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異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第一章 学園生活編
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5話 幼馴染のワガママ


次の日も朝から父親の剣術の訓練……否、しごきが始まった。この日はシャロンも参加しているのだが何故か彼女へはとても優しかった。まあ当然といえば当然だろうが何か納得がいかない。



「そんなんで一人前になれると思ってんのかぁ!!罰として腕立て5000回だ!!」



だから、5歳児にやらせる内容じゃねえだろうがああああ!!昨日より増えてるしいいいい!!!



心の中でそう叫びつつも、俺はこっそり『身体強化』を使っていたのであまり苦しくはなかった。どの異世界モノにもほとんど共通の魔法として出てきたのだ、むしろ使えない方がおかしいだろう。




午後からはまた母から魔法の講義を受けるのだが、俺らはサプライズを考えていた。



「じゃあ今日も—— て、2人ともどうしたの?」



俺はシャロンと顔を見合わせて笑っていた。


「「せーのっ」」


ポンッ



2人同時に昨日練習した魔法を無詠唱で発動させた。シャロンは光、俺は火をそれぞれ使って母を驚かせようと目論んだのだ。



「え、え、あなたたち、それ!」


「へへーん、どう?」


「昨日クーラスといっぱい練習したの!」



当然、使い方などまだ教えてもいないのにもかかわらず、しかも無詠唱で魔法を使ったことにシーナはとても驚いていた。



「……2人とも」


「「はい」」



母は冷静になって、真顔で—— いや興奮した様子で俺らにこう言ってきた。



「覚悟しなさい、今日からあなたたちをビシバシ鍛えていくわよ!」



ああなるほど、通りであの男と結婚するわけだ。この夫婦は2人とも脳筋であったのだ。








「じゃあ、今日はここまでね!2人とも、明日はもっと厳しくいくわよ!」




母シーナのしごきは父ラルス以上のものだった。5歳児にやらせる内容じゃないと昨日言っていたのは誰だよ、同じ女だからかシャロンにも容赦がなかった。



「ク、クーラス……」


「……なんだ?」


「大丈夫……?」


「ああ……」



魔力を使い果たす度に魔力を(強引に)供給され、繰り返し無詠唱で魔法を連発したり、体を鍛えるため腕立て8000回だの、鬼教官という言葉がこれほど似合うことこの上なしだった。だがそれのおかげか、魔法の威力や魔力量が増えた。



「……あ」


「どうしたの?」



文字の読み書きを教わってなかった。これではまた今日も魔術の書を読むことができない。



「……今日は遊ぶか」


「うん遊ぼ!なんの魔法!?」



いや今日は魔法じゃない、と言おうとしたが昨日の様子からしてそう言ってしまったらおそらく泣いてしまうだろう。仕方ない、今日も絵を見て感覚で魔法をやるか。



「明日もクーラスのお母さんから魔法教えてもらえるんだよね、楽しみ!」


「あ、でもシャロン大丈夫なの?」


「なにが?」



シャロンが遊びに来るのはあくまで父親の都合でその時に一緒に来るのであって自分で気軽に来れたりはしない、彼女の家からここまで徒歩で1日はかかる。



「確か、今日の夜に帰るんだろ?明日以降、魔法とかって……」


「……あ!」



いつまでもこの家に留まってはいられない、ということに気がつき声をあげた。そしてすぐに泣きそうな表情になる。



「うぅ、まだ……帰りたくない」



シャロンの両目から涙が溢れ、頰を伝って下へと落ちる。



「帰りたく……ないぃ」



そして声をあげて泣き出した。この場合、俺はどうすればいいのかがわからなかった。



「シャ、シャロン落ち着いて」


「うええええん」


「そ、そうだ。それならお父さんに頼んでみたら?『帰りたくない』って」



俺は咄嗟に思いついたことを提案した。



「ヒック、大丈夫…かな?」


「だ、大丈夫だろ……多分」






そしてその日の夜、俺らは見送りのために玄関前に来ていた。



「いやぁーいつも泊めてもらって悪いな」


「いやいやそんなことねえよ、お前だったらいつでも大歓迎だ」


「そんじゃシャロン、帰るぞ」



シャロンの父親、イヴァン=フレンツェンはそう言ってシャロンの方へと向き合う



「……やだ」


「シャロン?」


「まだ……帰りたくない」



シャロンが帰りたくないと口にする。普段あまり我儘を言うことがない彼女の言葉に父親は少し驚いた様子だった。



「どうしてだ?」


「まだ、魔法の勉強がしたい……」


「でも魔法くらいなら家に本とかあるぞ?それにパパも少しは教え……」


「やだ!」



それまで弱々しく話していたシャロンの口調が急に強くなった。こんな風に話すなんて今までなかったしそこにいたほとんどが驚いた。




「シャ、シャロン?」


「私はクーラスと一緒がいいの!一緒じゃなきゃやだ!」


「!」




『一緒がいい』、前世じゃこんな言葉を言われることなんてなかった。嬉しいというか気恥ずかしいというか、色んな感情が俺の中で渦巻き合う。



「シャロン……」


「っ!」



イヴァンの表情が険しくなった。まあ仕方がないことだろう、彼女は一人娘なのだし、当然こんなことを許せるはずが——



「シャロォォォォン!!」


「「「!?」」」


「よく言った!!」



な、なんだいきなり大きな声をあげて、先程までの険しい雰囲気はいったいなんだったのだ。



「いつも俺の陰に隠れて小さくなってるお前が!我儘を言ってくれるとは!パパは嬉しいぞぉぉ!!」



たしかに俺みたいに親しい人間とは楽しく話したりするが、知らない人間やあまり会わない人間とは誰かの陰に隠れてオドオドとしているのでこんなシャロンを見るのは俺も初めてだな。



「……いいの?」


「もちろんだ!せっかく可愛い娘が初めて我儘を言ってくれたのだからな!」




こうしてシャロンがウチに住んで魔法を学んでいくことが決定した。まだ5歳だというのに自分の家を出るのはどうなのだろうか。

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