21話 入学試験 剣術【上】
実技試験は校庭で剣術、体育館で魔法の試験が行わる。俺は振り分けられた番号の場所へ向かい、先に剣術の試験を受ける。その時にシャロンと合流した。
「あ、クーラスー」
「シャロンもここか?」
「うん、あと魔法も同じだよ」
「そうか」
その様子なら座学は大丈夫みたいだな、そう言おうとしたら先にシャロンが口を開いた。
「ところで最後の問題、クーラスやった?」
最後の禁属性についての任意解答のやつのことか、実在するしない以前に俺らは使うことができる。どんなことでもできる魔法、何がしたいかなど、俺は決まっていた。
「——ラス、クーラスってば」
「!」
「どうしたの?ボーッとして」
「いや、なんでもない。最後のやつは一応やったけど」
「私もやったよ、私はね、『傷ついた人の怪我を治したり、争いのない平和な世界にしたい』って書いたよ」
シャロンらしいな、人を救いたい、争いをなくしたい、今までの様子からしてあまり戦闘は好きじゃない彼女にとっては禁属性魔法は平和に使いたいというのが見て取れる。
俺とは正反対だな、むしろ俺は自分の欲のためにこの魔法を使いたい。なんでもできる禁属性魔法、その気になればこの世界だって支配することもできる。けど俺はそんなことに興味はない、俺がしたいことは——
「よーし、それでは剣術の試験を始める!」
一際大きな声が校庭に響き渡る。声のした方へ向くとそこには背が高くガタイのいい男が腕組みをして立っていた。おそらく試験官であろう、彼の横には別のメガネをかけた女試験官と剣が4本立てて置かれていた。
「俺は試験官のゴットハルト!ガキだからといって手加減はしないからな!覚悟しておけ!」
「試験に使用する剣が通常か、魔法の付与された魔剣か宣言をしてから、試験を開始します。魔剣の場合、付与された効果も宣言してください。そして攻撃、防御系統の魔法の使用は禁止です。使用した場合は即失格となりますのでご注意ください。」
あの試験官はゴットハルトというのか、いかにも強そうな名前だな。そんなことを考えていると、女の試験官が詳しい試験内容を説明し、受験番号の若い順から呼ばれた。
最初はやる気のなさそうな男子がゴットハルトの前に立った。欠伸もしているし試験をなめているような雰囲気だった。そして試験が開始された。
「80番、アロイス。通常の剣です」
「うむ、エマ先生、1番を」
メガネの女試験官、エマが一番右端に立ててある剣を取ってゴットハルトに渡す。
置かれている剣からはわずかに魔力を感じる、左端にいくほど魔力が濃くなっているように感じた。なるほど、受験者が使う剣に合わせてああやって変えてるわけか。
「始め!」
「フン!」
「うわっ!」
エマが試験開始の合図を出した同時にゴットハルトがアロイスと名乗った受験者に対して一気に距離を詰め、剣を弾いた。
アロイスの手から離れた剣は後方へ飛んでいき地面へと突き刺さり、同時にアロイスも尻餅をついた。
「そこまで!」
おいおい、決着つくの早すぎるだろ。いくらなんでも容赦がなさすぎる。
「貴様、そんな実力で冒険者になろうというのか?」
ゴットハルトがエマに剣を返し、改めてアロイスに向き直って口を開く。
「冒険者は時に命がけの依頼を受けることもある。モンスターの討伐や盗賊団掃討など、ナメてかかると貴様だけでなくパーティ全体が危険にさらされるのだぞ!!騎士団や魔法師団となればなおさらだ!!貴様のようなやる気のないやつは即刻出て行け!」
「ヒィッ!」
ゴットハルトはそう捲したてるとアロイスはその場から慌てて逃げ出した。
「フン、この程度で。次!」
その後の試験もひどいものだった。女子であろうと魔剣を使おうとゴットハルトは次々と受験者を打ちのめしていき、その度に受験者を怒鳴りつけ、その場で泣き出してしまう者、中には試験が始まる前にその場から逃げ出す者もいた。
「この程度の実力で冒険者になろうと、貴様らはナメているのか!!」
いくらなんでも厳しすぎるだろう。特に女子なんか泣いている子が多い、ガタイの良いやつでさえゴットハルトに勝てるものはいなく、この場に残っている受験者は最初の半分にも満たなかった。
こいつは合格させる気はあるのか?そんなことを考えていると次にシャロンの名前が呼ばれた。
シャロンの方を向くと彼女は震えていた。前の受験者たちの様子を目の当たりにすれば当然だ。奴はほぼ一方的に俺らをいじめているようにしか見えない。
「シャロン…」
「ク、クーラス、怖いよ…」
ほぼ涙目になっているシャロンに対し、俺は助言をした。
「始めの合図と同時に、身体強化を使え」
「え、でも魔法の使用は…」
「大丈夫だ、禁止されているのは攻撃魔法と防御魔法、身体強化は強化系の魔法だ。問題はない」
「う、うん。わかった、ありがとうクーラス」
「何をコソコソと話している!」
中々前へと出ないシャロンに痺れを切らしたのかゴットハルトが怒号をあげる。
「は、はい!」
シャロンは慌てて前へと出て、剣を構える。
「120番、シャロン=フレンツェン、《硬化》と《鋭利》と《斬鉄》を付与した魔剣です」
「ふむ、それならばエマ先生3番を」
エマは剣立てから剣を取り出しゴットハルトに渡した。ここまでゴットハルトが魔剣を使っていたのは2番までだ。3番と呼ばれた剣からは濃い目の魔力を感じた。
強力な付与がされているのだろうか、シャロンにもそれはわかったらしく不安な表情が見られた。
「始め!」
「フン!」
「っ!」
「むっ!」
今まで通り、試験開始の合図と同時にゴットハルトは距離を詰めて剣を振り上げてきた。しかしそれと同時にシャロンは身体強化を使い、素早く距離を取ってそれをかわした。
「はああ!」
シャロンは正面からゴットハルトに向かって突っ込み、剣を振り下ろした。しかし、すぐにゴットハルトはそれを受け止め弾き返す。
「ぬん!」
「きゃっ!」
シャロンの体勢は一瞬崩れたもののすぐ持ち直しゴットハルトと向き合った。
「貴様、強化魔法を使っているな。剣術の試験において魔法に頼るとは何事だ!」
ゴットハルトはそう捲したてた後、剣先をシャロンに向けた。
「そっちがその気なら俺も容赦はせんぞ」
そう言うとゴットハルトの剣からは膨大な魔力が溢れていくのを感じ、俺はすぐさま危険と判断してシャロンに向かって叫んだ。
「シャロン!危ないぞ!」
「えっ」
俺の声を聴いて一瞬こちらに振り向いた。こっちを向くなと続けて言おうとした瞬間だった。
「余所見をするとはいい度胸してるな!」
ゴットハルトが膨大な魔力を放つ剣を振り上げてシャロンへと迫っていく。マズイ、アレを食らったらタダじゃ済まないぞ!
「避けろシャロン!」
「っ!」
シャロンはその場から離脱しようとしたが、ゴットハルトの剣が一瞬速かった。咄嗟に頭上に剣を構えたものの、それは粉々に打ち砕かれた。
「きゃあっ!」
衝撃でシャロンは後ろへ倒れ、尻餅をついた。ゴットハルトは剣を振り下ろした後、地面に突き刺し怒号をあげた。
「魔法に頼らないと何もできない軟弱者が!そんなんでここに入学しようと考えるとはなんたる愚か者が!」
「ひぃっ」
怒鳴られてシャロンはひどく怯えた。引っ込み思案な彼女にとって、奴は恐怖の対象でしかない。ただでさえ見知らぬ土地で、知り合いのいない生活を送っているというのに。
そんなことを思っているとシャロンは泣きながら俺の方へと戻ってきた。
「ク、クーラスぅ…うわあん」
「シャロン…」
「全くこの程度で泣き出すとは、貴様らはこの学園に入学する資格など無い、さっさと荷物をまとめて帰れ」
「おい、いくらなんでも厳しすぎるだろう」
気づいたら俺はゴットハルトに対しそう言っていた。