああ!本当だ!絶対、絶対に約束する!」
絶対という言葉を強調して俺はシャロンにそう言うと、途端にシャロンに笑みが溢れた。
あ、可愛い……じゃなくて今度こそ、約束を守ろう。二度と、みんなに心配をかけないようにしよう、なりふり構わず一人で突撃なんて無謀なことをするのはよそう。
そんなことを考えながら歩いていると、とある病室の前へと案内された。そこは建物の中でも端の方、むしろ周辺の病室には全く人の気配がしない辺境ともいえる所だった。
「驚くなって方が無理だとは思うけど、驚かないでね」
アレスはそう言うと目の前の扉をゆっくりと開いた。
中には一つのベッドが置かれており、それ以外には何も置かれていない部屋だった。
無言で中に入る俺たち、アレスはそのベッドの脇まで行くとこちらへと振り返った。
「話と言っても、先に見てもらった方が早い」
アレスの視線がベッドへと向く、そこには誰かがいるようで布団が盛り上がっていた。
ここからじゃ顔が見えない。俺はそのベッドにいる人物が見える位置まで移動して、顔を覗き込んだ。
「な!?」
俺はそのベッドで眠る人物の顔を見て驚愕した。
な、何で……一体、これはどういうことなんだ!?
ベッドに横たわっていたのは……アレス、だった。そのアレスによく似た人物は寝息を立てており、体を揺らせばすぐにでも起きそうな気配をしていた。
「ど、どういうことだ……アレスが、二人!?」
「……一応、驚かないでとは言ったけど、やっぱりみんな驚くよね」
「あ、当たり前だ」
目の前には俺に向けて喋っているアレス、そして横にはベッドに眠っているもう一人のアレス。知っている人物が同時に複数いるなんて、これで驚くなっていう方が無理だ。
いや待て、冷静になって考えればこの二人は双子である可能性も考えられるし、そこまで驚くことはない、のか?
「今双子かもって思ったかもしれないけど、僕は一人っ子だよ」
「じゃ、じゃあ、この寝ているのは……一体?」
「まずは僕の病気について話すよ」
病気?アレスは見たところ健康体そのものに見えるが、一体その病気とやらともう一人のアレスについて何の関係があるのだろうか。
「僕の体は、『魔力病』という病に侵されているんだ」
「魔力病?」
魔力病とは、常に極めて強い魔力を保持している状態のことを指し、どんなに強力な魔法を連発しようとも決して魔力を消費することはないという。
一見チートみたいな状態であるが、この病は常に周囲の魔力を取り込み続けるという特徴があり、人や動物、空気中に漂う魔素などを絶え間なく吸収して、最終的に容量を超えて体内で魔力暴走を起こして死に至るという病気なのである。
ただし、眠っていたり意識を失っている間だけは吸収が止まるらしい。
この病気を発症したら最後、常に魔力を吸収し続けて最終的に苦しみながら死ぬため、発狂する者や自ら命を絶つ者が多いのだという。
「そして、僕も数年前に発症してから眠り続けてるってわけだよ」
「それじゃあ、お前は……」
「この体は僕が眠りにつく直前に《人体錬成》で作り出した作り物さ、僕は本当にたまたま禁属性が使えたからね。こうして本体を眠らせ続けて作り物の体を作り出すという延命処置ができた。いくら傷付こうが本体であるその体が死なない限り、死ぬことはない」
なるほど、サタンが殺したのはアレスの作り物の体だったわけか。
「ん?てことはまた新しくその体を作るために一度起きたのか?」
「いや、今言ったようにこの体は作り物だから死なない。本体から魔力を送ってるから軽度の怪我なら即座に回復するけど、流石に心臓や体に穴を開けられたら部位が再生するのに時間がかかるんだよね」
そういうことだったのか、何はともあれ生きていてくれて本当に、良かった……
「そうか……それにしても、魔力病か」
よく考えたら禁属性で病気を治癒することも可能なのではないのか?それならば簡単に事は解決するんじゃ。
その考えが浮かび、提案しようとしたところ一つの疑問が頭をよぎった。
アレ?そういえばアレスも禁属性が使えたはずだ、それならば何故それをしなかったんだ……?
「この病気はさっきも言ったけど不治の病、なんだ。どんな治療も魔法も効かない、禁属性であろうと治らなかったんだ……」
アレスが悲しげな表情をしてそう呟く。
何ということだ。『何でもできる』はずの魔法ですら治療不可の病だなんて、そりゃあ発狂したくもなる。