6話 付与魔法
それから5年の月日が経ち、10歳になった俺らは剣術、魔法に続いて文字の読み書きを教わり、魔術の書も読めるようになった。そして今日もまた、シーナのしごきが始まろうとしていた。
「さて、来たわね2人とも」
「……今日は何するの、腕立て10000回?」
「ファイアーボール1000回?」
いつも最初は腕立てを何千回とやらせるか基本魔法の『ファイアーボール』を何百回と撃たせてから本格的にしごかれるのだ。これで準備運動だというのだから脳筋にもほどがあるだろう。
「違うわ、今日は2人に『付与魔法』を教えようと思うの」
「付与魔法?」
「そうよ、装備の防御力や攻撃力を高めるために使われる魔法よ、特にクーラスは覚えておいた方がいいんじゃないかしら」
たしかに、剣を扱う以上ただの剣ではすぐに刃こぼれしたり折れてしまうだろうし、それに自分だけの装備が作れると思うとワクワクする。
「ちょっと見ててね」
そう言って傍らに置いてあった鉄の剣を持ち、魔法を付与していく。
「これで付与がかかったわ」
時間にして、おおよそ10秒くらいだっただろうか、付与魔法というのは案外時間をかけずにできるものなのだな。このくらいなら俺もすぐにできるようになりそうだ。
「どんな魔法を付与したの?」
「まず基本として《硬化》で剣の耐久力を上げて、次に《鋭利》で鋭さを上げたわ、クーラス、試しにあそこの木を切ってみなさい」
鉄の剣をより硬く、鋭くしたものか、どのくらい切れ味があるのだろうか
「じゃあいくよ」
俺は剣を横に構え、思い切り振った。するとその瞬間、目の前にあった木に亀裂が入り倒れた。勢いあまって周りの何本かにも亀裂が入り時間差で倒れていった。
「すげえ、切った感触が全然なかった!」
ただ横一直線に剣を振っただけで、ここまで切れるとは、付与魔法というのは素晴らしいものだな。
「クーラス!私にも貸して!」
「えっ」
「あ、シャロンちゃんは別の魔法を教えるわ」
シャロンにこの魔法を付与した剣を渡すのは俺も少々躊躇いがあったので別の付与魔法を教えると聞いて安心した。
……もし渡していたら振り向きざまにスパンとなって危うくテケテケになっていたかもしれなかった。さよなら下半身なんぞ体験したくない、やってはみたいが
「別の魔法?」
「この服に防御魔法を付与するから見ててね」
防御魔法か、そうなると魔法の効果を無効にしたり物理攻撃を緩和したりする系の魔法でも付与するのだろうか。だがそんなことより俺には一つ疑問になっていることがあった。
「ねえ母さん」
「何かしら?」
「その付与魔法の《硬化》や《鋭利》、あと防御魔法の属性って何?」
付与魔法の属性は何なのか、俺は気になっていた。火や水属性を付与すればそれぞれの属性に合わせた効果が発揮されるだろうが、強化系は何に分類されるのだろうか。
「防御や強化といった魔法にはね、属性は分類されてないわ、だから強いて言うなら"無"属性、と言うべきかしら」
おいおい、この世界には全部で7種類の属性しかなかったんじゃないのか。まぁ属性が無いのならそういう言い方が正しいのだろう。
「付与魔法ってどんな属性でも付与できるんですか?」
俺がまだ気になっていたことを同じように考えていたのかシャロンがそう質問した。
「そうね、基本的に魔法の効果をそのまま道具に付与をするだけだからどんな魔法でも付与できるわ」
「それって禁属性も?」
「うーん、多分できるんじゃないかしら」
歯切れが悪いようにそう答えた。だがそれは仕方ないことだろうな、使い手がいないのだから確かめようが無いし、だが魔法の効果をそのまま付与するだけなら、おそらくできるだろう。
「じゃああなた達は基本の魔法はもう使えるわよね?少しスヴェンを見てくるから練習しててね」
そう言ってシーナは何も無いところから剣やら服などの装備を取り出していた。
「えっそれ何!?何もないとこから剣が出てきた!」
シャロンが興奮したように言った。なるほど、これが異空間収納魔法か、いざ実物を見ても信じられないな、改めて魔法というものが実感させられる。
「これは『空間収納』というものよ、異空間にアイテムや荷物を仕舞うことができるわ、広さは人それぞれで有限だけどかなり多くの物が入るわ」
なるほど、人によって仕舞える数は限られているのか、俺にも使えるかな?まあ今はそれよりも付与魔法の練習をしよう。
「行かなくていいの?」
「そうね、それじゃ少し行ってくるわね」
さて、まずは何を付与しようか。たくさんあるんだし適当にやっていくか。
「よし、火属性を付与するか」
付与の仕方は確か、剣を持って掌を当てて、魔力を注ぐんだったな。ついでだ、この際《硬化》と《鋭利》も付与するか。
火の魔力をゆっくりと注いでいき、そして《硬化》と《鋭利》を付与していく。
……これで付与は完了したかな?よし、早速試し切りするか。
「シャロン、今から木で試し切りするけど周りに燃え移らないように、火がついたらすぐ水で消してくれ」
「もう終わったの?クーラスすごいね」
一応火属性が入ってるし、燃え移って山火事になんてことになったらシャレにならん。
剣を頭上に構え、木に向かって思い切り剣を振り下ろそうとした。その時、剣に魔力が宿っていくのを感じ、ふと目をやると火が灯っているのが見えた。
お、ちゃんと火属性が付与されているようだな、これなら他2つもちゃんと付与されているだろう。シャロンも剣の様子を見て驚いているみたいだ。
そして木に向かって思い切り剣を振り下ろす、その瞬間、炎の刃が木を真っ二つに切り裂き、燃えながら木は倒れた。
「シャロン!」
「うん!」
すぐに消火し、周りに燃え移らないようにした。感覚は先程と同じように切った感触はなく、違いは炎の刃が出るか出ないかくらいのものだった。
「すげえな付与魔法」
「ねえクーラス」
「ん、なんだ?」
「防御魔法て何を付与すればいいの?」
そういえば、さっき俺が話しかけたせいで中断されてたな、それでそのまま何もせず母シーナは行ってしまった。防御魔法か、うーむ
「……《魔力霧散》、とか?」
「《魔力霧散》?」
とりあえず適当に思いついたのを言ってみた。もし存在するならかなり強い効果を発揮するだろうし、物は試しようだな。
「魔法が当たったらその瞬間に魔力が霧散して攻撃が無効化する、これならどんな攻撃でも耐えられると思うよ」
「え、えーと」
今のシャロンには魔力を霧散させる、というイメージはしづらそうだった。
「一緒にやるから、落ち着いて」
シャロンの手を取って、一緒に魔力を注いていく。当たった瞬間、魔力が霧散して魔法が無力化するイメージで《魔力霧散》を付与していく
「これで付与はできたはず、とりあえず俺が着てみるから適当に魔法をぶつけてみてくれ」
「え、でもクーラス……大丈夫なの?」
「大丈夫だ、万が一うまくいかなくても俺ならヘーキヘーキ」
「じゃ、じゃあ、いくよ…」
さて、これで付与できてなかったら直撃で魔法を受けることになるぞ。死なないよな?流石に大丈夫だよな?
「『ウインドカッター』!」
風属性の初級魔法、風の刃を打ち出して切り裂くウインドカッターを放ってきた。よりにもよってそれか、マズイぞ、いくら初級の魔法とはいえ最悪の場合スパンと下半身がさよならしてしまう!
そんなことを考えているうちに刃が迫ってくる。大丈夫だ、大丈夫なはずだ!
「っ!」
刃が当たった瞬間、俺は目をつぶってしまいどうなったのかを見ていなかった。
「……?」
恐る恐る目を開けて自分の体を見る。身体は離れていないし切れてもいない、良かった、無事《魔力霧散》は付与されているようだ。
それにしてもシャロンは静かだな、一体何をしてるんだ?シャロンの方へ目を向けると、こちらを見ながら呆然としていた。
現在は3日おきに更新していますがそろそろ書き留めもなくなりそうなので時間がかかるかと思います。どうか温かい目で見守っていてください