56話 殲滅
「ひひひひ、愚かな人間が2匹も」
「あーあ、これじゃあすぐに楽しみは終わっちまうな」
シャロン達を高速で逃がした直後、クーラスとアレスは無数の魔族達と対峙していた。
個体によって性格は各々異なるがたったひとつ共通することがある。
「誰が先に殺せるか、競争しようぜぇ」
人間を殺す、という目的を持っていることだ。
「1、2……全部で31体か」
「そこそこいるね、ところでさ」
「何だ?」
「コイツらってそれなりに大きいし、中型に分類されるかな?」
「そうだな、全員仕留めれば俺らも無事クリアになるだろう」
周囲を魔族に囲まれているのにもかかわらず呑気な態度をとるクーラスとアレス。その態度に気に障ったのか魔族はそんな彼らにイラつきを覚えた。
「ああん?何だぁオマエら」
「俺たちに囲まれてるってのに随分と余裕何だなぁ?」
「命乞いしてもいいんだぜ?ギャハハハ!」
命乞いね、したところで無駄なのは目に見えている。明らかに俺たちを殺す気満々じゃないか、まるでこないだの貴族達を相手にしてる気分だ。
「そんじゃどっちが多く狩れるか勝負といこうか?」
クーラスは余裕を崩さないままアレスに向かってそう言うと。
「——ああそうだな、俺たちに楯突いたこと、後悔させてやろうぜ」
俺?それに口調も変わったぞ。アレスのやつどうしたんだ?いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「背中は任せろ」
「お互いにな」
俺らは自分の正面にいる魔族に向かって剣を構える。すると向こう側も俺らの様子を見て戦闘態勢に入った。
「チッ、命乞いもしねーのか」
「後悔すんのはどっちなんだか」
「人間の心臓は美味いからなぁ!残しとけよ!」
「ヒャッハー!一番乗りはもらったぁ!」
クーラス側の先頭に立っていた魔族が飛びかかり、両手の鋭い爪を立てて首を切り落とそうと迫っていく。
「ガッ……!」
眼前まで迫ってきた魔族の首を一瞬にして切り落とし、残った体は痙攣しながら地面へと落ちた。
ふむ、魔族といっても大したことはないな、動きも遅いしなんならグロリア達の方が速かった。戦い慣れしてない雑魚なのだろう。
「ハッ!たかが一体殺ったところで余裕ぶっこいてんじゃねえぞ!かかれぇ!」
その魔族の声を合図に残った30体が周囲から一斉に2人へと飛びかかった。
「自ら死にに来るとはなぁ!この雑魚がよぉ!」
アレスはまるで人が変わったかのように荒ぶった様子で次々と魔族の首を切り落としていく。
「ヒャハハハハ!何体やられようと関係ない!我らの方が数は圧倒的に多いのだ!脆弱な人間なん……ゴッ!」
「お前の笑い声、さっきから耳障りなんだよ」
この中で1番魔力が高く指揮を執っていた魔族の首をクーラスが切り落とす。
自分だけ安全地帯にいて偉そうに油断してるからだよ、奥が安全かと思ったか雑魚が。
「なっ、いつの間に背後に……!」
「ひ、怯むな!相手はたかが人間2人だぞ!」
「雑魚が、いい加減気づいたらどうだ?お前らに勝ち目はない」
そう言いながら目の前にいた2体の魔族の首をはねる。その時返り血が俺の衣服や顔にパシャリとかかった。
ククク、いいぞ。これが殺すという感覚か、ようやく味わえた、直接この手で命を奪うということがなぁ!
「う、うあああ!何だコイツら!!」
「や、やめてくれええええ!!」
「今さら気づいたか、自分の無力さに。命乞いしようともう遅いお前らは全員殺してやるよ」
「ゴハァッ!」
飛んで逃げようとした魔族を背中から突き刺し、そのまま上へと一刀両断する。
あぁ、モっト、もっトダ。絶望に満チた表情ヲ見せロ、俺に悲鳴ヲ聞かセてクれヨ。
クーラスは不気味な笑みを浮かべ、この場の誰よりも悪魔のような様子をしていた。
◇
「下等な人間が!死ぬがいい!」
そう叫んだ魔族は己の鋭い爪を立ててアレスの心臓部めがけて飛びかかる。
「フッ」
「ゴガァッ!」
次の瞬間アレスは魔族の心臓を貫いていた。
「下等な人間にこうもあっさり殺されるテメエらはゴミ虫以下の雑魚ってことじゃねえか」
「なっ!人間のくせして我らを愚弄するとは、貴様よほど死にたいようだな!」
「さっきからそればっかでつまんねえよ、そんなに言うなら俺に傷の一つでもつけてみろよ」
アレスは魔族に対し挑発的な態度を取りながら戦っていた。そんな安い挑発に乗り、飛びかかっていくも次々と殺されていった。
「ク、クソ!このままじゃ全滅だ」
「い、一旦引いて——ガッ!」
「逃がさねえよ」
《縮地》を使い、一瞬で魔族の背後に回り首をはね数を減らしていく。これはクーラスとの勝負でもある、アイツに負けられないというアレスの意志が感じられた。
「お前ら、1匹たりともここから逃がしゃしねえよ」
アレスの表情は笑っているが、その瞳の奥には何かを憎むようなはっきりとした殺意が感じられた。
◇
「さて、残すはあと5匹か」
「お互いに13体ずつ、先に3体殺った方が勝ちだな。クーラス」
「ああ、負けねえからな。お互いにな!」
そろそろ時間的にも終わらせないとゴットハルトから叱責を受ける羽目になるしな、数も少ないしここは一気に決めるか。
俺は視界に捉えた逃げようと翼を広げた2体の魔族へ駆け出し、魔族が飛び立つ寸前に翼を切断した。
「うわあああ!」
「つ、翼が!」
「逃がさねえよ」
「ヒッ!た、たすけゴブッ」
命乞いをしようとする魔族を言い終わる前に俺はさっさと首をはね、もう一体も同様に殺す。
「あと、1匹で俺の勝ちだ」
「そうかい、それは俺も同じだ!」
アレスはそう言い終わると同時に剣を横一直線に振るとそこから風の刃が飛び出し魔族の首を切断した。
「これで互いに15匹、あとはヤツだけだ」
俺たちは同時に残った1匹の魔族へ視線を向ける。その魔族は一瞬遅れて翼で飛んで逃げようとした。
「「逃すか」」
俺とアレスは同時にその魔族に向け《身体強化》で駆け出す。一瞬にして魔族との距離は縮まり俺たちは同時に剣を振り上げ首をはねようときた時だった。
「ク、クソ!《フラッシュライト》!!」
「ぐっ!」
「ちっ!」
魔族は光属性初級魔法のフラッシュライトを自身の翼に使い、眼前まで迫ったクーラス達の目をくらました。
「《身体強化》!《飛翔》!」
「ま、待て!」
「ぐあっ!」
身体強化を使用して全力で魔族は飛び立った。
逃すまいと俺は《炎刃》を放ち魔族の左腕を切断した。
「クソ、逃すか!」
「待てクーラス、深追いは危険だ」
「で、でも!」
「ここでアイツを追っても何の利もない、むしろ奴らの根城に飛び込むことになる。そんなの自殺行為だ」
「く、そ、そうか、それもそうだな……」
チッ、運のいいヤツめ。確かにアレスの言う通りだな、ここでヤツを追っても魔力を消費した今、これ以上の大群に遭遇でもしたら対処できない。
「それよりも時間、そろそろじゃないかな?」
「っと、そうだったな。さっさとこれらを仕舞って急ぐぞ」
◇
「さて、これでヴィルヘルム達は時間切れで失格だな」
「そ、そんな!」
「先生!もう少しだけ待ってください!」
「ダメだ、ルールはルールだ」
ゴットハルトは森の入り口で先に戻ってきている生徒の討伐数や証拠部位を確認し、残るクーラスとアレスのペアを待っていたが、昨日指定した時間になったので切り上げようとしていた。
「とにかく、奴らは現時刻をもって——」
「間に合ったかな?」
「いや、ギリアウトみたいだな」
その時目の前が白く染まり、そこには全身血塗れとなったクーラスとアレスが立っていた。
「クーラス!」
「——失格と、本来ならするところだが今回は見逃してやろう。討伐数が規定を超えていればな」
「よかった、セーフだったみたいだね」
「おまけにみたいなものだ、次回から気をつけよう」
「それで、証拠部位を出すがいい」
ゴットハルトは2人の討伐した魔物の大きさやその証拠部位を提示するように求めた。
「大丈夫かな」
「構わんだろ、そら」
俺は早速《空間収納》を開放して証拠部位を出した。
続けてアレスも開放し、ボトボトとその場に計30個の魔族の首が転がった。
その瞬間ゴットハルト、アレス達を除く生徒らが悲鳴をあげた。
「うわぁ!な、なんだこれ!?」
「ひ、人の頭!?」
「い、いやツノがあるぞ!?」
そんな中ゴットハルトはそのうちの一つに近づき持ち上げた。
「これは……魔族か!」




