23話 入学試験 魔法【上】
「クーラス、大丈夫?」
「っ!まだ痛みやがる…」
「無理しないで、本当に…」
俺はシャロンの肩を借りて歩いていた。ゴットハルトに鳩尾を殴られダメージが重く、シャロンは涙目なって声も震えており、すごく心配している様子だった。
あの後も一方的にゴットハルトによるいじめのような試験が行われ、俺のように殴られたりする者が増えた。
この後はすぐ魔法の試験が行われるため俺らは体育館の方へと向かっていた。また受験番号によって会場は異なるがシャロンとは同じであるが
「何か人、減ったね…」
「そうだな」
ゴットハルトが試験官だったところは人数はすでに10人もいなく、残った人でさえほとんどが気落ちした様子だった。
にしても本気で殴りやがって、あれが教師のやることかよ。
そんなことを考えていると、試験官と思われる若い女性の教師が入ってきた。
「それでは、魔法の試験の方を始めさせていただきます。今回試験の担当をするカレンと言います。どうぞよろしくお願いします」
さっきの試験のせいか、この先生が女神のように見える。すごく優しそうな雰囲気を感じた。
「さて、試験内容についてですが——」
カレンが内容について説明しようとした時、体育館の扉が勢いよく開かれた。
「あら、少し遅れてしまいましたわね。まあいいですわ」
「あ、あいつは…」
「知ってるの?」
入ってきたのはこないだ道端で他人を蔑んでいたこの国の公爵令嬢、グロリア=フォン=バイルシュミットと、その取り巻きたちだった。
コイツらも試験を受けに来たのか、それにしても相変わらずな態度だ、開始時間を過ぎているというのに。こういうのにはできる限り関わらない方が賢明だな。
「ああちょっとな」
「あら?何で貴方のような人外がここにいらっしゃるんですの?」
グロリアの発した言葉に聞き覚えがあった。人外?この前も言っていたな、まさか…
クーラスがグロリアの目線の先を見ると、この間通りで絡まれていたあのフードの女の子がいた。彼女もまた、試験を受けに来た1人であったのだ。
ツカツカとグロリアはフードの女の子に近づいて行き、深く被っていたフードを払った。長さはミディアムの紺色の髪、そして右眼が血のように赤い『朱眼』が現れた。
その瞬間、周囲はざわついた。あの朱眼の一族、ましてその出来損ないとされる『朱眼の忌子』が現れたのだから。
「な、なんだよアイツ…」
「アレが噂の?噂よりも気持ち悪いな」
「なんでこんなところに…」
周囲からは彼女に対する侮辱や悪口がヒソヒソと聴こえてきた。たかが眼の色が違うだけだというのに、グロリアは構わず突っかかる。
「ここは貴方のようなのが来る場所ではありませんわ、身の程をわきまえなさい!」
グロリアがそう一喝してフードの女の子の肩を小突いた。
「で、でも私…」
「私に口答えするつもりですの?気持ち悪い人外が…」
「あ、あの試験時間が迫っていますので…」
重い雰囲気になりつつあった中、カレンは口を開いた。
「あらそれは失礼しましたわね、私としたことがこんな奴のために時間を無駄にしてしまいましたわ」
そう言ってグロリアは取り巻きの方へと戻っていく。取り巻きは相変わらずニヤニヤしていてイラつかせやがる。
「ねえクーラス、あの人何なの?」
「この国の貴族らしい、確か公爵つってたから下手に絡まない方がいい」
「でもあの子のこと、いじめてるように見えたんだけど…」
俺はフードの女の子、『朱眼の忌子』のことについてもシャロンに説明した。すると
「そんなことで軽蔑されてるの?」
「え?」
「ただ眼の色が違うだけなのに、そんなの酷いよ…」
驚いたな、てっきりシャロンも軽蔑すると思っていたのだが予想外の答えが返ってきた。
「お前は、どうも思わないのか?」
「何が?」
「いや、あの子のこと…」
「だってスヴェン君も同じような感じでしょ?」
そうだったな、シャロンは幼い頃から俺の家で一緒に住んでたんだもんな。弟スヴェンのことも小さい頃から知ってるのだし、オッドアイに対してなんの抵抗もないのだろう。
「そ、それでは試験内容について説明します。この線が引かれた位置からあちらに用意された的に向かって魔法を当ててもらいます。魔法の使用回数は10回までで、会場を破壊するような威力の魔法はなるべく控えるようにお願いします」
カレン先生が試験について説明し、前を見ると人型のような的が用意されていた。線引きからはおおよそ20メートルくらい離れていた。
的の大きさは大体人と同じくらいだな、精度さえしっかりしていれば基本魔法でも当てられるだろう。
「受験番号81番の方から、こちらに来てください」
カレンがそう言うと、1人の受験者が前に出て、試験が始まった。
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「我が手に集いし魔力よ、鋭い刃となって全てを切り裂け!『ウィンドスラッシュ』!」
風の刃が大量に発射され、的を切り裂いた。周囲からはオーッという声が上がった。1回で全ての的に当てたことに驚く人が多いようだ。
ウィンドカッターと違って刃が複数出るのがこの魔法の特徴だ。確か中級魔法だったはずだがここまで多く出るところを見ると使い手は中々優秀なようだ。今受けているのはグロリアの取り巻きの1人だ。
「で、では次、受験番号119番…」
「グロリア=フォン=バイルシュミット、やっと、私の出番ですわね」
グロリアがそう言うと、取り巻きから彼女に対する歓声が上がった。
ここまでくると取り巻きつーか信者みたいだな、そんなことを思っているとグロリアは杖のようなものを取り出した。
なんだあのハリー〇ッターみたいな杖は、そんなことを考えているとグロリアは的へと杖を向けたと思うと
バシュン!
火の玉が発射され、的へと命中した。
「む、無詠唱だと…」
「え、え、何が起こったの…?」
「無詠唱魔法…!?」
周囲がグロリアが無詠唱で魔法を使ったことに驚いていると
「きゃーグロリア様ー!」
「流石ですー!」
取り巻きが甲高い声で騒いでいた。