58話 呪いの剣
図書館はどこかと学園の敷地内を歩き回っていると、その途中でシャロン達と会った。
「あ、クーラスっ」
「話終わったの?」
「ああ、2人は何してたんだ?」
「えっとね、ちょっと街に出かけようとしてた」
2人の服装を見ると制服ではなく私服だった。
「そうか、いってらっしゃい」
「クーラスはこれから何するの?」
「ちょっと図書館で調べ物を——」
ここで俺はふと気がついた。
そういえばアクリーナの一族って魔族との混血だったな、何か知ってるだろうか。
「そうだアクリーナ、魔族について何か知ってることはないか?」
「えっ、うーん。具体的には何が知りたいの?」
「学園長が例の魔族達がどうだとか言ってたから、魔王とかいるのか?」
「まおう……?」
アクリーナが首をかしげる。
どうやらこの世界に魔王という概念は存在しないみたいだな。
「あーいや、何か普通の魔族よりも強い存在とか、そういうのっているのか?」
「えーっと………それなら確か、『六魔天将』って呼ばれてる魔族が他すべての魔族を統べてるとか聞いたことあるような……」
六魔天将か、名前からして6体の漫画とかでいう四天王みたいな存在だろうか。
「そうか、ありがとう。悪いな足止めして」
「大丈夫よ、シャロン行きましょ」
「クーラス、また後でね」
俺はそのまま手を振り2人の背中が見えなくなるまで見送ると早速図書館の方へ出向いた。
まずは学園の地図を探さないとな。
◇
「……へえ」
俺は3時間ほど図書館に入り浸り、魔族に関する情報を集めた。
どうやら六魔天将というのは古代から存在し、かつてこの世界を支配していた存在だという。
禁属性を操る例の魔術師が現れるまでは魔族によって支配されていたってわけか、なるほどね。
六魔天将もまた、この魔法によって痛手を負わされ、自らを封印して傷が癒えるまで何百年も眠っているらしい。
となると学園長が言っていた『例の魔族達』とは奴らのことか?つまりは禁属性を操る魔術師がいなくなるまで力を溜めていた、ということなのだろう。
何にせよ図書館にある資料だけじゃ情報が足りない。
図書館にあった資料には魔族とは何か?みたいな本や歴史の教科書のような資料しかなかった。
それにしても"魔天"か、確か悪魔の天神を意味する言葉だったはずだ。言葉通りの意味なら神に匹敵する強さを持っているだろう。
まあそれは比喩表現だろうが少なくともゴットハルトにさえ敵わない俺では全く歯が立たないと考えていいだろう。
「はぁ」
悩んでいてもしょうがない、今できることをやって力をつけるべきか。
俺は本を閉じ、そのまま図書館を後にして部屋へと戻ろうとした。
まだ日が高いし寝るには早すぎる、魔力操作や基礎鍛錬でもして時間を潰そうか——
そういえばシャロン達は街に出かけたんだったな、暇だしどこかうろついてみるか。
進行方向を変え、俺は学園の外へと向かった。
久々に何か美味しいものでも食べ歩こうかな。
◇
「これも中々美味しいなぁ」
30分ほど街をうろつくと繁華街のような所に出て、俺はそこで手当たり次第に食べ物を買って食べていた。
「……それにしても」
揚げ物とか焼き鳥とかはまだわかるけどさ、ハンバーガー、ピザが普通に売ってるって何だよここ!何で現代日本のジャンクフードがこんなにも当たり前のように置いてあるんだよ。
もしかしてアレか?俺以外にも転生者とかいてソイツが伝えたとかそういうやつか?
それはそれでありがたいが、どうも調子が狂うな。
「ん?」
そんなことを考えながら頬張って歩いているとある看板に目がいった。
「鍛冶屋か、こんな繁華街の中にあるなんてな」
俺はその鍛冶屋と書かれた店の中へと足を踏み入れた。
中に置いてある武器や防具は、以前入学試験の時に買ったモノと比べるとやや質は劣っていたが品揃えが豊富だった。
しばらく店内を物色していると奥に置いてあった一つの剣が目に入った。
「おっ、なんかカッコいいなアレ」
そこには持ち手から剣先まで全てがどす黒く染まった一つの剣が台座に突き刺さっていた。
クーラスはその剣に引き寄せられるように向かっていき、手に取ろうとした瞬間だった。
「ま、待て!」
「えっ?」
俺が剣の持ち手を掴んだ瞬間、背後から大きな声で呼び止められそのまま振り返った。
「おお、なんということだ……その剣を触ってしまったのか……」
そこには床にまで着きそうなくらいに長い白鬚を生やした老人が立っていた。その老人は俺を見て何かを憐れむような様子だった。
「この剣、何かあるんですか?」
俺は台座から剣を抜き、老人へと向けた。
「お、お前さん。何ともないのかい……?」
「いや別に何も……」
俺は剣を傾けたり隅々まで剣を観察する。
この店に置いてある剣の中でもダントツで質がいいな、切れ味も良さそうだし随分と年季がいるにもかかわらず刃こぼれもしていない、これは素晴らしいな。何より全部が黒いなんてかっこいいじゃないか、厨二心がくすぐられる。
「じいさん、この剣いくらだ?」
「ほ、本当にそれを持っていく気か……?」
何だか随分と心配してる様子だな、もしかしてこの剣………
「何か曰く付きか?」
「あ、ああそうじゃ、その剣は……」
その老人が言うには、この剣は今から200年ほど前に当時名工と言われていた鍛治職人が鍛えたとされ、素材はただの鉄なのにミスリルでさえ刃こぼれすることなく容易く切断できる強靭さを持つという。
後に『四三大戦』と呼ばれる戦争が勃発した際に1000人以上もの人間を切ったとされ、それでも刃こぼれすることはなかった。その時に流れた血で剣はどす黒く染まったとのこと。
そして今日に至るまでこの剣は様々な人間の手に渡ってきたがその全てが最終的に死んでいるのだという。理由は戦争の時に切られた1000人以上もの人間の怨念により剣を手に持ったが最後、その怨念に飲まれその人間が怨念か、他の人間によって殺されるまで殺戮を繰り返すという。
よくあるオカルトだな、てことはこれは『呪いの剣』とでも呼ばれているのだろうか。だがこの話が本当ならば俺は今頃その怨念とやらに飲まれているはずだが実際なんともないぞ。
「何故、俺は平気なのかわかるか?」
「わからぬ、今までそのようなことは無かった……」
というかこんな危険な代物、何で店頭に出してんだよ。さっさと処分しとけよ。
教会とかでも怨念が強すぎるとか言われたのか?それでも奥とかに隠しておけばよくねえか?
「その剣を教会に持ち込もうと隠そうと気がついたらそこにあるのじゃ。まるで誰かを待っているかのようにな」
そういうパターンのやつか、まあいい結局のところ俺は何ともないのだし持っていっても問題ないだろう。
「そんじゃ改めて、この剣いくらだ?」
「正直処分に困っていたからの。そうじゃな、銀貨2枚でどうじゃ?」
「あとついでにそこの鞘も」
計銀貨3枚を支払い俺はその店を後にする。
この剣、言われてみれば確かに禍々しいオーラが出ているような気がするが俺自身に何か影響があるわけじゃないし、シャロン達の手に触れないようにしておけば大丈夫だろう。
俺はその剣を空間収納に入れ再び繁華街で食べ歩き、日が落ちたところで寮に戻った。