22話 入学試験 剣術【下】
「なんだ貴様は!」
「ええと、彼は受験番号121番、クーラス=ヴィルヘルムです」
試験官の1人、エマが名簿を見て俺の名前をゴットハルトに伝えた。試験を受ける順番がちょうど回ってきたので俺はゆっくりと前へと出た。
「名前と番号は今伝えられた通りだ。剣についてだけ言うぞ。《硬化》《強靭》《鋭利》《魔法貫通》、あと闇属性を付与してある魔剣だ」
刃こぼれを防ぐためと、先程のシャロンとの戦闘を見て、耐久力を上げる付与を二重にかけ、《魔法貫通》を付与した。
《魔法貫通》はあらゆる魔法を無効化することができる禁属性付与、3番の剣はシャロンの強化された剣を砕くほどの威力を持っていた。ならなおさら4番の剣にはかなり強力な強化魔法が付与されているなろう。
だが所詮は魔法だ、《魔法貫通》ならどんな付与をされていようと無効化して逆に奴の剣を砕くことができる。念のために闇属性も付与しておいた。
俺が魔法貫通と言った途端、他の受験者達がざわついた。当然だ、これは俺のオリジナル、加えて禁属性魔法なのだ。疑いや疑問の眼差しが多い中、ゴットハルトはそれにも気づかず俺に対して怒鳴る。
「貴様!年上に対して口の利き方がなってないんじゃないのか?」
お前みたいな奴に敬語を使うわけがないだろう、俺は声に出さず心の中でそう呟いた。
「いいから早く試験を始めてくれよ、効果までも言ったぜ?」
「貴様のような不躾な人間には教育が必要なようだな、エマ先生、3番…いや、4番を」
「どうぞ」
エマ先生がゴットハルトに左端の剣を渡す。あの剣からは3番とは比べ物にならないくらい強い魔力を感じた。ただの付与がされた魔剣ではなさそうだ。
油断したら死ぬ……というか試験で普通使う代物じゃないだろう。
「それでは、始め!」
俺はその合図と同時に身体強化と効果強化を使い、ゴットハルトへ向かって駆け出した。
「ぬっ!」
シャロンよりも素早い動きをみせたクーラスに対し、ゴットハルトは少し驚いた。
一瞬で距離を詰め、剣を振り上げた。だがゴットハルトはそれを受け止め力づくで押し返そうとした。
「ぐっ、なんだこの力は」
クーラスは身体強化に加え、それを強める効果強化を使用しているため通常の身体強化よりも何倍もの効果を発揮していた。
「どうした?俺を教育するんじゃなかったのか?『この程度で』」
俺は『この程度で』という言葉を少し強調して挑発した。すると奴は顔を赤くし、激昂した。
「この俺を愚弄しおって貴様!後悔させてやる!」
たかがこんな安い挑発に乗るとは、全く呆れる。
ゴットハルトは剣に魔力を込め始め、剣からは凄まじい魔力が溢れてきた。本能的に危険を察知し、すぐさま後方へ飛び距離を取った。
その瞬間、奴は剣を振り下ろした。すると水の刃が俺に向かって飛んできた。
主要属性は水、そしてシャロンの剣を砕いた剣よりも強力な付与、魔術の書に載っていた付与魔法の中で考えられるのは……
俺が奴の剣の分析をしていると
「クーラス!避けて!」
攻撃が迫っているのに微動だにしない俺を見て心配をしたのかシャロンが声をあげた。
目前まで水の刃が迫った瞬間、俺は剣を横に振った。切断された水の刃はそのまま霧散した。
「なっ!」
ゴットハルトは水の刃が打ち消されたのを見て驚愕していた。
「貴様、何か魔法を使ったのか?」
「いいや、これは付与魔法の効果だ。さっき伝えただろう」
「そんなわけがないだろう!魔法を打ち消す付与魔法など聞いたことがないぞ!」
そう言ってゴットハルトは魔力を込めながら剣を横に振った。すると今度は風の刃が飛び出した。
主要属性の二重付与だったのか、けどあの剣から感じる魔力からすると三重はかけられている可能性がある。
だがいくら強力な魔法を付与したところで《魔法貫通》の前に敵はない。俺は風の刃に向かって走り出し、剣を振り上げそれを打ち消しながらゴットハルトに飛び込んで行った。
「どんな魔法を付与してようと、俺には効かないんだよ!」
俺は剣に魔力を込めながら振り下ろす、《魔法貫通》の効果が働いている以上、防御魔法も効かない。
鎧を砕く勢いで俺は剣を振り下ろした。だが
「ゴハッ!」
その瞬間、ゴットハルトの拳が俺の鳩尾へと突き刺さった。俺は痛さと苦しみでその場にうずくまった。ガタイのいい筋肉質な野郎に殴られ、しばらく息ができなかった。
「ガ、グフ…な、なんの……つもりだ…反則だろうが……」
俺は憎しみを込めた眼差しでゴットハルトを睨みながらそう言った。剣を使わず殴ってきやがった。
「反則も何も、この試験の禁止事項は『攻撃』『防御』系統の魔法の禁止、ただそれだけだ。強化魔法を使おうが体術を使おうが反則ではない」
ふざけるなと、屁理屈をこねやがって、そもそもこの試験は『剣術の』試験だろうが、剣以外を使ったら意味がねえだろうが。
「これが実戦であれば、お前は死んでいるぞ!戦いに反則なんかない!そんなこともわからない奴は出て行くがいい!他の奴らも覚えておけ!」
ゴットハルトはそう言うと剣をエマに返し、俺はシャロンに肩を持ってもらい、その場から離れた。