閑話2 初めての友達
しばらくしてアクリーナが落ち着きを取り戻した。
「…ごめんなさい、迷惑をかけて」
「大丈夫だよ、こっちこそ迷惑かけちゃってごめんね」
「ううんこちらこそ」
そんなやり取りを5回くらい繰り返し、お互いに笑い合った。この十数分の間に2人して泣いて互いに慰め合い、シャロンは当初の不安などとうに無くなっていた。
「私シャロン、よろしくね」
「あ、わ、私アクリーナ…こちらこそ…これからよろしく…」
アクリーナの様子は相変わらずオドオドとしているが、先ほどよりもシャロンに心を開いたようで顔を見て会話をする。
「アクリーナの眼ってさ」
「!」
「カッコいいよね」
「…え?」
今までこの見た目が気持ち悪い、吐き気がするなど散々蔑まれ、見た目でいいことなど一度もなかった。
急にかけられたことのない言葉をかけられ、アクリーナは戸惑った。
「カッコいい…?」
「うん!」
笑顔でそう答え、アクリーナは一瞬偽装魔法を疑ったがすぐにその考えはなくなった。
「なん、で、そう思うの…?」
「んー、クーラスがそう言ってたから、かな」
「くーらす?」
シャロンは入学試験のこと、一族のこと、クーラスのことをアクリーナに話した。その話の内容は全てクーラスで始まりクーラスで終わっていた。
「それでね、その時クーラスが…」
「も、もうわかったから…」
アクリーナが疲れた顔でそう静する。
「あ、ごめん」
「ふふっ、シャロンってその人が好きなのね」
「ひゃわ!?」
シャロンは赤くなりながら素っ頓狂な声を上げる
「話の中で何度も同じ名前を言ってればわかるもの」
「ふぇ、あ、あ…?」
いきなり指摘され狼狽えていると、シャロンはあることに気がついた。
「やっと笑ったね」
「え?」
先ほどまで暗かった彼女の表情には笑みがこぼれ明るく、雰囲気がまるで違った。
「そっちの方がいいよ」
「そ、そうかな…」
恥ずかしそうに顔を背けるも、その顔は赤くなっていた。
「そ、それより入学式の時間が」
「あ!急がないとね」
2人は急いで支度をして部屋を出ると
「……」
「どうしたの?」
アクリーナが暗い表情になり、またフードを深く被って俯く。
「…ごめん、私…」
「大丈夫だよ、ほら」
そう言ってアクリーナのフードを払った。
「ひっ」
その時別の部屋のドアが開きそこから人が出てきた。
「あら貴方、こんなところで何しているんですの?気持ちが悪い」
「……」
そう言われアクリーナは再びフードを被った。
「ちょ、気持ち悪いって…」
「そちらの貴方も、こんな人外とつるんでたら腐って…いえ、すでにそうでしたわね、そうでなければ同じ部屋になんかなるはずありませんものね」
グロリアは笑いながら2人を愚弄する。それに対して反論しようと口を開こうとした時、入学式の始まる時間が迫っていることに気づいたグロリアが立ち去った。
「 それではごきげんよう」
オホホと笑いながら立ち去る姿を見てシャロンは怒りを覚えたが、式の開始時刻もあるのですぐさまアクリーナの手を引き向かった。
「おい、見ろよアイツ…」
「本当に合格してたんだ」
「そりゃ受かるだろ、なんたってアレなんだし」
「隣の子は誰だ?」
「あんな奴と仲良くするとか物好きもいいところだ」
式の始まるまで周囲からヒソヒソと軽蔑するような声が上がり、シャロンはとても不快な思いをしていた。そんな中アクリーナは俯いたまま黙って耐えていた。
担任紹介になった時、シャロンは絶望した。剣術試験で自分を怒鳴りつけ、クーラスを殴ったあのゴットハルトだったからだ。
試験の時を思い出し、全身は恐怖で震え涙が出そうになる。なぜアレが担任になってしまったのか、とても不運だったとしか思えなかった。
シャロンの頭の中はそんなことでいっぱいになり他のことなど微塵も考えることはなくそのまま式は進行していった。
『それでは以上で第50回ルードルフ学園入学式を終わらせていただきます』
担当の先生がそうアナウンスするとシャロンはハッとなり正気に戻った。
その後すぐ先生が生徒をクラス別に並ばせ始め、シャロンはアクリーナと共にゴットハルトの列へトボトボと歩いていった。その途中、見覚えのある姿を見つけ声をかけながら近づいていった。