44話 蘇生
(そ……そんな……そんなの、どっちも……)
(何を言ってる、一択しかないだろう)
そう言うとテミスは俯いた。
(つまり……それって……)
(お前が、生きて償うということだ)
(え………?)
テミスは困惑した。自分はもう死んでいるのに、どうやって償えばいいというのか。
(今から話すことは他言無用だ。もし、誰かに話したりしたらその時点でお前を消滅……いや、死んだ方がマシだと思えるような目に、あの時以上の苦痛を永遠に与える)
クーラスはそう言いながらテミスをギロリと睨みつけた。テミスはその迫力と思い出したくもない記憶が蘇りガタガタと震える。
(禁属性魔法で、お前を生き返らせる)
(……え?)
またテミスは困惑した様子を見せた。
禁属性、聞いたことがある。思ったことが何でも使え、死者さえ蘇らせることのできる。大昔にとっくに使い手はいなくなったとされ架空の存在とも言われる魔法だ。
それを使って自分を生き返らせる?この男は一体何を言って?
(俺は禁属性魔法を使うことができる。お前を生き返らせるなど簡単なことだ)
(え、禁属性て架空の……)
(思い出してみろよ、俺がお前らをヤった時のことをよ。お前らの知識、常識で説明できるか?)
そう言ってクーラスはニヤリと笑った。
(うっ……)
(他言無用だぞ?)
そう言うとテミスは頷いた。
(さてと、早速お前を蘇生させたいところだが、あいにく魔力が足りなくてね、少し待ってろ)
俺はそう言って《思念会話》を切り、シャロン達の方へと戻った。
「アクリーナ、ちょっといいか?」
「な、な、なに……?」
「実はな………」
アクリーナに今の出来事を全て説明した。最初は怯えていた彼女だったが今のテミスの家族の現状、テミス自身の言っていたことなどを伝えると同情するような様子になった。
「そう、だったんだ……」
「これはお前が決めていい。消滅させるも、永久に苦しませるのも自由だ」
「………生き返らせてあげて」
少しの沈黙の後、アクリーナはそう答えた。
「いいのか?」
「うん。だって家族がそんなことになってるなんて可哀想だし、それに………」
「それに?」
「家族は、かけがえのない大切な宝物だから」
そう言うアクリーナの目には涙が浮かんでいた。母親を亡くし、一族からも疎まれるような彼女にとっては本当にかけがえのないものなのだろうな。
「わかった。それじゃ俺の今の魔力じゃ足りないから、少し手伝ってくれないか?」
「うん、わかった」
「シャロン、すぐに終わるから待っててくれ」
「うん」
そう言って2人はテミスの元へと向かった。
「そういえばアクリーナは最初から見えてたんだよな?」
「うん」
「それって生まれつきか?」
「うーん、多分これだと思う。こっちの目にしかアレが見えないし……」
アクリーナは自分の右目に手をやった。なるほど朱眼か、どうやらその目にはまだまだ秘密が隠されているみたいだな。
「それじゃあ始めるぞ」
「うん」
えーっと人を生き返らせるイメージか、そういや想像がつかないな。
とりあえずテミスの魂を元に体を生成してみるか。
頭の中でそうイメージしながら魔力でテミスの体を創造する。
「うっ」
クーラスの体がフラッとする。ただでさえ魔力消費の激しい禁属性魔法を使っている上に、彼は今魔力が枯渇しているのだ。
「だ、大丈夫?」
「アクリーナ、魔力を俺に流し込んでくれ」
「う、うん」
アクリーナがクーラスの背中に手をやる。そして、そこから自身の魔力を注ぎ込む。
よし、これならなんとかやれそうだ。
引き続きテミスの体を形作る。
しばらくして一般的な人間と変わらないテミスの体が出来上がった。
「おい、ちゃんと魂は入ってるか?」
「う、ん……」
クーラスが声をかけるとテミスはゆっくりと目を開けた。
「どうだ具合は?」
テミスは手を握ったり、周囲を見回す。そして感触があることを確かめた。
「……大丈夫」
「よし、早速お前の家族を探すぞ」
「今から?」
アクリーナが少し辛そうな表情をしてそう質問した。少し無理をさせたか
「いや、アクリーナ達はもう戻ってろ。無理をさせて悪かったな」
「うん……そうさせてもらうね……」
ふらふらとした足どりでシャロンの元へと戻って行く。
「大丈夫?アクリーナ」
「大丈夫……」
「シャロン、アクリーナのこと頼むぞ」
「うんっ」
シャロンはアクリーナのことを支えながら寮の方へと戻っていった。
「さて、最後に家族の姿を見たのはどこだ?テミス」
「えっと………」
テミスの話によると母親と妹を見たのは家から追い出されたところだけで、それ以降のことは知らないという。
追いかけはしなかったのかとも聞こうとしたが自分のせいでこうなったから姿を見るのは辛いだろう。
クーラスは少しだけ彼女に同情を感じていた。
『自分のせいで家族が』、前世の自分を今のテミスに写していた。
「今のお前は魔法を使えるのか?」
「え、あ、多分……」
そう言ってテミスは掌に小さな炎を出した。
「索敵魔法でこの街全体を見渡す、それをお前は《感覚共有》で姿を見つけろ」
「え、索敵魔法って姿までわからないんじゃ……」
「俺のは特別なんだよ。いいから俺の額に手をやれ」
「は、はいっ」
少し強めの口調で言うとテミスは慌てて返事をして俺の額に手を当てた。
「発動させるぞ」
索敵魔法を発動させると、頭の中に王都の隅々まで立体的な映像として流れ込んでくる。
それをテミスは《感覚共有》で同じように頭の中にその映像が流れ込む。
「な、なにこれ……こんなことが……」
「家族を探すのに集中しろ」
「は、はい」
しばらくするとテミスが声をあげた。
「っ!お母さん!」
「そいつらがお前の母親と妹か?」
テミスの母親の姿を王都のとある路地裏で見つけた。そばには見た目5、6歳らしき妹がいた。
2人とも汚れた姿をしており特に母親の方は痩せているように見え、妹の方は泣いていた。
まともな食事も取れず、かといって頼れる親類も全て失い浮浪者のような生活をしているのだろう。
追い出されたのが同じ2日前だとしてもたった2日とはいえここまで苦しんでいるとは、この国の闇はかなり深いようだ。
「お母さん……リィナ……うぅ、ごめんなさい……ごめんなさい……私の、せいで……」
テミスは涙を流しながらそう呟く。
「泣くのは後にしろ、さっさとこの場所に行くぞ」
「でも、ここって」
クーラス達のいる場所と2人のいる場所までかなりの距離があり、そこまで歩いて行くとなると夜遅くなってしまう。さらに彼らもいつまでのその場所に留まっているとは限らない。