53話 二回目の実戦訓練
俺とアクリーナは遅刻した罰として訓練場にて自主訓練をさせられていた。
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か?アクリーナ」
「へ、平気……」
剣の素振りを終えた後、俺は息切れしているアクリーナに声をかける。
「……なぁアクリーナ、よかったら剣術の稽古つけてやろうか?」
「えっ」
時々彼女の素振りを見ていたが、剣筋は悪くはなかったが時折ふらついたりして危なげない様子が見受けられた。
「アクリーナさ、剣とか苦手じゃないか?」
「……うん、昔から剣はあんまり…」
「これから先、実戦訓練とか厳しくなるだろうしそのためにもさ、よかったらどうだ?」
「で、でもクーラスにそんな……迷惑ばかり……」
「全然迷惑なんかじゃないさ、友達として当然だろう?」
それにしても様子が夜と全然違うな、アレもサキュバス特有の魔法なのだろうか。というかあまり思い出すのはやめよう、恥ずかしい。
「それに、またグロリアが来ても対抗できるようにさ」
「……うん、それじゃあお言葉に甘えて…」
そうして俺とアクリーナは対峙して剣を構えた。
「最初は身体強化を使っても大丈夫だからな」
「ううん、大丈夫」
「それじゃ、行くぞ!」
そう宣言して俺はアクリーナへ向かって駆け出し剣を振り下ろす。
「っ!」
アクリーナが剣を頭上に構え俺の剣を受け止める。剣同士がぶつかりキィンという音が訓練場内に響く。
「あっ」
そしてアクリーナの手から剣が離れ地面へと落ちる。
「大丈夫か?」
「うん……ごめんなさい」
「謝らなくていいさ、それより剣はしっかりと握ってたか?」
「えっと、こんな感じ」
アクリーナの剣の持ち方を見て俺は気づいた。
「俺の持ち方をよく見てこう持ってみろ。アクリーナのだと持ちづらいんじゃないか?」
「こう?」
「そうだ。それでもう一回頭上に構えてろ」
「わかった」
俺はそう言ってもう一度アクリーナに向けて剣を振り下ろす。
「っ!」
剣同士のぶつかり合う音が響く、今度は剣が手から離れることなくしっかり受け止められていた。
おそらくあまり剣に触れる機会がなかったせいでしっかりとした持ち方を知らなかったのだろう。
「その持ち方を忘れずにな、それじゃ次行くぞ!」
「う、うん!」
その後、2時間くらいゴットハルトが戻ってくるまでの間アクリーナに稽古をつけた。
「ゼィゼィ……」
「ふう……久々に汗を流せたな」
剣の持ち方を変えただけなのにたった2時間で彼女の剣の腕はメキメキと上達した。この分ならグロリアの信者の1人くらいなら相手にすることはできるだろう。
「ふむ、お前らしっかりとやってるようだな」
ちょうど一息ついた時にゴットハルトが戻ってきた。
「そろそろ授業が終わる。もう戻って構わん」
「ああ、そうさせてもらう」
そう言って立ち去ろうと思った時、ゴットハルトが続けて言った。
「ああそうだ。明日は実戦訓練で狩りを行ってもらう、だから朝は教室ではなくここから東に見えるあの森の入り口に来い」
ゴットハルトはそう言って国境付近に見える広大な森を指差す。
おいおい、あそこ魔族領との最前線だろ?万が一魔族とか出てきたらどうするんだよ。
にしても狩りか、久しぶりだな。最後にしたのは4年前の熊を倒した時だったか。
「ノルマについては明日また説明する。それまでしっかりと体を休めるように」
「わかった。アクリーナ、立てるか?」
「うん」
俺はアクリーナに手を貸し彼女を立たせ、それぞれ寮へと戻る。
「くれぐれも、遅刻はするんじゃないぞ?」
去り際にゴットハルトからそう釘を刺され、俺は返事をせずそのまま去った。
この後シャロンに飛びつかれたのは言うまでもあるまい。
◇
「ふわぁ、眠い……」
次の日、俺たちはアルカイド王国の東に広がる魔族領と接した森の入り口に集まっていた。
「よーし!これより実戦訓練の説明を始める!」
グロリア達を除くAクラスの14名全員が集まるとゴットハルトが大声で説明を始めた。その声に驚いたのか森から沢山の鳥が飛び立つのが見えた。
「まずお前らにはクジを引き番号ごとにペアになってもらう。その番号順に5分ごとに森へ入って獣を狩ってこい、ノルマは大型10体、もしくは中型20体だ。期限は明日のこの時間までだ、達成できなかったところは特別課題として一週間この森で生活してもらう」
おいおい男女ペアもできるだろうに一週間て、何か問題でも起きたらどうするんだよ。
ゴットハルトはそう怒鳴るように言うと空間収納から立方体の箱を取り出し、クジを引くように皆へ促す。
「クーラスは何番だった?私6番だったよ」
「俺は、7番だな」
つまりは一番最後に森の中へと入ることになる。
「あ、シャロン私も同じよ」
アクリーナがクジを広げて俺らに見せる。そこには6と書かれていた。
「一緒だね!アクリーナ」
「うん、よろしくね」
さて、俺もペア相手を探すとするか
そう思い、振り返ろうとした時
「やあクーラス君、君も7番なのかい?」
「あ、お前は……」
声をかけられ振り向くと、そこには銀髪の男、もといアレス=タキオンが立っていた。
「奇遇だね」
「そうだな、今日はよろしく頼む」
「こちらこそ」
お互いに握手を交わすとちょうどその時シャロンとアクリーナのペアが呼ばれて森の中へと入った。
「2人とも気をつけろよ」
「クーラス、またあとでね」
最後に残った俺とアレスは森の中へと入るまでの5分の間、談笑を交わしていた。
「ところでクーラス君」
「呼び捨てでいい、俺もアレスと呼ぶ」
「そう、それじゃクーラス。狩りの経験はあるのかい?」
「何年か前に一度だけある。あの時は熊に襲われて死を覚悟したよ」
俺は昔の記憶を思い出しながらそう言う
「その割には楽しそうだったみたいだね」
「なぜそう思う?」
「だって今、君笑ってるだろう?」
おや気がつかなかった。あの時も楽しかったからなぁ、人間相手じゃないのが少し残念だったが、中身はどの生物も似たり寄ったりで綺麗だったなぁ。
「まあな、体を動かすことは嫌いじゃないし」
「それには共感するよ、僕も狩りなんて久々だしね」
そんな会話をしているとゴットハルトから声がかかった。
「よーし、最後はお前らだ。くれぐれも森中の獲物を一網打尽にするんじゃないぞ」
俺らをなんだと思ってるんだ。まあ禁属性を使えるからできなくはないとは思うが流石にこんなことで魔力を使い果たして倒れたくない。
「それじゃ、行こうか」
「さっさと終わらせて帰ろうぜ」
俺たちは森の中へと足を踏み入れ、ゆっくりと奥へと進んで行った。