35話 壊される絆
「さて……ん?」
俺は残りを相手しようと周囲を見渡した。しかしどこにも姿が見当たらなかった。
グロリアは、傷が塞がってる以外は変わらず倒れてたままだ。結界の外に出られるわけがないし、姿を消す魔法でも使っているのか?
そこで《索敵》を使って周囲を見てみた。だがそれにも引っかかることはなかった。念のため結界の外、学園中に範囲を広げても姿は全く見当たらない。
魔力を探知する魔法にも引っかからないってことは……
「………隠蔽魔法か?」
確か魔術の書にも載っていた。魔力を隠蔽して姿を消す魔法だ、これなら目に見えることもないし《索敵》にも引っかからない。
「フン」
俺は鼻で笑い、結界の中全てに向けて魔力を放った。
「《隠蔽破壊》」
詠唱した瞬間、端っこで手を取り合いながら小さく縮こまっている残りの2人の姿を捉えた。
2人はギュッと目を閉じて震えていたので隠蔽が解除されたことに気がついていない様子だ。
俺はそいつらの近くまで歩いて行き、わざと気がついていないふりをした。
「チッ、どこ行った」
すると2人は目を開けてこちらを一瞬見た。俺はその様子を見ながら目の前を通り過ぎた。
2人は俺が目の前を通る間ガタガタと震えながら心から祈るように目をギュッと瞑った。
クーラスが通り過ぎると2人はホッとしたように胸をなでおろした。その瞬間、2人の目の前の地面に剣が突き刺さった。
「そんなんで隠れたつもりか?」
「!?」
俺は2人の目の前に立ち、そう言った。すると2人はビクッと体を震わせこちらを見た。
「な……なん……で…」
「っ!い、隠蔽が……!」
「ハッ!こんなんで欺こうとは考えが浅はかなんだよ」
鼻で笑いながらそう言うと、ますます強く手を繋いでガタガタと震え、青い顔をして泣きながら許しを請うた。
「い、いやああ……」
「お、お願い、やめてぇ……」
さて、残すのは青髪ロングと茶髪ミディアムショートの2人とグロリアだけだ。
それにしてもこの2人、今も隠蔽で隠れていた時も、手を繋いでいたな。グロリアの元に真っ先に駆けつけたのもコイツらだったな。
コイツらは仲が良いのだろう。クックック、これならより一層楽しむことができそうだ。
「あの子のことは謝るからぁ……」
「謝る相手が違うだろう?」
もっとも、アクリーナがいたところでやめるつもりはないがな。俺はやりたいことをしているだけだ。
「うぅ……お願いよぉ…なんでもするから……」
「ほう?その言葉、嘘じゃないな」
「ほんとよぉ……」
俺はそう言った茶髪の方の胸ぐらを掴み引き寄せた。
「ひぃ!!や、やめてぇ!!」
「名は?」
「……え?」
「お前の名は?」
唐突に名前を聞かれ茶髪は呆気にとられていたがすぐに自分の名前を口にした。
「テ、テミス……テミス=ヴォルシア……」
「よし」
「きゃっ!」
テミスから手を放すと彼女は倒れた。そしてそのまま地面に剣を突き刺す。
「そいつを刺せ」
「……え?」
刺せ?何を?その剣で?どうするの?
テミスには言葉の意味がわからなかった。
否、理解したくなかった。この男は、指を指している。その先には……
「ひっ…い、いやぁぁぁ!」
親友が、いた。
「コイツを刺せばお前の命は助けてやる」
「い、嫌ぁ!!や、やめて放してぇ!!」
青髪の少女、サラ=テュルクは必死に懇願する。当然だ、あんなものが突き刺さったら死ぬかもしれない。
俺は逃げられないよう魔法で足を拘束していた。
「あ……ぅ……あ……」
テミスは呆然と立ち尽くし、何も考えられなかった。
「なんでもするんだろう?テミス」
「い……わ、私は……」
「嫌なら別にいいぞ。それなら俺が2人一緒にやってやるから」
やらなければ自分も殺される、だがそのために親友を殺すなんてしたくない。
「テ、テミス……わ、私たち親友でしょ……?お願いだから……や、やめて?」
「う……うぅぅ……」
色々な思いがテミスの中で渦巻いていた。
「いつまで時間をかけるつもりだ?早くしろ」
俺はテミスに向かって魔力を放ち、少しばかり脅した。
「ひぃっ!」
悲鳴をあげた後、テミスはサラの方を向いて俯いた。
「サ、サラ……」
「うん…?」
「……ごめんね」
そう言ってテミスは大粒の涙を流しながら刺さっていた剣を抜いてサラに向けて構えた。
テミスの体はガタガタと震え、本能による抵抗が感じられた。
「う……嘘でしょ!?ねぇお願い!!テミス!!やめて!!」
「ごめんねサラ……わ、私……まだ死にたく、ないから……」
そう言いながらゆっくりとサラへと近づいて行く。
たまらないなぁ、親友同士の片方をもう1人が殺すこのシチュ、すっげぇ興奮する。リアルでこんなことができるなんてなぁ。
クーラスは口元を押さえながらニヤケが止まらなかった。そのため集中が途切れ、サラの拘束魔法が緩まった。
「!拘束が……!」
拘束が緩み、サラはその場からすぐ逃げ出そうとした。
「おっと」
「えっ、きゃっ!?」
俺は《結合崩壊》を発動させサラの足首を切断して逃げられないようにした。
危ない危ない、うっかり逃げられそうになった。ま、逃げたところでこの結界の外へ出ることはできないし無駄なことだけどな。
「いっ……いだぁぁぁぁぁ!!!いだいいだいぃぃぃぃ!!足がぁぁぁぁ!!!」
「これでもう逃げられないぞ。さて、テミス」
「う、うぅぅ……」
「お願い!!やめでぇ!」
さて、いい加減この2人のやり取りばかり見ていてもつまらん、さっさとグロリアの相手をしたいものだ。未だに躊躇しているのを見ると恐怖よりもまだサラへの気持ちが勝ってるようだな。少し手伝ってやるとしよう。
俺は《操り人形》を発動させ、テミスの体を動かした。
「へ、か、体が……!」
「ヒィ!?テ、テミ……!」
その瞬間、グサリとテミスの剣がサラの胸を貫いた。
「がっ……テ、テミ……ス……」
サラは吐血しながらテミスの名を呟き、意識を失ってバタリと倒れた。意識を失う瞬間、サラの目からは一筋の涙が流れ、最後まで親友のことを想っていたのだろう。
「あ、あぁ……う、うわぁぁぁぁ!!」
剣から手を離し、カランと地面に落ちた。その瞬間絶叫とも呼べるテミスの泣き叫ぶ声が周囲に響き渡った。
うーむ、前菜としては素晴らしいものだったな。むしろメインディッシュといってもいいくらいだ。
さて、そろそろ終わらせるか。
「うぅっ…ひぐっ……ごめんね…ごめんね……」
「テミス」
「なん……っ!」
俺は背後からテミスの右腕を切り落とした。
「あ、あ、あああぁぁぁぁ!!!いだいぃぃぃぃ!!」
「動くな、斬れないだろう」
「なんでぇ!だずげるっで言っだじゃないぃぃぃ!!」
クックック、上手い具合に勘違いしてくれたようだな。
「ああ言ったぞ。『命は』助けてやると」
「ひぎっ!ま、まざが……」
テミスの顔が青くなる。
「安心しろ、殺さない程度に痛めつけてやるから」
俺は満面の笑みでテミスにそう言った。
「い、いやああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
周囲にテミスの大絶叫が響いた。