62話 玩具にした結果
最初に爆発が起こったのは恐らく王都の端、それも魔の森の方向だった。
そこから魔族達が侵攻してきたことは明白だった。
俺とシャロンは道中崩れた建物の下敷きになった人や襲われている人を助けたり、怪我をしている人に治癒魔法をかけたりした。
「数が多いっ!」
「クーラス後ろ!」
背後から剣を持った魔族がクーラスに向けて振り上げる。
「ぐおぉ!?」
クーラスは《操り人形》を発動させ魔族自らに剣を突き立てさせる。その魔族は何が起こったかわからないという表情をしたまま絶命する。
「なんだぁ?今のは」
「何をしやがった!」
「さぁな、答える義理はない!」
「ぬおっ!」
俺は《フラッシュライト》で魔族の目を眩ましすぐに剣で首をはねる。
「た、たすけてくれぇ……」
「大丈夫ですか!?」
「あ、足が挟まって…」
俺が魔族の相手をしている間、シャロンは瓦礫の下になって何も抵抗できないまま襲われていた人を助ける。
「よいしょ」
「おお、ありがとう!助かった!」
「早く避難してください!」
シャロンは《身体強化》を使い壁や柱などを軽々と持ち上げ、挟まっていた足を抜いて治癒魔法をかける。
「もう誰もいないな!?」
「うん!ここは全員助けたよ!」
「よし行くぞ!消し飛べ!《暗黒殲滅砲》!」
俺は闇属性のオリジナル魔法を使い見える範囲全ての魔族を消し飛ばす。
こんな時に術名の名付けセンスとか気にしていられん。
黒い波のようなものが広がり魔族だけが塵になって消えていく。
「終わったぞ、行くぞ!」
「うん!そう……だ………うっ、オエエエ!」
「シャロン!?」
先に駆け出したシャロンが急にその場に嘔吐しうずくまった。
「どうした!?大丈夫か!」
「うっ、うぅ」
シャロンは首を振るばかりで顔を上げようとしなかった。一体何を見たというのだ。
俺はすぐにシャロンが見た方向へと目を向けると、そこは文字通りの地獄だった。
「ぎゃあああ!!」
「や、やめてくれぇぇ!」
「ぐげぇ!?がっ!」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
「いい声で鳴くじゃねえか!」
「人間の心臓は美味なり」
生きた人間、いや死体も含まれるが無数に逆さ吊りにされていたり、魔族によって四肢をもがれジワジワと嬲り殺されていたり中には内臓を引きずり出され魔族がそれを食らっていた。
「な、なんだよこれ……」
常人には耐え難い光景がそこに広がり、人が人の形をしておらず血の匂い、悲鳴、笑い声が飛び交いここが本当に現実なのか疑いたくなるくらいだ。
「う、うぅ……モゴッ!」
「気持ちはわかるが叫んだら気づかれるぞ」
その光景を見て叫びそうになったシャロンの口をふさぐ。
思考が追いついてきたんだな、さっきは感情云々より先に体が反応して吐いたんだろう。運良く聞こえていなかったみたいだが。
クーラス達は瓦礫の陰に隠れて様子を伺っていた。
恐らく、最初に襲撃を受けたのはここだろう。魔の森へと続く門、その周辺を警備している兵達や救援に駆けつけた冒険者達が蹂躙されていた。
中には女性や子供といった弱い人までもが魔族の玩具と化していた。
「シャロン、すまない」
「うっ」
俺はシャロンの首をトンとやって気絶させ、防御結界を張った。ちょっとやそっとじゃ破れない、俺特製の禁属性結界だ。
「ひひ……おっといけない。さて、やりますか」
クーラスは魔族へと視線を移し楽しそうに笑い、すぐに剣に手をかけ飛び出すタイミングを伺う。
「ぎゃあああ!が、は……」
「さぁてお次は——ゴバッ!」
「なん…ガッ!」
人間の内臓や肉を食らっていた魔族が血を吐いて倒れる。続けて隣にいた魔族も同様に倒れた。
「おい!どうし——」
異変に気付いた他の魔族がそちらに振り向くもすぐに首が胴体から落ちる。
「随分と楽しそうなことをしてるじゃないか、俺も混ぜてくれよ」
「な、なんだお前——!」
「襲撃だ!気をつけ——!」
「先に襲撃してきたのはお前らだろうが」
悲鳴すらあげれないまま魔族は次々と殺されていく。
さて、今ここにいる奴らは少なくなったが拠点ならばいずれ戻ってくる個体もいるだろう。応援を呼ばれる前に片付けるか、わずかなお楽しみタイムだ。
「て、てめ……ゴブゥ!?」
俺は魔族の首ではなく腹に剣を突き刺し、そのまま横に切り裂いた。
「がああああ!痛えええええ!」
「喚くな、お前らだって同じことをしていただろう」
ククク、良い声で叫ぶじゃないか。だがやはり人間の方がいいな。
魔族によって遊ばれていた人たちへと目を向けた。今も周囲から彼らの悲鳴が響き渡っていた。
瓦礫に下敷きになって魔族に手をつけられていない奴らはまだ助かるだろうが、それ以外はもう手遅れだろう。禁属性で治すことは可能だが1人1人構っている暇はないし、それに魔力も足りない。
何の罪もない人間がこうやって死んでいくのを見るのは後味が悪い———
「ひひっ」
なのに、こんなにも楽しい気分になるなんて俺も壊れてるな。
「何を笑っていやが——ガァッ!」
「お前らの滑稽な姿が、面白いんだよ!」
続けて足と翼を切断し逃げられないようにする。
「久々にこの魔法を使うな、《腹部破裂》」
ドパァンという音と共に魔族の腹部が破裂し内臓が飛び出した。ビチャッと返り血が頬に当たる。
「アァゲエエェ……」
魔族はドクドクと血を流しながらゆっくりと絶命していく。
「さて……」
基本的に体の内部構造は人間と変わらないのか、まあ多少長さとか形は違えど誤差の範囲だ。そんなことはどうでもいい。
俺は残党に目を向けた。
あと5体か、一気に吹き飛ばしてもいいがそれだと下敷きになってる市民も巻き込みかねないな。
「どうしたものかな」
ボソッと呟くと未だに威勢の良い魔族が隙を見せたとばかりに飛びかかってくる。
いい加減、自分たちじゃ敵わないと理解できないものかね。
「死ねぇ!」
「うるさい」
俺は軽く剣を振ると、魔族は縦に真っ二つになり左右へ分かれる。
「く、一時撤退だ!」
魔族の1人がそう叫ぶと他も翼を広げて逃げ出そうとした。
逃したら別の場所で同じことを繰り返すのは目に見える、逃すわけにはいかない。仕方ない、巻き込むかもしれないがどうせ虫の息だ。
「《暗黒殲滅砲》」
黒い波が周囲に広がり見えるもの全てが塵と化していく。
とりあえずまだ助かる見込みがありそうな人間には防御結界を張り守ったつもりだが、万能ではないから多少はダメージを受けたろう。
あとは血溜まりや臓物も消して瓦礫も退かしておこう。
「シャロン!」
俺はすぐにシャロンの元へと駆け寄り彼女を揺り起こす。
「んっ……クーラス?」
「敵は片付けた、怪我してる人を助けるぞ」
「う、うん!」
シャロンは起き上がるとすぐに怪我をしている人に治癒魔法をかけ自力で逃げられるようにする。
「君たち何をしてるんだ!早く避難するんだ!」
すると鎧を着た兵士らしき人達が俺らに声をあげて叫んだ。
格好からして国の兵士だろう、やっと来たか。
「ここは我々に任せろ!」
「さあ早く!」
とりあえず怪我は治したし後は任せるか、残党を潰して回りながら避難をするか。
「行くぞ、シャロン」
「う、うん」
そう言って駆け出そうとした瞬間、学園がある方向から爆発する聞こえてきた。
「あ、あっちって……」
「学園が……」
ポツリと学園という単語を呟いた瞬間、シャロンは血相を変えて走り出した。
「あ、おい!シャロン!」
慌てて俺も彼女の後を追う。
「どうしたんだよ急に!」
「アクリーナが、まだ逃げてないの!」
「なんだって!?」
どうして逃げない!?シャロンを頼むとは言ったけどここに居るわけだし、せめて1人でも逃げてると思ってんだが。
「私がクーラスのところに行くって言ったら、『だったら私も逃げない』て言ってそれで……」
大方、友達が戦ってるなら私も逃げずに戦うとかそういうやつだろ!
こんなのゲームとか漫画での話だけだと思ってたが……そんなことはどうでもいい!
「こっちの方が早い!」
「きゃあ!」
クーラスは傍にシャロンを抱えて飛び上がり、そのまま学園の方向へ一直線に空を駆ける。
「へ?あ、空を…走って……?」
シャロンは何が起こったのかわからない様子だった。
身体強化で飛び上がった後そのまま結界を足場にして空中を駆け抜ける。さっき窓から飛び降りた時に使った方法だ。
「急ぐぞ!」
「う、うん!」
戸惑いながらもシャロンはそう返事をするとそのままクーラスの傍に抱えられていた。