48話 同性の友人
その後銀髪の生徒が戻ってきて、そのまま何事もなく授業は終わった。
それにしてもあの銀髪のやつ、授業中やけに俺に視線を向けてきてたな。もしや俺が魔法を使ったことに気づいたのか?
「ねえクーラス、さっき……」
アクリーナが心配そうに言う。
「ちょっとうるさかったからな。まあ大丈夫だろ」
一応《魔力隠蔽》を使ったからな、誰が魔力を放ってたかわからないはずだ。
だから大丈夫だとは思うが、少し気になるな。
「やぁクーラス=ヴィルヘルム君、ちょっと時間あるかな」
そんなことを考えているとその銀髪が気さくに話しかけてきた。
「ああ大丈夫だ。お前に聞きたいことがあったからな」
「それは良かった。ちょうど僕も聞きたいことがあったからね」
聞きたいことか、大方さっきのことだろう。アレがあってからやけにこっちを見ていたからな。
◇
「さてと、単刀直入に聞くけど、さっきのアレ禁属性魔法だよね?」
「!!」
唐突にそう言われクーラスは目に見えるように動揺した。
てっきり「黙らせたのは君かい?」みたいな質問が来ると思っていたんだがいきなり確信をついてきたことに衝撃を受けた。
「……なぜわかった?」
確信を持っているようだし、ここは下手に誤魔化さない方がいいか。
「そりゃあわかるさ、僕にも使えるからだよ」
その言葉に思わず俺は耳を疑った。俺ら以外に禁属性魔法を使える人間がいるとは、いや普通に考えてありえない話ではない。
先ほどコイツも言っていたように使えるけど隠している人間だっていてもおかしくない、公言したら戦争に利用される可能性があるのだから。
「《魔力隠蔽》を使っていたのだけどな」
禁属性の特性を考えれば全く意味のなかった行為だ。
「それで、用件はこれだけか?」
「いや?まだもう一つあってね……」
「見つけたぞお前!」
銀髪の男がそう言いかけた時、突然大声で割り込まれた。
声のした方を見ると、先ほどカレンに禁属性魔法を信じているのかと馬鹿にしていた男子生徒が銀髪を指差して立っていた。
「おや、声が出るようになったみたいだね」
「ふざけるな!さっきのはお前の仕業だろ!何か魔法を使って強制的に黙らせたんだろう!」
「いいや?僕は何も知らないけど」
「コイツの言う通りだぞ。なぜならお前を黙らせたのは俺の仕業だからな」
俺は銀髪に突っかかる男に嘲笑混じりに言った。
「ああ!?何だお前!俺を誰だと思ってんだ!」
「お前が誰だろうと知ったことじゃない、それとうるさい」
「俺はヴォルシア家の長男なんだぞ!お前らみたいな平民が生意気な口を利くな!」
ヴォルシア?どこかで聞いたような……
その疑問はすぐに解消された。
「俺はゼウス、ゼウス=ヴォルシア。あのヴォルシア家の長男にして次期当主となる人間だ。お前らのような下民とは違うんだよ」
どこかで聞いたと思ったらテミスの弟か、年も変わらなそうだし双子か?それにしても随分と粗暴な奴だな、この世界の貴族はこんな奴しかいないのか?
「やっとあの姉が死んでくれて、邪魔な母親も出て行ったし俺は親父に期待されているんだ。お前らとは立場が違うんだよ」
「ああヴォルシアってテミスの弟か、実の姉に、しかも故人に対してそんな口を利く奴が生意気と言うとはな」
まあアイツがクズだというのは同意だ。それに生き返らせたから故人でもない。
「フン、死んで当然のやつにクズと言って何が悪い。聞けば弱い者いじめをしてたそうじゃないか、それに俺はアイツが嫌いだったしな」
「ほう」
「俺より先に産まれたってだけで父親や親類から期待され、優遇され、俺と差別されてきた!それだけじゃない、俺がどんなに努力しようと優秀なアイツに届かなかった!!」
ゼウスの制服を見ると特待生の印である校章が無かった。ルードルフ学園の特待生は全員左胸に金色の校章をつけているのだ。
努力云々に関しては奴自身の問題だから特になんとも思わないが、差別されて育ってきたのか、その辺りはまあ哀れだとは思う。
「アイツが死んでくれたおかげで、親父や親類共はやっと俺の優秀さに目を向けてくれたんだよ」
前言撤回、コイツはただのクズだ。さっきから言っていることが矛盾しているし激昂したと思ったらコロコロと態度が変わりやがる。
それにしても——
「ブフッ」
「何がおかしい!」
こんな態度だけ偉そうにしてる奴が『ゼウス』って……
やばい、少しツボに入った。
「フヒヒッ、ああすまん。つい……ぷぷっ」
笑いながらそう言うとますます自称全能神は激昂した。
「お前っ!俺を誰だと!!」
さっきからそればっかだな、それにお前はあの、全能神だろ?
コイツに全能神と言ったところで理解などされないだろうな、この世界にゼウス=全能神なんて話はないだろうし。
「さっきからバカにしやがって、何なんだお前は!」
「俺はクーラス=ヴィルヘルム、お前の言うただの下民だ」
俺がそう名乗るとゼウスの様子が変わった。
「クーラス=ヴィルヘルムだと?そうか、お前か」
ゼウスは先ほどの様子とは打って変わっていやらしい笑みを浮かべてそう言った。
「いやぁ、これは失礼した。実は君にはお礼がしたくてね」
「礼だと?」
「姉を殺してくれてありがとう、君のおかげで俺は今の立場を手に入れることができた。いやあ本当にありがとう」
いやらしくニヤニヤとしながらゼウスは俺にありがとうと繰り返した。
正確には直接殺してはいないが結果的に死んだのだし特に訂正はしない。
そんなことを考えているとゼウスは少し調子に乗ってきた、
「さっき言ったことは訂正しよう。お前は優秀な下民だ。さっきから何も言わないそこのお前は愚民に成り下がった」
ゼウスは銀髪を指差しながらそう言った。
「俺は寛大な人間だからな、さっきまでの無礼は許してやろう。お前もコイツに免じて許してやる。寛大で優秀なこの俺が許してやるんだ、感謝しろ」
段々とさっきまでの調子が戻ってきたな、いい加減相手にするのが面倒くさくなってきた。
「さっきから優秀優秀言ってるけど、だったら何で特待生じゃないの?」
そう考えていると今まで何も喋ってなかった銀髪が口を開いた。
「そんなに優秀だと豪語するならそれ相応の実力があるはずだよね?何で?」
銀髪はニヤリとしながらゼウスに向かって淡々とそう言った。するとゼウスは逆鱗に触れたのか三たび激昂した。
「言わせておけばお前ぇ!!もういい、せっかく許してやろうと思ったのにお前ら2人まとめて始末してやる!!」
ゼウスがそう怒鳴ると同時に両手に大きな炎が上がった。
無詠唱か、優秀と豪語する割にはそれなりに実力はあるみたいだな。
「死ねええええええ!!!」
ゼウスは2人に向けて両手の炎を放った。
この程度、テミスの魔法に比べりゃ全然遅い。父親から差別されてるんだったか?そりゃ当然だな。
「《魔法強反射》」
そう詠唱すると目の前に身長大くらいの魔法陣が現れそこにゼウスの炎が当たる。その瞬間、炎はより勢いを増してゼウスに向けて跳ね返った。
グロリアとの再戦の際に奴が使っていた家に伝わる魔法とかなんとか、こんなの禁属性魔法で再現することなど赤子の手をひねるよりも簡単だ。
「なっ!」
ゼウスは魔法が跳ね返ってきたことに驚愕し、すぐに避けようとした。
「っ!?足がっ!」
「拘束魔法、《石化結界》」
銀髪の男がゼウスに向けて右手を前に出しそう詠唱していた。
ゼウスの足はまるで石化したように地面と一体化してビクともしなかった。そうしているうちに跳ね返った炎が命中する。
「ぎゃあああああ!!」
あっという間に全身を炎に包まれ悲鳴をあげて倒れる。元は自身の放った魔法だろうに、自分でどうにかできないのかよ。散々と優秀言っていたくせに。
少しして炎が消え、ゼウスはしばらく唸っていたと思うと気絶したのか何も反応を示さなくなった。
さて部屋に戻るか。ドクターストップがかかっているのにも関わらずまた使ってしまったからな、さっさと体を休めないとな。
そう思って立ち去ろうとした時、ふと思い出した。
「そういえばお前の名を聞いてなかったな」
「ああそうだったね、僕はアレス、アレス=タキオン。よろしく」
アレスの左胸には金色の校章が付いていた。
コイツもか、すると1年の特待生はこれで全員か。
「ああよろしく、そんじゃまた明日な」
「じゃあね」
俺はそう言ってその場を後にした。