61話 王都襲撃
「な、なに!?」
「なんだなんだ?」
「爆発したぞ」
爆発音が聞こえた瞬間、全員の注目は音のした方へと向いていた。すると魔の森がある方から大きな煙と火の手が上がっており、街の人達は悲鳴を上げながら逃げているのが見えた。
「じ、事故……?」
シャロンが不安そうな声を出す。
多分そうだろう、そう声をかけようとしたとき悲鳴に混ざって笑い声が聞こえてきた。
「ひゃはははは!殺し放題だぁ!」
「脆弱な人族共!」
「お前らの時代は終わりだぁ!!」
煙の中から飛び出してきたのは昨日アレスと魔の森で戦った、『魔族』だった。周囲を見渡すと昨日よりも遥かに多くの魔族や魔物が王都中の空や地上にいるのが見え、人々を襲っていた。奴らの一部が学園に向かってくるのが見えた。
「あ、アレは……!」
「魔族!?いやああ!」
「は、早く逃げねえと!」
魔族の出現で教室を飛び出す者、恐怖でその場から動けなくなる者が、Aクラスだけでなく学園中の生徒がパニックに陥っていた。
「落ち着いてください!皆さん落ち着いて!」
エマや他の教師が大きい声で落ち着くように言うも生徒達の耳には入っていなかった。
「ク、クーラス!逃げようよ!」
「早く逃げないと!」
シャロンが立ち上がって俺の袖を引っ張り、アクリーナもすぐにでも逃げようとしていた。
「あ、ああ」
逃げると言っても何処へ?奴らは王都中にいるだろうし逃げ場などないだろう。だが奴らは昨日の連中と同じような感じだし恐らく雑魚だとは思うが……やはりここは。
「アクリーナ」
「な、何?」
「シャロンを頼んだぞ」
俺はそう告げるとシャロンの手を払って窓に向けて駆け出し、そして飛び降りた。
「ちょっ、ここ3階…」
「え、あ、クーラス!!」
俺は空中に小さな結界を作りそれを足場にして空中を駆け出した。
「アレス」
「なんだ?」
やはりついて来たか、昨日みたいに口調が変わっている。だがそんなことどうでもいい。
「昨日の勝負、これでつけられそうだな」
「ああ、お互い何匹狩れるか。魔力が尽きるまで勝負だ!」
そう言うとアレスはクーラスとは別方向へと駆け出し地上へと降——落ちる。
ドォンという衝撃音とともに地面に大きな穴をあけてアレスはその中心に立っていた。
「おらぁぁ!魔族共ぉぉぉ!お前らの敵がわざわざ来てやったぞぉぉ!!」
アレスはそう大きく叫ぶと近くにいた魔族達の注目が一斉に集まった。
「なんだぁ?コイツ」
「ヒャッハー!わざわざ出てくるとは死にたいようだなぁ!」
「俺が殺してや——ガッ!?」
真っ先に飛びかかった魔族の1人が血を吐きながら倒れる。その体には大きな穴があいていた。
「どうした?この程度の攻撃も避けれないとは雑魚すぎるぞ」
「貴様、人間のくせに——!」
またもう一体アレスの挑発に乗り飛びかかっていくも、その魔族はすぐに頭部が爆散した。
「おい、情報にあった人間とはコイツのことじゃないのか?」
「まさかとは思ったが、どうやら本当のことだったみたいだな」
「気をつけろ、まだもう1人いるはずだ」
魔族は小声でそう言うと雰囲気が変わった。相手は只者ではない、自分たちにとって脅威となる存在としてアレスを見据えていた。
「ほう、ようやくやりがいのある目つきになったな」
アレスは剣を抜いて魔族に向かって構えた。
◇
「ひゃははははー!!」
「きゃあああ!」
「オラァ!」
「ぐはぁっ!」
アレスのいる地点とは逆方向にてクーラスは襲われている人々を助けながら魔族や魔物と戦っていた。
「早く逃げろ!」
クソ、数が多い!なんとか身体強化と身体硬化を使いながら対処はしているが長くは持たないぞ。倒しても倒しても湯水のように湧いてきやがる!
「何をしている!相手はたかが人間1人だぞ!」
「けどコイツ攻撃が通じねえぞ!」
段々と俺の周囲には魔族が次々と集まってくる、このままじゃいずれ数に押し切られるぞ。国の兵士とか冒険者は何してるんだ!
「後ろがガラ空きだぁ!」
クーラスの背後から首を狙って魔族が飛びかかるも、キィンという音とともに寸前で止まった。
「硬え!何だお前——」
言い終わる前にクーラスが剣を逆手に持ち首をはねた。
「雑魚が、俺の首を取れると思ったか」
「人間、お前か?森で同胞を倒したというのは」
「さぁどうだかね」
クーラスは余裕の笑みを崩さない、だがその心境は焦りでいっぱいだった。
マズイな、これ以上増えると対処しきれない。魔法で一気に殲滅することはできなくはないが、それだと魔力がかなり消費される。
禁属性——
頭に一瞬その単語がよぎるが首を振ってそれを否定する。
最悪それで巻き込んだ市民を生き返らせることも可能だが、そんなことをすれば間違いなく国の耳に入る。
この国の貴族は傲慢な連中が多い、王族もそうとは限らないが何人かはいるだろう。
終わった後に戦争の道具として利用されるのは明白だ。
手段を選んでる場合じゃないが、どうすればこの数を相手にできる……
そんなことを考えていると背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「クーラス!」
「!」
振り返るとシャロンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「シャ、シャロン!?」
「お、女だ」
「ヒャッハー!女だぁ!」
するとシャロンの姿に気づいた魔族が一斉にそちらへと飛びかかって行った。
「シャロン!」
ダメだ、間に合わない!
遅れて走り出すも魔族の方が圧倒的に早かった。
「「「「ぐはああああ!!」」」」
シャロンに飛びかかった魔族は一斉にそう悲鳴をあげた。
何が起きたんだ?俺は思わず足を止めた。
「……ふう」
飛びかかった魔族が地面に落ち、シャロンの姿が見えると彼女の周囲は結界に覆われており表面には稲妻のようなものが見えた。
何だアレは、あんな魔法見たことがないぞ。というか気にしてる場合じゃない。
「シャロン!」
俺はシャロンに駆け寄った。
「大丈夫か?怪我はないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「というか何で来たんだよ、危ないから戻って……」
「私も、戦う!」
まさかシャロンがそんなことを言い出すとは、だけど流石にそんな真似をさせるわけにはいかないだろう。相手は知性のある魔族だ、危険すぎる。
「相手は魔族だぞ。ここは俺に任せて——」
「そう言ってクーラスいつも1人で飛び込んでいくじゃん!」
クーラスの言葉を遮りシャロンが声を荒げて反論する。その目には涙が浮かんでいた。
「いつも、私がどんな思いで待ってるのか知らないでしょ……?クーラスが、死んじゃったら……どう…しようかってぇ…うぅぅ」
シャロンは声を上げて泣き出した。
俺はバカだ。彼女は本気で俺の身を案じていたというのに。
他人は俺なんかどうも思っていない、前世で家族にすら距離を置かれ、1人で過ごしてきた俺とって気にかけてくれる人がいないと勝手に思い込んでいた。
それなのに俺はいつも1人で危険に飛び込み、守りたいものを守っていたつもりだった。
「……ごめん、本当にごめん。今まで心配かけて悪かった」
俺はシャロンに頭を下げる。
「お願い、私も……」
「わかった。油断するなよ、奴らはどうやら女を狙う傾向にあるからな」
「うんっ」
シャロンは目を擦って涙を拭き、表情はキリッとしていた。
そうして俺とシャロンは周囲を見渡し、様子を伺う。先ほど戦っていた魔族はほとんどがシャロンに飛びかかって電撃を帯びた結界によって気絶ていた。
「とりあえずコイツらが起きる前にトドメを刺すぞ」
俺とシャロンは魔法で気絶していた魔族を焼き払う。
周囲にはクーラスら以外に人間はおらず、魔族もいなかった。
「ここに留まってるとまた魔族が集まってくるかもしれない、移動しつつ襲われてる人たちを助けよう」
「うん」
俺とシャロンはすぐにその場から走り去り最初に爆発があった方へと向かった。