65話 闇の魔族
俺とグロリアはアレスが向かったと思う方向へと走っていた。道中魔族の襲撃はあったが余裕で撃退した。
「オラァ!」
「ぐがぁぁああ!」
「『天をも引き裂く閃光よ、我が魔力と共に刃となって、彼の者に天罰を与えよ』!」
バチバチと音を立てグロリアの手に稲妻を纏った光の玉が現れ、魔族に向かって飛んでいく。
「《ライトニングスパーク》!」
「「ぐぁぁぁああ!」」
俺たちに群がっていた魔族が一瞬にして殲滅される。
改めて詠唱改変の凄さを認識するな、この中級魔法でさえ最上級レベル、いやそれ以上の威力になっているからな。
「ふぅ、やりましたわ」
それだけじゃない、グロリア自身の実力も備わってこその威力だ。流石は腐っても貴族様ということか。
「さっさと次行くぞ!」
俺は《索敵》を発動させてアレスの魔力反応を探る、だがどこにもアレスらしき姿を捉えることはできなかった。
索敵の範囲を広げると、妙な反応を捉えた。
「……え?」
思わず俺は空を見上げた。だがそこには何もいない。
一瞬だが大きな反応があった。人間のものとは違う、他の魔族とも違う異質な魔力のように感じた。
空に何かいる?そう思っているとキラッと光が見えた。
「なん——」
言い終わる前に空から巨大な黒い柱のようなものが降り注いで俺らを飲み込んだ。
「ーーーーッ!」
咄嗟に結界を張ったが急すぎてイメージが追いつかなかった。結界に強化を施そうにも維持するだけで精一杯だ、今までの魔族の攻撃とは明らかに違う。
その時結界がピシッと音を立て、ヒビが入り隙間から攻撃が漏れ左肩を掠めた。
「ぐぅぅぅ!」
途端に肩に激痛が走り、見ると制服は当たったところからズタズタになっており肩にはまるで猛獣に襲われたかのような傷ができ大きく出血していた。
何だこれは、掠っただけでこの威力とは直撃していたら間違いなく即死していただろう。
だが、このままじゃいずれ破られる。
どうするか焦りながら思考を巡らせているとパリィンという音がした。
瞬間的に俺は結界が破られたと理解し、死んだと思った時だった。
「ま、《魔法強反射》!」
また目の前に結界が現れて攻撃をある程度跳ね返していた。
俺は困惑しながら肩を抑えて立ち上がり、横を見るとグロリアが両手を上げ、その結界を維持しているのが目に入った。
「グロリア……」
「ぐ、ぐぐぐ……!」
コイツが結界を張ったのか、そういえばグロリア特有のものだったな。
って、今はそんなことを考えている場合じゃない!
グロリアの張った結界もビシビシと音を立てて壊れかけていた。
「《転移》!」
俺はグロリアの腕を掴みすぐにそう叫ぶ、すると周囲が白く染まり俺らはその場から転移した。
「っ!はぁ、はぁ」
転移した先は何処かの建物の中だった、周りは魔族に襲われたせいか物が散乱していた。
「あ、危なかった……」
あのままグロリアが結界を張っていなければ確実に死んでいた。いくら禁属性が使えるとはいえイメージができなければ意味がない。
「とりあえず、礼は言う」
「ど、どうってことありませんわ……」
肩を治癒しながら俺はグロリアに礼を言う。
グロリアも肩で息をしてへたり込んだままそう返事をした。
「それにしても、何だったんだあれは……」
空に何かいると思ったら、いきなりアレだ。
魔族か何かは知らないが敵対しているのは間違いないだろう。それも、かなり強力な力を持った奴だ。
「……強さ……、……まさか……でも……こんな早くに……可能性は……」
グロリアが何やらブツブツと呟いている。
何か知っているのか?
「……六摩天将が……」
「!」
六摩天将、この世界の全ての魔族を統べかつて世界を支配していた存在の上位魔族。
まさか俺が感じた異質な魔力はそいつらなのか?
「グロリア、何か知っているのか?」
「い、いえ私の考えすぎですわ……」
「いいから話せ」
「……わかりましたわ」
グロリアの話ではこうだ。
王都を襲撃したのは六摩天将が指揮をとっているのではないかと。六摩天将はそれぞれの属性に特化した魔法を使うらしく、先程の攻撃から判断するに『闇の魔族』と呼ばれる者だろうという。
だが何百年も眠っているとされる六摩天将が復活するとされる年はまだ何十年も先らしいから、本当に奴らなのかはわからない。
「詳しい名前までは、資料が消失していてわかりませんわ……」
「そうか……」
まあ名前とかは正直今はどうだっていい、正体を知られたくないがために攻撃を仕掛けてきたと考えるべきだろう。安易に索敵魔法を使うのは危険だな、隠蔽したところで見破られる可能性が高い。
親玉さえ潰せば奴らは総崩れするだろうが勝てるとは思えない、だがこのままじゃ避難してもいずれは襲撃されて全滅だ。
どうしたものか、そう考えているとグロリアが口を開く。
「わ、私が囮になっておびき出しますわ」
「なぜそこまでする?」
「……私にできる、精一杯の罪滅ぼしですわ」
その言葉に俺は《人格再構成》の効果を確信する。
今までのグロリアとは思えない発言だな、命に代えてまで行動するとは、本当に良心とやらを植え付けられりゃここまで変わるもんだな。
一応、最後に念のために確認しておこう。
「グロリア、今日までの記憶はあるか?」
「………ええ、貴方と決闘をしたり、部下含め悲惨な目に遭ったり、悪夢を見たり、そしてアクリーナさんに散々としてきたことまで……全部……」
グロリアはカタカタと震えていた。
それが後悔によるものなのか俺に対する恐怖なのかはわからないが少なくとも反省しているということはわかる。
記憶は残っているようだし人格自体に問題はなさそうだ。
「お前が囮になる必要はない」
「え……?」
「俺が叩き落とす」
言うが早いか俺はすぐさま転移魔法を使い六摩天将と思しき魔力を感知した場所へと転移した。
◇
「愚かな人間共めが……」
禍々しいオーラを放つソレは、王都を見下ろし逃げ惑う人間を見ながらそう呟く。
「む?これは索敵魔法の類か?我を感知できる者が存在するとは、厄介だ。早々に消さねばな」
ソレはクーラスの放った《索敵》の魔力を察知し、すぐさま《黒闇の裁き》を放って術者を殺そうとした。
「……ふん、多少は耐えたようだが死体も残さず消滅したか。やはり人間は脆弱でつまらぬな」
クーラス達を完全に殺したと思い込んだソレは次の魔法を構築して王城へ向けて落とそうとした時だった。
「よぉ、お前が奴らの親玉か?」
「!?」
背後から声がして振り向こうとした瞬間、右翼を切り落とされバランスを失い、重力に引かれて落ちていった。
「ぬ!?ぐ、ああぁぁぁぁ!!」
「さて、俺も落ちますかなっと」
ソレが落ちていったのを確認すると、俺は足場にしてた結界を消し同様に落下する。
地面についた瞬間の衝撃に耐えられるように衝撃を吸収する結界を張って、これで俺は大丈夫だ。アイツは、耐えられるかな?
◇
「えいっ!」
「グガァァア!」
「アクリーナ!そっちも!」
「任せて」
「グアアア!」
クーラス達の向かった方向と逆の地点にて、シャロン含む3人はアレスを探して市民を助けながら魔族を討伐していた。
「こ、これでこの辺は一掃したかしら……」
「索敵にも引っかからないし、《隠蔽看破》を使っても見えないから大丈夫かな?」
「そ、そう……」
サラは次々と魔族を討伐していく2人を見て物怖じしていた。
「……すごいわね、貴方達って」
「ん、何が?」
「無詠唱で、しかも杖無しで魔法を使えるなんて本当にすごいわね」
「イメージや魔力操作をちゃんとやれば使えると思うよ?クーラスがそう言ってた」
シャロンはキョトンとした様子でそう答える。
「……」
サラは哀しげな表情をしながら無言で見つめる。
「どうしたの?」
「なんでも、ないわ」
今は亡き親友のテミスと似たようなやり取りをしたことを思い出し、サラはなんとも言えない気持ちになっていた。
ドォォオン
そのとき衝撃と共にシャロン達の目の前に何かが落ちてきた。
「ぐうぅ、人間……めぇ…!」
腰くらいまで伸びた深紫色の髪、吊り上がった恐怖を感じさせる琥珀色をした鋭い瞳。
何より特徴的なのは天使のような見た目をしているがどこか禍々しいドス黒い色をした背中から左側だけ生えている三枚の羽だった。
「な、なに…あいつ…!」
「む、人間か。ちょうどいい、我の苛立ちをぶつけさせてもらおう!」
シャロン達に気がついたソレは丸ごと吹き飛ばそうと目論んだ。
「悪いがそれはさせない」
ドォォオン
ソレとシャロン達の間にまた何かが落下し、砂煙が舞った。
「大丈夫か?お前ら」
「クーラス!」
砂煙が晴れ、そこに立っていたのはクーラスだった。
「さて、お前か?王都を襲撃した魔族の親玉は」
「如何にも、我こそは六魔天将が一人、"サタン"である」
サタン。コイツが六魔天将、闇の魔族と呼ばれる魔族たちの親玉か。
六魔天将、現る!
本日で初投稿からちょうど一年が経ちました。