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異常性癖が異世界転生した結果  作者: 冷精 紅鴉
第一章 学園生活編
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19話 不思議な本屋



「さっきあそこで何してたの?」


「いや、別に」



シャロンに彼女のことを話したら、軽蔑とまではいかないまでも、俺から距離を置いてしまうかもしれない。せっかく転生して俺に接してくれる人ができたというのに、失いたくない。


前世じゃ俺に接してくる人間なんて誰もいなかった、だからそんなの慣れているはずなのに、それなのに、こんな感情が出てくるなんてな。


——寂しい、と





「んー、これからどうする?」




これからのことか、試験までまだ1週間あるし、せっかく王都に来たのだからこのまま観光とかしていてもいいが、万全の状態で試験を受けたいし——




「そうだな、とりあえず一旦宿に戻って魔法や剣でもするか、ついでに座学試験の過去問も売ってれば対策でもする?」



一週間前に受験勉強するなんて前世だったら考えられないことだ。だがやることなど他にないし、それなら万全の状態で試験を受けて、合格するために時間を費やした方がまだいい。




「じゃあ古本屋探そ」





そう言って俺らは通りを歩き始め、古本屋を探す。座学では確か魔法知識について、と書かれていた。知識については一通り母シーナから教わったはずだから心配はないとは思うが、やることもないしな。



しばらく通りを歩いていると、『本』と掲げられた看板が目に入った。しかしそこには木のドアだけが無造作に置かれているだけで店と呼べるようなものじゃなかった。



「ここ、でいいんだよね?」


「他にないしな……」



俺らは戸惑いながらもドアノブに手をかけ、ゆっくりと回して中に入った。



「うお、なんだこれは……」


「すごい……」



ドアを開けて俺らは言葉を失った。外観からは考えられない光景が広がっており、図書館かと言わんばかりに本が陳列され、まるで外とは別の世界に迷い込んだような気分だった。



「お客さんかい?」



どこからともなく声が聞こえてきたと思うと俺らの目の前に店主と思しき老人が現れた。




「あ、はい、1週間後に学園の入学試験があるので、過去問でもないかと思いまして…」


「ああそれならこっちだよ、ついておいで」




老人はそう言って背を向けて歩き出す、俺らは互いに顔を見合わせたあと黙ってついて行った。



5分ほど歩いて案内された棚には『魔法資料』と書かれた看板が取り付けられており、そこには大量の魔法に関する本が並べられていた。



「あいにく試験の過去問は出版はされてなくてね、でも毎年の問題傾向はこの棚にある本からしか出題されてないよ」


「そうなんですか、ありがとうございます」



俺は陳列された本へと視線を向ける、そこには『魔法とは』『簡単な魔法の使い方』『魔法の属性について』など基本的なことばかり書かれた背表紙が目に入った。


なるほどな、こういう基礎的な知識を見る問題が出るわけか、これなら満点も取れるかもしれない、だが本の数が多い、どれを選べばいいのか。



「おや、これは……」



一冊の本に目が止まり、手に取った。その本のタイトルは『魔術の書 改訂版』と書かれていた。



「クーラス、これって…」



本を開くと分かりやすい解説と図が載っていて、詠唱もどの単語がどういう意味を持ち魔法を起動させているのかなど、俺の持っているのよりも優れていた。



「これにするの?」


「そうだな…」



老人に声をかけようとした時



「お前さんその本を買うのかい?だったらこっちにしておいた方がいい」



そう言って老人の店主は下の棚から古びた本を取り出した。



「あ!その本…」


「おや知ってるのかい?」



老人が取り出した本のタイトルには『魔術の書』と書かれており、俺が持っているのと同じものだった。



「ええ、俺らその本で魔法を勉強してきたので…」


「それだったら新しく買わずにそのまま使いなさい」


「どうしてですか?」



改訂版の方が解説も分かりやすいし、今まで使っていたその旧版よりも優れているだろう。



「この改訂版にはな、『禁属性』が載っていないんだ」


禁属性が載ってない?その言葉を聞いてすぐに改訂版のページをめくると確かに載っておらず、それに旧版よりも本が薄かった。



「それだけじゃない、解説も確かにこちらより分かりやすいが文章が多くなった分魔法が削られているんだ」



老人はそう言って俺らに両方の本を開いて見せてきた。そのページは火属性で、初級魔法のファイアーボールについて書かれていた。


改訂版は詠唱からその時の魔力の動きなど丁寧に解説されてはいるが、中級魔法以降のページにいくと、旧版に乗っていた魔法がいくつか削られていた。


出版された日付を見ると、ちょうど14年前、俺らが生まれた年に改訂版は出たようで、旧版に関しては100年以上前の日付が記載されていた。



「この本が出た当時はね、まだ使い手がいたんだがすぐに亡くなってしまって禁属性の使い手がいなくなったんだよ。それから何十年も経ってある魔法学者が『こんな属性があるわけがない』と主張して改訂されたんだ。他にも『もっと小さな子供達にも分かりやすく簡単に!』という声もあがって、こんな風に複雑な魔法は削られて載せてないんだ」


「そう、だったんですか…」


禁属性が存在しないという人もいると聞いていたが、ここまでとはな。どんなことでもできる魔法なんて、普通に考えたら夢みたいな話だからな、使い手がいないなら尚更だ。



「全く、存在するからこそ載ってるだろうに」



老人はそう言うと、持っていた本から手を離した。本は二冊とも本棚に吸い込まれるように元の場所へと勝手に戻っていった。


その様子を見ていた俺らは呆然とした。



「驚いたかい?」


「これ…」


「えっ!お爺さんも禁属性魔法が使えるの!?」



俺が言葉を発しかけた時にシャロンの驚きの声が重なった。



「ばっ!シャロン!」


「あっ!」



禁属性魔法が使えることが国に知れたら戦争に利用されるかもしれないという母の忠告を思い出し、シャロンに向かって叫ぶ。同時にシャロンは口を慌てて塞ぐもすでに遅かった。



「も?まさかお前さん方…」


「あいやそれはなんて言いますかその」



俺が慌てて弁明しようとすると



「何をそんなに——— 、ああなるほど、戦争に利用されるかもしれないということか」


「え」



どういうことだ、俺は何も言ってないのにどうしてそんなことがわかる—— 禁属性…何でも……!そうか、そういうことか!


必死に思考を巡らせ、俺は一つの答えに辿り着いた。



「心を、読んだんですか?」


「ああそうだ、勝手に覗いて悪かったね。安心しなさい、儂は別に誰か言おうとなど考えておらん」



よかった、一時はどうなるかと思ったぞ。けどまさか俺ら以外にも使える人がいるなんてな、もしかして他にも探せばいるのではないか?戦争なんかに利用されたくないから隠しているだけで実際は結構いるんじゃ……でもそうなると全員が善良な人間とは……


俺が考え事をしているとシャロンに話しかけられた。



「ごめんなさい…私何も考えないで言っちゃって…」


「ううんシャロンは悪くないよ、あの時はそう言ってしまうのも無理はないよ」



落ち込むシャロンを励まし、改めて老人に向き合う。



「儂以外に使える人間に会ったのは久々だな」


「ということは他にもいるんですか?」


「いいや、儂の知る限り今はどうなのかは知らん、最後に会ったのは…今から100年以上前になるかのう」



100年以上前となるとさっきの魔術の書の旧版が出版されたあたりか、ん?そうなるとお爺さんは今いくつなんだ?見た目は70後半くらいにしか見えない……あ、禁属性で歳をとりにくくしてるのかな。



「多分ヤツのことは学園の授業で習うだろう。さてすっかり話し込んでしまったな、日が暮れるからそろそろ帰りなさい」



ヤツ?さっき言っていた禁属性の使い手のことか?



「出口はここだ、それじゃまた会えたらのう」


「あ、はい!ありがとうございました!」



俺らは老人に礼を言って目の前のドアを潜ったとき、シャロンが振り返った。



「そういえばお爺さんて何者なんですか?」


「儂の名はコルネリウス、客の欲しいものに合わせて店内が変わる時空の旅商人じゃ」


「えっ」



コルネリウスがそう言うと同時にドアは閉じ、そして消えた。


「き、消えた!?」



ドアあった場所向かって手を振るも、手はただ宙を切った。周りを見渡すと元の通りに戻って来ていた。



「不思議なお爺さんだったね」


「…そうだな、さて宿に戻って勉強するか」



俺らは元来た道を戻り、宿へと向かった。


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