37話 玩具に飽きる
相変わらず呻き声しかあげることのできない『ソレ』らに対し、グロリアは暴言を吐き捨てクーラスを睨みつけた。
まだまだやる気があるようだな。それでいい、お前はどのようにしてやろうか。テミス以上の目にあわせてやるのも一興だが、アクリーナの受けた仕打ちを全て味あわせようか。
「まずは、そうだな」
そう言って俺は一瞬でグロリアに迫り顔面を鷲掴みにした。
「なっ!」
「《記憶抽出》」
任意の相手の記憶を覗く闇属性の上級魔法、クーラスの頭の中にグロリアのすべての記憶が流れ込んでくる。
「ふむ」
「カハッ、な、何をっ!」
クーラスが手を離した瞬間、グロリアは剣を彼に剣を向けた。クーラスは物怖じもせず彼女に屑を見るような目で見て、はぁとため息をついた。
「…あの親にしてコイツあり、か……ほんっとう救いようがねえな……」
俺は呆れたようにそう呟いた。しかしまぁコイツもある意味、被害者といえば被害者と言えるな。だが、そう呼ぶにはコイツは罪を重ねすぎだ。
「何をブツブツと!このっ!」
グロリアは剣を首めがけて振った。クーラスは防御することなくそのまま受け止め、その瞬間、剣は激しい金属音とともに砕け散った。
「くっ!」
剣が砕けグロリアはとっさにクーラスから距離を取る。剣も魔法も通用しないこんな化け物に、どうすれば勝てるのか、グロリアは思考を巡らせた。
「《火炎矢》」
「きゃっ!?」
その隙をついて、俺は無数の炎の矢をグロリアに向けて放った。
「くっ!」
グロリアに火炎矢が当たった瞬間、激しい音と共に煙が上がる。
だが、確実に当たったと思った火炎矢は跳ね返りクーラスに向かっていった。さらに威力も上がっていた。
「っ!」
「喰らいなさい、バイルシュミット家に伝わる《魔法強反射》ですわ!」
クーラスは驚きと咄嗟のことで魔法を発動させることができなかった。
「ぎゃあああ!」
魔法が跳ね返り当たった瞬間悲鳴が上がった。グロリアはそれを聞き勝利を一瞬確信したが、すぐに違和感に気づいた。
この声は、あの男のものではないと。
「ふう、危ねえ危ねえ」
砂煙が舞う中からあの男の声が聞こえる。では、先ほどの悲鳴は誰のものなのか?その答えはすぐにわかった。
「あ……ぐ……ご、ごろじ…で……」
クーラスは近くに倒れていた信者を盾にし攻撃を防いでいた。
盾にされた彼女は両腕がなく、覆って防ぐこともできず全てが直撃し顔面は焼け爛れ、衣服は燃えて皮膚が露出し火傷を負い、酷い有様になっていた。
「な、な、な……」
「おいグロリアぁ、コイツらのこと役立たずとか言ってたけどよ、ちゃーんと役に立ったぜ?『盾』としてなぁ!」
「こ、この卑怯者ッ!!」
「クックック、『酷い面だな。お前、生きてる価値無い』んじゃねえの?」
俺は『盾』に向かってそう言った後、投げ捨てた。
「あぎっ……あぁ…う……」
ソレは唸りながらゆっくりと涙を流した。自分のしたこと、言ったことを後悔しているように見えた。
俺が言ったことはグロリアの記憶を覗いた時にソレがアクリーナに対して言ったことをそのまま言っただけだ。
だがソレが反省しようとしまいが俺にはどうでもいいことだ、今はグロリアに集中しよう。
「さて、と」
「あぐぁ!?」
俺はグロリアに詰め寄り腹にパンチした。
「あがっ……はっ……」
突然のことにグロリアはただその場に崩れ落ち、涙と涎を垂れ流し苦しんだ。
「『何勝手に休んでるんだ。まだ始めたばかりだろう』そらっ!」
「ごほぁっ!?」
今度はグロリアがかつてアクリーナに言った台詞を言い、続けて2回、3回とグロリアの腹に一撃を加え続けた。その度にボチュン、と音がなり同時に鳴き声もあげるので楽しい。
「ごっ、ゲエェェ……」
何十発と叩き込んだ後、グロリアは本日2度目の嘔吐をした。最初の時点でもう吐くものなんて無くなったと思ってたんだがな。
「も、ゆっ……ゆるじ……で……」
グロリアは腹を抑え、涙や吐瀉物を垂れ流しながらそう懇願してきた。
許すかどうかなんて俺には関係のないことだ。けどいい加減、相手にするのも飽きてきたな。グロリアだけでなく屑共5人も相手にしたんだからな。
「な、なんっ……でも……じまず……がら……おねがっ……」
なんでもする、か。さっきテミスも言っていたセリフだな。
「やっぱ殺そうかな」
もちろん冗談だ。ゴットハルトからは殺すなと言われているし、学園内で殺人起こしてトラブルなんてごめんだ、家族にも迷惑はかけたくないしな。
それにこれはただの遊びだ、本当に憎い相手を殺して楽になんてさせるわけがない。
この冗談に対し、グロリアは本気で捉え、必死になって懇願してきた。
「おねがっ…!ころざないでぐだざっ!わ、わだぐじが……彼女にしでぎだごど、全部謝罪しまずわ……」
おやおや、貴族ともあろうものが頭を地面につけるなんて、実に滑稽だなぁ。ま、もう相手すんのも飽きたしもう帰るか。
「じゃ、俺もう帰るわ。とりあえず今後一切、俺らに関わるな」
俺はそう言った後、空間にかけた|《不死化》と《逃走不可》を解除して屑共に再生魔法をかけた。全員の手足は元どおりくっつき、眼も綺麗に戻った。
だが衣服や防具は粉々になった状態のままで、火傷や骨折などの怪我はそのままである。そのため腕や足は繋がってはいるもあらぬ方向に曲がっていた。
周囲には血だまりや吐瀉物が溜まり、この惨劇を確かに知らしめていた。
「あとは自力でなんとかしろよ」
そう言って俺はその場を立ち去る。最後に無詠唱で全員に魔法をかけた後に。
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「ふぁ〜あ」
自分の部屋に着くと同時に俺はベッドに倒れこんだ。
あぁ疲れた、あんだけ強力な魔法を使ったのだ、魔力消費が半端じゃない。このまま眠ってしまおうか、そんなことを考えながら意識が段々と落ちていく。
その時ドアが勢いよく開かれ、同時に意識が現実へと戻された。
「んー、なん……」
「クーラス!!」
「うわっぷ!」
眠い目をこすりながら起き上がると勢いよくシャロンが飛びついてきた。
「え、シャ、シャロン?」
「体は大丈夫なの!?怪我はないの!?」
シャロンは取り乱したように涙目でそう捲し立て、俺の体をあちこちと触る。
「とりあえず落ち着け、俺はどこも怪我してないし大丈夫だよ」
俺は冷静にそう答えた。一体どうしたというのだ。ここまでシャロンが取り乱すなんて何があったのか
「よ、よかったよぉ!」
「シャ、シャロン!」
どこも怪我をしていないと分かった途端、シャロンはクーラスに抱きつき声を上げて泣き出した。
さっきから目の前の出来事に頭が追いつかずクーラスは混乱していた。
と、とりあえずシャロンを落ち着かせよう。
俺はシャロンの頭を撫で小さな子供をあやすように落ち着かせた。