26話 入学式
自分の荷物を寮に置いた後、クーラスは入学式のために体育館の方へと向かった。
入学式か、どうせ校長やら来賓やらの話がクソ長いんだろうな、眠らないように意識覚醒とか言って適当に魔法かけとこうか。
そんなことを考えながら歩いていると、シャロンと合流してないことに気がついた。一度寮の方に戻るか?
……いや、どうせクラスは同じなんだし終わった後に教室行きゃいいか。
入学式は案の定校長やら来賓やらの話が無駄に長く、周囲では寝てる人が多かった。内容は前世でも聞いたような挨拶が延々と続いていた。
30分ほどが過ぎた頃、1年の担任の名前が呼ばれて紹介された。最初に俺らのクラス、つまりAクラスの担任の名前が呼ばれた時、俺は驚愕した。
「俺が1年Aクラス担任のゴットハルトだ。入試の時に知った者も多いだろうが俺は男女問わずダラけている者、ナメてかかる奴には容赦はしない、気合いを入れて臨むように!」
ゴットハルトがそう一喝すると、あちこちから不満を漏らす声が聞こえてきた。おそらく剣術試験がゴットハルトだった奴らだろう。
そのまま進行していき、1時間ほどで式は終わった。その後すぐに先生が生徒を集めて並ばせて、各々の教室へと向かう。
俺らのクラス担任、すなわちゴットハルトは他の先生よりもガタイが大きく、すぐに見つかった。並んでいる生徒の中には見覚えのある人が何人かいた、皆剣術試験の試験官がゴットハルトだった者達だ。その全員は共通して気落ちした様子だった。
ところでシャロンは本当にどこにいるんだ?俺が周囲を見渡していると
「あ、クーラスー!」
「!シャロン!」
「……」
ちょうど後ろからシャロンに声をかけられ、ようやく合流できた。彼女の側にはフードを被った女の子が俯いて立っていた。もしかしてこの子は…
「朱眼の…」
「!」
俺がそう言いかけた時、彼女はフードをきゅっと持ち深く被った。
「大丈夫だよ、クーラスは気にしてないから」
「……」
シャロンがそう言うも、彼女はフードを被って俯いたまま動かなかった。こちらからは口しか見えないくらいまで深く被ったフードの奥からはとても暗い表情をしているように見えた。
「えーと、久しぶり…って言った方が正しいかな、覚える?ほら通りでグロリア達に絡まれた時に荷物落としたのを一緒に拾った…」
クーラスがそう言うと、彼女はピクリと反応し、ゆっくりと顔を上げて顔を見た。
「あ…」
「思い出した?あの時は名前を名乗れなかったけど、俺はクーラス=ヴィルヘルム、田舎から出てきたんだ」
「あ、あぅ…えっと…アク、アクリーナ、て言います…」
アクリーナ=アルデバラン、魔法試験の時に体育館の床ごと的を溶かすほどのグロリアよりも高威力な魔法を使い、俺ら同様満点以上の成績を取った。
「そんな緊張しなくて大丈夫だよ、俺は君の見た目なんかちっとも気にならないから」
俺がそう言うとアクリーナは俺に視線を向けてきたがすぐに逸らしてしまった。やはり朱眼の忌子と言われ、長年苦しんできたのだろう。そう簡単に他人に心は開いてはくれないか。