表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第一章 学園生活編
33/119

31話 アクリーナの過去




全ての試合と授業が終了し、俺らは教室へと戻る。しかし先に戻っているはずのグロリア達の姿はなかった。


大方、訓練場で何かしらの仕込みでもしているのだろう。ま、どんなことをしてこようが俺には通用しない。


そんなことを考えているとシャロンが話しかけてきた。



「ねえクーラス」


「なんだ?」


「さっき首に剣が当たった時、なんで剣の方が砕けたの?」


「ああそれは、身体強化と付与魔法の応用だ」


「付与魔法の?」


「いつも剣には《硬化》や《強靭》を付与して強度を上げているだろう?それを自分の身体にもできないかと思ってやってみたんだ。そうしたら上手くいった感じだ」



強化系魔法のように身体中に魔力を這わせただけなんだが、意外にも簡単にできるものだな。《身体"硬"化》とでも名付けるか。



「ね、ねえクーラス……」


「どうしたアクリーナ?」


「さっきの試合……グロリアは本気じゃなかった……」



アクリーナはとても不安げな表情を浮かべそう言った。



やはりそうか、グロリアは昨日今日と随分と余裕ぶった様子だった。自分は貴族で権力もある、剣も訓練も受けているし無詠唱で魔法を使える。


こんなにも恵まれている自分がまさか平民なんかに負けるわけがないという決めつけからくる全く根拠のない自信があったからだろう。


それに、信者による妨害もあったしな。



「本当に……今度こそ本気できたら……」



アクリーナは震えながらそう言った。ここまで怯える様子を見ると、おそらく以前奴の本気になった姿を見たのだろう。


俺は以前から気になっていたことをアクリーナに聞いてみることにした。



「……なぁアクリーナ」


「な、なに……?」


「アイツから……グロリアからいつから嫌がらせを受けてるんだ?」


「っ!」



アクリーナは大きく身体を震わせ俯いた。



「すまん、答えたくなかったらいい。嫌なこと聞いたな……」


「う、ううん。大丈夫……私、話すから……」



そう言ってアクリーナはゆっくりと話してくれた。



グロリアとは中等学園という同じ王都にある学園で、前世でいう中学校にあたる学校に入った時に出会ったという。



その頃からアクリーナは朱眼の一族ということで周囲から距離を置かれていたものの、特に嫌がらせを受けるということはなかった。



しかし、中等学園に入ってグロリアと知り合うと彼女とその取り巻きから見た目が気持ち悪い、という理由だけで壮絶なイジメを受けたという。



その内容は本当に酷いもので、思わず耳を塞ぎたくなるようなものだった。



毎日毎日彼女らから浴びせられる悪口、暴力、中傷、それだけならまだしも詠唱改変による威力の確認のための的にされたこともあるという。



身体的に受けた傷は治癒魔法で全て完治しているから痕などは残ってはいないらしい。だが、心に負った傷は言葉で言い表せないくらい深く残っているのは話を聞いてよくわかる。



そこまでされていながら、何故学校を辞めなかったのか。その理由は一族にあったという。



ただでさえ魔力のない眼を持ち、忌子として一族からも忌み嫌われている存在が学校を辞めたとなれば「学校にさえ通うことのできない出来損ないはいらない」と殺される可能性があったからだという。



それを、父親に言われたらしい。自分の子供に殺すだなんてよく言えるものだ。



ここまで一族から嫌われる存在がなぜこうして生きていられるのか。生まれた時点で殺されることはなかったのか、それは母親が自分を庇ってくれたのだとアクリーナは言った。



アクリーナの母親は一族の中でも珍しい『先祖返り』と呼ばれる体質を持っており、非常に強い魔力を持っていた。そんな者に言われれば一族も渋々了承せざるを得なかっただろう。



ところがその強い力の代償か、アクリーナが生まれてから5年経った頃、己の強い魔力に身体が耐えられなくなり段々と弱っていき、そして亡くなったとのこと。



そしてアクリーナの右眼、本来ならば魔力の宿っていないただの朱眼だが母親が亡くなる間際に、宿してくれたのだという。



話が逸れてしまったがそんな嫌がらせを受けていたアクリーナを庇った人が俺ら以外にもいたらしい。しかしそうやって庇った人は皆、グロリアの剣の腕や無詠唱、詠唱改変を前にやられたのだという。



そうやってアクリーナの周りからは誰もいなくなってしまった。




「………」



アクリーナは全てを話し終えると黙って俯いてしまった。当然だろう、思い出したくもないことを思い出したのだから。



「…アクリーナ」



シャロンはそっと彼女を抱擁した。



「今まで、辛かったんだね。もう大丈夫だよ、私たちは、絶対離れないから」



俯いたまま、黙ってしまったアクリーナにシャロンはそう言うと、地面に水滴が落ちた。



「……ぅう……あああ」



その言葉を受け、アクリーナは声を上げて泣き出した。ようやく、自分のことを受けてくれる人ができた。自分から離れないと言ってくれた。



「よしよし」



シャロンは子供をなだめるようにアクリーナの頭を撫でる。



とりあえずアクリーナのことはシャロンに任せておけばいいだろう。



さて、これで情状酌量の余地は無くなったな。徹底的にやってやる。色々と準備をしなければな、ああ、早く放課後にならねえかな、楽しみだ。



クーラスは不気味な笑みを浮かべながら寮へと戻って行った。






放課後になり俺が訓練場に足を運ぶと、すでにグロリア達が来ていた。グロリアの鼻は先ほどと違って綺麗に治っているようだった。信者共から治癒魔法をかけてもらったよだろう。



「逃げずに来たようですわね」


「そっちこそ負けるのが怖くて来ないかと思ってたぜ」



俺はそう言ってグロリアの装備を見た。すると奴の装備は授業の時と違っていた。剣は刃の潰された訓練用のではなく自前のものらしく、刃がかなり鋭く銀色に輝いていた。



「なんだその剣は、まさかそれを使うつもりか?」


「そうですわよ、これは授業ではありませんのでルールに従う必要はありませんもの」


「へえ、だったら俺からも1つ提案がある」


「何ですの?」


「ここには今俺らしかいないだろう?そちらから1人審判をやってくれ、判断は全てそいつに任せる」


「……わかりましたわ」



俺がそう言うとグロリアは一瞬黙った後、何かを企んだような表情をして承諾した。



「では、グロリア様。私が審判を務めますわ」


「ええ、頼みましたわよ(・・・・・・・)


「はい、お任せください(・・・・・・・)グロリア様」



そう言って審判役の信者が俺らの間に移動した。俺は空間収納から剣を取り出す。これは訓練用のものではなく、鍛冶屋で購入した正真正銘の真剣だ。



2人は授業のように剣を構え睨み合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ