16話 平和な旅路
馬車が出発しておよそ1時間経った頃、馬車の中では沈黙が続いていた。俺もシャロンも何も話すことなくお互い黙って外の景色を眺めたりしていた。
シャロンはなんで何も話さないんだろう、さっきから下向いたり俺の方を見たと思ったらすぐ顔をそらすし
「なぁシャロン」
「ふぇっ!な、なに?」
「あ、いや…」
声をかけてもこの反応、一体どうしたんだろうか
「し、試験の内容とか見ておかないか?」
「あ、そ、そうだね」
例によって空間収納から荷物を取り出し、試験に関する資料に目を通す。
試験は座学と実技が行われ合計150点満点で出されるらしい、座学は魔法に関する問題が出題され、実技は魔法と剣術が行われる。
座学の方は自信はないけど魔法と剣術なら満点を狙えるかもしれない。シャロンなら座学は取れるだろうが剣術の方も大丈夫だろう。
「寮生活か…」
この学園の生徒は全員寮での生活を強いられている。どのみち自宅から遠いし強制でなくても入ってはいただろう。とまぁ今はそんなことより
「王都ってどんなところなんだろうな」
「うんそうだね」
「俺らが住んでたところ周り山とか木が多かったしな」
周りに人家はそんなになく、魔法や剣術の鍛錬をするにはもってこいの環境であったがやはり家族以外の人と関わることがないというのは正直さみしいところはあった。
「あ、そうだシャロン」
俺は先程母シーナから渡された指輪を取り出した。
「母さんからお守りだって」
「指輪……うん」
シャロンはスッと左手を差し出した。
「クーラスが、つけて」
「え、ああわかった」
「ここでいいのか?」
差し出された指は左薬指だった、いわゆる婚約指輪をつける指だ。
「うん、ここが。いいの」
「それじゃ…」
俺はゆっくりとシャロンの指に指輪をつけた。
「な、なんだか婚約結んだみたいだな」
「こっ…!」
シャロンの顔が真っ赤になる。同時にクーラスは自分も恥ずかしくなって余所見をしていたのでその様子は見ていなかった。
「と、とりあえず王都に着いたらまずは宿探さないとな!」
「う、うん!」
王都に着いてから試験まで1週間、結果発表がその2日後、そして入学式がその翌日に行われる。合計10日間はどこかに泊まって過ごさなくてはならない、そのために金貨など多めに持たされた。枚数は数えてないがこれだけあれば10日は余裕で持つだろう。
それから1週間後、旅路は特に危険なこともなく無事、王都へと到着した。
「ここが王都…」
「すごい…」
王都アスピディスケはアルカイド王国の国境、すなわち魔族領との最前線にあり冒険者ギルドはもちろん、騎士団や魔法師団などの本部が設置されている。街もかなりの賑わいを見せている。
「それじゃ、まずは宿を探しますか」
そう言って俺らは早速街中を散策し始めた。
「案外早く見つかったな」
「結構近かったね」
「そんじゃ入るか」
門から歩いて5分ほどの距離に宿屋があった。学園にもここから10分くらいで着く距離にあるしこれは助かる。宿の中へ入ると若い女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
「そうだ、10日宿泊する」
「お部屋の方はお2つでよろしいでしょうか?」
「いや、1つでいい」
「ふぇ!?」
二部屋借りて余分に金を払わなくていいし何より互いの部屋を行き来しなくて済む、試験当日まで色々とやることあるしな。
「え、あ、ク、クーラス」
「どうしたシャロン?」
何を慌てているんだ?小さい頃なんかいつも同じ部屋とかで寝ていたのに何を今更
「あらあら」
その時店の人がにやけ顔でこちらを見ていた。
「なにか?」
「いえいえ、それでは2名様ご案内しますっ!料金はサービスしておきますね」
料金をサービスしてくれるのか、それはありがたい。これで出費が減る。
「食事付きで合計銀貨20枚になります」
「では、これで」
俺は空間収納から財布を取り出し、金貨2枚を渡す。相場がどうなってるのかわからないがこれで大丈夫か?
「あの、お客様、金貨は1枚で大丈夫ですが」
なるほど、銀貨20枚で金貨1枚分なのか。金貨は充分にあるしこれは安いほうなのかな。
「ああそうか、それは失礼」
「それではこちらへどうぞ。『お2人で』ごゆっくり〜」
「……」
俺らは案内された部屋の前にきた。シャロンはまた顔を赤くして俯いている。店員は何やら『2人で』をやけに強調していたがまあいい、ようやくベッドで一息つける。そう思っていると
部屋の中はとても綺麗で整ってはいたもののベッドが1つしか置いてなかった。しかも2人で寝るには少し狭い。
「…とりあえず荷物置こうか」
「…」
シャロンは無言で頷き、俺らはさっそく空間収納から貴重品以外の荷物を取り出しベッドの横へと置いた。