67話 意識と体の共闘
コイツは、間違いなくアレスを殺した。絶対に許さねえ!
「ぐっ、ゴホッゲボッ!」
「クックック、立つのもやっとではないか」
だがどうする?サタンの言うとおり、俺は立つのがやっとで動くことすらままならない。
『小僧』
「っ!?」
誰かに話しかけられる。いや、正確には脳内に直接声が響いた。
《思念会話》?いや、それとはまた別の……
『小僧!』
「ぬわっ!?」
突然目の前に空間収納の魔法陣が現れたと思うと、そこから黒い剣が飛び出し地面に突き刺さる。
「グフッ、サ、サクリファイスか……」
『小僧、暫し我に体を貸すがいい』
「は?ぐぶっ……何、言ってやがる。そんなこと言って……グッ、乗っ取る気だろう」
『そんなことをするか!いいか、このままだとお前は死ぬ。だからーー』
「……チッ、どのみち手段は……ゴホッ!選んでいられねぇか……」
俺はサクリファイスの話を聞き、渋々その提案を受け入れた。
「何を一人でブツブツと言っておる。さっさと死ぬがいい!」
サタンの姿がブレ、また一瞬にして襲い掛かる。
ガキィン!
「ぬぅん!」
「なっ!」
サタンの攻撃を一歩も後ずさることなく黒い剣で受け止める。
「なるほど、六魔天将と呼ばれるだけはある。だが、動きが遅い!」
「ぐあっ!?」
クーラス?は一瞬にしてサタンの背後に回り剣を振り下ろした。
サタンの右肩から腰にかけて、翼を切り落とされた傷跡を抉られた。
「この、人間風情がぁ!」
サタンは激怒してすぐさま振り向き攻撃を仕掛けるも全て空振りした。
「遅い遅い!」
「ぬぐぅ!」
クーラス?はサタンが振り向く瞬間にサタンが見せるであろう背中を攻撃できる位置へと移動していた。
立て続けにサタンの明確な弱点、翼の切断傷のある背中へ集中攻撃を行い冷静さを失わせる。
「くっくっく、どうした?サタンとやら、随分と酷い格好じゃあないか。歯応えがあると思っていたのだが、我の期待外れだったようだな」
「この、人間が……!その雰囲気は……」
サタンはクーラスの雰囲気が違うことに今更気がついた。
「このオーラ、魔族の……いや、呪いや怨念……のような……貴様、何者だ!」
「我が名はサクリファイス、四三大戦によって生まれた幾千もの怨念である」
クーラスの体から人族とも魔族とも、そしてサタンのものとも違う、禍々しい黒いオーラを放っていた。
「さっきまでの人間はどうした?」
「小僧ならここにいる」
サクリファイスはトントンと頭を突く。
「今も我と意識を共有して、傷の治癒をしている」
クーラスの体はまだ大きな傷や打撃跡があるものの、内臓や骨といった体内の怪我は治りつつあった。
『余計なことを話しやがって』
「我は聞かれたことを答えたのみ。それよりも早く怪我を治せ、流石に我も、此奴の相手をし続けるのは厳しいぞ」
『チッ、わかったよ』
そう言うと再び俺の体はサタンに向かって駆け出す。
「フンッ!」
「何度も同じ手はくわん」
サタンの背後に回り込んだと思った瞬間、俺の背後からサタンの声がした。
「ぐおっ!?」
ほぼ無防備状態の背中を攻撃され、サクリファイスは驚きの声を上げながら吹き飛ばされる。
「ぬ?この感触……」
「ふん、流石に驚いたな。だが、我が一人で戦っていると思ったら大間違いだ」
またサクリファイスは余計なことを。
まあいい、コイツの言うように俺はただ体を貸しているわけではない。さっき治癒しているとコイツは言っていたが、もしただ体を貸していただけなら今頃サクリファイスもろとも俺も死んでいる。
なぜなら俺の怪我は致命傷、それを治さずして戦うなんて無謀もいいところだ。
コイツはさっき「お前は体だけを貸せばいい、意識は乗っ取らない」と言った。
つまり剣による戦闘はサクリファイスに任せて俺は魔法でサポートをするということだ。
今の攻撃も身体中に《物理攻撃吸収》を巡らせていたから防げたこと。
「なるほどな、そういうことか」
こちらの意図を理解したようにサタンは呟いた。
次に接近を許したら確実に死ぬ、俺にはその確信があった。
奴は禁属性の結界すらもぶち抜く力がある、俺が魔法でサポートしていると見破られた以上その力を使ってくるのは間違いない。
「「「サタン様!」」」
その時、周囲から他の魔族がやってきて俺たちを取り囲んだ。
「何だお前ら」
「ギャハハ!人間め……グハァ!?」
「雑魚が」
魔族が口を開くと同時にサクリファイスは駆け出し、剣で魔族の体を貫きそのまま振り上げる。
「いくら増えようと、我に敵うと思うな。雑魚共」
サクリファイスはそのまま次々に取り囲む魔族たちを殲滅していく。
俺も魔法で背後から飛び掛ってくる魔族に対し、攻撃を仕掛ける。
「ゴハァ!」
『《エアーランス》』
空気で出来た見えない槍が魔族の体を貫いた。
今、俺の体の周りには飛びかかった魔族が勝手に自滅するように無数に配置されている。
「我がいることを忘れてはおらぬな?」
「っ!」
ガキィィイン!
サタンの攻撃とサクリファイスの剣が激しくぶつかる。
「お前たちは手を出すな、コイツは、我一人で倒す」
「ほう、仲間の助けはいらぬのか?」
「仲間?そんなもの我にはない、ただの駒にすぎぬ」
その言い分にどこかグロリアやその他貴族の印象が見受けられた。
本当にプライドが高い種族なんだな、そんな呑気なことを一瞬考えながら体は勝手に動いた。
「そろそろ怪我も完治してきた、本気でゆくぞ」
見れば俺の体は中も含めほぼ健康的にまで回復していた。サクリファイスが戦ってくれたおかげであまり時間をかけずに回復させることができた。だがーー
「ククク、確かにその体は治ってはいるようだが。その分、魔力が減っているようだが?」
サタンの言う通り、俺は連続して回復、攻撃、そしてシャロンたちを逃がすために強力な魔法を使っていた。
そのせいで魔力がすごい勢い減っていて今の俺にはほとんど魔力がない。意識を保つのも精一杯でサクリファイスが体を動かしていなければ、倒れていただろう。
「ククク、確かにお前の言う通りこの体に魔力はほとんど残っていない。けど、それなら『こうすればいいだけだ』」
俺は自分の声でそう言うと、《縮地》で一瞬うちに俺たちを取り囲む魔族に接近して顔面を掴む。
「ぐ、がぁぁぁああ!!」
顔面を掴まれた魔族は電流が流れたかのように体を痙攣させ、手を離すとバタリと倒れ絶命する。
「次」
俺は別の場所に移動し、同じように二体の魔族の顔面を掴む。
「「ぎゃあああああ!」」
「な、何をしている!」
「黙れ」
「ぐぁぁぁああ!」
近づいてくる者、逃げ出そうとする者、呆然としている者、一体も逃すことなく俺はこの作業を続け、完了すると俺はサタンに向き直った。
「貴様、何をした?」
「魔力が無いのなら、それを奪えばいいだけのことだ」
今の俺の魔力は満タンだ。