29話 アクリーナの実力
自分の部屋の前に着くと、ドアに剣が立てかけられていた。
これが明日の授業で使う剣か、刃は潰されているが中々頑丈だ。これでぶん殴られりゃ死ぬだろう、素材は鉄ではなさそうだ。
「明日が楽しみだ」
クーラスはそう言って防具や剣に魔法を付与していった。
次の日、俺らは教室ではなく外の訓練場へと集まった。昨日シャロン達と訪れた施設の方ではなく実際に戦闘を行うために整備された場所だ。
「ではこれより実戦訓練を行う!3組ずつ前へ出ろ!」
訓練場は最大で3試合同時に行えるようになっており、万一に備えてそれぞれ結界が張られて魔法が暴発しても外に被害が及ばないようになっている。
そういえばルールで言われていないがあの枠を出ても負けになるのかな?
ちょうどその時、ゴットハルトがそれについての説明をした。
「昨日エマ先生の配った詳細について書かれてなかったことが1つある。あの結界の外に出たらその時点で負けだ。だがAクラスであるお前らがそんなヘマなんてするわけないよな?」
いちいち鼻につく言い方をするな、言われなくとも俺がこんな奴を相手に逃げるわけがない。
さて3組ずつか、クラスは全員で20人いるわけだから必然的に1組余る。グロリアのことだ。自分の力を見せつけるために最後に出る気でいるだろう。
俺は視線をグロリア達の方に向けながらそんなことを考えていた。
そのクソ高えプライド、粉々にへし折って吠え面かかせてやる。
どうブチのめしてやろうか、そんなことを考えているとシャロンとアクリーナのペアが前へ出た。
「第1試合、始め!」
ゴットハルトの合図で3組一斉に始まった。待機してる人間はそれぞれ気になるところに集まって声援などを送っている。
グロリア信者もちょうど試合らしく、そちらの方には結構な人数が集まって盛り上がっていた。シャロン達のところには俺以外に数人しかいなかった。
「いくよ、アクリーナ」
「……うん」
シャロンがアクリーナに向かって剣を構えながら走っていく。それをアクリーナは頭上に剣を構え、受け止め——
「きゃあ!」
——られず衝撃で尻餅をついた。
「だ、大丈夫!?」
「へ、平気」
そう言ってアクリーナは立って剣を構え直す。
確かアクリーナはグロリアよりも順位は上とはいえ剣術の成績は低かったな、剣とか体術といったものは苦手みたいだな。
その様子を見ていた他のクラスメイトはやっぱり忌子がどうたらと話しているのが聞こえた。アクリーナ達には聞こえていないようだがやはり不快だ。
「『我が眼に宿りし魔力よ、その力を示せ』、ブラッドスピア!」
アクリーナは以前よりも少し短い詠唱をすると、彼女の右眼に魔法陣が現れ、そこから赤い槍がシャロンに向かって飛ぶ。
「っ!」
シャロンは咄嗟のことで一瞬反応が遅れたがすぐさま防御魔法を発動し、そこに槍が当たる。
その瞬間、槍は魔力を霧散しながら弱まるが消滅せずそのままシャロンへ向かって防具へと当たる。槍は再び魔力を霧散して今度こそ消滅した。
その様子を見ていたクーラス含む観客は皆驚いた。
「な、なんだ今の」
「防御魔法を貫いたよな…?」
「アイツ、すげえ」
まさか防御魔法を貫くとは、アクリーナの実力は俺が思ってる以上にあるのだろう。
「アクリーナの魔法すごいね!」
「い、いやそんなことないよ」
「それじゃあ今度はこっちの番!」
そう言ってシャロンは剣から片手を離しアクリーナに向けて水属性の中級魔法《アイスニードル》を散弾状に撃ち放った。
「きゃっ」
無詠唱で放たれ、運動があまり得意ではないアクリーナは咄嗟のことで対処が遅れたのと、シャロンの放った魔法が早く、直撃した。
「ア、アクリーナ!」
シャロンは自分の放った魔法が当たるとは思っていなく、アクリーナを心配する声を上げた。
「……痛たた、ちょっと反応が遅れちゃった」
しかしアクリーナは多少攻撃が当たって頰から血が出ていたが、防御魔法を展開してほとんど防いでいた。
「やるじゃない、シャロン」
「ア、アクリーナ。血が……」
「平気よ、このくらい」
防御の際に詠唱した素ぶりはなったな、なるほど、アクリーナも無詠唱で魔法を使えるのか。攻撃系は詠唱魔法————いや、アレは詠唱改変か?
まあいい、どのみち魔法の腕は確かなようだ。レベルの高い戦いが見れそうだ。
片膝をついていたアクリーナは剣を置いて立ち上がり、すぐシャロンに向けて魔法を放つ。それに対抗するようにシャロンも防御を展開しながら魔法を放つ。
2人の様子を見ていた観客は先ほどまでと見る目が違い、興奮した様子で見ていた。さらに声援も送られるようになっていた。
「すげぇ!無詠唱同士の対戦が見られるなんて!」
「2人とも魔法のレベルが高え!」
「いいぞー!頑張れー!」
声援を聞きつけ他のペアを観戦していた人間が続々と集まり、そのうちほとんどが観戦していた。
「《ライトニングスピア》!」
「!」
シャロンから光の槍が放たれ、それをアクリーナが軽々受け止めた。するとアクリーナはシャロンをキッと見つめ、右眼が禍々しく光ったと思うと
「ふ……え…?」
シャロンはその場にぺたんとへたり込んだ。
「それまで!勝者アクリーナ=アルデバラン!」
その時ゴットハルトの声が響き、試合が終わる。それと同時に歓声も上がった。
「な、なんだ今のは……」
「眼が光ったと思ったら、急に倒れたよな……?」
何人か最後のアクリーナのことについて話している。俺も気になったが、それよりもシャロンの身が心配だ。
俺はへたり込んで放心状態になっているシャロンの元へと駆け寄った。
「シャロン?」
「ふぇっ!?え、ク、クーラス?」
声をかけるとシャロンは大きく体を震わせ驚いた。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だけど……」
「何があった?」
「アクリーナの、眼を見たら何も考えられなくなって、それで……気がついたら……」
さっきアクリーナの眼が光っていたがそれに何かあるのか?
そんなことを考えながら結界の外へと出て、次の試合が始まるのを待った。
「アクリーナ、ちょっといいか?」
「っ!な、何…?」
俺は前に会った時から気になっていることを聞いてみようとアクリーナに声をかけた。
「お前の眼ってさ……」
「貴方、随分と余裕でいらっしゃるのね」
俺がそう言いかけた時、グロリアが声をかけてきた。
「それはこっちのセリフだ。お前の鼻っ柱をへし折ってやるよ」
「あら、そこまで大言壮語を吐くなんて、本当におめでたい人ですわ。ま、せいぜい醜い姿を晒すがいいですわ」
そう言うとグロリアは鼻につくような笑みを浮かべながら立ち去って行った。
「ほ、本当に……大丈夫…なの……?」
アクリーナはとても心配そうに聞いてきた。
「心配すんな、絶対に勝つ」