42話 見えない何か
2日連続で疲れた、今日のは特にだ。ゴットハルトと戦って魔力を使い果たしてしまうなんてな。
今日で一つわかったことがある。
『禁属性魔法は強力な力を持つゆえ魔力消費が激しい』
冷静に考えてみれば当たり前の話だ。ゲームだって強力な技を使う時とかMP消費が大きい、それが禁呪となればHPだって犠牲になったりする。
そんな魔法を俺は今日まで苦なく使ってきたがそれは今までゴットハルトに放った《邪神の審判》のような強力な魔法は使ってこなかった。
それでもその他属性の最上級魔法は当たり前のように使っていたが禁属性ほど魔力は消費しないのだろう。
そんなことを考えながら俺はベッドに倒れこみ、同時に意識を夢の中へと落とした。
翌日、目を覚ますと俺のベッドにもたれかかるようにシャロンが寝ていた。
………昨日も似たようなことがあったな。そんなことを考えながら俺はシャロンを起こす。
「シャロン、起きろ」
肩を叩いたり体を揺らすも、シャロンは中々起きない。シャロンは目覚めが悪いのか?もういいや面倒くさい。
「《意識覚醒》」
俺は以前自身が眠らなくする魔法を使って起こそうとした。
「ん?」
するとシャロンの目がパチリと開いた。
「シャロン、一応聞くが何しにきた?」
「あ、あ、クーラス!!」
「うわっぷ!」
目が合った瞬間、シャロンが飛びついてきた。これ昨日と同じ展開じゃねえか、そんなことはいい、それより一体どうしたんだ。
「シャロン、とりあえず何しにきたんだ?」
俺は先ほどと同じ質問をした。
「クーラスが授業に来なかったから心配になって……」
「は?」
窓の方を見ると空は紅く染まり既に日が傾いてた。
「あぁ…」
完全に夕方になっていた。疲れすぎてこんな時間まで眠り込んでしまったか、というか授業を無断欠席してしまったな。
魔力が切れによる疲れはここまでしないと回復しないものなのかな、となるとあと2日ぐらいは……この世界、目覚ましとか売ってないかな。
「それで、大丈夫なの?」
「すまん、昨日は疲れててな。心配かけて悪かった」
「よかったぁ〜」
シャロンは安堵してクーラスに抱きついた。
「ちょっ、そ、それよりさ今日の授業って……」
「うん?剣の実戦訓練だったよ、クーラスいなかったから……あの先生少し怒ってた」
あーやっぱりそうか、明日は朝からまた説教をくらう羽目になるか。
けど少しと言ったし、あんま怒ってはいない感じか。事情が事情だからかな。
「剣か、どうだったか?」
「えっと、いつもみたいにアクリーナと私でやったけどアクリーナ、剣は苦手みたいだった」
やっぱりアクリーナは剣、というか運動が苦手なんだろうな。今度特訓でもしてやろうかな。
「それであと、人数が少ないから端っこの方で1人で剣振ってる人もいた」
「ほーん」
その1人というのはグロリアだろう、信者は全員いないし、あんな奴とペア組みたいと思う奴なんていないだろうしな。
「あ!あとね、アクリーナの様子が少しおかしかった」
「おかしい?」
「うん今日ね、クーラスのところに行く前に2人で少し街に出たんだけど、途中でアクリーナが何か怯えて私の後ろに隠れたりしたの」
「何があったんだ?」
「聞いても『何でもない』って言うからわからなかった」
「……眼のことか?」
「ううん、それも聞いたけど『違う』って」
街に出て何かあるとすれば朱眼のことしかないと思ったんだが、他に何があると言うんだろう。
「今から話を聞きに行けるか?」
「え、あ、うん」
俺はベッドから降りてシャロンと一緒に女子寮へと向かう。流石に男が中に入るわけにはいかないのでシャロンに呼びに行ってもらった。
「………」
「アクリーナ、一体何があったんだ?」
「………」
アクリーナは俯いたまま出てきて、そのまま何も喋ろうとしなかった。
「何か話せないことなのか?それだったら無理には聞かないが」
そう言うとアクリーナは黙ったまま首を横に振った。ふむ、このままではラチがあかないな、最悪心を読むか?いや、それはダメだな。ドクターストップがかかってるし倒れたらマズイ、またシャロンに心配かけてしまう。
けどこのままアクリーナを放っておくわけにもいかないし、どうすればいいんだ。
「……病院」
「え?」
「病院、そこまで、一緒に来て……」
「あ、ああわかった」
俺は2人に案内されて病院の方へと向かった。
病院が見えてくるとアクリーナの雰囲気が変わり何やら周囲を警戒するかのようにキョロキョロと見渡していた。まるで何かに怯えているかのように。
この辺りには初めて来たな、というか入学してから街に出ること自体が初めてだな。
「ヒッ」
突如アクリーナは軽く悲鳴をあげてすぐにシャロンの後ろへ隠れた。
「どうした?」
「あ、あそこ……」
アクリーナは震えながら前方へ指差す、だがその先には何もなかった。
「見えてない……私は見てない……」
「アクリーナ、大丈夫だよ。クーラスも私もいるから」
そう言いながらシャロンがアクリーナの頭を撫でる。
見えてない?どういうことだ?俺はもう一度アクリーナの指差した方向へと目をやるも、そこには何もなく、ただ病院の壁があるだけだった。
だが注意してよく見るとそこの地面の色が微妙に違うことがわかった。まるで何かがぶちまけられた跡のように。
病院……地面の色……見えてない……
俺はある可能性に気がつきアクリーナに問いかけた。
「あそこに、何かいるんだな?」
「……」
アクリーナは無言で頷いた。
なるほどな、俺の考えが正しければその『何か』はきっとアレだろう。
「《霊視》」
俺がそう詠唱すると地面の色が変わっているところに1人の血まみれの少女がボウっと浮かび上がって見えた。
やはりコイツか、2日前に飛び降りて自殺した
————テミス=ヴォルシア