28話 証拠
「貴方……こんな、こと…」
咳き込みながら首元を抑えてそう言ってくるのを見て俺は興奮した。そしてそれを抑えながら言った。
「こんなこと?お前らがアクリーナにしてきたことと比べりゃ可愛いもんだろ」
「っ!」
俺がそう言うと取り巻き全員とアクリーナが体をビクッと震わせた。
アクリーナとコイツらの様子からして、おそらく俺らと出会うかなり前からコイツらにやられてたのだろう。
「…まったくどの世界にもいじめってのはあんのかよ」
俺は小さくそう呟き、改めてグロリア達に視線を向けた。
「集団で1人をいじめて楽しいか?まったく貴族様のすることは悪どいな」
俺がそう言うとグロリアが反応した。
「貴方、我がバイルシュミット家を侮辱してただで済むと思ってますの?」
「侮辱?俺はただ事実を言ったまでだが?」
その言葉に取り巻きの1人がキレて杖を取り出した。
「っ!この、平民風情が…!」
入学試験でもグロリアが使っていたな、一体何なんだろうか。
「平民ごときが……」
「後悔させてやるわ」
呼応するように他の取り巻き共も杖を取り出しこちらに向ける。
他のクラスメイト達は不安そうにこちらを見ていたり、距離を取っていた。
それらに対し俺は右手を向けた。向こうがその気なら対抗するまでだ。こんな奴らに俺が負けるわけがない。
「ちょっとお待ちなさい」
緊迫した空気の中それを打ち破ったのはグロリアだった。
「ちょうど明日、授業でクラスメイト同士で戦い合うらしいじゃないですの。その時に決着をつけようじゃありませんの?」
グロリアがそう提案すると、杖を向けていた取り巻き全員が杖を下ろしニヤニヤした表情でこちらを見てきた。
「それがいいですわ、グロリア様」
「ええ、何もこんなところで野蛮でしたわね」
「明日が楽しみですねぇ」
そう言ってグロリア達はその場を後にし教室を出て行った。こちらの同意もなしに決定していたが、こちらとしては都合がいい。
クーラスはグロリア達が教室を出て行くの確認すると教卓の前へと行き、訓練のことが詳しく記載された紙を1枚持ってまた戻る。
「ク、クーラス大丈夫なの…?」
シャロンが心配そうな表情をしてそう言った。
「大丈夫だ。あんな奴らなんか……」
「無茶だよ……」
クーラスの言葉に被せるようにアクリーナが言う。
「グ、グロリアは……小さい頃から元騎士団長である叔父から、剣の指導を受けてて……本当に強いし……」
「大丈夫だ。そこら辺は身体強化とかでカバーできる」
「それに……魔法も無詠唱で使えるし、詠唱改変でいくらでも、威力を上げられるし……」
「問題ない、俺がアイツら程度に負けるわけがない」
「で、でも!」
アクリーナはグロリア達の実力をよく知っている。だからこそクーラスが彼女に挑むことなど無謀としか思えなかった。
「アクリーナ、あとシャロンも、この後時間あるか?」
「あ、うん私は大丈夫だけど……アクリーナは?」
「え、あ、だ……大丈夫、だけど」
俺は2人を連れて訓練場へと向かった。
「ここって……」
「入って大丈夫なの?」
「問題ない、校則に訓練場など施設は自由に使えると書いてあるからな」
「それで、ここで何をするの?」
「シャロン、あそこに見える的に向かって魔法を打ってくれ」
訓練場には試験の時のような人型の的が置かれている。それを使って魔法や剣の訓練を行う。
「う、うん!」
シャロンはそう言うと的に向けて両手を広げ、フラッシュバーストを放った。試験でも使っていた火と光の上級魔法、爆発を起こす魔法だが魔力の量によって爆発の規模が変わる。
結果、的は試験同様に跡形もなく消し炭と化していた。その様子を見ていたアクリーナは眼を見開いて驚いた。
「え、何……これ……シャロン?」
すぐに俺は修復魔法を使い、的を元に戻す。いちいち新しいの用意するのは面倒だ。
「さて、アクリーナ」
「な、何?」
「次は俺が魔法を使うが、俺の方ではなく的の方だけを見ていてくれ」
「え、わ、わかった」
そう言って俺は試験同様に右手を左から右へ一直線に振った。その瞬間、的は音もなく全てが砂と化した。
「……え?」
何が起こったのかわからない様子のアクリーナに俺は声をかける。
「どうだ?」
「い、今の……何が……6属性のどれでも………!」
アクリーナはクーラスの魔法を見た直後、ぶつぶつと言っていた。
そしてその途中でハッとして気がついた。
「ま、まさか……でも……それしか……」
俺はアクリーナの肩をポンと叩き、小さな声で言った。
「アクリーナ、お前の考えてる通りこれは"禁"属性魔法だ」
「っ!」
「それに俺だけじゃなくシャロンも使うことができる」
俺がそう言うとバッとシャロンの方へ向いた。
「ほ、本当に……?」
「うん、他の人には言えないけどね」
「このことは内密に頼むぞ」
「う、うん」
クーラスが改めてアクリーナに向き合う。
「それとさ、気づいてるか?」
「え、何が…?」
「俺ら詠唱してないぞ?」
「……あ!」
アクリーナは言われて初めて気がついた。この2人が魔法を使う際、詠唱をしていなかったことに。クーラスが禁属性魔法を使えることに驚愕し考えもしなかった。
「いくら詠唱改変で威力を調整しようが所詮は詠唱魔法だ。詠唱する時に隙ができるしこれなら勝負は五分五分だろう」
クーラスがそう言うとアクリーナは納得したように頷いた。
「あとこれを見てみろ」
俺はそう言って明日の実戦訓練の詳細が書かれた紙を2人に見せた。そこにはこう書かれていた。
ルール
・魔法か剣を使って戦う
・使用する剣はこちらが用意した通常の剣
・防具などは自前のものを使用すること
・付与魔法などはご自由に
勝敗について
勝敗はどちらかの降参か気絶、もしくは審判が続行不能と判断した場合
アクリーナとシャロンは黙々と目を通していた。
「特にここだ。付与魔法などはご自由にと書かれているだろ?あとはこれを工夫すりゃいけるさ」
俺はそう言って2人の間を抜け寮へと向かった。