12話 弟への教授
「兄さん、ちょっといい?」
「おう、なんだ?」
「実はちょっと相談なんだけど…」
5つ歳の離れた弟、スヴェンが何やら神妙な顔つきで話しかけてきた。あれから4年が経ち、スヴェンも背が伸び、両親の鍛錬を受けてきたためか体つきがしっかりとしていた。
何より目立つのは眼である。スヴェンの右目は青くなっているのだ。生まれてからしばらくはあまり目立たなかったが年を重ねるごとに濃くなってこのようになったのだ。
そんなことよりスヴェンは俺らみたいに毎日ちゃんと鍛錬も受けてるし、魔法の威力や剣術もなかなか強い、そんなスヴェンが相談か、何だろう。
「無詠唱魔法が全然できなくて、何かコツとかないかな」
「え?」
無詠唱魔法のコツ?イメージを頭の中でいっぱいにすれば発動するのではないのか?
「いつも兄さんやシャロン姉さんのを見て僕もやろうとしてるんだけど、全然上手くいかなくてね」
「試しにやってみてくれ、とりあえず基本の火属性のやつでも」
「え、ここで?」
「ああ、心配はいらん」
スヴェンは手を前に出して目をつぶった。特につぶる必要はないんだがな、まあこれは練習だ。それに集中するという意味では良いだろう。
「……ダメだぁ」
少し待ってみたがうんともすんともいわなかった。それもそのはず、魔力反応を見ていたが魔法を使っている(つもり)の間、多少魔力の動きは変わっていたが手の方に集まる気配はなかった。
「……魔法を使う時何考えてた?」
「『火出ろ、火出ろ』って考えてた」
「それじゃダメ、使おうとするんじゃなくて、『火』そのものをイメージするんだよ、そして魔力の動きを意識的にコントロールするんだ。もう一度やってみて」
「わかった」
再び手を前に出して目をつぶった。ふむ、今回は結構いい感じだな、魔力も手の方へと集まっていくのが見える。だが——
「っ!……やっぱりダメだ」
「うーむ」
魔力は順調に流れていったものの、手の方に集まるばかりでそこから火が出なかったのである。そして魔力量が飽和してしまいスヴェンは魔法を中断してしまった。
「詠唱魔法じゃいつもどうやってる?」
「えっと、詠唱すると勝手に魔法が発動してるから、特に何も」
「イメージもしているのか?」
「うん、してるよ」
詠唱をすると勝手にか、たしかにその通りだな。原理がどうなってるのかはわからないが魔力を操作することが必要ない分ある意味楽といえば楽だ、その代わりイメージも同時に行うので無詠唱より威力は落ちる。
そうなると詠唱は魔法を使う時の補助的な役割をしているわけか。
「今度はゆっくり詠唱しながらやってみようか、それで発動しかけたら詠唱をやめて魔力コントロールに集中してみよう」
俺は所謂"詠唱省略"を提案した。これなら無詠唱には劣るが詠唱をやりきるよりは威力は出るだろう。
「うん、わかった。『魔力よ、我が手に——」
スヴェンはゆっくりと詠唱をし、手に魔力を集め始めた。
お、今度はさっきよりはいい感じだ。詠唱をしてるから当たり前か、だが詠唱にしては集まる魔力量が多いな。
「集い——』わぁっ!」
ボォン
「っ!」
ジューー
スヴェンの手からは天井に届くくらいまでの炎が出た。それを見てすぐウォーターボールで消火する。
集まる魔力量が多かった分、かなりの威力になったな。上手くコントロールができるようになれば無詠唱でも威力の調整はできそうだ。
「に、兄さん」
「うんいい感じだ、あとは徐々に詠唱を減らして上手く魔力をコントロールできればすぐ無詠唱でできるよ」
「ありがとう兄さん」
「いいって、それより片付けを少し手伝ってくれ」
クーラスの部屋は先ほどのウォーターボールによって水浸しになっていた。
咄嗟のことだったから魔力量を調整できなかったか、俺もまだまだだな。
「ごめん、僕のせいで」
「お前は何も悪くないさ、さて片付けようか」