40話 殺意の尋問
放課後になり、俺はゴットハルトの元へと向かった。
そういやアイツどこにいるんだ?アクリーナにも場所伝えてないみたいだしこれでどうやって行けっての………探せるからいいけどさ。
俺は早速ゴットハルトを《索敵》で探り、その場所へと向かった。
「来たか」
ゴットハルトがいたのは学園でも人気のない古びた倉庫のようなところだった。こんなところで何の話をするのだろうか。
「それで、要件は?」
俺はゴットハルトにそう尋ねた。
「単刀直入に言おう、ヴィルヘルム、お前禁属性魔法を使えるだろう」
「っ!」
唐突にそう言われて俺は思わず動揺してしまった。その様子をゴットハルトにも気づかれた。
「どうやら、図星のようだな」
動揺したのを見られた以上、下手に誤魔化さない方がいいか。
「……だったらなんだというのです?」
「そうだな……」
ゴットハルトは少し考えるような仕草をしたと思うと
「——ッ!?」
急に俺に向かって殴りかかってきた。咄嗟であったが、昨日のグロリア達との一件でなんとか対応することはできた。禁属性魔法、《衝撃吸収》を発動したが、それでも完全に衝撃を防ぐことはできず少し後ろへと押しやられた。
「いきなり殴りかかるとはどういうつもりだ?」
俺はゴットハルトに魔力で多少威嚇をして、睨みつけながらそう言った。
「ふむ、今のは確実に入ったと思ったんだが手応えが感じられん、やはり禁属性の力か」
「質問に答えろ」
「本当に禁属性魔法が使えるのか試しただけだ。それよりも聞きたいのはこちらだ。ヴィルヘルム、なぜお前は使える?」
「……さぁな、物心ついた時から当たり前のように使っていたからな」
「ほう、惚ける気か?」
惚けるも何も、本当のことだし嘘ではないのだがな。
「なら、それを証明してみせろ!」
そう言うと同時にゴットハルトは剣を取り俺へと切りかかってくる。
「っ!」
ゴットハルトの動きが早く避ける間もなかったので俺は《身体硬化》を発動させ、腕でそれを受け止めた。
ガキィィンという音と共にゴットハルトの剣が砕け散る。すると目の前に拳が現れた。
「クッ!」
入学試験の時より動きが速い、これでは反撃どころか避けることすらできない。
だが、《身体硬化》を発動している間は俺自身にダメージは通らない、むしろ奴の拳がやられるのも時間の問題だろう。
俺は防御の構えをしたまま一方的にゴットハルトの攻撃を受け続けた。
「どうした?守ってばかりじゃ俺は倒せんぞ!」
「そんなこと……言われなくてもわかってるさ!」
「ぬ!?」
ゴットハルトの動きが急に止まり、クーラスは突き出されている拳に手を当てる。
「吹っ飛びやがれ!《旋風衝撃波》!!」
風属性の旋風を巻き起こす魔法に禁属性で衝撃波を組み合わせたもの、相手を遥か遠くへと吹き飛ばす魔法だ。
「ぬううううん!!」
しかしゴットハルトは数メートル吹き飛ばされ、背後の壁にぶつかる前に止まった。
コイツ、化け物かよ……これ結構強力な魔法だぞ。
「この程度か?雑魚が」
その言葉に俺はカチンときてしまった。
「こ、のぉぉ!!《邪神の審……!」
クーラスが空に向けて手を突き出すと、そこに漆黒の球が現れ、その周りを黒い雷が覆っている。
俺は光属性最上級魔法の一つ《神罰》を改造した《邪神の審判》を発動させた。現在俺が使える禁属性魔法の中で最も強力な魔法だ。
本来の《神罰》は周囲にいる人間に対し術者が悪と捉えた人間全てを滅ぼす魔法だがこれは善悪問わず全滅させる。
そんな魔法を使ってしまえば学園どころか王都が消し飛んでしまうだろう。だが——
「うっ!」
漆黒の球は跡形もなく消え失せ、クーラスはその場に崩れ落ちた。
な、なんだ……何が起こった………まさか、奴が何かしたのか…!?
クーラスが倒れたままゴットハルトを睨む。
「………禁属性魔法は、術者の思うがままに使える魔法、いわゆる"禁呪"ともいえる代物だ。そんな強力すぎる魔法を連発すればあっという間に魔力切れになる」
そうか……魔力切れか……俺としたことが………
このまま俺は、奴に殺されるのだろうか。はは、せっかく異世界に転生して好き放題できると思ったんだがな……昨日、アイツらをボコボコにできたのが唯一満足いく結果か………シャロン
俺は薄れる意識の中、シャロンや家族の姿を見た。これが走馬灯というやつか……最期に、アイツと話がしたかったな………
そこで俺の意識は途切れた。
「……っ」
「気がついた?」
目が覚めたとき、視界に入ったのは白い天井と見覚えのある女性の顔だった。
あの後、どうなったんだ?俺は……生きてる?
「まだ無理しちゃダメよ、魔力が枯渇してるんだから」
俺が起き上がろうとするのを優しくその女性は制した。確かに少し動くだけで頭がふらりとして意識が落ちそうになる。
「俺は……どのくらい寝て……」
「1時間くらい、かしら。ゴットハルト先生があなたを医務室に運んできてから大体そのくらいの時間が経ってるわ」
奴が俺を?なぜそんなことを、奴は何がしたかったんだ?
「一応、魔力の方は先生のを少し分け与えたけど少なくとも3日は中級以上の魔法を使ってはダメよ」
「………はい」
その時医務室にゴットハルトが入ってきた。
「カレン先生、ヴィルヘルムの様子は——目覚めたか」
ああどこかで見たことあると思ったら、この先生、魔法の試験の時の試験官か。
「一応意識の方は戻りました。あまり無茶をさせないでください」
「それは申し訳ない、少し確かめなければいけなかったもので」
確かめなければいけないことか、それは俺がどうやって禁属性魔法を使えるようになったか、だろう。
「ヴィルヘルム、この後時間はあるか?」
「………なんですか?」
俺は不服そうに起き上がりながらそう答えた。
「話の続きだ。なに、さっきみたいに斬りつけたりせん」
『斬りつけたり』はしないということは殴ったりはするのだろう?結局は同じことじゃないか。
「その目は疑ってるな、大丈夫だ。カレン先生も同伴する」
「ちょ、勝手に決めないでください」
「………わかりました」
クーラスはカレンの方を見た後少し間をおいてそう答えた。