7話 禁じられた魔法
「シャロン?」
声をかけるとハッとして興奮して言ってきた。
「すごい!すごいよ!クーラスの服に当たった瞬間、ブワーってシューってなって魔法が消えた!」
擬音が多くてよくわからんがとにかく《魔力霧散》はキチンと発動されたようだ。これならどんな魔法も防げるし、不意打ちを食らっても大丈夫そうだな。
「これでイメージは掴めたか?」
「うん!」
「よし、この調子でドンドン練習していこう」
この分なら大体の効果は付与できそうだ。よし、どうせこれは練習なんだ、好き放題にやらせてもらおうかな
十数分後
「2人とも〜付与魔法の練習はどう?」
「あ、母さん」
弟スヴェンの方へ行っていた母シーナが戻ってきた。少し疲れている様子からして遊びに付き合わされたのだろう。
「何かいいのはできたかし……ら…!」
俺たちの様子を見て母シーナはとても驚いた様子で声も出ないようだった。それもそのはずだ、先程置いていった剣や装備に全て付与がかかっており、さらに俺らはそれらに対して上からまた付与をかけて改良をしていたのだ。
「ク、クーラス、この剣は……」
その場にあった1本の剣を取って、質問してきた。たしかその剣にした付与は……
「光と闇属性、あと《鋭利》と《硬化》を付与したかな?」
「光と……闇!?クーラスそれ本当なの!?」
何を驚いてるんだ?現に付与できたのがそこにあるというのに、まあ少々手こずったからシャロンと2人で付与したが
「本当だよ、なぁシャロン、あの剣俺らで光と闇属性を付与したよな?」
「うん、別属性を同時に注ぐの難しかったから2人でやりました」
同時に別々の属性の魔法を付与するのは少し難しく、確実性をもたせるため2人で同時に付与を行ったのだ。
「相反している属性同士を……こんな綺麗に付与できるなんて…」
「クーラスのお母さん、私のも見てください」
シャロンはそう言って自分で付与をした服を母シーナに見せた。
「こ、これには何が付与されてるの?」
「えーと、《魔力霧散》と《回復維持》?だったかな、魔法が無効化するのとこれ着ている間は回復し続けてずっと元気でいられる、だっけ?」
「うん、それで合ってる。とても上手く付与できてるよ」
「へへん!これ私のオリジナル!」
これはあの後に付与したもので、《回復維持》に至ってはシャロンのオリジナル、イメージがちゃんと出来ており、とても上手く仕上がっていた。
「魔法を……無効化!?それにずっと回復し続けるって……」
「あとね!クーラスが付与したこの剣もすごいんだよ!」
シャロンが取り出したのは、持ち手が対象を敵と認識した場合、致命傷が与えられ、味方と認識すると致命傷でも全快するというなんとも無茶苦茶な効果を付与した剣だった。付与をした自分でさえ、こんな無茶苦茶が成功したのか不思議でしょうがない。
「えーっと、クーラス何だっけ?」
「《対象認識生死》だよ」
「そうそう、それ」
「え…っと、それの、効果…は?」
効果を説明すると、母シーナはとても驚いたのか固まっていた。やはり無茶苦茶すぎたか、けどまだこういう無茶苦茶に挑戦した結果の付与があるんだよな、《破壊不能》とか《魔法切断》とか《攻撃反射》だったりね。
「……あなたたち、どんな魔法を使ってるのかわかってる?」
意を決したかのように母シーナは俺らにそう質問してきた。どんな魔法?付与魔法、だよな?それも属性の無い、所謂"無"属性の。付与魔法は大抵それのはずだ。
「え?付与魔法じゃ……?」
シャロンも同じことを考えていたようで俺が口を開く前に答えていた。
「それに最初のいくつかを除いて、特に属性分類のされてない無……」
無属性、そう答えようとした瞬間に母シーナが重ねるように
「この効果は、明らかに"禁"属性、よ」
え、禁属性だと?そんなバカな、数百年間もの間使い手もいなかったのに俺らみたいな子供が使えるわけがない、それに禁属性といえば——
「あ……」
そこで俺は気がついた、禁属性と呼ばれるようになったのは『死者を蘇らせたり、致命傷な一撃を喰らわせることができる』からだ。この剣に付与されているものは明らかにそれそのものであった。
「いい?あなたたち、禁属性というものはね——」
母シーナから改めて禁属性というものについて説明を受けた。
禁属性は、まだ今ほど魔法が発達していなかった頃、四大元素などの魔法だけでは魔族に太刀打ちできず、それに対抗する手段の魔法として生まれたと言われている。
高度な技術が要求されたため、使い手は少なかったものの、禁属性が生まれたおかげで魔族は退けられたといわれていて、奪われた土地などを取り返せたとのこと。
魔族は大昔から人族と対立しており、国や人を襲ってはその土地を自分たちの住処にしていたという。姿は様々だが、多くが人型をしている。
禁属性は人族が魔族に対抗できる唯一の手段として生まれた。しかし、技術が発達したことにより四大元素などの魔法でも魔族に対抗できるようになってからは、禁属性の使い手が減り、そしていなくなったということだ。
誰でも使える魔法と高度な技術が要求される魔法、そのどちらを使うかなど聞くまでもない。
さて、禁属性とは名前の通り禁忌の魔法、というわけではない。先ほども言ったように『死者を蘇らせる』という宗教の教えに反するような魔法だから付けられた、といわれているが理由はこれだけではない。
禁属性とは、どれにも属さない魔法で頭の中でイメージした『どんなもの』でも発動する魔法だという。つまり、死ねと思うだけで殺せたり、他人の意思を奪って操ることも可能なのである。
簡単に言えば『思ったことがなんでも使える』、これが禁属性なのである。一見簡単そうに聞こえるが、魔法を発動する際の魔力を変換する過程が云々と言っていたが難しすぎて理解できなかった。
付与魔法で使われてる属性の無い、いわゆる無属性も禁属性の一種なのではないかという魔法学者だっている。
このような理由もあって"禁"属性、と付けられたと言われている。だが禁属性は数百年間も使い手が存在せず、起源でさえ古い文献にしか書かれていないので存在しないと主張する学者もいる。
「それを、あなたたち2人が使えるなんて……」
「え、私も?」
「そうよ、回復し続ける魔法なんて聞いたことないわ」
たしかに麻痺や毒状態が続くことはあるが回復をし続けるなんてゲームくらいでしか見たことがないな。ひょっとしなくても俺らには才能があるようだな。
「それって……私に魔法の才能があるってこと?」
「才能の有無以前の問題よ、ここまであっさり使えるなんて」
「でも頭の中のイメージをそのまま付与しただけだよ?」
実際その通りだ、俺らはただ《硬化》や《鋭利》のように効果をイメージしながら付与を行っていっただけだ。これを禁属性と呼ぶのならば付与魔法のほとんどが禁属性だろう。