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異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第一章 学園生活編
24/119

24話 入学試験 魔法【下】



「む、無詠唱魔法…!?」



「クーラス、皆何に驚いてるの?」



周囲は無詠唱で魔法を使ったことに驚いているが、俺含めシャロンにとって無詠唱は当たり前のことだったため特に驚きはしなかった。


しかし無詠唱で使えることに、少し考えれば不思議なことではない。アイツみたいに環境に恵まれていれば、小さい頃から鍛錬を積んでいれば無詠唱で使うことなど造作でもないだろう。


けどあの杖は一体なんだ?魔法の威力は詠唱と比べ高かったが威力を上げる効果でもあるのだろうか


バシュバシュバシュ


続けてグロリアが火の玉を放ち的へと当てていった。残り1つ当てればいいとなったところでグロリアは杖を仕舞った。


何をする気だ?最後は杖無しでやるつもりなのか、それなら最初から無詠唱でやればよかったのでは…


俺の予想は外れ、ふふんとグロリアは笑い、的に向かって両手を広げた。



「『闇を照らす紅蓮の焔よ、全てを焼き尽くせ』!」



そう詠唱した瞬間、グロリアの手から巨大な炎が上がり、的を飲み込んだ。


なんだ今のは、あんな詠唱、魔術の書には載っていなかったぞ。それに威力も先ほどとは段違いだ。周囲もその威力に驚いていた。



「すげぇ、詠唱であんな威力を出せるなんて」

「あんなの見たことがない」

「流石は貴族様だな」



「え、クーラス、今のって…」



俺らもそれに驚いているとまたも取り巻きが



「流石グロリア様!」

「グロリア様の『詠唱改変』はいつ聴いても感激します!」



「詠唱…改変?」



シャロンが首をかしげた。


詠唱改変、何かで読んだことがあるぞ。基盤となる基本詠唱を短縮したり単語を追加することで威力を調整する…という感じだったと思うが、それを全て改変して高威力の魔法を撃つなど、それはもうオリジナルに近い。


グロリアは満足そうにゆっくりとこちらに戻ってきた。



「少々手加減し過ぎましたわね、燃え残ってしまいましたわ」



グロリアが放った炎によって、的は大半が炭となっていた。



「すごいです…流石はバイルシュミット家の御令嬢…」



カレンは小さくそう呟いた。


取り巻きがグロリアをチヤホヤし、クーラスが考えごとをしている中、シャロンの名前が呼ばれ前に出る。






詠唱改変か、やり方によっては無詠唱よりも高い威力を出すこともできるだろうし、今後の参考になる。けど単語によって意味が変わり逆に弱体化することもあるだろう、使う時にはしっかりと意味を調べてからの方が——と、シャロンはどこだ?


辺りを見渡すと、線引きのところに立っているのを見つけた。


アイツの番か、まあいつも通りにやれば全く問題はないだろう。……まてよ、()()()()()()


そこで俺はハッとした、いつも通り、それは無詠唱で魔法を使うことになる。貴族の次にそんなことをすれば面目を潰すことになる、俺はシャロンを止めようとしたが遅かった。



「えいっ!」


ちゅどーん



シャロンはそのかけ声と共にフラッシュバーストを放って的を全て消し炭に変えていた。これは火と光の上級魔法、そんな魔法をアイツの後に使ったうえに全て燃やしてしまうなんて…



「…え?」


カレンが何が起こったのかわからないという顔を横目に、俺はちらりとグロリアたちの方へ目線をやると



「は?何アイツ」

「グロリア様に対抗?」

「これだから平民は」



案の定ヒソヒソと悪口を言っているのが聞こえ、小声で話しているつもりなのか丸聞こえだ。シャロンにも聞こえてるだろうと思ったが



「クーラスっ!一回で全部当てられたよっ」



全く聞こえていないようだった。むしろ当てられたことにぴょんぴょんと喜んでいた。とりあえずシャロンが傷つくようなことがなくてよかった、そんなことを思っていると



「すげえ、無詠唱だ」

「ねえねえどうしたらそんな強い魔法が使えるの?」

「何かコツを教えてよ」


「えっえっ?」



他の受験者たちがシャロンへと集い、注目が集まっていた。一気に人が集まって来たことにより、シャロンは戸惑っていた。


同じ無詠唱で使ったグロリアとは大違いだ。それもそうだろうな、アイツには信者みたいなのを連れているし気軽に近づけないだろう。その証拠に面白くなさそうにこちらを見ている。


それにこれはチャンスだ、次は俺の番だし目立たずにさっさと終わらせよう。


俺は名前が呼ばれる前に前に出た。



「それでは始めてください」



さて、シャロンに注目が集まっているとはいえ、大きな音を立ててしまえば元も子もない、だったらちょうどいいのがある。


俺は右手を左から横一直線に振った。その瞬間、全ての的が音もなく砂となった。


《結合崩壊》、禁属性のオリジナル魔法、これならば大きな音は出ないし一瞬で終わる。俺は的が砂になったのを確認するとカレンの方を向いた。



「どうしました?」



カレンはこちらを見たことに疑問に思ったのかそう答えた。まだ魔法を使ってないと思ってるのだろう、俺は無言で的の方へ指を指した。



「い、いつのまに…」



カレンが的の方へ目をやるといつのまにか的が砂になってるのを見て、驚いていた。俺はゆっくりとその場を離れた。





「ク、クーラスぅ〜」



俺が戻って来るとちょうど集団から解放されたシャロンが涙目で駆け寄って来た。慣れない環境で知らない人達に一気に囲まれていたのだ、彼女の性格上、それは苦痛だっただろう。



「た、大変だったみたいだな…」


「うん…」


「ま、まぁそりゃ無詠唱で、しかも上級魔法使えばそうなるよ…」


「え、でもいつも…モガッ」



俺はシャロンの口を塞いだ、これ以上余計なことを言ったら状況が悪化する。



「いいから、それ以上喋るな」


「…」


シャロンは無言で頷いた。


とりあえず俺の順番の時に何かあったということはないようだ……今思えば目立ちたくなければわざわざ禁属性魔法を使わず詠唱して基本魔法を使えばよかったんじゃないか?





しばらくその場から離れ、試験が終わるのを待っているとあの朱眼の女の子の番が回ってきた。



「受験番号150番、アクリーナ=アルデバラン」


「…はい」



アクリーナはゆっくりと前へと出て行った。フードを被っておらず、特徴である『朱眼』があらわになっており、何かに怯えているかのように彼女は震えていた。



「気持ち悪い人外が、まともに魔法なんて扱えるのかしら」

「グロリア様、防御魔法展開しましょう。危険です」

「不発で終わってくれればいいのに」



グロリアを筆頭に取り巻きはアクリーナに対し好き放題言っており、周囲もそれに合わせてヒソヒソと話しているのが聞こえてくる。


聞いていて実に不快だ。同じ人間とは思えない、何をそこまで言う必要があるのだ。アクリーナは俯いてさらに震えていた。これではマトモに集中なんかできないだろう。



「クーラス、ちょっと私…言って…」


「まぁ待て」



シャロンも同じように不快に思っていたようで、直接注意でもしに行こうとしていたが俺は引き止めた。ここでシャロンが出て行ったところで現状は変わらない、むしろ逆に何か言われる。


引っ込み思案なシャロンしては中々勇気のある行動だ。


いい加減、俺もアイツらの態度や言動にイライラしていたところだ。ちょうどいい、実験台になってもらおう。


俺はグロリア達に向けて魔力を放った。その瞬間、ピタリと悪口が止まった。正確には急に声が途切れ聞こえなくなった。



「〜〜〜!」



グロリアが何か叫んでいる様子が見えるが、声は全く出ていない。取り巻きも何やら慌てていた。その様子を目の当たりにした他の受験者は、話題がアクリーナからグロリア達の方へと移った。



「え、クーラス、何を、したの?」


「ちょっとな」



————《声音奪取》、禁属性のオリジナル魔法、対象の声を一切出せなくさせる。この試験が終わるまで黙っててもらおうか。


グロリア達の声が一切聞こえなくなったのを不審に思ったのかアクリーナが一度振り向いた。


声を出せなくて慌てているグロリア達の様子を確認するとまた前へと向き、右手を前へと出した。



「『我が眼に秘めし魔力よ、今、その力を我に示せ』!ブラッディレイン!」



アクリーナがそう詠唱すると、体育館の天井に魔法陣が現れ、そこから赤黒い血のような雨が的に降り注いだ。その雨に当たったところはジューという音を立てて溶け出した。



十秒ほど経ち、血の雨が止んだ。的は跡形もなく溶け、原型がなくなっていた。その的の置かれていた床もかなり溶けており、ところどころで穴が空いていた。


その光景に、その場にいた全員が圧倒されていた。



「…先生?」


「ひゃわ!は、はい!そ、それでは次……はいないのでこ、これで試験は終了です!」



アクリーナが最初に口を開き、沈黙を破った。カレンは驚いた後、すぐ名簿を見て、彼女が最後の受験者であるのを確認すると終了を告げた。


同時に俺は《声音奪取》を解除してグロリア達の声を出せるようにした。アイツらは声が出るようになったことに安堵しており、各々解散して行った。



「じゃ、宿に戻ろうか」


「う、うんっ」



俺はシャロンにそう言って他の受験者同様にこの場を後にした。


無事、とは言えないがこれで試験は終わってあとは結果を待つのみだった。


だが俺には一つだけ引っかかっていることがあった。それは朱眼の忌子、アクリーナのことだった。彼女の右眼、朱眼には魔力は宿っていない、だから忌子と呼ばれているはずなのだが、彼女が詠唱をした際、一瞬だけ膨大な魔力を彼女から感じたのだ。


彼女の右眼には魔力がない、そう考えた場合、あの膨大な魔力は彼女自身が持っている魔力ということになる、だがあれほどの量の魔力を持っているのなら忌子と呼ばれたりはしないはずだ。


そう考えると彼女の右眼、朱眼は——



「クーラス?」


「な、なんだ?」


「なんか難しい顔してたから…」


「あーいや、ちょっと考え事をな」


「そうなの?ところでクーラス」



不安そうな顔でシャロンが聞いてきた。



「ん?」


「合格、してるかなぁ」


「大丈夫だ、心配することはないさ」


「うん…」



実際、俺も不安だった。座学と魔法については特に心配はしていないが、剣術に関しては酷い目にあったからな。


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