4話 魔法の勉強
「ね、ね、クーラス」
「ん、なに?」
「あそぼ」
部屋につくと、シャロンが袖を引っ張ってきて遊びたがっていた。いつも彼女がウチにくると一緒におままごとなどをしていたから、いつものように遊びたいのだろう、だが今日はそういうことはしない。
「なぁシャロン、今日は別のことしよう」
「別のこと?」
「これ」
俺は書斎にあった『魔術の書』を取り出した。この本にはこの世界に存在する全ての魔法が載っており攻撃や治癒などはもちろん、初級魔法から禁属性まで載っている優れものだ。両親の目を盗んで部屋に隠し持ってきたのだ。
「それでなにするの?」
「魔法の勉強」
「魔法!?魔法やるの!?」
目を輝かせながらシャロンは興奮していた。
「静かに、スヴェンが起きちゃうから」
「あ、ごめん…」
スヴェンは最近生まれた俺の弟だ。前世じゃ俺に兄弟なんていなかったし新鮮味を感じる。何より家族が増えるのは賑やかになりそうでいい。
「大丈夫だよ、じゃあ最初は——」
早速本を開いたがそこで俺はあることに気がついた。
「…えーっと」
「それなんて読むの?」
内容がほとんど読めなかった。クソ、完全に盲点だった。普段から言葉を聞いたり話したりして理解をしているつもりだったが、この世界の文字を見ることがなく内容が理解できなかった。
「ごめん、僕も読めない…」
「え、じゃあ魔法は…?」
せっかく魔法が使えると思ったのに、という表情になり泣きそうになったシャロンを見て俺は慌てて
「あ、でも絵があるからそれでなんとなくわかるから大丈夫だよ!…多分」
「じゃあ早速やろ!やろ!」
シャロンは本当に魔法が好きなんだな
「えーと、それじゃあさっき母さんがやってた火のやつを」
まずは唯一方法がわかっている火の魔法を使ってみることにした。
「たしか『えいしょう』?ていうのをするんだったよね」
「えーと確か『魔力よ、我が手に集い一筋の炎となれ』!」
詠唱をした途端、手に身体中から何かが流れて行くのを感じた。
ボウッ
手に流れ着いたと思った途端、掌に拳大サイズの火が灯った。
「おお!やった成功だ!」
思わず俺は大声を出して、魔法が使えたことに喜んだ。
「クーラスすごーい!」
「シャロンもやってみて」
「うん!『まりょくよわがてにつどいひとすじのほのおとなれ』!」
シャロンが続いて詠唱するも、掌にはなにも出なかった。
「え、なんで出ないの…」
火が出なかったことにシャロンは落ち込み、また泣きそうになる。
「詠唱したとき身体中からなにか流れて手に集まらかった?」
「うん、流れたよ。でも集まらなかった」
となると身体中に流れたアレは魔力なのか、それを一箇所に集めて放出すると魔法が発動する仕組みなのかな?
「今度は手に集まるように意識してみて」
「うん、『まりょくよわがてにつどいひとすじのほのおとなれ』!」
ポッ
今度はちゃんと掌に火が灯った。やはり意識的に魔力を集中させることで発動するのだな。
「あ、やった!私も使えた!」
魔法が使えたことにシャロンは歓喜の声をあげた。だが一つ疑問に思ったことがある。
「シャロンの火、小さかったな」
「うん、でも使えたから嬉しい」
先程シャロンが出した火は俺が出したの半分以下の大きさだった。個人差もあるだろうが初めて魔法を使ったにしてはここまで差があるものなのか?
「…イメージか?」
先程母は無詠唱はイメージだけで出す、と言っていた。となると詠唱でも火をイメージする必要があるのだろうか。
「イメージ?」
「なぁシャロン、さっき詠唱してる時何を考えてた?」
「えーと、身体中に流れてるのを手に集めようとしてた」
なるほど、つまり魔力を手に集中させようということに頭がいっぱいで火のイメージをしていなったため小さかった、てことか
「シャロン、今度は火が燃えてるのをイメージしながら詠唱してみて、手に集めることを忘れずに」
「えー難しいよ」
「大丈夫、シャロンならできるよ」
「わかった、やってみる。『まりょくよわがてにつどいひとすじのほのおとなれ』!」
ボオウッ
シャロンの掌からは、先程とは比べ物にならないくらい大きな火が出た。
「うわっ」
「きゃあっ」
思わず俺らは2人とも驚き、尻餅をついた。イメージするだけでここまで大きくなるものなのか?
「なにこれすごーい!大きい火が出たー!」
歓喜の声をあげるシャロンを横目に俺は試してみることにした。
「『魔力よ、我が手に集い一筋の炎となれ』!」
俺は頭の中で女性キャラが十字架に架けられて火炙りにされる様子をイメージしながら、詠唱をした。
ゴオオオッ
「うわぁ!」
「きゃあ!」
その瞬間、掌からは先程シャロンが出した火よりも、さらに大きな火が出た。だがあまりに大きすぎたのか火は天井にまで届き、燃え移ってしまった。
パチパチパチ
「ク、クーラス!逃げよ!」
「あ、ああ」
クソ!どうすればいい。このまま逃げたら家が火事になってしまう、そうしたら親に二度と魔法を使わせてもらえなくなってしまうぞ!
「そ、そうだ!」
名案を思いつき、俺は部屋から出るのをやめ燃える火の方へと目をやった。
「クーラス!逃げようよ!」
これに賭けるしかない、魔法で水を出して火を消すのだ。だが詠唱を知らないうえに使ってるのも見たことがない、無詠唱でいけるのか?いや、やるしかない!
「うおおお!いっけえ!!」
ザバァ!
クーラスの手から水流が放出され、それは一直線に炎へと向かい、無事鎮火した。被害は天井が少し焦げた程度で済んだ。
「ハァハァ、なんとか消せた」
「……」
なんとか火を消して、肩で息をしているとシャロンが黙ってこちらを見ていた。
「どうした?シャロン」
「ねぇねぇ!今『えいしょう』しないで水出なかった!?」
あ、確かに夢中になって気がつかなかったが無詠唱で水を出すことができていた。
「クーラスすごーい!どうやったの!?」
「あーいや、無意識だったからよくわか……」
待てよ、さっきは火を消そうと夢中で頭の中は水のイメージでいっぱいだったな、となると無詠唱で魔法を使うためには……
「頭の中を水のイメージでいっぱいにしてたらなんか使えた」
「ほんと!?じゃあやってみよ!」
そう言ってシャロンは手を前に出して魔法を使おうとした。待て、こんなところで使ったら水浸しになってしまうぞ。すでに先程使った魔法で部屋が水浸しになっていた。
「いや待て、どうせ使うなら別の魔法にしないか?」
「別の魔法?」
「そうだな……」
ふむ、周りに被害を与えずかつ簡単に発動できる魔法か。適当に魔術の書をパラパラとめくっているとあるページに目が止まった。
「これなんかどうかな」
俺が開いたのは光属性と思われるページで、人が両手を前に出して光の球を作り出している絵が載っていた。
「これなーに?」
「多分光属性の球を作る魔法だと思う」
「やってみる!」
シャロンは絵の通りに両手を前に出し、集中し始めた。
「光……光……!」
ポンッ
おお、シャロンも無詠唱で使えたか、もしかして無詠唱てコツさえ掴めれば誰にでも使えるんじゃないのか?まぁ今はそんなことより、シャロンの出した光の球はなんというか、魔術の書の絵よりも随分とまぁ……小さかった。
「つ……使えた…けど……ふわぁ、なんだか眠い……」
「ふわぁ……俺も眠くなってきた」
シャロンが欠伸をするのを見て、釣られて俺も欠伸をした。これだけ魔法を使ったんだ、当然魔力も消費してるはず
「……お昼寝しようか」
「うん…」
そう言って俺らはその場で横になって目を閉じた。疲れていたせいか目を閉じた途端すぐに眠ってしまった。